はいチーズ!
「ここの角を曲がったらお家だよ!」
そう言ってカティは再び走り出す。
「ママ!」
カティが見えなくなると、大きな声が聞こえた。
リタとフィルが角を曲がると、カティが同じような大きな三角の耳を持った獣人族の女性に抱きしめられている。
どうやらカティのお母さんのようだ。
カティの帰りを家の前で待っていたのだろう、ホッとした顔をしてカティを抱きしめている。
「もう、どこ行ってたの」
「えっとね、リタちゃんとフィルちゃんとねー、」
カティがそこまで言いかけて、母親はようやく近づいてきたリタとフィルに気付いた。
「あの、すみません。カティちゃんが森の方で迷子になっていたので……。
もう少しはやくお連れすればよかったのですが」
カティと出会ってからは二時間程しか経っていないが、もしかしたらもっと前に家を出て森を迷っていたのかもしれない、と思ったリタは深く頭をさげる。
「こちらこそカティがご迷惑をおかけしました。何も言わずに出て行ってしまったもので……」
そう言って立ち上がり、母親も深く頭を下げる。
「ね、ママ! これ! お誕生日プレゼント!」
母親のそばでカティはピョンピョンと跳ねて画用紙を差し出す。
「ここだとご近所に迷惑になるから家に入りましょう。
お二人もどうぞお入りください」
興奮しているカティを制し、家に入るように促す。
私たちはここで、と断ろうとしたリタだったが、フィルはカティと一緒に家に入りかけている。
「では、お邪魔します」
招かれた家の中は、綺麗に整頓されていた。
壁にはカティが描いたと思われるカラフルな絵や、今より小さいカティが写った写真などが貼られている。
カティがとても愛されて育ったのだということがよくわかる。
「お誕生日おめでとう、ママ!」
「ありがとう」
カティはフィルの持っていた花束を受け取り、母親に渡す。
二人ともとても嬉しそうだ。
「あのね、これはフィルちゃんが作ってくれたの!
あとね、そのお花はリタちゃんが手伝ってくれたの!」
カティは自分の頭の上の花かんむりを指さし、フィルとリタの手を引っ張る。
「まあ、よかったね」
「うん!」
えへへ、と笑うカティの頭を撫でる。
「お二人ともありがとう」
「いえ、カティちゃんがお母さんのためにされたことですから」
「ねえママ! みんなでお写真撮って!」
カティの突然の提案に、母親はポンと手を打つ。
「いいわね。カティ、カメラ持ってきてくれる?」
母親の呼びかけにカティどこかへ走り出し、すぐに手にカメラを持って戻ってきた。
「リタちゃん、フィルちゃん、こっち来て!」
カティは手招きをして二人を呼ぶ。展開についていけないリタとフィルの手を、カティが引っ張る。
「じゃあ、みんな笑ってねー
はいチーズ!」
母親の掛け声に、三人は笑顔を作る。
リタとフィルの間にカティ。三人ともすごく楽しそうに笑っている。
満面の笑みの三人の写真は、小さな頃のカティの写真の横に飾られることになった。
フィルを抱き枕に、カティはすやすやと眠る。
こんなに長居するつもりじゃなかったのに、とリタは思った。
泊まっていって!とはしゃいだカティを思い出す。カティの母親も快く夕食や布団を用意してくれた。
リタは、小さなベッドで眠る二人の頭を撫でて布団をかけ直す。
ベッドの横に敷かれた布団に入り、リタも目をつぶった。
「お世話になりました」
軽く頭を下げたリタに、カティはギュッと抱き着く。
「まだ一緒に居たいよぅ……」
昨日初めて会った時と同じように、三角の耳を下げて目を潤ませた。
そんなカティに、リタはしゃがんで目線を合わせる。
「今度はうちにおいで。
あ、でももう森には一人ではいらないでね」
「ほんとに?」
「うん。ね、フィル」
「うん! また遊ぼうねー」
フィルがそう言うと、にじんだ涙をごしごしとこすり笑顔を見せた。
「じゃあね、カティ」
「カティ、また遊ぼうねー」
リタとフィルはカティの頭をポンとたたき、歩き出す。
「リタちゃん! フィルちゃん! またねー!」
カティの大きな声にリタとフィルが振り返ると、カティは頭の上で大きく手を振っていた。
リタとフィルも何度も振り返り、手を振る。
角に差し掛かり、最後にもう一度大きく手を振った。
「さ、帰ろっか」
「うん!」
二人はどちらともなく手を繋ぎ、森に入る。
家に帰ると二日連続の来客があるのだが、リタもフィルもこの時はまだ知らない。




