またまた悪役令嬢
お誕生日パーティーから1週間後の今日はエレーナお姉様のファーストタイムティーだ。本来はもう少し期間が開くものらしいけれどイベントごとが続くのはお兄様もファーストタイムティーをやらないといけないから仕方ないとレイチェル様が言っていた。『立て続けに開催できるのも家の大きさが現れているので悪いことではありませんよ』とも言っていたので改めて公爵家はすごいなと思う。お父様の後を継げるように勉強をもっと頑張らないとと決意する。
そんなことを考えながらあまり目立たない位置にあるソファに座って紅茶を飲むと隣に座っていたケビンお兄様が私の顔を覗きこんだ。
「スカーレット、ぼーっとしてるけど疲れちゃった?」
「だいじょうぶです!エレーナおねえさま、きれいだなっておもって」
本当に今日のエレーナお姉様はホストだからというのもあるけどとても綺麗だ。いや、なんだかパトリオット王子からファーストタイムティーの招待状を貰った辺りからどんどん綺麗になっている気がする。
「スカーレットもキレイだよ。いや、スカーレットは可愛い、かな」
「ううー・・・はずかしいです」
サラッと言うのやめませんかお兄様。いくら妹だからって恥ずかしさはありますよ!顔を覆い隠すと頭上からクスクスと笑い声がしてお兄様に抱き寄せられた。
「そういうところが可愛いよ?」
「むー!」
「あはは、ごめんね。機嫌直して?」
「・・・もう、いわないですか?」
「どうかなー・・・スカーレットが可愛いのは本当だしね」
お兄様はそう言って私をぎゅっと抱きしめた。うう・・・お兄様がからかってくる。本当に恥ずかしい。確かにスカーレットが可愛らしい見た目なのは分かる。でも言われて恥ずかしいか恥ずかしくないかは別の問題だ。
「・・・いじわる」
「え?優しくしてるよ?僕の『いじわる』はもっと『いじわる』だから」
「いまでも いじわるです・・・」
「いじわるだと嫌いになる?」
「・・・ならないですけど・・・」
「ふふ、スカーレット可愛いねえ。大好きだよ」
「うー・・・」
人前で可愛いはやめて欲しい。いや、皆そんなに見てないとは思うけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。顔を真っ赤にしているとエレーナお姉様とパトリオット王子がこちらにやってきた。
「スカーレット」
「エレーナおねえさま!」
「寂しくはなかった?やっぱり着席式の方がよかったかしら。私は歩き回らないといけないから側にいられないし・・・トパーズを当てにしてたのにあの子もスタン様とお話ししているでしょう?」
お姉様もパトリオット王子とおなじでガーデンティーパーティーにしたのでかなり気楽で自由な感じだ。そしてその自由な場を利用してトパーズお姉様に話しかけようとする男の子たちを追い払ってトパーズお姉様の騎士様になってくれたのがスタン様なのである。エレーナお姉様はホストなので皆、長時間呼び止めたりはしない。ずっとパトリオット王子がついて回っているので話しかけられないと言う方が正しいかもしれないが。
「おにいさまが いるから だいじょうぶです!」
「いじわるって言ってたのに頼りにはしてくれるの?」
「あ・・・で、でも!おにいさまが、そばにいるのは、うれしいです・・・!でも、かわいいは、みんないるから・・・ううう」
「あー・・・」
「おにいさま?」
「本当に可愛い」
「うー!!」
「ケビン、あんまりスカーレットをいじめないでちょうだいな。確かに可愛いけれどスカーレットの可愛いさに当てられた男の子が言い寄ってきたら私、礼儀を忘れて摘まみ出してしまいそうなの」
『トパーズに言い寄ろうとした男の子たちだって何人か隅に追いやったのに・・・』と呟くエレーナお姉様は過保護だからそうしたのだろう。でも、自分だって何人も男の子たちを魅了しておいて気づいてないんだから危機感を持つべきはエレーナお姉様だと思う。
「それは頼もしいね。ぜひお願いしようかな」
「他人事みたいに言うけれどケビンだって女の子たちから熱烈に見られているのよ?女の子だからって油断しないで気をつけてちょうだい。私、ケビンもなんだかこういうことにはフワフワしていて心配なの」
パトリオット王子が微妙な顔つきをしたので首を傾げると目があった。にっこりと微笑んで何事もなかったようにエレーナお姉様やお兄様と話を始めたけれどなんだろう?不思議に思っていると小さな影が人の合間を縫ってこちらに駆けてきた。あの白いフワフワの髪の毛は・・・。
「スカーレット!・・・さま」
「サファイアさま!」
私を見つけて走ってきてくれたのだろう。真っ赤になったほっぺたがとっても可愛い。私はソファから下りて途中まで迎えに行くと手を繋いでソファまで連れてきた。
「こんにちはサファイア様」
「こ、こんにちは・・・」
「?」
「おねえさま、パトリオットさま、あいさつはおしまいですか?」
「ああ、そうだったわ。まだ途中なの。終わったらまた来るわね」
「はい!」
ふたりがいなくなるのを確認するとサファイアをソファに座らせる。
「ありがとう、ひとがいっぱいだと、はずかしいから・・・」
「ケビンおにいさま は いてもいい?」
「ケビンおにいさま・・・?あ、このまえあった・・・」
「こんにちはサファイア様。僕のことは気にせずスカーレットとお話ししてください」
「・・・の?」
「サファイアさま?」
「す、スカーレットのおうちにはおうじさまが いっぱいいるの・・・?」
「??」
「おとうさまもおにいさまも おうじさまみたいだから・・・」
「あはは、残念ながら僕は怪獣なんだ。ごめんね?」
「かいじゅう?」
「わたしが まほうつかいなんです!」
「うーん?なかよし なんだね。スカーレットは なにがすきなの?」
「わたしはー・・・」
サファイアと好きなものの話や家族の話をしたりおやつを食べて楽しい一時を過ごしていると突然女の子がツカツカと近づいてきた。
「ちょっとよろしくて?」
そう言っておおきな釣り目をサファイアに向ける。サファイアはびくびくしている。顔見知りだろうか。
「かわいくもないのに、フェイバーこうしゃくけと なかよくするなんて なまいきよ!」
「な、なまいき・・・?」
「そうよ!」
「えーっと・・・」
「あなたはだまっていてください!」
「いえ、でも・・・」
「このこ は あなたたちと なかよくしていいこじゃないんですの!」
はあ・・・?腕を組んでふんぞり返っている女の子は私より濃い金髪を縦に巻いて私と同じように濃い青の瞳をしている。たぶんどこかの公爵家の子どもだろう。それにしてもこの言い草はなんだろう。私はこの子とは面識はないし、サファイアが仮に何かこの子にしてしまっていたとして人前で詰っていい理由にはならないし、何より
「・・・これいじょう、おねえさまの ファーストタイムティーでしつれいなことをいって だいなしにして せきにん、とれますか?」
「え?」
「『けんかだ』って なって おとながきて おねえさまの ファーストタイムティーが だめになっちゃったら あなたの おとうさまとあなたが わたしたちのおうちに あやまりにこられるのか きいてます」
「え、あ、わたし、そんなつもりじゃ・・・」
「・・・いきましょう サファイア。おにいさまも」
「う、うんっ」
サファイアの手を引いてあの場を離れるとトパーズお姉様とスタン様のところに向かう。お兄様は私たちの後をしっかり着いてきてくれているのでそのまま進んでいくとすぐに目的の場所に着いた。
「スカーレット?」
「サファイアまで、どうした?」
「スカーレットはご立腹だよ」
サファイアはスタン様にソファに座らせてもらい私はケビンお兄様に座らせてもらう。こっちの方がさっき座っていたところより少し高いからだ。その様子を見ながらトパーズお姉様は私が怒ったと聞いて目を丸くする。
「まあ、スカーレットが?」
「きんいろの かみを たてロールにした おんなのこが サファイアはわたしたちとなかよくしちゃだめって いいはじめて・・・」
「金髪に縦ロール・・・またスティナー様に何か言われたのか」
「うん・・・わたし、なにかしちゃったの・・・?」
「いや、初めて会ったときからあんな感じだった」
スティナー様・・・あれ?スティナーって確か・・・。
「おにいさまに はなしかけてたっていう」
「そうだよ。そういえば可愛かったねあのときのスカーレット」
「それはいいです!」
そのとき頭がズキッとしてお兄様にもたれ掛かる。そうだ、聞いたことがあるはずだ。彼女は『ブライトルート』のもう一人の悪役令嬢で、ヒロインとケビンの友好度が異常に低いとスカーレットの代わりに悪役令嬢としてヒロインの前に立ちはだかる、スティナー・ヴィオレッツ・オーディネリーなんだから。




