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巻いてみようよ!




 それからフィルに服を着せるのに30分もかかった。


 リタのシャツを無理やり着せられたフィルは、苦しげだった。


「リタ、服って苦しいねー?」

「脱ごうか、フィル」


 これなら着てない方がマシなのではないか、と思うほどに強調された胸元。

 リタは自分の身体を見下ろして少し落ち込んだ。


「脱いでいいの! じゃあ行こーう!」

「待って待って、脱いでいいけどまだ行かない」


 リタは、素早くシャツを脱ぎ捨て玄関へ向かおうとしたフィルの手首をギリギリで掴んだ。


「脱いでいいって言ったじゃーん」

「この服は脱いでいいけど他のを着よう」


 ブーと唇を尖らせるフィルをよそ目に、他に着られそうな服はないかとクローゼットの中をあさる。

 どれもこれもリタが着るために買った服で、どう考えてもフィルのぼよよんが収まりそうもない。


「うーん、何かないかな……」

「リター、もうこのまま行こうよー」

「それはダメ!」


 ブーブーとより一層唇を尖らせたフィルはリタの腰に手をまわし、完全に体重を預けている。


「フィル、重いからやめて」


 フィルを引きはがし、クローゼットに向き直る。


 クローゼットを漁り続けると、奥の方にきれいな柄の箱を見つけた。

 これなんだっけ?と、リタはその箱を引きずり出す。


「なにそれー?」


 今度はリタの首に手をまわし、肩越しにのぞき込んでくる。


「うーん、思い出せない……」

「開けてー! 開けてー!」


 リタはベッドの上に箱をおろし、恐る恐る蓋を取る。


 そこにはカラフルな布が入っていた。複雑な幾何学模様だ。


「おー、何これ! きれーだねー」


 リタは、箱を開いてようやく思い出した。この布は両親からのお土産だった。


 リタの両親は放浪者だ。良く言えば旅人。

 世界中を放浪し、たまに娘のリタにお土産を送ってくる。


 そういえば最近何も送られてきてないな。と布を広げながらリタは思った。


「そうだ、フィル! これを巻いてみようよ!」

「まく……?」

「そうそう、ちょっとピシッとして」


 リタはフィルをまっすぐ立たせて肩口で布の角を押さえさせる。そのままわきの下を通し、背中側にまわり反対側の角ときつく結ぶ。

 太ももが三分の二ほど隠れ、ワンピースのように見える。



「どう? これなら苦しくないでしょ?」

「苦しくはないけどやだー」

「ちょっと回ってみて?」


 リタの言葉に、フィルはその場で一回転。

 回った勢いで結ばれていない部分がめくれ上がり、フィルの体があらわになってしまう。


 ほぼ裸と変わらないなぁ、とリタは頭を悩ませる。


「もう行く? 行こう!」


 フィルは再び玄関へ走りだす。


「わ、ちょっと待ってってば」

 

 走りだしたフィルは、やっぱり布の隙間から体がほとんど見えてしまっている。

 リタはクローゼットの中から裁縫箱を引っ張り出し、フィルを追いかける。


「リタ! 早く!」

「もうちょっとだけ待って……」


 すでに玄関のドアに手をかけているフィルの両肩を掴み、静止させる。


「危ないから動かないでね……」


 そう言ってリタは裁縫箱から針と糸を取り出す。

 ひらひらしている布をピンと引っ張り、わきの少し下からざっくりと縫い始める。

 一番下まで縫い終わり、もう一度回ってみて、とフィルに声をかける。


「こう?」


 先ほどと同じように回ったフィルだったが、今度は布がはだけることもなかった。

 ざっくりとしか縫っていないため糸と糸の隙間からは見えてしまうが、さっきよりはマシだろう。


「うーん、まあいいか。よし、行こう、フィル」

「いこー!」


 ようやく服(?)を着たフィルとリタは隣町へ向かうため玄関を飛び出した。



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