お揃いじゃなくても
「スカーレット」
「はい」
「ブライト王子はどうですか?」
「きらいです」
非常に広い中庭を歩いている途中におじい様が質問してきた
質問に食い気味で答えるとケビンお兄様がクスクスと笑っていた。
「好きじゃないから悪化したね」
「そうなの?」
「はい、パトリオット様。なんでも初めて会った日にブライト様から嫌なことをされたと怒ってまして初めから好きではなかったようです」
それブライト王子のお兄様であるパトリオット王子の前で言って大丈夫なんだろうか?そう思っているとパトリオット王子もくすくす笑っている。
「・・・それならちょうどいいかもね?」
「そうですね。僕としてもこのまま、上手くいくといいなあと思っています」
「でもフェイバー公爵は娘大好きでしょ?」
「最大の難関はそこですね」
「「あはは」」
お兄様とパトリオット王子は馬が合ったのか初めて会うらしいのにすごく仲がよさそうだ。私が陛下とお話ししてる間に仲を深めたのかもしれない。
「それにしても、あのリリーっていう教育係には酷いことをされたよ。僕には『マナーなんてもっと後にやるものだ』って言っておきながら外ではやんちゃな王子たちに逆らえない可哀想な伯爵夫人だって言われてたみたい。仮にこれが事実だとしても生徒を矯正できない時点で教育者の資格はないよね」
「そうなんですか・・・。でも、もうマナーは身に付いてるように見えますが?」
「ストリクト伯爵夫人に見られるようにしてもらっただけだよ。本当はまだまだ全然ダメなんだ。セージの方が出来がいいよ」
「まあ、そうなんですか?」
はぐれないようにというおじい様の提案でセージ王子と手を繋いでいたトパーズお姉様がそう尋ねる。
「ぼくは ぜんぜん できません」
「恥ずかしがってるんだろ」
「ちがいます」
「ほらほら皆さん着きましたよ」
おじい様の声で下のやり取りに夢中になっていた私が顔を上げると目の前には色とりどりの花が咲き乱れていた。目の前に広がるお花畑に目を輝かせるとおじい様は私を下ろす。細い通路があるだけで一面花まみれな広場は温室みたいだ。公爵家のものも広いけどここは規模が違いすぎる。
「ガゼボにお茶を用意しましたから好きに飲んで好きに見ていいですよ。怪我はしないように」
「「「「「「はい」」」」」」
6人で一斉に返事をするとパトリオット王子がエレーナお姉様の前に立った。
「ご一緒にいかがですか?」
銀色の髪に青い瞳の美少年の魅力にお姉様は頷いた。エスコートの仕草も完璧で本当になんのレッスンも受けてなかったとは思えない。それにしてもあのパトリオット王子の態度は・・・恋ですね。
「・・・わたしたちは ここで おちゃをのむべきだと おもいます」
「僕もそうするべきだと思うよ。セージ王子とトパーズは・・・」
「・・・ぼく、なにか のみたいです。のどがかわきました」
「確かに歩いて少しのどが渇きましたね。冷たいものがあるとうれしいです」
「レモネードならありますよ。じゃあ4人はこちらへ」
おじい様の後を付いてガゼボの中に入る。少し先ではお姉様がパトリオット様と楽しそうにお話しているのが見えた。お姉様も楽しそうにしているから判断ミスではなかったらしい。
「・・・おとうさまが みたら おこりそうですね」
「サナトくんは過保護だからねえ。私も人のことは言えないけれど」
どうぞと私にレモネードを渡してくれたおじい様。やっぱりサラサラの髪が無性に気になる。私はくるくるした髪だから真っ直ぐな髪が羨ましい。他の家族はみんなサラサラしているから。
「スカーレットは私の髪が本当に気になるんですね」
「サラサラで うらやましいです。トパーズおねえさまも サラサラしてますし」
「スカーレットのクセのある毛の方が可愛いわ。柔らかくてふわふわで、私、大好きよ?」
トパーズお姉様が私の髪に頬っぺたをつけながらそう言う。なんでかセージ王子が目をそらしたけどなんなんだろう。
「サラサラのほうが みんなおそろいです」
「お揃いだけがいいわけじゃありませんよ?スカーレットにはスカーレットのトパーズにはトパーズの個性があります。そのままで仲良しなのがおじい様は素敵だと思いますがどうですか?」
私とトパーズお姉様の頭を撫でながらそういうおじい様。そうか、そういう見方もある。転生してからの私は『お揃いじゃなきゃだめ』と思ってしまっている節がある。
「スカーレットは賢い子です。もちろん、トパーズも。でもね、何でもおんなじでは、つまらないでしょう?」
「そうですね、おじい様。・・・私、自分に自信がなかったのですけど」
「え」
相変わらずゆるゆるの口から思わず出た言葉に慌てて口を押さえるものの間に合わなかった。お姉様は苦笑して私のことを後ろからぎゅっと抱きしめた。
「スカーレットはこんなに可愛いしお姉様はあんなに美人なのに私はなんだかどっち付かずで中途半端だなと思っていたのよ」
お姉様の真っ直ぐな髪が私をゆらゆら揺らすたびにつられて揺られている。
「むう・・・おねえさまは きれいなのに」
「そう言ってくれるのはスカーレットくらいよ。お茶会に呼ばれてお姉様と歩いてるとお姉様は褒められるけど私はそうでもないもの」
「むううう」
「こらこらスカーレットむくれない。でも私もトパーズは美人だと思いますよ。そうですね・・・中途半端、ではなくミステリアスなんだと思いますよ?私もよく言われました、『ミステリアスなところが素敵』だの『アンニュイな美人』だのいろいろと。それはそれはご婦人からモテて困りました。私は妻、あなたたちのおばあ様ですね。彼女だけが好きだったもので断るのに苦労しましたよ」
そういって微笑むおじい様。おじい様と言ってもまだ40代後半くらいだろう。今もモテるに違いない。むしろこれでモテないなんて言われたら私は異議を申し立てる。
「ミステリアスですか」
「ええ。どちらにしろ魅力的だということに変わりありません。私としては娘も孫も美人ばかりで心労は尽きませんね」
やれやれと首をふるおじい様と私の後ろで私をさらに抱きしめながら「ミステリアスな魅力・・・」と呟いているトパーズお姉様と私たちを見てなぜかまた顔を赤らめているセージ様と少し離れたところでレモネードを飲みながら微笑ましいものを見る顔をするケビンお兄様という謎な状況になってきたこのガゼボの中。とりあえず私は向きを変えてお姉様に抱きついたままこの状況を終わらせてくれる誰かが来るのを待つことにした。




