悪化していた
ここ1ヶ月の憂いが晴れて嬉しい。そこで思い出したのがブライト王子はともかく他の2人の王子様にご挨拶してないということだった。
「た、たいへんです!わたし、まだ あいさつ してませんでした」
慌てる私にお父様はゆったりと足を組み直すと落ち着いてと言って微笑んでからとんでもないことを言い出した。
「いいんじゃない?僕としては二人が仲直りして家族仲もより一層深まったしもう帰ってもいいくらい満足だな」
「だ、だめです」
「んー、分かったよ。そこの一番大きいのがパトリオットでブライトと同じくらいのがセージ。ブライトとセージは双子だよ。パトリオット、セージ、この、もうどうしようもなく可愛い、私の、私たちの天使、目にいれたまま出したくない、宝物のような子がスカーレット」
「サナト、さすがに挨拶くらいさせてやれ、スカーレットが失礼なんじゃないかと涙目だぞ」
「え、スカーレットの涙目なんて可愛いもの見るのはだめ。減るから。もったいないから見ないで」
「サナト」
収拾がつかなくなってきたと思っていたら私の前に王子様2人が来てくれたので慌てて立ち上がる。それを確認するとお父様にパトリオットと紹介されていた王子様が胸に手をあてて膝を折ってくれた。私が3歳児で小さいからだろう。
「・・・はじめましてスカーレット嬢。第一王子のパトリオット・ローズリア・ベルベットと申します」
「あ、ありがとうございますパトリオット王子。フェイバーこうしゃくけ のむすめ スカーレット・アルディ・フェイバーと申します」
私も淑女の礼をして答える。パトリオット王子と同じようにセージと紹介されていた王子様も胸に手をあてて軽く礼をする。
「はじめまして。だいさん おうじ セージ・ローズリア・ベルベットともうします」
「ありがとうございますセージ王子。フェイバーこうしゃくけの むすめ スカーレット・アルディ・フェイバーともうします」
再び淑女の礼をして答える。なんだか聞いていた印象・・・つまり愚息とは似ても似つかない姿に首を傾げると陛下が近くに来て詳しい紹介をしてくれた。
「パトリオットはエレーナ嬢と同い年でセージはスカーレットと同い年だ。友人として仲良くしてやってくれ」
「はい、よろしくおねがいします」
友人ならいいか。それにしても、聞いていたよりかなり王子様らしいふたりに何があったのか、それともエミリア様の評価が厳しいのかと思っていると、いきなり後ろから腕を引かれた。
「っ!?」
「スカーレット!もう、いいか?あそぼう!!」
・・・こいつ・・・おっと失礼。ブライト王子はクソガキのまま・・・いえ、なんだか悪化してる気がする。突然女性の腕を引くのはマナー違反だ。これは小さなころから躾られるもの。怪我をさせたりしたりしないために。それなのに、それもできないとか本当にポンコツなんじゃないかな?どうしたものかと思っているとパトリオット王子がブライト王子を引き剥がしてくれた。
「やめろブライト。女の子の腕を後ろから引くのはマナー違反だぞ」
「いいんだ!だってスカーレットとぼくはけっこんするんだもん!」
「いまの ままだったら しませんよ?」
「・・・え?」
「だってそういう やくそくです」
「な、だって、リリーがこのままなら、なにもしなくても、スカーレットはぼくのおよめさんになるって いってた!」
「リリー?」
「・・・リリーっていうのは、ブライトの、せんせい。ワースレスはくしゃく ふじんのことです」
セージの言葉に絶句する。ワースレス伯爵夫人の発言はもちろん、それを真に受けて、いやまあ、確かにレイチェル様もこのままだと結婚させられる可能性が高いとは言ってたけど、それでも、本当に何もさせないし、しないなんてあり得るだろうか?まず、ストリクト伯爵夫人を呼んだんじゃなかった?など、頭の中でぐるぐると思案する。そんな私たちをよそに陛下は立ち上がるとブライト王子の前に立った。
「それは本当かブライト」
怒るわけではなく、ひどく優しげに尋ねる陛下。3歳児相手に怒れば答えないことくらい分かってあえて怒らないのだろう。
「はい!」
「・・・あの女狐め。旦那も狸とくればいよいよ動物園だなあの家は。サナト」
「大丈夫。どうせこうなるだろうと思ってエリックに調べさせた。っと、これ以上はまた後でね。僕は今日、ここに家族と綺麗な花を見に来たんだから」
「・・・そうだな。だがブライトは下がらせる。レーナ」
「はい。行きますよブライト様」
「なんで!ぼく、わるいことしてない!スカーレットはおよめさんに なるからいいってリリーがいったんだ!!」
じたばたと激しく暴れる王子を無理矢理取り押さえるのはさすがにメイドのレーナ?さんには厳しいだろう。陛下が立ち上がろうとしたところに後ろから『陛下はそのままで』という声が聞こえてきた。
「陛下私が連れていきましょうか」
突然現れた男性に首を傾げる。お母様は突然立ち上がるとその男性に向かって歩いていった。
「お父様・・・!」
「こんにちは。ルティシアが来てると聞いて、少し仕事を部下に押し付けてきたんですよ。そしたらブライト王子が紳士としてあるまじき行為をしていると聞いて走って来てしまいました。ははは、全く、耳が飾りの子どもで困ったものですねブライト王子」
「うわぁっ!?」
片手で軽々とブライト王子を脇に抱える男性、お母様が『お父様』って言ったということはおじい様なんだろうか。
「折角娘と孫たちに会いに来たというのに無駄な手間を取らせないでください」
「宰相」
「なんですか陛下」
「ブライトに反省文を書かせてくれ。私も後で叱りに行く」
「見張り役はどうされます?私は嫌ですよ」
「先ほど陛下に頼まれましたので私が」
「レーナですね。それでは少し失礼します」
暴れるブライト王子も何のその、風のように出ていった男性の正体を知りたくてうずうずしていると近くに座っていたエミリア様がそっと教えてくれた。
「彼はこの国の宰相で、ルティシアのお父様よ。きっとまた来るでしょうから詳しくはそのときに聞くといいわ。それよりブライトに掴まれたところは大丈夫?ああ、赤くなってるわ可哀想に・・・陛下、私も叱りにまいりますからね」
「構わない。まったくあのバカ息子は・・・」
今まで甘やかしすぎたと陛下はため息をつく。なんだかとってもお疲れのようだったのでぽんぽんと肩を叩くと陛下はありがとうと言って苦笑した。




