雨の舞踏会 解決編1
「・・・おかしい」
「おかしい?は!まさかお嬢様お身体に何か・・・!?」
慌て始めたナターシャにこちらも慌ててしまう。確かに語弊があった。昨日の今日では私の気分が悪いとか身体に不調があると思われても仕方ない。
「違うんです。勘違いさせてしまいましたね。お医者様のおかげで特に痛むところはありません。おかしいといったのは昨夜のエリス様の様子です」
「まあ、首を絞める時点でまともとは言えませんが・・・」
「そういうことじゃありません。彼女があんなことをするのがおかしいという意味です」
「どういうことですか?」
「本当にブライト王子のことをお慕いしていると仮定して、これを自分でいうのもおかしいですが未だ王子にお慕いいただいている私が邪魔だというところまでは理解できます」
「そうですね」
「ただ、私が王族のどなたかと婚姻を結ぶのは現状不可能です」
まずフェイバー家の跡取りの血筋の問題がある。ただ跡取りならケビンもいるし姉妹の生んだ子どもを養子に迎えればクリアできる問題なのでそこは重要視しなくていい。まあ、お父様たちはそういったことはよしとしないでしょうがそれは置いておく。それより同じ家から王族に嫁ぐ人間が2人以上出る方が問題だ。おばあさまが我が家に降嫁してきたことでフェイバー公爵家の力は他の公爵家よりも高めだ。ただ少し前まで現王妃のエミリア様のご実家に比べればまだ我が家の影響力は低いと思われていた。しかし、エレーナお姉様が次期国王となるパトリオット様と結婚されたことやお母様の実家が代々宰相をしていることで今我が家はかなり力が集中してしまっている。ここで私がブライト王子と恋仲になるのはさすがに陛下も良い顔はしないだろうし他の公爵家や侯爵家が黙っていない。
このような類のことを告げるとナターシャはなるほどという顔をしたあと、はたとした表情になったかと思うとおずおずと手をあげる。
「はい、なんでも聞いてください」
「その・・・お嬢様はお花をいただいておりますしそれで嫉妬されてこのようなことをした可能性も・・・」
「その可能性も考えましたが、本当にブライト王子と婚姻を結ぶつもりがあるなら騒ぎを起こすこと自体が悪手です。私が婚約者になりえない以上彼の婚約者候補は他の公爵家や侯爵家の令嬢から選ぶことになります。もし王家から求められれば元々の婚約を『なかったこと』にする家はたくさんありますから婚約者の有無もあまり関係ありません。そうなれば侯爵家令嬢である彼女にもブライト王子に見初められる機会があります。それをわざわざこんな騒ぎを起こして潰す理由がわからないんです」
私の話を聞いていたブライアンが廊下の方に視線を向けると嫌そうにため息をついた。
「お嬢様が知りたい情報が来たようですよ」
「さすが早いですね」
「え、なんの足音もしないだっ!」
「もっと精進することですね」
ガントレットの甲でおでこを小突かれたガーネットは恨みがましくブライアンを見つめている。それを見たナターシャが素敵・・・!と小さく呟いてから慌ててガーネットのおでこに冷たいタオルを当てていると扉がノックされた。ブライアンが頷いたので入室の許可を出す。
「お久しぶりでございますお嬢様。あなた様のパヴェートが今まいりましたよ!」
「・・・久しぶりに聞くと強烈ですねえ・・・」
胸に手を当てて優雅にほほ笑む美青年に少しめまいがする。そんな私に気づいているのかいないのか・・・彼は整った笑顔を崩さずに『ご希望の情報を集めてまいりましたよ』と言って笑った。




