お兄様はモテるようです
そのままブレイブ公爵家のふたりとは進展もないまま別れ、お兄様と合流するとパトリオット王子に挨拶をして家に帰る馬車に乗った。会場の前でエリックが待っていてちゃんと私たちを連れて行ってくれることになっていたので帰りもスムーズだ。ブライト王子やセージ王子に話しかけられたり、厄介なことが起きなくて済んでよかったと馬車の中で胸を撫で下ろす。
「パトリオット王子のファーストタイムティーは盛大だったね」
「ええ。私もあんなにたくさんの子に会ったのは初めてでしたわ」
「僕もだよ」
「そういえば、ケビンお兄様は女の子からずいぶんと話しかけられていましたね」
「そうなんですか?」
隣に座っているケビンお兄様を見上げる。私の頭をよしよしと撫でると『多少はね』と話すお兄様。この年からやっぱりモテるらしい。
「スカーレットと同い年くらいの子にすごく積極的に話しかけられたなあ」
「あら、スカーレットと同い年なのはサファイア様だけだったはずですけれど・・・」
「ああ、たぶんスティナー様だわ」
「スティナー様?」
「スカーレットのひとつ上だったかしら。あんまり背も大きくないからもっと下の子に見えるから・・・。スカーレットより濃い金の髪で青い目の子だったでしょう?少しつり目の・・・」
「うん。それで縦ロールの子だったよ」
「スティナー様だわ。彼女お姫様に憧れてるから、きっとケビンが気になったのね」
確かにお兄様は見た目はかなり理想の王子様だ。正しくは理想の王子様がそのまま小さくなったようというべきか。お姫様に憧れてる女の子なら気になっても仕方ない。それにしても聞き覚えがある名前だ。もしかしたら悪役令嬢かもしれない。そう思っても本人を前にしないとやっぱり思い出さないみたいだ。うーん、なんとなく厄介なような好き勝手出来ていいような、複雑な気持ちだ。
「僕はそんなにタイプじゃなかったかな。美人は3人で見慣れてるし」
「・・・うまいこと言っても何もありませんわよ」
「そうです。お兄様が少し意地悪だってことは分かってますから、もうときめきませんよ」
「残念。明日のおやつくらい分けてもらえると思ったのに。スカーレットはどう?嬉しい?」
「うーん?」
「わかんないか」
スカーレットは可愛いの方がぴったりくるしねと言ってまた私の頭をよしよしと撫でてくるケビンお兄様。確かに美人というより可愛らしい顔つきだ。ちなみに、嬉しいか嬉しくないかで言えばとても嬉しい。
「うれしいですよ?それより、スティナーさまは そんなにきれいなんだなってきになって・・・」
純粋に顔が思い出せなくて出た言葉だった。それにケビンはヒロインを除けばスカーレットにしか恋愛感情的な興味を持たないはずなのに美人だと言うのでケビンの性格が馴染めたことによって好転したのかな?という疑問もあって言ったけど、よくよく考えたらヤキモチに聞こえないこともない。
「・・・あは」
「ケビンおにいさま?」
「スカーレットの方が美人で可愛いよ?僕はそんなスカーレットが大好きだから。ね?」
穏やかな顔で言われて少し赤面する。男の子に面と向かって『大好き』だなんて初めて言われた。もじもじしているとエレーナお姉様とトパーズお姉様が私の手を握る。子どもしか乗っていない小さな馬車なので少し手を伸ばして前屈みになれば座ったままでも十分手は握れる。
「私たちだってスカーレット大好きよ?ねえ?」
「はい!可愛い上に甘えん坊ででも優しくて」
「そうだね」
お兄様がお姉様たちの言葉に同意する。どぎまぎしなくても妹としてだなんて分かってることなのに。主要人物が出てくると変に意識してしまってダメだ。気をひきしめないととひとりでこっそり決意した。




