84話 桜子さんと左遷された元戦車兵
ついに左遷された戦車兵と桜子ちゃんとの邂逅が!
普段おちゃらけている戦車兵も立派な軍人でしたw
時は少しだけ巻き戻る。
1940年6月下旬 イギリス ロンドン
「藤宮様、こちらの方達は──」
桜子です。ボソボソと耳元で夏子さんから、お言葉を掛ける相手の素性のレクチャーを受けているところです。
もっとも、私が言葉を掛ける相手が日本人だからなのか、夏子さんの態度も幾分なりとも横柄というのか、横着にはなっているのですが。
この時代、皇族から言葉を掛けてもらうという行為は、非常に名誉なこととされているのです。
それこそ故郷にでも帰れば、「オラ、藤宮様に声を掛けて頂いたべ!」
これだけで一躍、村中から羨望と嫉妬の眼差しを受けてしまうぐらいには、皇族から言葉を掛けてもらうというのは、名誉なことなんですよね。
まあ、自分には手の届かないはずである、国民的アイドルから声を掛けてもらったのと、似たようなモノなんだろうなぁ。
皇族って半分、日本国民のアイドルみたいなモノだしね。
そんなことをつらつらと考えてたら、夏子さんからのレクチャーが終わっていました。
ちなみに思考を分割して、ちゃんとレクチャーも聞いてましたよ?
「へー、あなたたちは義勇兵として、フィンランドとノルウェーで戦っていたのですか?」
「はっ! 祖国、大日本帝国とフィンランド、ノルウェーとの友好を築く一助になればとの思いで、自発的に義勇兵として戦闘に参加した次第であります!」
私の問いに答えてくれたのは、坊主頭でないこと以外、眼光の鋭さとかを見る限りにおいて、何処からどう見てもバリバリの帝国軍人さんです。
絶対に戦場で敵を何人も殺している職業軍人の眼ですよ、この鋭い眼は。
おそらくは、叩き上げの下士官なのでしょうね。
そう、士官では出せないような、死線を搔い潜った雰囲気を醸し出しているのですよ。
「自発的に参加したのですか?」
「はっ、自発的に、であります」
でも、本当は上官の命令だったんだよね?
私は知っているんだから。ええ、私も一枚嚙んでいましたので。
「そうですか、そういうことにしておきましょう。建前って大事ですもんね」
「ご理解の程を賜り、ありがたく思います」
それにしても、フィンランドでの冬戦争に日本人義勇兵が参加していたのは、私も裏でコソコソと手を回してたりしたので知っていましたけど、ノルウェーでドイツとの戦闘にも参加してたとは。
冬戦争が終わってから一月程度でウェーザー演習、ドイツのノルウェー侵攻作戦が発動したから、ついでとばかりノルウェー戦線に放り込まれたのかな?
この軍人さんたちが、戦技と戦訓を実地で収集する教導団みたいな精鋭なのか、使い捨てで陸軍から左遷されたはみ出し者なのか、微妙に判断に迷いますね。
「戦ってみた所見所感は、いかがでしたか?」
「露助いや、失礼しました。ソビエト赤軍は練度に難があったかと思いますが、
火力と戦車の装甲には見るべきモノがあります」
いまソビエト連邦のことを、ポロっと露助って言いましたね。
やっぱり、イワンとか露助って露骨な蔑称で呼んでいるんだ。
まあ、ソ連は陸軍の仮想敵国だし、こればっかりは仕方がないのかもね。
「そうですか。しかし、練度は時が経てば改善されます」
「藤宮様が仰るとおりでございます」
そう、血を代償にして経験を積み、軍隊の練度というのは改善されていくモノなのだから。
新兵が経験を積んで技量普通の一般兵になり、一般兵が経験を積んで生き残ってベテランの熟練兵に成長するのだ。
その事実に、史実でのソ連軍はバグラチオン作戦を成功させて、ナチスドイツを打倒できたのだから。
もっとも、血を流し過ぎてしまえば、経験を積む前にベテラン兵が払底してしまうから、補充される兵が新兵ばかりになってしまい、逆に練度が下がってしまうのだけどね。
アメリカ軍も第一次世界大戦、第二次世界大戦ともに、戦場に現れた当初は練度の低い弱兵と馬鹿にされていたけど、最終的な勝者はアメリカ軍だったんだよね。
まあ、アメリカ軍の場合は物量チートで、個人の兵隊一人一人が弱いという弱点を補えた面も、多分にあったとは思うけれども。
「その練度が改善されたソビエト赤軍に、大火力と装甲の分厚い戦車が合わさればどうなります?」
「そ、それは、かなり手強い敵になりそうですね……」
私の質問の答えを想像したら嫌な予感がしたのか、下士官らしき青年の喉がゴクリと鳴ったような気がした。
関東軍の精鋭が南方戦線とかに引っこ抜かれて、満州の守りが予備師団程度のお寒い状態で、かつ敗戦間際のドサクサだったとはいえ、史実の日本軍は満州をソ連軍に蹂躙されているのだ。
そう、ナチスドイツとの戦争を生き残った古強者の軍隊に。
「ノルウェーでの戦闘はどうでしたか?」
「はっ、山岳での戦闘は歩兵が中心の戦闘になりやすく、兵一人一人の技量に戦闘の結果が左右されやすいかと思われます」
「つまり、山岳での戦闘訓練を積んだ、特殊部隊が必要ということですね」
「ご慧眼の至りにございます」
でも、特殊部隊を一人前に育てるには、時間とお金が一般兵の倍は掛かるんだよなぁ。
もしかしたら、それ以上に掛かって倍では効かないのかも知れない。
hoiでも山岳兵は訓練期間が長めに設定されていたもんね。
ゲーム脳? それがどうした?
戦略シミュレーションやリアルタイムストラテジーは頭の体操に良いんだぞ!
「この後は、日本に帰国されるのですか?」
「いえ、エストニアという国を御存知でしょうか?」
「ええ、バルト三国の一つで海を挟んで、フィンランドと接している小国でしたね」
「さすがは藤宮様であります、博識でいらっしゃる」
まあ、フィンランドを含めて、北から順番にフェラで覚えたからね。
ちなみに、北欧四ヶ国の覚え方は、
ノル上、下スウェー(デン)して、玉がフィンフィンしたら、ドピュッと出んマーク。
とか覚えるらしいですよ?
まったくヒドい覚え方もあったモノだよ……
誰だ? こんなアホな覚え歌を考えたパープリンは?
全部、スカンジナビアの地図の形が悪いんですかそうですか。
「そのエストニアに行かれるのですね?」
「はっ、首都タリンにある外交官出張所に出頭せよとの命令を受領しましたので」
ふーん、エストニアにある我が国の外交官出張所は、まだ閉鎖されてなかったのね。
というか、出張所って領事館の下だよね? 参事官か下手すれば、書記官しかいなさそうな場所だな。
「ソ連の動きが怪しいので気を付けてくださいね」
「はっ、バルト三国情勢は風雲急を告げてますので、いつまで現地で活動できるのか不透明ではありますが」
リトアニアの日本領事館では今頃、ユダヤ人へのビザを発給するのに忙しくて、ぺったんぺったんと判子を押したりしているのかな?
サインのし過ぎで、腱鞘炎にならないのか少し心配になりますね。
もっとも、ドイツも現時点で一応戦争も終わっているのだから、史実に比べたらユダヤ人への対応も、幾分マシになってはいるみたいなのですよ。
でも、ドイツ支配下にいるユダヤ人の脱出は止まらないみたいだけどね。
ユダヤ人のドイツ国外への追放はナチスの国策だから、ヒトラーも去る者は追わずで放置しているみたいだし。
でもヒトラーは、さっさと引退して画家に専念すれば、まだギリギリ汚点程度で済むはずなのになぁ。
はてさて、これからどうなることやら。
「藤宮様、そろそろお時間です」
「もうこんな時間でしたか。それでは、貴官達のご武運をお祈り申し上げます」
「はっ、ありがとうございます。藤宮様に対して敬礼!」
「軍服を着用してない時に敬礼はちょっと」
恥ずかしいから、ご遠慮くださいと言いたいですね。
まあ、敬礼をされるのは虚栄心が満たされるから、嬉しくもあるんだけどさ。
「いえ、藤宮様は陸軍の名誉連隊長であられますので」
「そうでしたね」
4年前に起こった2.27事件の鎮圧に出陣したら、その後に名誉連隊長の肩書きを貰っちゃったんだよね。
ちなみに階級は、名誉大佐であります。
連隊を指揮するのは、大佐以上の階級が相当するから、私の階級も名誉大佐ということなんですよね。
まあ、兵に命令する権限なんてないんだけどさ。
でも、あの当時の事件をふと思い返してみると、あの時の私ってば、かなり無茶で無謀なことをしたよなぁ。
そう、恥ずかしさのあまりベッドの中でアウアウしながら、ゴロゴロと転がって身悶える自信があるよ。
そして、私は若干おざなりに答礼をしておいた。
ほら、上官が答礼する時って結構適当にしているイメージがあるでしょ?
けして、名誉連隊長と呼ばれたのが恥ずかしかったとかではないんだからね!
おかしい、桜子ちゃんが漢字で喋ってしまっただと? おかしい……
まあ、過去にもちゃんと喋っていた時もあったはずだから無問題ということでw
ちなみに史実よりもソ連の動きが少しだけ遅れてます。




