41話 桜子ですけど…… なんでもありません
1939年1月
ついに、1939年が幕を開けてしまいました。史実の歴史では、第二次世界大戦が開戦した年になります。この世界線でも、恐らくはドイツのポーランド侵攻によって、世界大戦が勃発する可能性が高そうですね。
今年は、世界にとってはもちろんのこと、日本にとっても、今後を左右する運命の始まりの一年になるのでしょうね。いわゆる、歴史のターニングポイントというヤツです。
【南米チリで巨大地震が発生! 死者は数万人以上か?】
チリやペルーって地震が多くて大変そうですね。死者が数万人以上って、一度の地震で凄い人数ですね。でも、もう少し耐震性を高めた建物にすれば、被害は半分以下に収まっていた気がしないでもありません。
未来でも、ペルーやチリの地震の映像を見たときに思ったのですけど、地震大国の割には建物の耐震性がお粗末すぎると思うのですよ。まあ、未来の日本の耐震基準が厳しすぎるのかも知れませんけど、命には代えられませんので、これでいいのでしょう。
日本も地震大国だから、遠く南米での地震とはいっても、けして、他人事ではありませんよね? チリでの地震の津波が、翌日には三陸を襲ったなんてこともありましたので。そう考えると、津波って速いんですね。時速400kmとかでしょうか?
それはそうと、なんか見落としているような……?
っ!?
そうだ! 地震だ! 1944年の12月に、東南海地震があるんだった!
正確な日時までは覚えていませんけど、1944年の12月に東南海地震が、その二年後の1946年の12月には南海地震が発生したというのは、間違いなかったはずです。同じ12月だったので、記憶に残っていたのですよ。
また、東南海地震の翌月にも三河地震があって、その他にも、鳥取や福井でも大地震があった気がしましたね。
そう考えると、1944年から1948年頃はまでは、日本列島は地震の活動期だったみたいですね。といいますか、日本は数年おきに、どこかでマグニチュード7以上の地震が起きているのでしたか。
下手をしたら、一年の間にマグニチュード7クラスの地震が数回とか発生した年もありましたよね……
本当に日本という国は、地震に台風に大雪と、天災が多くて困ります。
この東南海地震によって、名古屋や愛知県にある三菱や中島、愛知時計などの航空機製造工場が被害に遭って、生産ラインの復旧もままならないまま、終戦を迎えてしまったのでしたね。
あれ? 一応の復旧はしたのでしたっけ? まあ、この際、どうでもいいや。
問題なのは、愛知県で製造される航空機の数が問題なのですよ。愛知県だけで、日本全国の航空機製造の二割以上は確実に占めていたのですから。
一時的にせよ、航空機の二割以上の減産は見過ごせません。発動機に至っては、愛知県で製造される比率は更に跳ね上がったはずでしたし。火星エンジンや金星エンジンとかですね。
ましてや、地震発生時には、日本が望むと望まざるとに拘わらず、恐らく日本は戦争に巻き込まれているはずだと思いますので。
特に愛知県では、高性能機を作っていたはずでしたので、地震の被害による愛知県での航空機の減産は、他県での被害よりも痛手になるのです。
もっとも、地震がなくても空襲によって大打撃を被っていたのでしょうけれども。それに、たとえ航空機の生産が順調であったとしても、今度は搭乗員の技量が未熟で、航空機の性能を活かせない場合が多いのでしたか……
そう考えると、自己保身、身内びいき、縦割り行政、国際感覚の欠如、精神論、科学技術に対する認識不足、等々…… 言い出したら切りがないや。
こんな状態で、よくもまあ、アメリカと戦争をおっ始めようなどと、馬鹿な結論に到ったよなぁ。
まあ、日本人が集団で馬鹿になっていたが、ほぼ正解なのかも知れませんね。狂っていたと言っても語弊ではないと思います。
もっとも、これは、歴史を知っているから言える、後知恵の類いではあるのですけどね。
でも、たとえ、アメリカが欧州戦線の片手間だったとはいえ、当時の日本の国力で、3年8ヶ月も戦えたのは立派だったのかな?
話がそれた。
そうじゃなくて、いまは、航空機製造工場を名古屋と愛知県から分散させなければならないのでした。
どうする?
新規の工場を名古屋近郊に建てるのは、当然ながら凍結するとしても、既存の三菱や愛知時計の工場も問題なのですよね。近いうちに地震がくるから、工場を移転しろだなんて言っても信用されないだろうしなぁ。
中島飛行機は、まだ半田には進出してませんから、別の場所に進出してもらう事にしましょう。比較的に日本海側の石川や富山が安全でしょうか?
お父様や知久平さんに相談してみましょうかね?
それはそうと、チリに対しても支援の呼びかけをしなければ!
また、私の精神をガリガリと削ることになりそうですが……
『チリのじしんで、なくなった人にたいして、あいとうのまことをささげます。また、ひさいした人にたいしては、こくさいしゃかいからのしえんの手がさしのべられることを、ふじのみやさくらこは、きたいします!
ついしん…… わが大日本ていこくも、こらいからじしんがおおいですから、つね日ごろから、じしんへのそなえをしておきましょう。そなえあればうれいなしとか、むかしのえらい人もいってましたよ?』
『藤宮桜子内親王殿下からのメッセージをお伝えしました。時刻はまもなく、午後七時になります。こちらはJ-AK、日本放送協会東京第一放送です』
うん。ピエロの役を演じ切ったよ…… 私、頑張った。
これで、今年のノーベル平和賞は、桜子ちゃんで決まったも当然でしょう。
【藤宮様の優しきお言葉に対して、全国から賛同の声!】
いやー、そんなこともあるよ。まあ、そうなるように仕向けたのですけどね!
【日本各地で広がるチリ支援の輪!】
音頭を取ったといいますか、振り付けをしたのは私なんですけど、なんといいますか、日本人って右に倣えが好きな民族だよね……
しかし、ここまでとは。これは、ちょっと予想の範囲外の動きですよ。
でも、日本各地の支援は、どうやって支援するつもりなんでしょうかね? チリは太平洋の反対側で、日本からは約1万7千kmも離れているのですよ? ほぼ地球の裏側に近い距離なのですから、遠すぎますよね。
国際赤十字を通しての支援とかでしょうかね?
【空母赤城が、艦載機の代わりに支援物資を載せて、チリに向けて横須賀を出港!】
は……?
そうくるとは、私にも予想外だったよ。
しかし、赤城から艦載機を降ろせば、格納庫に支援物資を大量に積み込めそうではありますね。飛行甲板も使用しないのであれば、支援物資を積み置きしても大丈夫そうですしね。
軍艦ですから、船足も商船の倍以上の速さが出せますし、災害派遣に使うのには、空母は持ってこいの艦種なのかも知れません。未来でも、強襲揚陸艦とかが災害派遣に使われていますし、これはこれでアリみたいですね。
もっとも、いくら赤城が全速航行で、31ノットの速度が出せるとはいっても、それは戦闘中で短時間に出す最大戦速ですから、精々が24ノットの第二戦速か第三戦速まででの航行でしょうか?
長時間、最大戦速を出して航行するなどしたら、缶と主機が悲鳴を上げて壊れてしまいます。
それと、燃費の問題もありましたね。速度を上げれば上げるだけ、燃料を馬鹿食いするのですから。赤城の航続距離のスペックは、18ノットで8000海里でしたっけ? 16ノットで8000海里だったかも知れないけど。
とにかく、16ノットか18ノットの航行だったとしても、片道無給油でチリまで辿り着けないほど、太平洋というのは広大な広さなのが、よく理解できるかと思います。
チリまで、約1万7千km。掛かる日数はといいますと、16ノットで約24日、18ノットで約21日、24ノットでも16日もチリまで掛かるのですよね。途中で給油も必要ですから、プラス半日か一日は余分に掛かるのでしたか。
これだけ時間が掛かるとはいっても、商船に比べたら半分の時間でチリまで辿り着けるのですよね。商船だとチリまで一ヶ月以上掛かりますので……
でもまあ、軍艦の平和利用は、日本の国際貢献として、良いアピールにはなることでしょう。
【赤城、チリに向かう途中で、ホノルルに給油のために入港!】
なるほど、途中の給油はアメリカ任せでしたか。赤城は、一応は日本の仮想敵国のはずである、アメリカにも広く知れ渡っている空母ですので、ホノルルに寄港しても別に問題なかったみたいでしたね。
といいますか、アメリカがよくもまあ、真珠湾への寄港を許可したよな。
これは、アレかな? 日米関係が史実と比べたら、かなりマシな関係で、まだ険悪にもなってないから、赤城が真珠湾に寄港できたのかな?
まだ、アメリカ海軍には太平洋艦隊も存在しませんし、艦隊の母港も西海岸のサンディエゴのままですもんね。
それと、アメリカ側も、大改装が終わって三段式空母から一段式になった赤城を近くで、じっくりねっちょりと観察したかったのかも知れません。
逆に帝国海軍が、大改装で一段式に生まれ変わった赤城を、よくアメリカに見せる気になったとも思わなくもない。利敵行為だ! とかわめき散らす輩が大勢いそうな気もするのですが。
でも、日本側も日本側で、真珠湾を間近で見られるまたとない機会ですので、お互いの思惑が一致した結果で、妥協の産物で実現したのかも知れませんね。
それに、もう既に赤城の艦齢が、起工から19年、竣工からでも12年経っているのも、影響している気がしないでもない。
もう立派なおばさんですよね?




