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36.かくして、破壊の悪魔と天魔は

まだ、降り落ちてくる瓦礫はやまない。土埃で視界も悪い。

構わず、悪魔が破壊衝動のままに咆哮した。


「燃え盛れ!」

瞬く間に、周囲を太陽とは違う赤い輝きが埋め尽くす。



呆気にとられた。



確かに、私は言ったわね。焼き払ってくれって。けど、例えに過ぎなかったから、屋内で、まさか本気で火を出してくるとは思わなかった。

あれ、でもこれ…。

ロンバルディさんが泡を食った声で叫ぶ。

「建物まで燃やすつもりですか!」


「ああ?」

どこか投げやりながら、堂々と足を踏み出しながら、悪魔が唸る。

「そんな抜けた真似はしねえよ」

信じられないけど、ここ一帯と進む先の空間全部、赤い輝きで埋まってるみたい。でも確かに、床や壁、階段は無事。家具も。それから。

私たちの周囲は、一定の温度と空気を保ってる。…でも、これ。




火じゃ、ない?


「…溶岩?」




私の呟きに、悪魔が邪悪に笑った。

「ご明察。これは火じゃない。南の活火山から『持って』きた。消すなよ、天魔さま?」

だから、さっきから、変にチクチク神経が刺激されてたのね。正体は違和感ってわけか。

魔法に、私より感覚が鋭いロンバルディさんは何を感じたのかしら。


息を呑んだ。悔し気に唇を噛む。


「でたらめです…こんな…こんな力がこの世にあるなんて」


努力程度じゃ追い付けやしない、って呟きが続いた。

彼女は、天賢議会の人間。魔法には、素人の私なんかより、思うところがあるんだろう。


ちらっと私を腕に抱く悪魔を見れば。



彼は、ロンバルディさんの様子に気付いた気配はなかった。いえ、聴こえてても問題にもしてないって風。



獣がのんびり散歩してる態度で、珍しいくらいの上機嫌。そして、ぐんと跳ね上がる凶暴さ。

「すげえ解放感。今なら何でもできそうだな」




実際、今の彼は、人間というより、…正真正銘の悪魔だ。




気配からして、いつもと異なる。真名がもたらす作用が気にはなるところだけど、今追求すべきは別の問題ね。

私は周りの空間を埋め尽くした溶岩を見渡す。眩しすぎて、長く直視はできない。


「…これ、持って来たって言いましたよね」

だったら、元の場所へ返すんだろうけど…返せるのよね?

不思議なのは、レオさまが南の活火山なんて咄嗟に思いついたことだ。




―――――五大公家の人間っていうのは、基本、公国から出ない。出ては、いけない。




この間のテツさまの件や精霊の件は特別だ。

レオさまだって、真名持ちである以上、他の五大公家の方より、出国の制限は厳しいはず。


そんな方が、ベルシュゼッツ公国にある以外のものを咄嗟に思い浮かべたって言うのは、なんだか違和感があったのよ。

それに、実際見てでもいなきゃ、たとえ知識があったって、持ってくる、なんて、難しいはず。


「よくこんなもの、知ってましたね」

言えば、とんでもない答えがしれっと返された。



「ああ、子供の頃、放り込まれたからな。転移で」



…兄弟喧嘩って言うには、度が過ぎてる。


「そういや、お前は転移で砂漠のど真ん中に放り出されたんだっけ?」

悪魔が笑った。どこか空っぽの陽気さで。そのくせ、瞳だけが本物の熱を帯びてる。

「オレが『苦痛』っての経験したのは、それが初めてだったんだよ。忘れらんねえよな」


初恋でも見る眼差しを、周囲のマグマに向ける悪魔。引く。

「当時は、こんな風に結界張ることなんてできなくてよ。直に浴びたな。どうもその時魔石が溶けたみたいで―――――オレは本性の姿に戻ったらしい」

本性。つまりは、―――――悪魔の姿。

五大公家の人間の魔力は、膨大。それは簡単に、人間の殻を破る。ゆえに、膨大な魔力を抑えるため、五大公家の中でも血が濃い存在は全員、魔石を身に着けてる。

その魔石が、溶けた。大ごとだ。


悪魔の生存本能は、何をけしかけたのか。

「『らしい』、ですか」

曖昧な物言いに、私は首を傾げた。軽快に歩きながら悪魔は肩を竦める。

「覚えてねえんだ。そのまま暴走しかけたらしいけどよ」


「獣人の国で、…悪魔が暴れたという話は、聞いたことがありませんが」

言いにくそうに、ロンバルディさん。さすがの彼女も、さっきの勢いがない。生きたまま活火山の火口に放り込まれたなんて話、壮絶すぎる。


悪魔は、いたずらな、というには、凶悪さの勝る笑みを浮かべ、

「じゃ、非公式に公王サマが他国に入ったって話はどうだ」

幾度目かになる段差を、飽きた様子で一段飛ばしに駆け上がった。

結界からはみ出さないよう、慌てて追ったロンバルディさんが声を潜める。



「まさか、公王さまが暴走を止められたのですか」

「まさかって何だ」

疑問に思う理由が分からないって態度で、悪魔が言う。


「ベルシュゼッツ公国の最強って誰だよ?」



…公王さまだ。この方が子供だったなら、テツさまをはじめ、他の真名持ちたちもまだ幼かっただろうし。


本性を現した悪魔を止めることができるなんて、確かに公王さま以外にいない。

なにより、ことは手早く済ませる必要があったはず。なら、お出まし頂くのは必然。


「信じる信じないは、あんたの自由だ。―――――そおら、着いたぞ」

悪魔が軽く、私を抱き上げた腕をゆすった。

目の前に、最上階の扉。私が何かを言う前に、周囲の溶岩が掻き消えた。


「とっとと終わらせようぜ」

直後、悪魔が扉を蹴破った。

「…また、あなたという人は…」

呆れた声で、ロンバルディさん。まだ夜の闇が満ちた、薄暗い廊下に一歩踏み出した彼に続きながら、



「何かを破壊せずにはいられないんですか」



隠し部屋から漏れこぼれる陽光を背に、彼女はまた背後に結界を張ってくれた。

重ね重ね、気が利くひとだ。


それにしても、隠し部屋を通過するのに、ひとつも障害がなかったわけだけど。

異界は何のちょっかいもかけてこなかったのか、それとも。



すべて、灼熱の中に溶けたのか。



―――――止めよう、これ以上考えるのは。



とにかく、問題がなかったのはいいこととする。罪悪感に浸るのは、後で。

問題の部屋はどこだ、と聞く前に。


感覚が、答えを拾った。




「あの部屋、ですか」




目を向ければ、開きっぱなしの扉が見える。

「分かるか」

その時になって、気づいた。

(あ)



ここにいるのは、悪魔じゃない。レオさまだ。



そうか、ここは最上階。目的地に至ったから、真名による命令は解けたんだわ。

私が何かを言う前に、レオさまはそちらへ大股に進んだ。何があるのかを知ってるらしいロンバルディさんが眉をひそめてる。

彼女の態度に、私は深呼吸する。


心の準備が必要だと思ったから。

レオさまが部屋に入るなり。





―――――生首と、目が合った。





美しい、女性の顔。とたん、紅を塗った唇が恐ろし気に引き歪んだ。



「てめぇ、レオ、いったい何しやがった!!」



甲高い女性の声が、ヒステリックな怒声を放つ。淡い照明が灯る中、薄闇に紛れ、瞳だけが爛々と輝いた。

一瞬、息が止まる。心臓も止まるかと。それだけ、驚いた。


出会い頭に叫ぶ生首なんて、一生お目にかかりたくなかったわ。


聞いた通り、ベッドの上、バラバラになった人体が無造作に転がってる。

その生首にも、生気は感じない。間違いなく、死体の一部。なのに。


確かに、喋ってる。何事。しかも。

私が客として知る、この館一番の女性は、こんな喋り方はしないし、表情は浮かべない。


生首の中に、別の人格が入り込んだ感じだけど…どこの、どなた?

「ああ?」

レオさまは唸り―――――何に気付いたか、わずかに面食らった。




「…もしかして、二の兄貴か? なにやってんの」




黒金の頭を掻き、素直に驚いた顔は、存外幼い。兄貴って。


「そりゃこっちの台詞だ! てめぇ、女の身体に何か仕掛けてやがったな!」

私、叫ぶ生首をまじまじ。その耳元で、壁にかかった照明の明かりを受け、何かが光る。


ピアスだ。水色の。見るなり、


「あ」

思わず声を上げる。レオさまに降ろしてもらいながら、




「それ、魔道具ですよ」




思った通りのものなら、指さしたピアスは、魔石でできてるはず。


おそらくは、間違いない。同じ型の魔道具を、いくつか目にしたことがある。

ただし、その性質上、壊れていないものは私の知る限り、ふたつしかなかったけど。



ここにある魔道具も、目を凝らせば、その魔石にはかすかなヒビが入ってた。やっぱり、壊れてる。そのヒビが、模様みたいに見えるから、装飾品としては、あり、だけど…。



「ふぅん? …で?」

レオさまは、興味がなさそう。っていうか、初見って感じね。

「…レオさまは、アレには気づいてなかったんですか」

プレゼントしたものとかでも、ないんでしょうね。レオさまはさらっと答える。


「いつもと違うピアスつけてんな、とは思った。それが?」


―――――いつもと違うピアスを、つけている。

その言い方から。




…なんとなく、私は事情を察した。大きく、息を吐きだす。




「ロンバルディさん」

私は天賢議会の女性を見遣り、告げた。



「―――――彼女の死は」

断言し、続ける。






「覚悟あっての、自殺です」






「…どういうこと、でしょう?」

何かわかったのか、とロンバルディさん。

そうね。ある程度、察しはついたけど。


でも、すぐには答えられない。私はダメもとで、再度生首に目を向けた。

「あなたは、彼女に教えましたか?」

無視されると思ったけど、怒りの形相を浮かべた彼は意外と簡単に応じる。

「何をだ」



「レオさまを殺すために、彼女に異界を仕込んだと」



仕込んだのが彼自身かどうかは、分からないけど。いえ、この状況。

彼が異界の罠を仕掛けた、その認識で、間違いないはず。無関係なら、生首に捕らわれたりしてない。

「当たり前だろう?」

不思議そうに彼は答えた。次いで、ニタリ、笑う。




「苦しむ顔は、ずいぶんよかった」




悪魔らしい反応だわ。生首は邪悪に続けた。…こっちの反応を楽しむみたいに。

「同じ理由で、殺すつもりもなかったんだがな」

苦しむ顔が見たかったから、…殺すつもりはなかった、ね。私はレオさまを横目で一瞥。


レオさまを殺すための罠に自分がなったことに、彼女は苦しんだ。ということは。

彼女は、レオさまを。


彼の横顔は、冷え切ってた。何を考えたのかは分からない。ロンバルディさんは嫌悪に満ちた目で生首を睨んだ。

私たちの反応に満足したみたい。二進も三進もいかない状態のはずなのに、生首は楽し気に声を弾ませる。


「だから、魔法が問題なく発動すれば、この女は死ななかったはずだ」


ロンバルディさんは眉をひそめた。

「ですが、結果は」

そう、結果は。






異界の発動と同時に、彼女の肉体はばらばらになり。


思わぬ範囲を異界に支配され。


術者は、生首に閉じ込められた。






いくら抵抗したくても、彼女個人に、五大公家を上回る魔力があるわけはない。それでも彼女は、考え得る唯一の方法で、―――――対抗した、のね。

やるせない。


私はピアスを指さし、できるだけ冷静に告げる。




「…そういう、魔道具なんです」




この状況を作り上げた原因は、それだ、と。結論だけ言って、色々省略した私に、他三人の視線が集中する。

「申し訳ありません。そのピアスが魔道具だと、して」

恐縮した態度で、ロンバルディさん。


「どういう働きをするのですか? 魔道具には不勉強なもので…」

案の定、説明を求められた。他二人からの無言の圧力もすごい。指を下ろして、仕方なく私は重い口を開く。




「その魔道具は本来、向けられた魔法を反転させるものです」


「反転、ですか」




ロンバルディさんは興味深そうに繰り返した。私は、ですが、と首を横に振る。

「ですが、よく見てください、その魔道具は魔石にヒビが入っています」


「あれ、ヒビなのか。見た瞬間は、模様だと思ったけどな」

レオさまが、つい、って感じに口を挟んだ。

思わぬ証言が手に入って、私はさらに言葉に詰まる。



…なら、これは最初から壊れてたのね。



咄嗟に何も言えなくなった私に、

「つまり?」

少し、苛々とレオさま。私は、ため息。



「つまり―――――不良品です」



使っても、何がどう作用するか読めないってこと。


どんな結果になるか。


ほとんど博打だ。生首が、ぽかんと口を開いた。

「ゆえに、この魔道具が、魔法に、どのように作用するかは、わかりません」






そして、結果が。…今の状況。






今、生首に捕らわれてる彼が、術者で間違いない。

壊れた魔道具がどう作用したかは知らないけど、術者として魔法とつながりを持ってたからこそ、捕らわれたんだわ。


レオさまが、意地悪そうに面白がる笑みを浮かべる。

ただ、何も言わない。


魔道具の持ち主である彼女が、その作用を知らなかったわけがないと思う。

彼女は、どういうつもりで、その魔道具を身に着けたのかしら。



…ひとつ、分かるのは。



博打を売ってでも、彼女はレオさまを罠の犠牲にしたくなかったってこと。


天秤にかけられたのが自分の死であると薄々予感していても。

―――――彼女は、レオさまを取ったのね。


魔道具に、どれだけ彼女の気持ちが作用したかは、分からない。魔道具はただの道具だ、気持ちが通じるなんて、そんなわけもないだろうけど。

この結果は―――――ある程度、彼女の願いに沿ってるんじゃ、ないかしら。

私は頭を小さく横に振った。気持ちを切り替える。


「なんにしろ」


異界の発現を歪めた、魔道具がここにあるのだ。違和感の捻じれの根っこはこれだ、と私の中にいる『あの存在』が告げてた。これなら。






「状況が分かれば、問題なく、異界を還せます」






断言に、ロンバルディさんが目を輝かせた。対して、

「おいおい、待てよ」

レオさまが、いきなり肩を抱いてくる。なれなれしく引き寄せた。


「ってことはあの生首も元に戻るのか? あれはそのままにしとかねえ?」

…また、引っ掻き回そうとする。その手を払いのけようとするなり、





「どの女も、レオ、レオ、レオ、だ!」





いきなり、生首が叫んだ。


あまりにドロドロしたものがこもった声に、私は思わず耳を押さえた。

蟻地獄めいた嫉妬の渦が、聞いた相手を悪酔いさせる。


生首の憎悪に燃える目が、突如、私を射抜いた。

「この女だけじゃない、―――――…その女もか!」



「あはははははっ!」



心の底からの嘲笑を放ち、レオさまは凶暴な視線で生首を貫く。

「そう、特にこの女は特別だ」

大切、とは言わない。特別って言った。

特別かどうかはともかく、少なくとも大切な相手なら、ここまで連れてこないわよね。


勝手なことを言って、頭を撫でてきた。犬にするみたいに。けど、なんだか相手にするのも億劫ね。


兄弟の、ほとんど醜悪なやり取りにはもう、耳を貸さない。病気になりそう。

勝手にやってください。私は私でコトを済ませることにする。

さて。


違和感の妙なねじれの正体は、あのピアス。


私はピアスを見つめた。

よし、これなら、きちんとほどけるわ。




「殺してやる…!」




私から目を離さず、生首が宣言。とたん。

私の隣で、なんでかレオさまが、借金取りが言質を取り上げるみたいな顔した。…私、何も見てません。


「いーいのかな、そんなこと言って。コイツはなぁ」

嬲るように笑い、レオさまは低く続ける。






「―――――天魔だよ」






その言葉に、どんな威力があったのか。

生首が絶句。刹那。

レオさまが、勝ち誇った笑い声を上げる。



「言ったな、今、あんたは! 五大公家の宝に対して、殺してやるってよぉ!」



たちまち、生首がはじめて動じた。哀れなほど、震える声を放つ。


「ま、待て、レオ、―――――そうだ、話し合おう!」

泡を食った声を上げる生首に、やなこった、とレオさま。



「他ならぬ天魔への暴言―――――マイヒェルベック家の掟に照らし合わせれば、厳罰に値する!」



断言に、生首が恐怖の形相に歪む。




何も恐れるものはないって態度だったのに、マイヒェルベック家の厳罰って言葉には、これ。




悲鳴とも怒声ともつかない声が、室内に満ちる。ロンバルディさんが顔をしかめた。悪魔の兄弟のやり取りに、本気で引いてる。

確かに、聞くに堪えない、見るに堪えないやりとりだ。

長く見てるつもりは、私にだってない。すぐにでも部屋から出ていきたい。そのためには。


私は急いだ。

できるだけ丁寧に、違和感の正体を握りこむ。捻じれはほどけた。あとは。

「では」

私は改めて、宣言。






「―――――還します」






結論から言えば、それは一瞬で済んだ。なすすべなく、異界が場から剥がれ落ちていく。逃げ出すみたいな勢いで。

その、間際。


生首が、悔し気な声を発した。




「この、まだらの雑種が…っ」




私は、少し、目を瞠る。

不思議と、その言葉が私の記憶の中の何かを刺激したから。刹那。

さぁ、と室内へ、太陽の光がいっきに差し込んだ。

眩しさに、思わず目を閉じる。

ロンバルディさんの、呆気にとられた呟き。


「うそ…本当に、問題なく、異界を還した…?」

きょろきょろ周囲を見渡す姿は、なんだか子供みたいだ。その金髪が、光の中で輝く。

レオさまは、お腹を抱えて笑い出した。



「あはははっ! 最高の気分だ! バカ兄貴ども、地団駄踏んで悔しがるぜぇ?」



その笑顔は、レオさまとして見れば、珍しく凶暴さの抜けた、健やかなもので。

毒気が抜かれた私は、ため息交じりに尋ねた。


「…さっきの方は、もしかして」

―――――まだらの雑種。

聞き覚えがある言葉だ。私は、レオさまの黒金の髪を見上げる。…なるほど、まだら。


連鎖的に、昔の記憶が蘇ってきた。




「小さな頃、下町で私たちがボコボコにした相手ですか」




そう、昔、下町で。

仕事の合間に、子供の私は、近所の子たちと男女関係なく駆け回って遊んでた。

大体は、旦那さまについて歩いてたから、機会は少なかったけど。同い年の彼らは、いつだって快く迎えてくれた。


その、中に。



たまに混じってる小綺麗な子供がいたのを、確かに私は覚えてる。



その子は黒金の髪に、紫の瞳、で。

―――――存在が、宝石みたいだった。

思ったままに伝えれば、その子はぽかん、と口を開けて。

次いで、大笑いしたっけ。


けど、今ほど、男っぽくなかったし、きらきらの宝石って印象は他の子たちも持ってたと思う。

今の今まで、その子が今のレオさまとつながらなかった最大の理由は、ひとつ。




まさか五大公家の子息が、下町で遊んでたなんて想像もしない。




そんなある日。

その子の兄って相手が現れて、蔑みを込めて、その子にこう言ったのだ。






―――――まだらの雑種。






聞いたのは、子供だ、沸点は低い。おまけに、蔑まれたのは仲間。

飛び掛かったその子に続いて、私も含め、皆が参戦した。

兄って相手は体格が良かったし、その他にも同類みたいな取り巻きを引き連れてた。それでも、恐れしらずの子供たちは全力でぶつかり合った。


今から思えば、危ない橋だ。


相手は五大公家の子息。魔法が使われていたら、と思うと、ぞっとする。

でも誰も、魔法を使わなかった。もしかすると、大人から禁じられていたのかもしれない。言葉での禁止は難しいだろうから、魔道具か何かを使用されてた可能性も高いわね。

私の言葉に。


レオさまは、不意に笑いを納めた。なぜか、やりにくそうに私を見下ろす。



「こっちも同じくらいボコボコにされたろうが」



珍しく、声が弱い。

私は、その言葉に、喧嘩の続きを思い出した。

最中は夢中になってて。気づけば、ひっくり返って青空を見上げてた。

そう言えば、しばらく、顔の形が原型をとどめてなかったわよね。

「っつーか、思い出したのか」


「おかげさまで」

よく分からないけど、いやそうな顔をするレオさまの目を覗き込み、私は尋ねた。



「どうしてレオさまは、下町で遊んでたんです?」



彼は五大公家の人間だ。

彼自身はともかく、周囲が下町へ行くなんて許さない気がする。それを振り切ってまで、なぜ下町を選んだのか。


レオさまはそっぽを向いた。ぼそぼそ、小さく早口に言葉を続ける。





「…昔、ウゼェ泣き虫だった野郎がよ」





泣き虫。その言葉に、なぜだろう、テツさまの顔が浮かんだ。

今のテツさまじゃない。昔のテツさまの泣き顔。


「ある日いきなり、ウゼェ石頭に変わったんだ」

私、内心、面食らう。確かに、私も昔のテツさまの印象と、今の彼とは食い違う。


でも、当時においても、それだけ急な変化だったのかしら。



「変えたヤツが気になるのは、当然だろ」



―――――それって。


まさかと思うけど、私に、会いに来たの? いえ、見に来たの?





そう言えば、最初は。





近所の子たちと遊んでると、遠くから、あの子はこっちを見てた。

あんまりにも長いこと立ち尽くしてたから、気になって、皆で、寄ってたかって遊ぼうって誘ったのよね。


うん、覚えてる。

レオさまは、不貞腐れた顔で、私を一瞥。舌打ち。

何かを振り切る態度でロンバルディさんを振り返った。


「おい、天賢議会の。お仲間を呼んで来い」

後始末を押し付けるつもりね。

察したけど、責める気にもなれず。というのか、本音では同意して。


私は平和そのものの、外の光景に目を向けた。















ねえ、聞いてくださるかしら。



教訓。





兄弟げんかに割り込むべからず。





読んでくださった方、ありがとうございました~。

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