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おやつとお兄様

お父様たちとティールームに入ると緊張した面持ちで座っているお姉様たちとケビンが一斉にこちらを向いてきた。そうだ、ふたりが私のところに来たということはまだ馴れてもいない子どもたちだけで待たされていたということ。申し訳ないことをしてしまった・・・。



「お待たせ3人とも。ほら、スカーレットを連れてきたよ」



私を床に下ろすとお父様はいつもの通り1番奥のソファに座る。お母様の隣はトパーズお姉様、その向かいのふたりがけの席にエレーナお姉様、そしてお父様の向かいの一人用のソファにケビンが座っていた。



「スカーレット~好きなところに座っていいからね」



ふむ、いつものスカーレットならお父様のお膝の上に座るところですが、そんなことしたら、この仲良し家族に突然放り込まれたケビンは仲間に入れないのではないだろうか。実際、お母様が帰ってきてからトパーズお姉様とエレーナお姉様はお話ししているけれどケビンはずっと黙っている。よし!



「・・・おとなりすわってもいいですか」


「え・・・?」



一人用とはいえ、子供が座るならふたりでも座れる。ケビンの横に立って、てしてしと横を叩く。


「えっと・・・サナト様のところに行かないの?」


「ここがいいです!のせてください!」



えいっと両手を差し出すとしょうがないと言いたげに乗るのを手伝ってくれた。優しいケビン少年。泣いたりワガママ言ったりと振り回して申し訳ない。



「さっきは、ないて、ごめんなさい」



来るまでの間に、まず謝らなきゃと思っていたので最初に謝罪する。突然目の前で小さい子に泣かれたらびっくりすると同時に歓迎されてないんじゃないかと不安になったのではないだろうか?フォローしておいたものの泣きながらでは説得力も無かったと思う。そっとケビンの様子を伺うが不安そうな感じは見受けられない。



「嫌ってのことじゃないと聞いたから大丈夫だよ」


「おこってないですか?」


「もちろん」


「よかった・・・スカーレットです。よろしくおねがいします!」



泣いてしまってロクに自己紹介も出来ていなかったので頭を下げる。そうすると上からくすくす笑うような声がして顔をあげるとものすごく柔らかくケビンが微笑んでいる。天使の微笑みと呼びたい・・・柔らかそうなクリーム色の髪に蜂蜜色の瞳が綺麗で儚げな印象のケビンは笑うと繊細さに輪がかかるらしい。



「ケビンです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「・・・ケビンさま?それとも、おにいさまって よんでもいいの・・・?」


「・・・お兄様でいいよ」



ぽんぽんと頭を撫でるオプション付きで微笑まれて思わず固まってしまう。確か6歳年上だったはずだから今は9歳・・・。末恐ろしい・・・完成されすぎてますお兄様・・・。


「け、ケビンおにいさまは まどれーぬ、たべましたか?たくさんあじがあるって おとうさまが いっていました!」



動揺を隠すためとお姉様たちともおしゃべりして仲良くなって欲しいのもあって共通の話題になりそうなマドレーヌの味を聞いてみる。


思いの外動揺が隠せずにまたもなでなでされてしまった・・・。撫でられるのって恥ずかしい。そんな私の様子を満足そうに眺めたかと思うとお兄様は楽しそうに話始める。



「まだだよ。たくさん味があるなんて分からなかった。何味があるの?」


「・・・わたしも、わかりません。エレーナおねえさまは わかりますか?」


「え!?あ、そ、そうね・・・確かプレーンとチョコとマーブルと紅茶とベリーだってシェフが言っていたわよ?・・・それと、その私はなんと呼べばいいのかしら?同い年だし、その、呼び捨てかしら。か、家族になるのに、様付けも変でしょう?」


「そうですね・・・それではそのようにいたしましょう」


「あ、それじゃあ私もスカーレットと同じようにお兄様とお呼びしても・・・?」


「もちろんです。トパーズ」


「!!そ、そうですよね!お兄様ですもの私のことは呼び捨てにしてください!敬語も無くていいですわ!」


「そう?ありがとう」


「わ、私にもくだけていただいていいのよ!同い年ですもの!」


「うん、そうだね。同い年だし至らないところを教えてくれると嬉しいな」


「仲良くなれそうでよかったわ。私のことも母と呼んでくれると嬉しいのだけど・・・難しいでしょう?でもあまり気負わず仲良くなれたら嬉しいわ」


「・・・そんなことありません。ルティシア様のように素晴らしい方を母と呼べるなんて嬉しいです。お母様」


「!ええ!ええ!ケビンだってもう私の可愛い息子ですものね!小さいときから知っているのだし遠慮せずに甘えてちょうだいな」


「はい。ありがとうございます」



3人とも話したそうにしてる割には話しかけるタイミングを見計らってるみたいだったのでエレーナお姉様に振ってみたらそのあとはトントン拍子で話しかけはじめた。これで仲良くなれるといいけど。


さて、私はマドレーヌをいただきましょう。お兄様の横から降りてテーブルに近づくとぽつんと座るお父様の姿。小さい声で「・・・あはは、面白くない」と言っている。確かに最愛の奥さんと娘たちをケビンお兄様に独占されてるのは家族大好きお父様には辛いかもしれない。


マドレーヌは一先ずおいて、お父様の膝に手を置く。私に気がついたお父様が私を膝に乗せた。



「ああ、スカーレット、どうしてすぐに来てくれてなかったの?お父様寂しかったよ?」


「おにいさまに、ごめんなさいしてなかったから・・・。おとうさま、おこってますか?」


「怒ってるって言ったらどうするの?」


「え・・・うーん・・・ごめんなさい?」


「可愛いから許してあげる。マドレーヌ食べようか」



お父様かっこよすぎる問題・・・。心を鎮めるためにもマドレーヌに意識を飛ばそう・・・。どれも美味しそうだけどひとつしか食べられない・・・。そうだ!お父様に半分っこしてもらおう!



「おとうさま、おとうさまは まどれーぬどれをたべますか・・・?」


「お父様はチョコにしようかな」


「・・・ベリーとはんぶんこ してください」


「・・・なるほど、半分こにすれば1個だけど2つ味が食べられるもんね。いいよ」


「ありがとうございます!」



膝にハンカチを敷いてもらったうえに、マドレーヌまで取ってもらう。まずはチョコらしい。お父様は私の手を広げるとマドレーヌをその上に乗せた。


「はい、スカーレットが半分にしてごらん」


「はい!」



手に乗せられたマドレーヌを半分になるように千切ったものの思うようにできなかった。3歳児の力加減難しい。



「・・・しっぱいしました」


「あはは、大きい方はスカーレットが食べていいよ」


「・・・おとうさま、あーん」


「!あーん」


「おっきいほう おとうさまに あげます!」



大きい方を食べたら夕飯が入らなくなりそうだからお父様にあげることにする。私を抱えていては食べにくいだろうから食べさせてあげた。よし、 次はベリーを半分にしよう。


「あ!みてください!こんどはじょうずに・・・おとうさま?」


「ちょっと待ってね・・・お父様は今、天使の食べ物を食べているから・・・」


「てんしのたべもの?まどれーぬは、てんしさまのたべもの なんですか?」


そんな意味だったっけ?マドレーヌさんって人が作ったんじゃなかったっけかな・・・。意味もさめざめと泣くだし・・・。



「今のお父様にとってはね・・・天使の食べ物なんだよ・・・」


「?」



よく分からない。胸を押さえるお父様を尻目に失敗したチョコの方を口に入れる。濃厚でおいしい。紅茶で1度口をリセットするために降りようとするとお父様が紅茶を取ってくれた。


「こぼさないようにね」


「はい」


今日はダージリンらしい。渋みはなく旨味だけが出ている。おいしくて一気に飲んでしまった。


「次はベリーをあーんして」


「?あーん」


「あーん・・・はあ、癒しだね癒し・・・」



千切っておいたベリーの方をお父様の口に入れるとまた胸を押さえるお父様。長くなりそうなので無視してベリーを頬張る。口一杯に広がるベリーとバターの風味・・・おいしい。もう1個食べたい・・・!



「もう1個はダメだよ」


「!」



心を読んだかのように止められた。お父様は私の口と手を拭くと紅茶を飲む。かっこいい・・・。



「ケビンが来たから豪華な夕食にするつもり」


「・・・がまん、します」


「えらいえらい」



お父様に頭を撫でられる。とりあえずご機嫌は直ったみたいだしいいことにしよう。お父様の膝の上からケビンお兄様をチラッと見ると3人と仲良くなれそうだ。このまま何事もなく馴染めるといいなと思いながら紅茶を口にした。


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