40話 偽善
【ドイツで大規模な反ユダヤ人暴動が発生!】
あららら…… そういえば、史実の歴史でも、こんな暴動があったような気がしましたね。確か、水晶の夜でしたっけ? どうやら、ナチスの暴走は止まらないみたいですね。
それでは、日本はナチスドイツとは逆に、ユダヤ人を助けようキャンペーンでも展開しましょうかね?
ただし、日本にとって有用な技術者や、手に職を持っているユダヤ人と、その家族が優先されますがね。
いくらナチスの行いが非道だとはいっても、残念ながらも、ただでユダヤ人を助けてあげられるほど、日本は裕福ではないのであります。
当然ですけど、日本にとっても見返りがなければ、わざわざ火中の栗を拾うような真似は、助けるメリットがありませんので。
そう、この時代では、世界的に見ても、反ユダヤ主義が蔓延していた時代なのです。
ドイツの反ユダヤは当然として、それ以外の国でも、ポーランドやルーマニア、フランスにも蔓延していたのです。
イギリスは多少事情が違いまして、ユダヤ系が首相になるぐらいには、寛容さもあったのです。少し不思議な気もしますよね? ユダヤ系でもユダヤ教徒ではなかったということでしょうか?
その欧州はいざ知らず、アメリカでも反ユダヤ主義はあったのですから。
まあ、一部のユダヤ人が金融を支配していたので、そういった辺りに一般市民が反発を覚えるのだと思うのですよ。
ユダヤ陰謀論がなくならないのも、支配する側と支配される側の、溝が大きいからなのかも知れません。
しかし、当然ながら、ユダヤ人を差別しない人たちも大勢いたのは事実ですので、それを忘れてはなりません。
自分の現状に不満がある人の方が、何かの所為にしたがるので、その不満の矛先にユダヤ人が生け贄として選ばれたことは否めません。
あと、ナチスが良い例だと思いますけど、政治家も大衆を焚き付けたりもしていましたね。ルーマニアの鉄衛団なんて、あのナチスがドン引きするぐらい、過激な暴走をやらかしたりもしていた気がしないでもない。
堀さんとか島さんとかと、似たような名前の人だったような……?
ユダヤ人も、ユダヤ人だけで固まるのではなくて、その地域のコミュニティに溶け込めば、反感を買うことも少なかったような気がしないでもない。
でも、ユダヤ人であるということのアイデンティティを放棄出来なかったから、迫害の歴史を歩んで来たとも言えるわけでして……
宗教や民族問題って根っ子が深すぎるから、ややこしいですよね? 島国で単一民族国家である日本人には、理解が出来ない問題なのだと思われます。
前世の私は、テレビやニュースを見ながら、『また、やってる』なんて、呆れて眺めていましたけど、当事者同士からすれば、いたって真面目に紛争や戦争をしているのでしょうね。
出来るだけ、係わりたくないというのが、本音ではあるのですよ。
宗教と民族問題はタブーとも言えます。
でも、ここは一つ、偽善であったとしてもユダヤ人を助けるべきでしょうね。無辜な民が迫害されるのを黙って見ているだけなのも、それはそれで寝覚めが悪すぎますので。
ましてや、私はこの先の歴史を知っているのだから、たとえ、助けられる命が少しだけだとしても、助けたいと思うのが人情というものですしね。
やらない善より、やる偽善とかとも言いますしね!
だけど…… 主に、私の精神の安寧をガリガリと削りながらというのが、イマイチ納得が行かないのでありますが……
『ドイツで、はくがいされている、ユダヤ人はかわいそうだとおもいます。こまっている人がいれば、たすけてあげるのが、人のみちだと、ふじのみやさくらこは、そうおもいます!』
『藤宮桜子内親王殿下からのメッセージをお伝えしました。時刻はまもなく、午後七時になります。こちらはJ-AK、日本放送協会東京第一放送です』
うん。ピエロの役を演じ切ったよ…… 私、頑張った。
これで、来年のノーベル平和賞は、桜子ちゃんが頂きであります!
【藤宮様の優しきお言葉に対して、全国から賛同の声!】
いやー、そんなこともあるよ。まあ、そうなるように仕向けたのですけどね!
【日本各地で広がるユダヤ人支援の輪!】
音頭を取ったといいますか、振り付けをしたのは私なんですけど、なんといいますか、日本人って右に倣えが好きな民族だよね……
しかし、ここまでとは。これは、ちょっと予想の範囲外の動きですよ。
でも、ユダヤ人って国を持ってないのだから、日本各地の支援は、どうやって支援するつもりなんでしょうかね?
国際赤十字を通してとかでしょうかね?
また、国を持ったら持ったで、バルカン半島以上の火薬庫になってしまうのがなんともはや……
【欧州各国の日本大使館と領事館には、ビザを求めるユダヤ人の長い列!】
現地の欧州では、日本の大使館、領事館にビザを求めるユダヤ人に対して、ビザを発給するという目に見える形での人道的な支援ができるので、まだ分かりやすいのですけどね。
といいますか、他の国の大使館はどうした? なにも大使館は日本だけではないだろうに…… 欧州のユダヤ人にとっては、むしろ日本なんて、極東のドマイナーな国じゃないですかー。
貧乏と無能なユダヤ人は、アメリカに行けよ! アメリカに! 日本に来るのは有能なユダヤ人だけで結構ですので! ……いかん、本音が漏れた。
サクラコサンハ、スベテノヒトビトヲ、ビョウドウニアツカイマスヨ?
世の中のトレンドは、友愛なのですから! ラブ&ピースともいいます。
自分で言ってて、寒イボが出てきそうになったわ……
そういえば、アメリカでさえもこの時代では、ユダヤ人の移民は制限していたような気もしましたね。主に、貧乏人と特殊な技能を持ってないユダヤ人は。つまり、移民できるのは、金持ちと技能者に限られるのです。
なんだ、日本と同じ政策じゃないですか。少しだけ安心しましたよ。アメリカも大恐慌の痛手からは、まだ立ち直っていませんので、労働者の職を奪う移民はお断りということみたいですね。
もっとも、既に日本人は新たな移民すら出来ない差別を受けているのですがね! でも、口減らしに棄民の如く移民させる必要はなくなってきましたので、構わないんだけどさ。まったく、ダルマさんの政策様々であります。
それを、近衛さんがぶち壊さないことに期待しましょう。
話がそれた。
まあ、なにはともあれ、ここは一つ、外交官にビザの発給を頑張ってもらいましょう!
でも、ビザを発給しても、日本には留まらずに、通過するだけのユダヤ人が大半になりそうな予感がするのですけど、それは気のせいですかね?




