71話 桜子ですけど、お手紙書きました。
わたしでもがんばれば、ほんのすこしはちてきなぶんしょうをかくことができるんだぞ!
1940年5月17日 東京 秩父宮邸
【オランダ降伏! ウィルヘルミナ女王はイギリスに亡命!】
やっぱり、オランダは持ちませんでしたか……
まあ、軍隊の規模がオランダとドイツでは違いすぎますので、オランダの降伏は仕方ないのですがね。
hoiだったら、要塞を築いて引き籠っていれば、ドイツに勝てないまでも負けない戦はできるのですけど、現実では無理ということです。
私も数年前にオランダを訪問した時に、ウィルヘルミナ女王に挨拶だけはしていますし、知らない人でもありませんので、「元気を出してください! 日本はオランダの味方です!」とか電報を打って慰めてあげましょう。
あと、自筆の手紙に、日本から醤油や日本の特産品なども送りましょう。
人が困っている時に助けられると、好感度がアップしやすいですしね!
東インドとの貿易のレートも多少は良くなってくれることを期待しましょう。
ゲスな桜子ちゃんの発動です。
国家に真の友人はいないとか言いますけど、友人でいられるならそれに越したことはありませんし、わざわざ自分から敵を作ることもありませんよね?
インドネシアの独立? 知らんがな。
現地住民の自助努力でお願いします。
また、そうではなくては、真の独立とは言えないと思いますよ?
民族の独立とは、誰かから与えられるモノではなくて、自らの力で勝ち取るべきモノだと思いますので。
つまり、インドネシアが独立したければ、宗主国であるオランダと血みどろの独立戦争を戦って、それに勝利して独立を勝ち取ってくださいませ。
武器ならば、正規の値段であれば融通しますので、オランダ人の目を盗んで資源と交換しても構いませんけれども。
ええ、あくまでも市場原理に則った商売であれば、いつでも受け付けておりますので。
しかし、インドネシアという全体での独立というのは、ちょっと無理がある気がしますね。
インドネシアというのは、オランダが植民地支配している東インド地域全体を指す名称であって、その地域には多数の民族が混在しているのですよね?
インドネシア全体での独立だと、オランダ人の代わりにジャワ人が取って代わっただけとか、そんな風になっちゃいませんかね?
史実の未来においてもアチェやセレベス島などでは、民族問題や宗教問題で対立が続いていますもんね。
分割して統治せよじゃなくて、分割して独立せよ!
本来であれば、分割しての独立が問題が少なくて済みそうなんだけどなぁ。
まあ、この問題は日本がしゃしゃり出る問題でもありませんので、放置ということで。
そういえば、ルクセンブルクの話題がどこにもありませんね?
ルクセンブルクはドイツ軍に数時間で降伏してしまったのでしょうし、内陸の小さな国だから日本人の記者も在住してなかったと思いますので、記事にならなかったのかな?
あと、オランダ、ベルギー、フランスで戦闘が続いているのも大きかったのかも知れませんね。
しかし、オランダが降伏したことによって、オランダ領の東インドが多少きな臭くなりそうな気はしますね。
それはそうと、女王陛下にお手紙を書きましょうかね。
なんて書けばいいのかな? 無難にお上品に書いておけば、当たり障りはないのかな?
『This is my first time to write a letter for you. I am Sakurako Fujinomiya,……
初めてお手紙を書かせていただきます。日本の秩父宮雍仁親王の娘である藤宮桜子でございます。
三年前に女王陛下にお会いした麗しのオランダが、ドイツの軍靴に踏みにじられていると聞き及び、いてもたってもいられずにこうして筆を執ったしだいであります。
ちょび髭伍長が率いるドイツの行為は、世界の平和を脅かす蛮行だと思います。
今回、貴国が被った災厄は、筆舌に尽くし難い出来事で同情の念を禁じ得ません。
また、ドイツ空軍によるロッテルダムへの無差別爆撃に対して、ひどく憤りを覚えます。
亡くなった無辜の一般市民の冥福を心よりお祈り申し上げます。
ナチスドイツの蛮行に心を痛めていた、正義感に溢れる我が国出身の義勇航空兵が、ドイツのロッテルダム爆撃の被害を幾分か防げたのだけが、せめてもの慰めでありましょう。
しかし、このドイツの蛮行も長くは続かないはずであります。古来から悪が長く蔓延ったことがないのが、その証拠でしょう。
最終的にはイギリス側の連合国の勝利は、揺るがないものと確信しているしだいであります。
早ければ二~三年、遅くとも五~六年でオランダ本国に戻れると思いますので、それまでの辛抱です。
耐えがたきを耐え、忍び難きを忍べば、その先には明るい未来がきっと待ち受けていることでしょう。
早く平和な未来がくることを願って、筆を擱くことといたします。
追伸
東インドのことは、貴国の窮状に付け込んで日本が悪戯にちょっかいを掛けるような真似は致しませんので、ご安心ください。
追々伸
女王陛下の手慰みに、ヒトラー受けスターリン攻めの男色本などをお書きになったら、無聊を託つこともなく、またストレスの発散によろしいかと存じ上げます。
あなかしこ。
藤宮桜子内親王』
……桜子さんは知らない。
この桜子さんがオランダ女王に宛てた手紙が、女王陛下が本当に801本を書く切っ掛けになろうとは、当時の桜子さんには知るすべもなかったのであった。
女王陛下が書いたやおい小説は、ドイツ占領下のオランダでも秘かに国民に愛読され、ヒトラーを小馬鹿にした風刺で大いにドイツに対しての留飲を下げる一助になったのである。
後年、オランダに帰国したウィルヘルミナ女王陛下を、オランダ国民は畏敬の念と尊敬の眼差しで出迎えたのだった。
群衆の一人が「女王陛下の薄い本のおかげで耐え忍ぶことができました!」そう明るい笑顔で言い放ったあとに、「女王陛下万歳! オランダ万歳!」群衆の大歓声が響き渡った。
後年の桜子さんはインタビューで、こう述べている。
「オランダがBL本の発祥の地になるとは思いもしなかったよ……」
オランダ女王へのお手紙は、ひらがなにすれば良かったかな? でも絶対に読み難いw
絶対防衛黙示録~和蘭ハ道路ニ非ズ~ でググると幸せになれる…かも?




