閑話3 お姉様たちの奮闘
図書室から持ってきた本を戻そうと歩いているとエレーナお姉様が図書室の前に立っていた。かと思うと離れてこちらを振り返ると私の手を取って図書室の前に連れてきた。
「ちょうどいいところに来たわねちょっといらっしゃい」
「お、お姉様っ!早い!早いです」
目の前で揺れる自分と同じ色の黒髪に着いて行くのがやっとだった。大した距離でもないのに息が上がる。
「そっと覗いて」
「何なんですか、もう・・・」
そう言われて中を覗くとスカーレットがお兄様の膝の間で眠っていた。お兄様はご自分の上着をスカーレットにかけたのかシャツとベストだけになっている。片手でスカーレットをトントンとあやしながら片手で器用に本を読んでいた。
「・・・これは」
「美しいでしょう」
「どうしてお姉様がじまん気なんですか」
「それでねトパーズ」
「聞いてください」
「お父様を止めようと思うの」
「なんですか、それ」
本を抱え直して首を傾げる。お父様を止めるってどういうことですか。
「もうすぐここにお父様が本を取りにいらっしゃりそうなの」
窓を覗くとお父様が本を抱えて中に戻ってこようとしているのが見えた。なるほど、趣味の読書が終わったのだろう。噴水の近くのベンチで読書をするのがお父様の楽しみだから。
「もし、お父様がケビンとスカーレットを見たらきっと昨日みたいに邪魔をするわ」
「昨日?」
「私、昨日食事だって呼ばれたとき図書室にいたのよ」
そのとき、スカーレットを膝に乗せていたケビンお兄様からお父様がスカーレットを奪っていたのを見たとお姉様は説明した。スカーレットと仲良くなりたいというお兄様にお姉様とふたりで『積極的に触れ合おうとしてください』と申し上げたのは効果が有ったらしい。そんな仲良くなろうとしているふたりの邪魔をするなんて・・・。
「それはダメだわ!」
「ね、だから今からお父様にうんとワガママを言って困らせましょう」
「ええ、そうね、やりましょう」
途中で会ったメイドに本を私の部屋に戻しておいてと頼んで階段を降りる。するとちょうどお父様が登ってくる最中だった。
「「お父様」」
「おや、エレーナにトパーズ、どうしたの?」
「最近お父様、全然構ってくださらなかったでしょう?私たち寂しくて・・・」
お姉様がつり目がちで真っ赤な目を潤ませてお父様を見上げる。私も同じようにお父様を見上げた。
「だからお父様とお話ししたいのです・・・だめですか?」
お姉様と同じ赤色の目を潤ませて私も上目遣いをしてお父様を見上げた。
「ああ、もちろんいいよ。寂しい思いをさせてごめんね。部屋に行こうか。その前に本を戻してもいい?」
「ダメです!私たちはすぐにお父様とお話ししたいのです」
「そうです!お父様、早くお部屋に行きましょう?私たちお話ししたいことがそれはそれはたくさんありますの」
お父様は少し眉を下げたけれど私たちの言うとおりに部屋まで戻ってくれた。そうそれでいいのですお父様。
「あ、どうせならケビンからも話を聞きたいな。僕もこのところ忙しかったし」
「ダメです!今日は私たちの番なのです!」
ぷりぷりと怒るお姉様はキツい見た目と動きがミスマッチだがそれはそれで可愛いと思う。私なんてどっちつかずの容姿で自信がなくなる。エレーナお姉様は美人で、スカーレットは可愛いのにどうして私は中途半端でつまらない容姿なんだろう。
「・・・トパーズ?どうしたの?」
「いえ、なんでもないです」
「・・・いいよ。今日はふたりの番にしよう。エリックにお菓子を用意してもらおうね」
私たちを引き連れて今度こそお父様は部屋まで歩き始めた。このやり取りが図書室まで聞こえていたなんて知らない私はお兄様が「・・・下手な芝居だなあ」と笑ったのなんて知るよしもない。




