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それがボクのとりあえずの目標かな



 リタとフィルがしばらく待ったあと、人の減った会場を走るクレアが手を振って向かってきた。飾り付けられている光が反射して、長い金髪がキラキラと光っている。


「お待たせ!」

「サクはー?」

「片付けをしてから打ち上げらしいぞ。ニーナとジャグも参加するってさ」


 ふーん、と興味なさげに頷いたフィルに、クレアは笑う。


「さ、帰るかぁ!」

「帰ろー!」


 フィルは左手をリタに、右手をクレアに差し出した。なんの躊躇もなく自然に手をつないだリタとは反対に、クレアはペチンとフィルの手を叩く。


「なにー」

「もう迷子にならないからいいだろ!」

「迷子にならなくても繋ぐのー」


 ほら!と、リタと繋いだ左手を振るが、クレアは首を横に振って歩き出した。フィルは唇を尖らせて、そのあとを追う。クレアの隣に立って、ポンと頭に手を置いた。


「繋がないぞ?」

「そーじゃなくて、クレアってほんとーにおーさまだったんだねー」

「疑ってたのか?」

「違うけどー」


 そう答えたフィルが考えこむと、クレアはニッと笑う。


「言いたいことはわかるぞ」


 それから、後手を組んで少し空を見上げた。吸い込まれそうなほど真っ暗で、クレアはふっと笑ってそのまま話し始める。


「さっきも言った通りさ、ボクはこっちと向こうの関係をより良くしたいんだ。それがボクのとりあえずの目標かな」


 そう言ったクレアの口調は穏やかで、いつもとは違っていた。この小さな体から発せられていると思えないほどの大きな意思が感じられ、リタとフィルは息を飲んだ。クレアは視線を空に残したままで続ける。


「国民の意思は尊重するし、反対派が多いなら考え直そうと思ってるけどな」


 そう言うと、クレアはいつも通りの笑顔で二人を見た。後で組んでいた手をほどき、うーんと伸ばす。驚いていたフィルはハッとして、声をかけた。


「それって、すっごくおーさまっぽいねー」

「だろう? まあそう上手くいくとは思ってないけどな」


 ははは、と笑うクレアは頭をかく。今まで黙っていたリタは、そのなぜか恥ずかしそうにしているクレアを見て口を開いた。


「そうでしょうか?」

「すぐに上手くいくと思ってるのか?」

「そう苦労はしない気がしますけど……」

「みんながみんな、リタみたいに魔族を恐れないわけじゃないんだ」


 と思う、と自信なさげに小さく続ける。それからため息をつき、自虐的に笑った。


「なにぶん、ボクが会ったことのあるのはリタとニーナ、ジャグだけだからな……」

「わたしはー?」

「君は話がややこしくなるから、ちょっと別枠だ」


 笑ってそう答えたクレアに、フィルはムッと頰を膨らませる。仲間はずれが嫌らしいが、この話の流れでフィルを仲間に入れると確かにややこしくなるだろう。リタは励ますように苦笑いでフィルを見た。リタにもそんな表情をされ、フィルは諦めたように肩を落とす。


「ま、実際、人間たちがボクたちをどう思っているかはわかってないんだ」


 納得して頷いたリタに、クレアは疑問を投げかける。


「というか根本的な話なんだが、力を持たない人間が魔族を追いやったなんて話をどうして信じているんだ?」


 その質問に、リタは固まった。驚いたのではなく、ただ答えを考えているだけなのだが、クレアは慌てて顔の前で手を振る。


「あ、いや、言い方が悪かったな。リタみたいな若い人だけじゃなくて、ニーナやジャグみたいな大人だって信じてるだろう? どうしてなんだ?」

「えっと、老若男女、みんな信じていると思います。理由は……わかりません」

「そうか、そうだよな」

「あ、でも……」


 何かを思いついたようにそう口にして黙ったリタに、クレアは首を傾げた。リタはしばらく考え、黙って歩く。会場から少し離れた三人の歩く道は暗い。だからか、遠くにクレアの城の窓から漏れる光がよく見えた。

 リタは考え、クレアはその言葉の続きを待ち、フィルは眠たげにあくびをする。そんな時間が数分続き、リタが口を開いた。


「普段、生活していて魔族のことを考えることはありません。私だってクレアさんと出会うまでは考えたこともありませんでした」

「でもあの話を知っていたってことは、存在は知っていたんだろう?」


 こくん、と頷いたリタは続ける。


「知っているだけで、どんな存在なのかは全くわかっていなかったです。不思議な力を持った人間がどこかにいる、くらいの認識でした」

「まあ間違っていないだろう」

「私でその程度の認識だったんです。今の小さい子供たちは、知らない可能性もあると思います」


 リタのその言葉に、クレアは目を見開いた。暗い道では、リタにその細かい表情までは見えない。黙ってしまったクレアに、リタはまずいことを言ったかと次の言葉を考える。しかし、クレアが口を開いた。


「そうか、ボクらはほとんどいない存在なんだな」

「あの、いえ、そういうことでは……」


 慌てるリタだったが、クレアはタタタと走り出す。少し走ったところで振り返り、腰に手を当てて右手を空に突き上げた。


「それって好都合じゃないか? なんとも思っていないなら、良いところを見せるだけでいいんだ!」


 なんともポジティブなその言葉に、眠そうだったフィルも目を覚ます。リタとフィルは目を合わせて笑い、クレアの元まで走った。何が起こっているのかわからずに驚いているクレアに抱きつく。


「な、なんだよ!」

「私も頑張りますね!」

「わたしもー!」


 クレアの高さに合わせるために地面に付いた膝が少し痛いが、気にしている場合ではなかった。二人はムギュッとクレアを抱きしめ、頭を撫でる。


「……あ、ありがとな」


 ボソッと、聞こえるか聞こえないかのギリギリの声でそう言ったクレアは、プイッと目をそらす。そんな態度のクレアに二人は満面の笑みを浮かべた。


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