忙しさとその隙に
王子たちと妙なフラグが立ったような気がするお花見会もなんとか終わって、あれから1週間。忙しそうにしているお父様は帰ってくるとダイニングのソファで待っていた私を見て『仕方ないなあ』と言いたげな顔をして隣に座った。このところお父様は私が寝てしまってから帰ってくる。全然会えていなかったのでエリックに駄々をこねて待っていたら今日はお思いの外早く帰ってきた。ここぞとばかりに抱きつく。くっついていれば満足なのでこのままでいよう。
「・・・スカーレット、ダメだよ早く寝ないと」
「ごめんなさい・・・でも、しばらく おとうさまと あえてなかったから・・・すこししたら おやすみなさい します」
「・・・15分だけだよ」
「はいっ!」
そう、お返事をしたけど、すぐに うとうとしてきた。お父様は分かっているのかぽんぽんと一定のリズムであやしてくる。
「う、うー・・・」
「明後日にはお父様もいつも通りになるからね、そしたらお話できるから」
「・・・はい」
「だからスカーレットはおやすみなさいして?起きて待っててくれてありがとう」
「・・・はい」
「よしよし」
そのまま寝てしまって起きたら自分の部屋にいた。起こしてくれたミーナに聞くとお父様が運んでくれたらしい。
「その様子を見たルティシア様が『絵師を呼ばなきゃ・・・』と真顔でおっしゃってましたよ」
「タイトルはなにになるんですかね」
「『天使降臨』とかでしょうか」
「ミーナもまがお ですよ」
「お嬢様は私の天使なので間違っていません。さ、お着替えをしましょうお嬢様」
春らしいレモンイエローのワンピースに白いカーディガンを羽織る。カチューシャは白いリボンの物にした。
「午前中は宿題、午後からはエレーナ様のお部屋でお話をするんでしたよね」
「そうです!あ、しゅくだいが おわったら としょしつに いきますね」
「分かりました」
ちゃんと宿題を終わらせて図書室に向かうとお兄様が本を読んでいた。私の足音に気がついたのかお兄様は顔を上げる。
「宿題は終わったの?」
「はい!」
「よし、それじゃあデートしよう」
「????」
「デート分からない?」
「むう、分かります。おとこのひと と おんなのひとが でかけることです」
「理解してるのかしてないのか微妙な答えだなあ・・・エレーナたちと僕の誕生日プレゼントを決めてくれる予定だったんでしょ?」
「なんで しってるんですか?」
「いや、エレーナとトパーズが大量にお菓子を抱えててね?珍しいから何かなと思って聞いてみたらうっかり教えてくれたんだ」
きっと笑顔で詰め寄ったに違いない。この1ヶ月超で分かってきましたよお兄様が意外といい性格だっていうこと。
「それでね、『じゃあスカーレットとデートがしたい』って答えたら午後からの時間をくれるらしいよ」
「うっかり教えた、だなんて人聞きが悪いですわ」
「エレーナおねえさま!」
「ごめんなさいねスカーレット、内緒の予定だったのに」
私の頭を撫でながらエレーナお姉様は謝ってくれた。本を戻しに来たらしく棚に本を戻すと新しい本を取り出した。
「侯爵家ではどんな誕生日会だったのか聞いたら次々質問してきて話させたんじゃありませんの」
「ふふ、直接聞いてくれたらいいのにって思って」
「そういえば、おにいさまのまえの おうちでのこと あんまり しりません」
「侯爵家のこと?そうは言っても普通かな。特別兄弟仲も悪くなかったし両親もしっかりしてて愛情深い人だったよ」
「それなのに うちにきてくれて よかったんですか?」
「うん。僕が来たいって言ったんだよ。公爵家当主にはそこまで興味は無いんだけど公爵家に来ればもっと楽しくなるんじゃないかなーって思ったんだ」
「・・・」
それって侯爵家は楽しくなかったってことなのかな・・・?
「たぶんね、スカーレットの考える楽しいとは違うから。ま、この話はまたいつかね?それより、デートしてくれますかスカーレット?」
「・・・・・・はい」
はぐらかされた気がするけど差し出された手を拒絶する理由はない。なんだか顔が熱い気がするけど、きっと気のせいだ。




