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86話 左遷された戦車兵が転職した物語

珍しく連続で戦車兵が主役だと? ガリ勉の名前が判明!


 1940年7月上旬 エストニア タリン 大日本帝国外交官出張所



 バルト三国の一国である、エストニアの首都タリンに到着した左遷された戦車兵の一行は、早速その足で日本の外交官出張所へと顔を出した。



「狩谷勉軍曹相当官以下四名、命令により出頭しました!」



 どうやらガリ勉の本名は、狩谷勉というみたいである。

 狩谷勉→ 狩勉→ ガリ勉、ということらしい。


 それに加えて、勉強が出来るからガリ勉で、あだ名が定着してしまったのであろう。

 さらに付け加えると、義勇兵としてフィンランドとノルウェーでの戦闘に参加して、戦果を挙げたことを評価されて、ガリ勉は軍曹に昇級していた。


 陸軍を休職中とは一体……

 まあ、建前は必要ということなのであろう。



「ご苦労。軍曹、今までご苦労だったな。もう相当官は外してもよいぞ」



 左遷された戦車兵の一行を出迎えたのは、中肉中背で丸眼鏡をかけた四十前半と思われる、大佐の階級章を付けた駐在武官であった。

 そして、四十前半で大佐というのは、バリバリの超エリートでもあった。


 左遷された戦車兵の一行から見れば、大佐とは雲の上の存在の階級で、将軍様の一歩手前の階級が大佐なのである。

 そのエリート大佐に対して、ガリ勉は訝しげに訊ねた。



「と、申されますと?」


「うむ、現時刻をもって貴様らの籍は、帝国陸軍に復帰となる」


「所属はどうなるのでありますか?」



 ガリ勉軍曹以外の左遷された連中から、おおー!っと歓声が上がった。

 なんだかんだと言って、北欧旅行を楽しんでいたように見えた連中ではあったが、やはり自身の宙ぶらりんの立場に思う所があったのだろう。


 もっぱら、元車長が原因ではあるのだが。



「ワシの配下として、スウェーデン駐在武官補佐官見習いになる」


「エストニアなのにスウェーデンで、ありますか?」



 エストニアなのにスウェーデンの駐在武官補佐官見習いという、まるで取って付けたような肩書きである。

 ガリ勉軍曹が疑問に思うのも無理はない。



「ワシが在スウェーデンの駐在武官なのだよ。エストニアに来たのは、バルト三国での観戦武官としてだな」


「で、ありましたか」



 そう、史実と違いバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアの三ヶ国は揃って、ソビエト連邦の実質的な最後通牒を拒否したのである。

 この出来事には、冬戦争におけるフィンランドの善戦と、ドイツと英仏連合国の休戦が関係していた。


 もっとも昨年の秋以降、バルト三国には各国に揃って、二万人から三万人程度のソビエト赤軍が駐留しているのだが。

 さらに言えば、バルト三国の国境沿いには、40万もの大兵力が侵攻の準備をしていたのである。


 この事態に対して、ドイツとの戦争を終わらせたイギリスは、静観の構えをみせることはなかった。

 そう、イギリスは伝統的にドイツよりも、ロシアの方が嫌いなのである。


 まあ、本音では一番嫌いなのは、フランスだったりもするらしいのだが、些細なことであろう。

 時と場合によって英国紳士は嫌なヤツとでも、ニッコリと笑顔で握手することもできるらしい。


 英国紳士とは大人はらぐろなのだから。


 そうでなければ、まだ軍隊の海外投射能力が脆弱な時代に、わざわざクリミアなどという遠隔地まで軍を派遣して、ロシアと戦争など馬鹿げた行為などはしない。

 末期とはいえ日本はまだ江戸時代というのに、イギリス軍はクリミアまで遠征しているのだ。さらに極東でも少数ながら、ロイヤルネイビーがロシア相手に暴れていたのだから、もう呆れるほかはない。


 さらに付け加えると、ロシアは共産主義者の国、ソビエト連邦に成り変わってしまったのだから、なおさらイギリスのロシア嫌いが激しくなってしまったのだ。

 民主主義、資本主義と社会主義、共産主義は相容れないのであるからして、当然の帰結であった。


 そして、ドイツとの戦争が終わったからには、次は本命のロシアだとばかりに、ロイヤルネイビーがバルト海へと進入した。

 無論、バルト三国の併合を目論む、ソビエト連邦を牽制するためである。


 恫喝? 砲艦外交? それがどうした? 文句があるなら掛かってこい!

 これが、ロイヤルネイビーの本質である。


 ドイツはというと、イギリスとの戦争が終わった以上、ロイヤルネイビーがドイツの裏庭であるバルト海に入るのを、渋々ながらも黙認するほかなかったのである。


 もっとも、どうせならロイヤルネイビーとバルチック艦隊、その両方ともに潰し合って痛手を被ってくれれば、ドイツとしては万々歳とかの下心があったりもするのであったが。

 まったくもって、他人の不幸は蜜の味というヤツである。



 そして、バルト海に入ったロイヤルネイビーの陣容はというと、空母がアーク・ロイヤルとフューリアスの二隻。そして戦艦がロドネー、バーラム、ヴァリアントの三隻。

 白眉、ロイヤルネイビーが世界に誇る巡洋戦艦フッドの姿もあった。当然ながらそれに加えて、多数の巡洋艦と駆逐艦も随伴していた。


 ちなみに、空母グローリアスはドイツとの停戦間際に史実通り、ノルウェー沖でシャルンホルストによって撃沈され、同じく空母のカレイジャスも昨年9月の開戦早々に、Uボートによって沈められている。


 今回、バルト海で運用する部隊に所属する多数の艦艇は、ジブラルタルを拠点とするH部隊からの転用であった。

 ドイツとの戦争が終わり、そして何故かイタリアも大人しくしているので、大西洋と地中海への睨みを利かす必要性が低下したことによる、副産物とも言えるだろう。


 しかし、この艦隊の陣容はまさしく、ロイヤルネイビーの本気であった。

 もしかしたら、ドイツ相手の戦争では不完全燃焼だったのが、艦隊の編成に影響しているのかも知れない。


 イタリアが大人しくしているのは、桜子さんが暗躍した影響なのだが、それはイタリアの統領以外には、桜子さんも含めて誰も知らないことであった。

 ドゥーチェは一体どうしてしまったん?



 また、ドイツとの戦争では、さしたる活躍もできなかったフランス海軍も、戦艦ダンケルクを旗艦とした艦隊が、少規模ながらも参加していた。

 ドイツに敗戦したフランスであったが、陸軍と違って海軍の軍備に関して艦艇の没収や制限を受けなかったのが、この時はフランス海軍に幸いした。


 そして、ドイツに負けた借りはロシアで返すとばかりに、半ば八つ当たり気味にバルト海へとやってきた、フランス海軍であった。

 ソ連のバルチック艦隊からしてみれば、まったくもっていい迷惑である。



 こうして、桜子さんの自覚した冬戦争に介入したような暗躍と、パリでのええかっこしいの無自覚な行動によって、歴史の歯車は確実に狂っていくのであった。


 人の営みと共に、連綿と受け継がれてきた人類の歴史という叙事詩は、まだまだ人の生き血を啜り足りないみたいであった。

 どうやら叙事詩の作者いわく、記述するのに必要なインクにする血が全然足らないらしい。



桜子ちゃんはお昼寝中みたいです。

杉原さんじゃなくて小野寺さんみたいな人が出てきちゃいましたw


おかしい、どうやら作風が変わってしまったみたいだ… おかしい…

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― 新着の感想 ―
フランスは伝統的に遠交近攻策としてドイツを牽制するためにロシアとは仲が良く、ソ連ともそれなりに友好な関係だったと思うので少し違和感が、、、 まぁドイツに負けて政権変わってるので、外交方針も変わってると…
ガリ勉じゃねーか笑
[一言] なんかソ連海軍が可哀想に見えてきた笑
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