閑話7 僕を見て
部屋からスカーレットが誕生日にあげた花をどこに植えるのか庭師のレティと相談しているのが見える。それを窓枠に肘をついて見守ることにした。
「かわいいなあ、スカーレット」
スカーレットの誕生日プレゼントにビバーナムを贈った。花が咲くまで秘密だなんて言ったけれどレティがきっとスカーレットになんの木か教えてしまうだろう。ここからでもふわふわと揺れる髪が見える。それを見てやっぱり失敗したなと舌打ちをした。
「お兄様・・・かあ。やっぱり名前で呼んでもらうようにすればよかったかな」
『お兄様』と呼ばれるたびに胸がチクチクする。必要とされてるのは分かるけどもっともっとと思ってしまう。
「・・・ふふビバーナムの花言葉を知ったらどう思うかな」
ビバーナムの花言葉は『私を見て』だ。知られたとしても前の家で何かあったと思ってくれるかなと思って選んだけど誰も僕が、9歳の子どもが花言葉なんて気にして贈るとは思わないだろうなと後になって思って少し後悔した。
「・・・僕を見てスカーレット」
『お兄様』じゃなくて『ケビン』を見て。スカーレット、来てくれて嬉しいと、僕を必要としてくれた初めての人。あの言葉がごまかしでも本当の気持ちでもそんなことはどっちでもいい。ただ、『喜んでくれたかもしれない。必要としてくれるかもしれない』というだけで自分がこんなに執着してしまうなんて思わなかった。
「僕を、見て。スカーレット。ブライト王子でも、他の誰かでもない僕を見てスカーレット」
スカーレットを離してしまったら、僕を好きだって言って本当に嬉しそうに笑ってくれる子に2度と出会えないかもしれない。スカーレット、僕のスカーレット。大好きだよ。
「・・・決まったみたいだ」
スカーレットの部屋から良く見える位置に植えてくれるらしい。今から花が咲くからストレスを与えないように地植えにしないことにしたのかレティは鉢をスカーレットが指差したところにそっと置いた。
「・・・迎えに行こうかな」
そろそろお昼の時間だ。僕が呼びに行っても不自然ではないだろう。なるべく自然にふたりっきりになりたかった。だってそのときだけはスカーレットが絶対に僕だけを見てくれるから。




