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ケンカらしいです

早速当主になるためのお勉強を・・・と言いたいところだけど教材が何もないので『令嬢レッスン』をしっかりと終わらせることにした。でも、最後まできっちりやりたいレイチェル様はたぶん教材があったとしても今日は『令嬢レッスン』をしたと思う。それから2時間後、帰る前に一息ついてもらうためにお茶をお出しする。そこで今後の勉学方針について話し合うことになった。



「とりあえず、令嬢としてのお勉強はこれからも続けます。令嬢のお勉強をしながらノーブル王立学園に入学、ひいては当主になるのに必要なお勉強をしていただきますが大丈夫ですね」


「はい」


「それでは少しお勉強の時間を長くしましょう。私からサナト様にお願いします。上手いこと理由を言えば反対されることは恐らくないでしょう」


「はい」


「私が来る回数は週4日。今と変わりません。課題を出すこともありますが頑張ってくださいね」


「わかりました」



ノーブル王立学園に入るために必要な課題なんだろう。サボらないでやらないとと決意を固めたところにレイチェル様がハンカチと刺繍糸、そして図案が載っている本を差し出した。



「さしあたって、スカーレット様のセンスを知りたいので明後日までにこのハンカチに刺繍する柄と糸はどれがいいか決めてください」


「え?」


「当主のお勉強は私がいないとできませんが令嬢のお勉強はルティシア様のような素晴らしい方が身近にいるのですから毎日できます。見て覚えるのも勉強になりますからね。がんばって早く身につけて家庭教師の時間を全部、当主になるためのお勉強に使えるよう、日々勉強してくださいね」


「・・・はい」



そっちか!という言葉をぐっと呑み込んでハンカチと本を受け取った。これはお母様に相談してもいいのかな?



「ルティシア様にはお話しせずにまずはお一人で決めてみてください」



私の考えを読んだかのようにレイチェル様は念押しした。お母様に相談するのはダメらしい。わかりました、と答えてミーナにこの3つを勉強机に運んでもらった。レイチェル様はさっきミーナが書いてくれた紙を誰かに見られたらいけないからと暖炉の中に投げ込んで燃やすと荷物を持って立ち上がる。



「それでは、今日はここまでといたしましょう。失礼しますスカーレット様。・・・その、泣いてしまってごめんなさいね」


「ありがとうございましたレイチェルさま。きにしてません!また きてください。ミーナ、あんないを おねがいします」


「かしこまりました」



二人が部屋を出ていったので少し体を伸ばす。レッスンの間にレイチェル様の目の充血が治ってよかった。あのままだとご家族はとても心配しただろうから。


さて、お昼までは少し時間があるしお花でも見に行こう。そう思って部屋を出て庭園に出るとお兄様の先生でレイチェル様の旦那さんであるジョン・ストリクト様が噴水の縁に座って唸っていた。



「ジョンさま」


「ああ、スカーレット」


「レイチェルさま さっき かえられたのに、いっしょに かえらないんですか?それとも、きぶんでも わるいですか?」


「・・・いや、うん、スカーレット、ちょっと聞いてくれないかな」


「いいですよ!」



ジョン様はお父様のお友だちでたまに遊びに来ては私たち子どもともよくお話ししてくれる優しい人だ。私たちのことも私的なときは私たちに敬称を付けずに名前で呼べるくらい親しい。そんなジョン様が悩んでいるなら聞いてあげないわけにいかないと同じように座ろうとしたらジョン様はハンカチを敷いてくれた。そこに私が座るのを確認するとジョン様はぽつりぽつりと話し始めた。



「実は、レイチェルと喧嘩してね」


「まあ」


「僕は・・・本当は思ってないのに、つい『女はダメ』みたいなことを言っちゃって・・・」


「むう」


「ほ、本心じゃないよ。つい、売り言葉に買い言葉で・・・『男の癖に情けない』なんて言われてつい・・・」


「うーん、でも、そんなこといわれたら かなしいです」


「そうだよねえ・・・」


「スカーレット、ジョン先生」



突然、お兄様が現れて驚くと私たちが見えたので降りてきたらしい。お兄様は私の横に座るとどうしたの?と聞いてきた。



「ジョンさま が レイチェルさまと けんかしたんですって」


「おや」


「ケビン、もし、もしも、スカーレットと喧嘩して、ひどいことを言ってしまったときにスカーレットが泣いたらどうする?」



そう聞くということは実際に泣かれてしまったのだろう。レイチェル様に泣かれて動揺しているというところだろう。そんなジョン様の質問にお兄様は少し首を捻ると私をじっと見つめてから口を開いた。



「僕は何もしてないのに来たばかりの頃に泣かれましたが・・・」


「!あ、あれは!うれしかったからです!」


「ふふ、分かってるよスカーレット。そうですね・・・」



突然突っつかれて狼狽える。私を宥めるように頭を撫でてからお兄様は顎に手を当てて考え始めた。そんなお兄様を固唾を呑んで見つめるジョン様。これではどちらが大人か分からない。




「僕ならすぐに抱きしめてひどいことを言った謝罪とどうしたら許してくれるか確認します」


「・・・それでも許してくれなかったら?」


「許してくれるまで謝ります。ケンカとはいえ、大切な人を泣かせたままなのは嫌なので」


「・・・かっこいいね」



そう言うとまた項垂れてしまうジョン様。これはもしかして・・・



「キライ」


「っ!」


「って、いわれましたか?」


「スカーレットはすごいね。そうだよ、大嫌いなんだって」


「うーん、でも、かなしくなったら、わたしも、ほんとは すきなのに そういっちゃうこともあるかも しれません」


「好きかあ・・・そうかなあ・・・」



項垂れてしまったジョン様の肩を慰めるように叩く。うーん、これは重症だ。ジョン様がレイチェル様のことを大切に思っていることくらい我が家は皆知っている。なんとかしてあげたいけどどうしたら・・・。そう思って庭を眺める。そういえばレイチェル様がうちの庭は素敵な花言葉の花ばかりだって言ってたことがあったな・・・。



「・・・そうだ!おにいさま、おみみかしてください」


「うん、なぁに?」


「えっと・・・」



お兄様にレターセットとペンを持ってきてもらうようにお願いするとお兄様は私のしたいことを理解したのか取りに行ってくれた。



「どうしたの?」


「ジョンさまは すこしまっててください!」



ハンカチを畳んで返してから私は庭にある温室に走る。お父様のお花好きが高じて出来たこの温室は徹底的に温度が管理されていて四季折々の花が咲いている。まあ、この国は日本に比べたら年間の温度差は大きくないからそこまで大変でもないらしいけど財力があるので大変じゃないって言ってたお父様の言葉はあまり当てにならない。


さて、そんなことよりカンパニュラを用意しなくちゃ。たぶん、咲いているはずだ。ミーナが『たまには違う色もどうですか?』というのでお願いしたら今日の花束の中に入っていたから。中に入ると庭師のレティが作業台で何かしているので声をかけた。



「レティ!おしごとちゅうに ごめんなさい!すこし いいですか?」


「ありゃ、お嬢様どうしました?」


「あのね、カンパニュラってさいてますか?」


「カンパニュラですか?えっと・・・ああ、一輪咲いてますね」


「もらってもいい?」


「もちろんですよ。ちょっと待っててくださいね」



レティはカンパニュラを切ると近くにあったリボンを結んでくれた。花束を作っている最中だったらしい。きっと、この数日私にばかり構っていたお父様がお母様とお姉様たちに渡すつもりなんだろう。



「どうぞ」


「ありがとうございます。これおれいです!」



ミーナにこっそりもらったチョコレートをレティに渡す。手を止めさせてしまったことを謝って私は外に出た。



「走り方、ルティシア様にそっくり」



レティがクスクスと笑って作業に戻ったのを私は知らない。







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