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うちになにかご用ですか?

 


「カティもママも喜んでたねー」

「喜んでくれてよかったね」

「お家に帰ったら、残ってるクッキー食べようねー」


 リタとフィルはブンブンと腕を振り、軽い足取りで森を抜けた。



 森を抜けると見慣れた静かな村が待っているはずだった。


 しかし、その時リタとフィルが見たのは、家の前の地面に描かれた大きく青い模様だった。


「な、なにあれ……」


 ぼんやりと光る青い複雑な模様。

 徐々に強くなる光に、リタとフィルは目を閉じた。


「やった! 成功した!」

「さすがです、博士! さあ、早く対象を探しましょう」


 光の中から声が聞こえ、リタとフィルは目を開ける。

 そこには白衣をまとった男女が立っていた。

 偉そうに腰に手を当てる長身の女性と、いかにも白衣に着られているという小さな少年だ。


 再び青い光は弱まり、地面に描かれた模様だけになる。


 キョロキョロと辺りを見回し、家の扉を叩こうとしている彼らにリタは慌てて駆け寄った。


「あの、うちになにかご用ですか?」

「この家の?」

「ええ、そうですが……」


 “博士”と呼ばれた女性はリタの返事に笑顔を見せ、手を握る。


「突然の訪問を申し訳なく思う。

 私たちは魔族の王に命じられたここに来たんだ」

「魔族?」

「いやあ、五日前からこの辺りに魔力の反応があってだね。

 すぐに来たかったんだけどね、久しぶりに魔法陣を描いたら時間がかかってしまったんだよ……」


 あはは、と苦笑いをした“博士”は頭をかく。


「名を名乗り忘れていたね。

 私はサクだ。で、こっちが助手の……」

「イアンです」


 イアンはフィルの近くをウロウロし、なにやら手に持った四角い箱をいじっている。

 フィルは怯えた顔でリタにぎゅっと抱き着く。


「早速本題に入りたいのだが……」


 そこまで言ったサクのおなかがぐぅと小さく鳴る。


「ここ数日まともにご飯を食べてなくてね、何か食べさせてくれないか」


 はあ、とため息を吐いたリタは家の中に入り、二枚のクッキーを取って戻ってくる。

 怪しい人を家の中に入れるわけにはいかない。けれど、お腹を空かせている彼女をそのままにしておくわけにもいかないと、思ったリタの判断だった。


「それ、わたしのー……」


 リタが持ち出してきたクッキー箱を見て、恨めしそうにサクを見つめるフィル。


 サクは本当におなかが空いていたようで、大きな二枚をすぐに食べきってしまった。


「ごちそうさま! 美味しかったよ」

「ああ、いえ」


 口についたクッキーのかけらをぬぐったサクに、イアンが近づき手にした四角い機械を見せてコソコソと内緒話をする。

 少しの間イアンの話を真剣に聞いていたサクは、コホンと咳払いをしてリタに向き直る。


「さて、本題だ。

 私たち魔族がキャッチした魔力は、彼女から発せられているものだった」


 そう言ってフィルを指さす。

 指されたフィルはビクリと体を跳ねさせ、リタの腕をぎゅっと掴む。


「話を聞かないとなんとも言えないが、彼女は魔族なんじゃないかと思うんだ。

 今イアンが計測した結果によると、強力な魔力の持ち主だよ」


 そこまで静かに聞いていたリタが手をあげて話を止める。


「あの、ちょっと待ってください。

 フィル、魔力なんてあるの?」

「えー、あるよ?」

「魔法使えるの?」

「あったりまえでしょー! でも使うと疲れるからねー、使わないよ」


 フィルはえっへん、と胸を張る。

 リタはただただ驚いた。

 確かに魔族の研究者によって作られた、とは聞いていたが魔力があるなんて知らなかった。使おうとした素振りも見られなかったし……。



「……あ、すみません、お話の続きを」

「うむ。結論から言おう。

 私たちは、彼女のことを調べるために連れて帰りたいんだ。王からそれを命じられてわざわざこうしてやって来たのだからな」

「えっと、フィルを連れて行くってことですか?」

「ああ、そうなるな」


 呆然としているリタをよそ目に、イアンがサクに話しかける。


「博士、魔法陣の準備が整いました」

「そうか、ありがとう。

 じゃあ行こうか」


 そう言ってサクはフィルの手を引く。


「行かないー! やだ、離して、やめて!」

「そうはいかないよ。魔王様から頼まれてるんだ」


 グッと足を踏ん張り抵抗するフィルに、サクは困った顔をする。


「やだ、行かないもん! 離して!」

「博士、無理やりにでも連れて行きましょう。はやく」

「いやー、そうは言ってもなあ……」


 フィルの手を離し、うーん、と腕を組む。

 その隙に、フィルはリタの後ろにピッタリと隠れた。


「ああ、そうだ。

 君も一緒に招待しよう!」


 そう言ってサクはリタの腕を引っ張り、魔法陣の上に連れ込む。

 フィルはリタに引っ付き、同じように魔法陣の中に入った。


「博士、人間を連れて行くんですか?」


 イアンが困った顔をするが、サクは全く気にしていないようだった。


「ああ、大丈夫だろう。それに彼女がいないと連れて帰れそうにないしな。

 さあ、行こうか! きちんと目はつぶれよー」


 サクのその言葉に、リタとフィルはきつく目を閉じる。


「いきますよ!

 さん、にー、いち……」


 イアンの大きなカウントダウンが村に響き、青い光に包まれる。

 魔法陣の上にいた四人は、その一瞬で消えてしまった。


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