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72話 左遷された戦車兵がまた左遷された物語

山なし谷なし


 1940年5月下旬 ノルウェー ナルヴィク近郊



「フィンランドの次はノルウェーに飛ばされるとはね……」


「なんだか傭兵をやっている気分にさせられるよ」


「実質的には傭兵みたいなものだしな」


「傭兵稼業はつらいよ」


「露助の次はドイツ軍と戦うことになるとは、まさか思いもしなかったよ」


「露助との戦争が終わったから、日本に帰れると思っていたんだけどなぁ」


「なんで僕たちはノルウェーに居るのでしょうかね?」


「軍か三菱がノルウェーに九五式軽戦車を売ったからだろ?」


「しかも乗員付きでな」


「まあ、指導教官は必要ですよ」


「フィンランドだけでは全ての九五式を買い取れないのだから、ノルウェーからの申し出は渡りに船だったんでしょうね」


「まさか、ノルウェーに戦車が一両もないとは思わなかったよ」


「今まで周囲に敵性国家がいなかったから、防備に手を抜いていたんだろ?」


「スウェーデンやデンマークは同胞みたいなものらしいですしね」


「フィンランドは赤い熊との最前線でピリピリしているというのに……」


「フィンランドはノルウェーとスウェーデンに文句を言ってもいいと思う」


「露助との戦争でも、大した援助も寄越さなかったみたいですしね」


「お義理程度にちょろちょろぱっぱでお茶を濁したからな」


「アカの圧力に屈したんだろうなぁ」


「フィンランドが負けたら、その次は自分達がアカの標的にされるとか理解してなかったのですかね?」


「平和ボケしているんだろ」


「平和ボケで隣国に見捨てられるフィンランドが不憫だ」


「国家に真の友人はいないとか偉い人が言ってたぞ」


「汝の隣人を愛せよとかも言ってますよ」


「隣国を援助する国は滅びるとも言ってるぞ」


「おまえらって、見かけによらず博識だったんだな」


「見かけによらずは余計です」


「元車長もこれぐらい知っておかないと、再度の出世は望めませんよ」


「もう出世は望めないと思うぞ」


「俺たちって完全に元車長の独断専行の巻き添えだよなぁ」


「お偉いさんは独断専行して出世しているのに、俺たちは北欧に左遷だなんて納得がいかない」


「でも、石原閣下も予備役に回されるとかいう噂もあったよ」


「営門中将ってヤツか?」


「それでも羨ましい」


「雲の上の存在だから、どうもピンとこないや」


「というか、俺らって日本に戻っても居場所ってあるのか?」


「さぁ? 今は一応、陸軍は休職中で日芬友好協会に出向中という扱いみたいですけど」


「現在は日諾友好協会に出向中ってことになっているんじゃね?」


「フィンランドで露助相手に生き残ってしまったから、今度はノルウェーに行ってドイツ軍相手に死んで来いとかってヤツなのかもな」


「生きて日本の土を踏めるのか怪しいもんだな」


「全部、元車長が悪い!」


「俺のせいかよ?」


「自覚なかったんですか?」


「そういえば、ダイナマイトを発明した人ってノルウェー人じゃなかったっけ?」


「ノーベル賞のノーベルさんか? ノルウェー人なのかスウェーデン人なのかどっちかだったな」


「ボフォース社の各種火砲は優秀だよね」


「北欧って技術力高いはずのに、戦車が日本製とか笑えない冗談だよ」


「まあ、白人国家とはいっても、ノルウェーは人口も少ない小国だからな」


「そう考えると、我が帝国って結構凄いんですね」


「腐っても列強の末席には座っているからな」


「技術の大部分は欧米から輸入した模倣だけどな」


「資源の大部分も輸入ですよ」


「まあ、露助の重戦車には歯が立たなかったけど、九五式は対歩兵戦闘ではそこそこ優秀だからな」


「設計思想からして、最初から対戦車戦闘はあまり考慮してませんからね」


「弱い者イジメは戦争では王道だしな」


「圧倒的強者に正面から立ち向かうのは、愚か者のすることだからなぁ」


「機関銃に銃剣突撃をかました旅順の英霊が泣いてるな……」


「あの時は、あれしか方法がなかったんだろ?」


「どうだったんだろうな? もう少しやりようがあったような気もするがな」


「しかし、これからの時代は戦車対戦車の時代だぞ」


「露助の重戦車は硬そうでしたもんね」


「空からの攻撃には無力だったけどな」


「航空機対戦車が一番被害が少なく済みそうですね」


「俺たち戦車兵の価値が下がるようなこと言うなよ」


「12.7ミリや20ミリを四挺以上積んだ、対空戦車が必要になってきますね」


「300キロ400キロの速度で飛んでる航空機には、そうそう当たるもんでもなかろう」


「弾幕を張って敵機の狙いを外させるだけでも、儲けものと思わなければやってられませんよ」


「ところで、ノルウェー政府はちゃんと機能しているのか?」


「王室と政府は、北部のトロムソだかトロムセーだかトロムスだかって場所に避難しているみたいですよ」


「トロンハイムよりも南は完全にドイツ軍に占領されちゃいましたもんね」


「ここよりも北って、ほとんど北極じゃん」


「ここナルヴィクも北極圏ですけどね」


「トロムなんとかって紛らわしいな」


「呼び方が色々とあるみたいですけど、全部同じ場所ですよ」






「一大事です!」


「俺も軍から大事にしてもらいたいよ」


「その性格を直さなければ、いつまでたっても使い走りのままですよ」


「イギリス軍の将校の話ですと、ノルウェーからの撤退命令が出たとか言ってました!」


「はぁ!? ドイツ軍は、ヤツらの降伏はもう間近なんだぞ?」


「ようやくドイツ軍を追い詰めることができたのに……」


「ナルヴィクを英仏連合軍が保持しているのに撤退とはおかしな命令だな」


「フランス方面の戦況が想像以上に悪いんだろうな」


「フランスの尻に火が付いたということか」


「ノルウェーも中部まではドイツに占領されてしまっているから、北部のナルヴィクだけ保持していてもあまり戦況には寄与しないということなんだろう」


「戦略的に意味がなくなった戦場ということか」


「ナルヴィクを保持し続けるのは、戦略的に意味はあると思うんだけどなぁ」


「スウェーデンの鉄鉱石の積出港だもんな」


「まあ、それを考えるのはお偉いさんの仕事だ」


「違いない」


「しかし、撤退とは言っても、俺たちの場合はドコに撤退すればいいんだ?」


「さぁ? スウェーデンかフィンランドか、はたまたイギリス軍と一緒にブリテン島か?」


「ドイツ軍に降伏できないのだから、その三つの選択肢の中の一つにはなるな」


「僕たちはノルウェー軍じゃないから、ドイツ軍に降伏したとしても殺されかねませんよ」


「ナルヴィク近郊に居るドイツ軍だけでも排除してから撤退したほうがいいんじゃねーの?」


「ここからスウェーデン国境まで30km弱しかありませんから、スウェーデンに逃げ込むのが一番の気がしますね」


「でも、どっちかというとスウェーデンはドイツ寄りの中立だぞ?」


「それは地政学的に仕方ありませんよ」


「スウェーデンで拘束されないかな?」


「拘束されたとしても、スウェーデンで犯罪を犯したわけでもないのだから直ぐに解放されるのでは?」


「ノルウェー南部にいた航空隊はブリテン島に避難したとか聞きましたので、ウチらもブリテン島で受け入れてくれるのでは?」


「イギリス軍の将校に相談してみるか」


「ああ、それが良さそうだな」



オチなし…

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