おじい様の家へ
2日後、私はおじい様と一緒に馬車に乗っている。あのあとお姉様の気は変わらなかったので私ひとりでお泊まりだ。おじい様のお家・・・つまりはお母様のお家だ。どんなところなんだろう。
「楽しみですか?」
「はい!・・・ケビンおにいさまだけ、ちょっと しんぱいですけど・・・」
今日の朝にいたっては私の部屋に来たかと思うと何も話さずにずっと私のことを抱き締めていた。ちょっと様子が可笑しいような気がしたから頻繁にお手紙を書くことにしよう。
「ケビンはスカーレットのことが大好きみたいですからねえ」
「わたしも だいすきですよ!だからちょっぴりさみしいですけど・・・」
おじい様がなぜか苦笑する。え、返答間違えてるかな?お父様もお母様もお姉様たちもお兄様もみんな好きだし。首を傾げるとおじい様はよしよしと私の頭を撫でて『今は分からなくても仕方ないですね』と笑う。
「むー・・・」
「ほらほら、膨れないでください。可愛いお顔が台無しですよ」
うりうりと私の頬っぺたを摘まむおじい様。力はお父様よりちょっとだけ強めだ。しばらくして私の頬っぺたを 離すと少しだけほっぺたを擦って『見えてきましたよ』と微笑む。窓から少しだけ覗くと白い外壁に屋根はピンク色の非常に乙女チックなお屋敷が見えてきた。
「あそこがおじいさまのおうちですか?」
「ええ。可愛らしいでしょう?妻の趣味なんですよ」
おじい様だって代々続く家柄なわけで、そのお家の色がおばあ様の趣味ってことはつまり・・・。
「・・・ぬりかえちゃったんですか??」
「クスクス。賢いですねえスカーレット。先祖代々この色なんですよ。お陰できちんとしていないと城に負けてしまいますからご先祖様の目論見は私の代までは功を奏していますね」
よ、よかった。さすがに塗り替えないよね。でも、変わった色合いだなあ。・・・私のお家も白の外壁に屋根は青い色だからあんまり人のこと言えないかもしれない・・・。いや、そもそも白い壁のお屋敷は多いのでテンプレートなんだろうか??
「さすがにピンクや青の屋根の色は珍しいですからね。そういう点では私たちのご先祖様は似た者同士ですね」
「そうなんですか・・・」
前言は撤回させていただこう。なるほど、目立つからキチンとしなさいと・・・。そういう意味では確かに役立っているとは思うし可愛いからいいのかな・・・。
「あ、でもおばあ様の趣味なのは本当ですよ?この屋敷に住みたいから結婚してくれって言われました」
「え!?」
「ふふ、まあ照れ隠しなのは見れば分かりましたし、私も好きだったのでお嫁さんにしたんですよ。いやはや、前陛下との熾烈な争いを制した甲斐がありましたねえ」
「えっと・・・?」
「ふふふ、まあ、そんな経緯もあるので私はケビンくんの味方なんですけどね」
何がどうなってケビンお兄様の話になるのか。首を傾げるとおじい様は『もちろん、スカーレットが好きになった人との仲を応援しますけどね』と言っている。おじい様は全部見破った上で言っているようだけど私にはさっぱりだ。いや、結婚相手の話なのは分かる。けど、ブライト王子はともかくケビンお兄様はもう馴染めなかったトラウマは払拭したはずだし大丈夫だと思うんだけどな・・・。
「訳がわからないって顔ですね。まあ、あのふたりじゃないかもしれないですし」
「うー。わたしの けっこんあいての はなしは いやです!わたしは おとうさまが いちばんすきなんです」
そう。何であれ私はお父様を越えられるくらい素敵な人じゃないと結婚するつもりはない。それはもう変わらないのだ。
「はあ・・・そうなるとおじい様くらいですねえ」
「えっと、フィクサーなんでしたよね」
「そうですよ。それにおじい様だって、まだまだモテるんですからね?」
「それをおばあさまにいうのは・・・」
「ダメですよ。それにモテてるだけで相手にはしてないんです」
『メっですよ?』と首を傾げるおじい様は確かにモテるとは思う。何て言うんだろうか、隙のない男の人なんだけどちょっとしたところに隙が垣間見えるのが乙女心を擽るというか・・・。
「スカーレット?」
「いえ、たしかにモテモテなんだろうなって」
「ふふふ」
そんなことを話していると馬車が止まる。着いたみたいだ。すると馬車の扉が開けられていく。たぶん一緒に来たガーネットかブライアンだろう。そう思っていると馬車の中にミルクティー色の髪をした綺麗な女の人が押し入ってきたかと思うとおじい様に抱きついた。
「おかえりなさい!」
「ただいまもどりました。ほら、隣に座ってください。スカーレットを連れてきましたよ」
「・・・・・・」
「は、はじめまして」
おじい様より少しだけ年下に見える女の人に挨拶するとその人は何度か目をパチパチするとパアッと目を輝かせた。
「まあ、まあまあまあまあまあ!スカーレットちゃんね!ああ、まったくサナト様ったらちっとも会わせたがらなくて本当にどうしてくれようかと思っていたところだったの!ああ、なんて可愛いのかしら!顔をよく見せてね・・・ああ、ルティシアにもよく似てるわ・・・はあ、ねえ家の子にならない?」
「えっと・・・?」
「そういうことには段階が必要なんですよ」
「そうだったわ。ついつい興奮してしまって・・・」
「ふふ。そういうところも可愛らしいですよ。さ、とりあえず降りましょうか。ようこそスカーレット。どうか我が家だと思ってくつろいでくださいね」
おじい様がそう言って微笑む。な、なんだかお姉様たちが言ってたことはあながち間違いじゃないかもしれない。




