閑話6ー1 ワースレス家1
暴力的・虐待的な表現があります。苦手な方は後書きにあらすじをまとめましたのでよければそちらをごらんください。
妻が無言で手渡して来たのは王家の家紋が入った封筒だった。中から出てきた手紙を読む。内容は『妻リリーの教師としての資質が疑わしいため教育係から解任する』というものだった。
「またか」
「ええ、この前はブライト王子を丸め込んで食い止めたのに、誰か入れ知恵でもしたのかしら?いやぁねぇ。子育てなんて出来なさそうな男と女だから上手くいってたのに余計なことはしないで欲しいわ」
「このままでは困るぞ?我が家は伯爵程度で終わる家ではない。あのバカ王子を適当に煽ててこの顔以外は取り柄のない娘を婚約者にさせ我が家を公爵家にさせる予定なんだ上手くやってくれないと」
王家の婚約者は公爵家以上と決められている。バカ王子を娘に惚れさせて我が儘を言わせればあの甘やかすことしか能の無い男は我が家を公爵家に押し上げてくれるだろう。大して何もしてない栄誉職のような家柄のくせに5つしかない公爵家に優秀な我が家が1つ増えるんだありがたいくらいだろう。
「ええ、ええ。せっかく大商人の跡取りという地位も元奥さんも捨てて潰れかけていたこの伯爵家に婿に来てくれたあなたのために私はやりきってみせます」
「そうだぞ?今は資金不足で落ちぶれているが、金はあるところから奪えばいいんだ。王子の婚約者、引いては妻になれば国庫の金も融通されるはずだ。どうせお飾りの公爵家連中だって支給された金で贅沢をしているんだろうからな」
でなければ、大して何もせず王へ媚びへつらっているだけの犬共が贅沢三昧できるわけがない。
「それで王子はスカーレット嬢は諦めたようか?さすがに『公爵家の天使』が相手では分が悪い」
伝え聞く噂では柔らかな金の髪に濃い青の瞳うっすらとピンク色に染まった頬に赤い唇のそれはそれは愛らしい子どもらしい。そんな相手ではいくら多少見目が整っていようと平凡な茶色の髪に緑の瞳の娘では勝てないだろう。
「こうすればいいと言って腕を引っ張るよう言い含めましたから大丈夫でしょう。幼少期最大のタブーですからスカーレット嬢に嫌われるばかりかフェイバー家も抗議してくるでしょうからね。そうなればいくら甘い陛下とはいえブライト王子の言葉を却下なさると思いますわ」
「そうか。それで嫌われ、怒られ、傷心しているところをあの娘に慰めさせるという訳だな」
「そうです。明日申し開きがあるなら登城しろとありますからその時に娘も連れていきましょう。面食いですからね顔だけは良く生まれてきたこの子に傷心中の王子はすぐ食いつくでしょう」
「ふむ・・・。お前だけでは心配だな私も行こう」
「心配性ですね。ああ、もし第一王子辺りが見初めたらどうします?年齢的には第一王子の方が近いですが」
「あはは、あの恋愛に興味のなさそうな王子がなんの面白味もないコレを好きになんぞなるか。それに第一王子は無駄に察しがいい。適当に煽てて金を巻き上げるには向かない相手だ。それに王妃候補なんぞこれには荷が重い。潰れられては困るから適当にかわしておけ。おい、コレが持ってる中で1番マシなドレスを用意しろ」
メイドが無表情で頭を下げ部屋を出ていく。ソファの隅で話を聞いていた娘は私たちをバカにしたような顔をする。おもしろくなくて近くの机を力一杯叩いた。
「・・・食べさせてもらってる分際でなんだその目は!」
「っ!!」
大して食べさせていない痩せた身体が大袈裟に跳ねる。それを見て少し気分を良くすると妻はクスクスと笑う。
「あなた、本人を殴るのはやめてくださいね。それにしても顔しか取り柄がない子が生まれて恥ずかしいったら・・・。ねえ、誰かを慰めるくらいはあなたでも出来るでしょう?上手く取り入ってブライト王子の婚約者になりなさい。そうじゃなければ将来性のない穀潰しは売ってしまいますからね。お腹の中のこの子はきっと優秀なはずだもの。あなたなんていなくても平気なの。分かる?」
「全く・・・跡取りとして連れてきてやると言ったのに断って、いつの間にか男爵程度のつまらない爵位になっていたあの勘当息子がいればもう少し楽だったものを・・・。まあ可愛いげのない先妻の子などどうでもいい。もう、縁も切って私の子ではないのだから。もちろん使えない娘も私にはいらないのだ。上手くやるんだぞ?」
「・・・」
「返事をしないか!」
なんの反応も示さない娘に苛立ってソファを杖で思い切り殴り付けると妻は仕方なさそうな声音で『本人を殴るのはやめてくださいね?』と言う。
「はあ、はあ、はあ・・・ああ、気分が悪い。明日まで倉庫にでも閉じ込めておけ」
執事が娘を連れて倉庫の方へと歩いていく。まだ夜は冷える時期だ。暖かくもない倉庫に入れておけば少しは反省するだろう。
ワースレス家に教育係解任の通知が来ます。
ブライト王子が自分達の娘を好きになって婚約者にしたいと騒げば自分たちが公爵家にしてもらえるだろうと画策していたワースレス夫妻は慌てます。そこで、スカーレットに嫌われた(はずの)王子を娘に慰めさせて惚れさせよう。そのために教育係解任に対する異議申し立ての場を使おう。ブライト王子はまた上手く丸め込んでしまえというような内容です。
ワースレス家は実は資金難なので公爵家になれば王家からお金が貰える(公爵家は支給を受けてると思っている)から立て直せると思って1番懐柔しやすいブライト王子を選んだだけでした。




