61話 陸軍航空技術研究所々長ですが、少女の絵を検分しています
もういっちょ書けたぞー!
みてみんのパスワード忘れてて焦った…
1940年1月 東京 秩父宮邸
「フフフンフンフン♪」
「藤宮様、ご機嫌ですね」
「まあねー」
「今度は何を描いておられるのですか?」
「じゃじゃーん!」
桜子ちゃん特製、自動空戦フラップであります!
これを、知久平さんや軍の航空関係のお偉いさんに渡せば、対空戦闘で自機の高度が下がるのを最小限に抑えてくれますし、敵機に対して有利な位置を確保できますので、自機の生存性も高まるというものです。
「自動空戦フラップですか?」
「そうだよ! この自動空戦フラップを使えば、熟練のパイロットじゃなくても熟練者並みに戦闘機の操縦ができるようになるんだよ!」
「それが可能ならば、素晴らしいですね」
「そうでしょ! そうでしょ!」
「でも、一つだけよろしいでしょうか?」
「んー、なにかな?」
「前にも申し上げましたけど、そろそろ藤宮様も、クレヨンは卒業された方がよろしいのでは?」
「……」
「クレヨンは小学校低学年までだと思いますよ? 春には藤宮様も十歳におなりになるのですよ? 色鉛筆を用意しておきますので、今度からはそれをお使いください」
「……」
クレヨンじゃないと、絵が下手くそなのがばれるじゃないですかー!
東京 立川 陸軍航空技術研究所
「ふーむ、自動空戦フラップ、か……」
「なんですか、この子供の書いた落書きみたいのは?」
「事実、子供の描いた絵なんだよ」
「そうでしたか。しかし、自動空戦フラップですか? 子供の落書きにしては随分と技術的ではありますね」
「貴官もそう思うか?」
「はい。しかし…… いや、まてよ!?」
「ん? どうかしたのか?」
「所長! コレはもしかしたら、とんでもないアイデアかも知れません!」
「これは、そんなにも凄いアイデアなのか?」
「はい。自動空戦フラップとは、今まで考えたこともありませんでしたが、コレは使えますよ!」
「ふーむ、子供の柔軟な発想なのか…… いや、それとも藤宮様が人一倍に聡明であるのか?」
「藤宮様? このアイデアは藤宮様の発想だったのですか?」
「海軍の航空廠にも同じ内容のが行っているらしいが、基本的には内密だぞ」
「軍機ですね? 了解しました」
「軍機とはいっても、噂それ自体は独り歩きしてしまうだろうがな」
「そういえば、ジロを考えたのも藤宮様とかいう噂がありましたね」
「チハの長砲身化もだな。しかし、あくまでも噂の域は出ておらん」
「では?」
「今回の件もあるし、そういうことなのだろうな」
「凄まじい知性ですね……」
「もしかしたら、若い技術屋の誰かが藤宮様に代弁させているのかも知れんがな」
「皇族の力を借りた方が、新技術が採用されやすいとかでしょうか?」
「それは否定できまい」
しかし、おそらくは藤宮様自身のアイデアなのであろうな。核分裂反応を発見したマイトナー博士を日本に招聘したのも藤宮様だと聞き及んでいる。
私が核分裂反応が爆弾に使えると着目した時には、もう既に極秘でプロジェクトが動いていたなどと聞かされたのだから、藤宮様の先見の明にはまったくもって驚かされるばかりだ。
だが、核分裂爆弾は秘中の秘であるのだから、それこそ目の前にいる技術屋にも迂闊には喋れん。
「しかし、この自動空戦フラップが実用化すれば、空戦の歴史ががらりと変わるかも知れません」
「空戦の歴史がだと?」
「この絵のまま作りますと、技術的には欠陥だらけで失敗作になりますけど、技術者から見れば改善点は一目瞭然でありますので、すぐにでも試作には取り掛かれます」
「この自動空戦フラップが実用化できたとして、その効果はいかほどのものになる?」
「新兵がベテランに、ベテランがエースになる可能性を秘めています」
「それほどの代物なのか……」
「空戦の最中に手動でフラップの出し入れをしないで済むのですから、その分だけパイロットの負担が減ります」
「なるほどのぉ。それは凄い」
「また、自動でフラップを調整してくれますので、空戦時に高度を落とすのも最小限度に止まるでしょう」
「なるほど。だからこそ貴官は、空戦の歴史が変わると申したのか」
「はい。もっとも、エースと呼ばれている腕利きの連中には不評になるかも知れませんが」
「エース連中はフラップを手動で調整した方が良いと?」
「エースは人間離れした反射神経をしていますので、自動では自分の思っているよりも反応が遅く感じたり、多少の誤差にイラつくことがあるやも知れませんので」
「オンオフの切り替えスイッチが必要になるな」
「万が一にも自動空戦フラップに不具合が出た場合のことを考えても、手動で切るスイッチは絶対に必要ですね」
「パイロットの養成には時間も金も掛かるのだから、単純な機械の誤動作などで貴重なパイロットを死なせるわけにはいかん」
中島知久平氏からパイロット養成に掛かる費用のメモを見せられた時には、私も大層驚いたものであったわ。
そういえば、あのメモも藤宮様から渡されたとか中島氏は言っていたな。
それにしても、藤宮様の知恵の源泉は一体どこから湧き出てくるのだ?
しかし、有用であれば採用すればよいのだから、いたずらに詮索はしない方が良いのであろうな。
「それは十分に心得ております。それで、自動空戦フラップの試験機に九八式を一機お借りしてもよろしいでしょうか?」
「旧式の九五式では駄目なのか?」
「現用機でないと意味がありませんので」
「それもそうだったな。では、予備機も含めて九八式の二機の使用を許可しよう」
「ありがとうございます!」
「そうそう、その九八式戦闘機だがな。今年から愛称が付くことになったぞ」
「愛称ですか?」
「うむ。これからは、隼と呼ぶようにするとのことだ」
「隼ですか。良い愛称だと小官は思います」
「ま、既存の九八式と区別するためにも、改良型からだろうがな」
「再度の改良型には、自動空戦フラップを間に合わせてみせます」
「完成するのを楽しみにしているから、頼んだよ」
「小官の頭の中でイメージは出来上がっていますので、お任せ下さい!」
技術屋というのは、ちょっとしたヒントさえあれば直ぐにでも自分で改良を思いつけるのだから優秀だな。
しかし、そのヒント。つまり、物事に切っ掛けを与えられる人間は極めて少ないのだから、技術屋以上に優秀で貴重な存在だ。
そう、藤宮様のみたいな人間を、きっと天才とか呼ぶのであろうな。
川西さんの技術が三年前倒しになった模様ですw
今度こそ本当に不定期になります。




