77話 ハリファックス×イーデン
台本形式です。
1940年6月18日 イギリス ロンドン
「戦争で殺し合うよりも、オリンピックで競い合いましょう。か……」
「まったくもって正論ですな」
「仮にドイツと休戦した場合、我が国への影響は?」
「いずれドイツとの戦争を再開するにせよしないにせよ、時間は稼げます」
「海外派遣軍が実質的に無力化されてしまったのは痛手であったなぁ」
「言い方は悪いですけど、人的資源の損失だけでも抑えられたのは僥倖でした」
「人的資源、人的資源か…… 人を数字で見るようになってしまうとは、戦争とは業が深い」
「人がいなければ、戦争に勝つことは出来ませんよ」
「それもそうであったな。イーデン君、パリに飛んでくれるかね?」
「それが私の仕事ですから喜んで。しかし、落としどころはどうされますか?」
「フランスは敗北したが、我が大英帝国がドイツに敗北したわけではないのだから、ある程度は強気に出ても構わんだろう」
「では、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、デンマーク、ノルウェーは、戦前の国境線を回復ですね」
「ロンドンに亡命している王室と前政府の復帰も必要だよ」
「フランスは最低でも、アルザス・ロレーヌをドイツに割譲する必要があるでしょうね」
「先の欧州大戦までは、ドイツの領土だったのだからそうなるのであろうな」
「そういえば、ベルギーにも旧ドイツ領が猫の額ほどありましたね」
「その部分もドイツにくれてやれ」
「ポーランドやチェコはどうなさいます?」
「ポーランドの再独立をヒトラーが認めると思うかね?」
「思いませんな……」
「どうせドイツとソ連は、そのうち仲違いするに違いない」
「イデオロギー的には相容れない間柄ですので、恐らくはそうなるのでしょうね」
「ドイツは共産主義の防波堤としては必要だよ」
「もしかしたら、ドイツとソ連の緩衝地帯として、そのうちポーランドを復活させる可能性もあるかも知れません」
「うーん…… 強欲なドイツとソ連がか?」
「直接的に領土を接するよりは、ワンクッションおくほうが摩擦は起こりにくいでしょう」
「しかし、一度は戦火を交えなければ、その発想は出てこないであろう」
「彼等は学習能力が低いみたいですからね」
「大陸の連中は戦争が好きなんだろうよ」
「連中が戦争をしているのを横目に、優雅にアフタヌーンティーでも飲めれば良かったのですが」
「まったくだ。しかし、我が国は大陸に近すぎる」
「大陸に干渉しなければ、イニシアチブを握れませんので仕方ありません」
「ブリテン島をグリーンランド辺りに引っ越しさせたい気分にさせられるよ」
「グリーンランドでは寒すぎて、少人数しか生きていけませんよ」
「現実ではなくて、気分の問題だよ」
「では、現実を直視しまして、まとめとしては、ベネルクスと北欧諸国の原状回復と、戦争当事国同士、無賠償、無補償でよろしいでしょうか?」
「うむ、その線で進めてくれたまえ」
「それと、アフリカの旧ドイツ植民地の返還も議題に上がってくると思いますけど、それについては如何なさいましょう?」
「我が国は負けてないのだから、それは無理な注文だな」
「ドイツが確実にごねますよ?」
「ごねるようなら、フランス領になっているカメルーン辺りをくれてやればいい」
「まあ、フランスは敗北したのだから、植民地の一つや二つぐらいは手放してもらうのも良いでしょうね」
「そういうことだ。いけ好かないカエル食いどもときたら、口は達者だが戦争では全く役に立たん!」
「役に立たないだけではなくて、足を引っ張られましたよ」
「フランスと組んだのは失敗だったのかもな……」
「先の欧州大戦以降も、惰性で組んだままでしたからね」
「それに比べて、東洋の友人は少数ながらもドイツ相手に空で奮戦している」
「タイプ98は優秀な戦闘機のようですね」
「性能的には、スピットファイアと同程度らしいのだが、航続距離が圧倒的に長いのがメリットだそうだ」
「なるほど、足が短ければ滞空時間も短くなるということでしたか」
「空軍はタイプ98のライセンス生産をしろとせっついてきたよ」
「我が国が日本からライセンス生産をするとは、時代も変わりましたな」
「レーダーの基本部分の理論も日本人が発明したものだよ」
「日本は確実に我が国の陣営に繋ぎ止めておかなければいけませんね」
「そうだな。それと、イタリアも最低でも中立のままでいてもらわないと困るよ」
「ムッソリーニがプリンセス藤宮を招待したのも、ドイツとの距離を置くためだったのでしょう」
「イタリアもしたたかになったものだ」
「昨日、二人が出した声明では、ムッソリーニは飾りで、プリンセス藤宮の独り舞台でしたがね」
「プリンセス藤宮か…… いまでは彼女が世界のキーマンの一人だよ。たった10歳の少女の発言に世界が振り回されるのだから、世の中は面白い」
「今回の件など、逃げ出してきたフランスの陸軍次官が唖然としていましたよ」
「ああ、あのいけ好かない顔をしたノッポか」
「逃げ出した彼と入れ替わりにパリに来るなど、見事なタイミングとしか言いようがありません」
「まあ、彼女の後ろに振付師はいるのであろうがね」
「10歳の少女が一人では脚本は書けませんからな」
「うむ、今回の件もムッソリーニが彼女をレモンのように使ったというのが正解なのだろう」
「この後、プリンセス藤宮も、パリから我が国に来るとのことです」
「王室外交ということになるのか? しかし、彼女は子供だぞ? こっちは誰を出すのだ?」
「しかし、我が国も彼女の発言で何度か助けられていますので、無碍な扱いはできません」
「なるほど、彼女が我が国に好意的なので助かっているのは事実なのだから、丁重に扱わねばならんか」
「それは十分に心得ております」
「頼んだよ」
ドイツやアメリカ、ソ連の反応まで書けなかったよ…




