37話 プラハの……
1938年9月 東京 赤坂御用地 秩父宮邸
【ズデーテンラントを巡ってドイツとチェコスロバキアが開戦か!?】
史実通りに、ズデーテン問題が緊迫してきましたね。
【ドイツは強硬な姿勢を崩さない模様!】
まあ、そうだろうね。ズデーテンに住んでいる住民の大多数はドイツ系なんだし、いままでナチスドイツが取ってきた強気の政策的にも、ここで弱腰の姿勢は見せられないでしょうね。
地図を見れば一目瞭然ではあるのですけど、ドイツにとってみればチェコスロバキアという国は、ドイツ国土の柔らかな脇腹に刺さった短剣にも等しい存在の国なんですよね。
ドイツ、チェコ国境からベルリンまで200kmもないのですから、目と鼻の先とまでは言わないながらも、かなり近い距離なのです。妨害がなければ、戦車でも半日と掛からない距離ですので、ドイツにしてみれば警戒するでしょうね。
また、当然ながら、その逆も然りなのですが。チェコのプラハの方が、もっと深刻でしたね。ドイツ国境から100kmもありませんでしたよ。欧州って狭すぎのような気がしてきました……
チェコスロバキアがドイツにめり込んでいるとも言います。
けして、ドイツのアピールにチェコのペピースを突っ込んでるとか言ってはいけない! ましてや、ドイツのひねり出す緑色をしたウピーチなどとは、たとえ思っていたとしても口に出してはなりません。
桜子ちゃんとの約束ですよ?
そこは、『なかなか奇抜で斬新な国境線ですね』とかなんとか言い繕っておきましょう。
それが、本音と建前を上手く使い分ける、大人の処世術というヤツなのですから。
話がそれた。
つまり、ドイツにとってみれば、ドイツの残滓であるズデーテンラントの併合を望むだけではなくて、最終的には、チェコ、ボヘミアそのものを国家としては地上から消し去りたいとドイツが思ったとしても、なんら不思議ではないのですよね。
もし、私がドイツ人であったとしたら、ヒトラーと同じ結論に辿り着く可能性は否定できないでしょうね。これは、ナチスを支持する支持しないに拘わらず、ドイツにとっての地政学的なリスクなのですから。
そこに、地政学的に許容できないリスクがあるのならば、国家社会主義もナチス支持云々も二の次の問題になるのです。
【ドイツがズデーテンに侵攻すれば、英仏は介入か?】
これがまた、介入したくても介入が出来ないんだなぁ。まだ英仏の戦争準備が整ってませんしね。準備が整ってないのは、ドイツも同じではあるのですけど、なんで、ドイツは最悪戦争も辞さずなほど、この時点で強気で押せるのか不思議ではあります。
もっとも、ナチスドイツの瀬戸際外交も、メーメル割譲までは神懸かってましたので、強気で押すのは正解ではあるのですが。最後のダンツィヒでは読み間違えて、結局は戦争になってしまったのですけれども。
それにしても、チェコスロバキア軍って、そこそこ戦車を持っていたはずなんだけどなぁ。35tや38t戦車は、ドイツのⅡ号戦車なんかよりも、優秀な戦車だったはずでしたし。
もし、ズデーテン危機で開戦となれば、ドイツも相当苦戦した気がしますね。それこそ、フランス相手の西方電撃戦よりも手古摺ったように思います。38年の秋では、まだドイツの軍備も不十分でしたしね。
なんで、チェコは戦わずにヘタレたんでしょうかね? まあ、近隣諸国が仮想敵国ばかりだったのが、チェコスロバキアにとっては悲劇だったのかも知れません。
チェコ周辺各国の中で、唯一友好関係にあった国がソ連だけだなんて、そんなの私でも泣きたくなりますよ…… フランスはドイツを挟んで少し遠いですしね。
ちなみに、35トン戦車や38トン戦車ではありませんからね? そんな重量がある戦車は、独ソ戦を経験して初めて作られる、5年以上先の技術で作られた戦車ですから! Ⅳ号戦車以上、パンター未満になってしまいますよ。
【プラハで非常事態宣言が発令!】
うん? ズデーテンラントで非常事態宣言なら分かるけど、首都のプラハで非常事態宣言が発令されるって、なんでだ? 現地であるチェコスロバキアは、相当に混乱しているようですね。
30年早いプラハの春でしょうか? って、いまの季節は秋だったよ……
【チェンバレン英首相が訪独! ヒトラー総統と会談!】
ようやく、チェンバレンが重い腰を上げましたか。史実の歴史上での評価は低いチェンバレンさんですけど、私は評価しているんですよね。
それこそ、ガリポリの肉屋とか、派手好きなタフガイとか呼ばれている、太鼓腹なのか丸腹なのか知らないけど、そんな公爵家のボンボンなんかよりも、上の気がします。
まあ、ガリポリの肉屋さんは肉屋さんで、評価しているのですがね。情熱が足りないとか知能が足りないとか、そんな名言は大好きですしね!
それで、チェンバレンさんは、イギリスが最低限の戦争準備が整う時間を、彼は稼ぎだしたのです。そう、チェコスロバキアをナチスドイツの生け贄にしてまでして……
このチェンバレンの判断は、戦争回避への希望的観測も多分に含まれてはいたとしても、国家理性に基づいた恐ろしいまでのマキャベリズムが、そこにはあるのだと思います。
チェンバレンさんは、もっと評価されてもいいと思いませんか?
日本の政治家で、こんな判断を下せる政治家は、恐らくは皆無のような気がしますね。明治の元勲、元老クラスでやっとこさではないでしょうか?
無知蒙昧で浅はかで、瞬間湯沸かし器(急速冷却機能と記憶喪失機能付き)な一般大衆に迎合しなければ、選挙に落選する政党政治家や、視野狭窄に陥りやすい軍人政治家には、到底無理な注文だと思われます。
【仏とソ連はチェコ支援の動き!】
まあ、この支援は出来ず仕舞いで、なかったことになるのでしょうね。
【英仏はチェコ政府に対して、ズデーテンのドイツへの割譲を勧告!】
これは仕方ないよね。カエル野郎は、チェコスロバキアに対して、ものの見事に二枚舌を使いましたね。それこそ、英国紳士の十八番を奪うほどの、梯子の外し方の気がしないでもない。
フランスからの支援を期待していた、チェコ政府は怒ってもいいと思います。
だがしかし!
大国の都合の前には、小国の都合なんて塵芥の如く吹き飛んでしまうのですよ……
【チェコスロバキア政府は英仏の勧告を受諾!】
あれ? ミュンヘン会談はどこにいった?
ドゥーチェの一世一代の晴れ舞台は?
……続報まだー?
【チェコ政府は内閣総辞職!】
あるぇー?
これって、史実通りなの? それとも違うの?
さすがに私も、そこまでは詳しく覚えてませんよ……
「藤宮様、うんうん唸って新聞ばかり読んでますと、眉間に皺が寄ってしまいますよ?」
「だって、欧州情勢が気になるんだもん!」
「それは確かに、一触即発ではありますね」
続報が気になって、夜も寝れそうにないではありませんか!
うがー!
全部、チョビ髭伍長が悪いんだ! うん、そう思っておこう。