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閑話8 ブレイブ家の心情

家に帰ってきてすぐ、サファイアは着替えもせず私たちがいるダイニングにやって来たかと思うと挨拶もそこそこにずっとクッションに突っ伏して泣いている。妻のオリヴィアがオロオロとサファイアの肩に手を置いてどうしたのかと尋ねるが泣き続けるだけで理由は教えてくれない。



「さ、サファイア?どうしたの?どこか痛いの?」


「うえええええん!」


「何かあったの?」


「うえええええん!!」


「父様、母様、ただいま」



着替えを終えたスタンが入ってきてソファに座る。泣き止まないサファイアに聞くよりもスタンに聞いた方が何があったのか分かるかもしれない。


「おかえり。ところでスタン、サファイアはパトリオット王子のファーストタイムティーで何かあったのか?」


「ああ・・・うん」



スタンはソファに座ってメイドが出した紅茶を飲みながら眉を八の字に下げた。それを見て妻は涙を流す。



「もしかして、いじめられたの・・・!?」


「違うよ。サファイアが悪い」


「ううー!!」



そう言われたサファイアはスタンにクッションを投げつけるとスカートをぎゅっと握りしめてキッとスタンを睨み付ける。まあ、顔が可愛らしいので上目遣いにしか見えないのだが。



「だって!」


「仲良くなりたいって言ったから僕が話しかけたのにダメだっただろ」


「うー!」


「待って、お母様たちにも分かるようにお話ししてちょうだい」



オリヴィアがそういうとスタンはコクリと頷いてサファイアをちらりと見ると口を開いた。



「今日のファーストタイムティーにフェイバー公爵家の兄妹が来てて」


「ああ、サナトの家だな。お父様とサナトは仲がよくて・・・」


「あなた、それは後で」


「ああ、そうだな。それで?」


「サファイアと同い年くらいの子がいたんだけど、サファイアが一目見て仲良くなりたいっていうから僕がその子のお姉さんに話しかけてきっかけを作ったんだけど・・・」


「まあ、スタンが?可愛らしいお嬢さんたちだものね!エレーナちゃんやトパーズちゃんが年が近かったわよね?」


「まあまあ、それは後で」


「あら、私としたことが。ごめんなさい。それで、そのとき何かあったの?」


「サファイアは、自分が仲良くなりたいって言ったスカーレットに話しかけないどころか目が合っても反らしてた」



サファイアは確かに恥ずかしがり屋だがスタンが近くにいれば知らない子でも少しは会話ができるのにそれすらできなかったようだ。何か理由があるのかもしれない。



「サファイア、仲良くなりたかったのにどうしたんだい?いつもはお兄様がいれば知らない子でも少しはお話できるのに」


「だって・・・」


「うん」



サファイアはスカートをさらにぎゅっと握ると目をこれでもかと開いて、真っ赤になった顔を私に向ける。



「す、スカーレットちゃん、とってもかわいくて、やさしそうで、は、はずかしくなっちゃったの!!」



それを聞いて妻が天を仰いだ。思う節があるのだろう。『こんなところが似てしまうなんて・・・』と呟いている。



「サファイア・・・」


「でも、でもきっと、もうなかよくしてくれない・・・ぷいってしちゃった・・・!!ふ、ふぇぇぇぇぇぇん!!」



そう言うとサファイアは私に抱きついてわんわん泣いている。 私とスタンが慰めてもサファイアはどんどん泣くばかり。すると妻がサファイアを膝に乗せて微笑んだ。



「仲良くなれるチャンスがあるわ」


「う・・・うう?」


「スカーレットちゃんのお姉様とお兄様のお誕生日のパーティーにみんな呼ばれてるの。でもサファイアは小さいからお母様と挨拶をしてすぐにお部屋に帰るの」


「・・・うん」


「そのときにスカーレットちゃんに会えないかお願いしてみましょう?」


「いいの・・・?」


「ええ。お父様はスカーレットちゃんのお父様とお友達だもの」



サファイアが私の顔を見るので微笑んで頷く。これが異性であれば私もサナトも変な勘繰りをされないために何か理由をつけて断ったかもしれないが女の子同士だし大丈夫だろう。私が頷くのを見てサファイアの涙が止まった。



「でも、また話しかけられなかったら意味無いな」


「うーー!!だいじょうぶだもん!」


「そう言ってダメだっただろ」


「おにいさま いじわる!」


「本当のことだ」



妻の膝から降りてスタンのことをぽこぽこと叩いているがスタンは相手にしていない。するとサファイアが頬を膨らませてスタンにとっては致命傷になるかもしれない爆弾発言をした。



「おにいさまだって、かっこつけてたくせに!」


「な、やめろよ」


「くろいかみの おねえちゃんに かっこつけてたくせに!」


「だからやめろって!」


「トパーズ?ってなまえのおねえちゃんに かっこつけてた!」



スタンはそれを聞いて顔を真っ赤にした。サファイアはそういう甘い雰囲気に敏感なのかもしれない。まあ、私も帰って来たスタンの様子から気になる子がいたのは察していたから後でこっそり聞いて協力できるならしようとは思っていたが。でも、ここは一先ず場を収めないと・・・。



「・・・サファイア、お話できそうにないならお手紙を書いて持っていったらどうかな?」



サファイアの気をそらすためにそうアドバイスする。このままだとお互いに引っ込みがつかなくなりそうだし、スタンが言うようにサファイアは恥ずかしくなってまた話せなくて悲しい思いをしそうだからだ。妻も同じ気持ちだったのか頷いている。サファイアは私の言葉を聞いて首を傾げる。



「おてがみ・・・?」


「それにサファイアの仲良くなりたいって気持ちを書いて渡せばお話しできなくても大丈夫じゃないかと思うんだ」


「!」


「それじゃあ可愛いレターセットを選ばないとねサファイア」


「うんっ」


「お母様、いくつか持っているから選びに行きましょう?」


「いく!」



サファイアは目を輝かせて妻と手を繋いで部屋を出ていった。スタンはふぅと息を吐く。これは何か言ったりすると恥ずかしがるかもしれないな。



「スタンは挨拶しないといけないから準備しておこうね」


「うん。それで・・・その・・・トパーズ嬢ってどんな男なら好きになってくれるか分かる?」



どうやらスタンは本気らしい。微笑ましい気持ちになりつつスタンの肩に腕を回す。



「さすがに分からないがお父様は応援してる。手伝えることがあれば相談してくれ」


「ありがとう!」



サファイアと同じように目をキラキラさせるスタン。2人の思いが叶うといいと思いながら可愛らしい息子の頭をガシガシと撫でた。





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