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22話 桜子ですけど、人魚に会いに来ました


 1937年6月 スウェーデン ストックホルム



 オランダを後にして、北海を北上。第一次世界大戦最大の海戦であった、ユトランド沖海戦が発生した海域を航行して、スカゲラック海峡に入りユトランド半島を迂回。

 カテガット海峡を南下して、バルト海へと入ってから進路を北東へと転進して、スウェーデンの首都である人魚の故郷、ストックホルムにやって来ました!


 オランダからは、たった三日の航海でしたね。

 それでも、此処はヨーロッパの北に位置する、北欧です。



 ストックホルムの海軍工廠で、比叡の副砲である15.2cm単装砲を、全16門中、半分にあたる8門を撤去しました。撤去するだけならば、三日と掛からないで撤去できましたので、時間も費用も大変リーズナブルな改装工事で済ますことができましたね。

 日本とスウェーデンでは、軍事的に利害が対立する関係ではありませんので、日々刻々ときな臭くなってきた世界情勢の中でも、こうやって改装工事が行えるというわけなのであります。


 百万円以下の小規模な工事ですけど、スウェーデンにとっても外貨が稼げる機会ですので、もろ手を挙げて大歓迎してくれました。支払いの半分は、スターリング・ポンド払いですしね。悲しいけど、日本円には国際的な信用が不足しているんや……

 そして、比叡の改装工事は、本命の商品を買うためのテストを兼ねているのです。


 その本命とは…… スウェーデンといえば?






 シュールストレミング!


 ……違った。


 いや、シュールストレミングもスウェーデンの特産品には違わないけど、あんなシュールで鼻が曲がるような腐ったニシンの缶詰じゃなくて、ボフォースですよ、ボフォース!

 ボフォース社製40mm対空機関砲の買い付け及び、ライセンス生産の交渉が本命なのです!


 もしかしたら、世界で第三位の海軍力を誇る、大日本帝国海軍の大部分の艦艇に、ボフォース対空機関砲が装備されるかも知れませんし、評判が良ければ陸軍でも採用するかも知れませんので、算盤を弾いたスウェーデン側の鼻息が荒くなるのも当然でしょう。

 そりゃ大歓迎もするわけだわ。私ならば、もみもみと揉み手も付けちゃいますよ。


 それにしても、シュールストレミングは、この世のモノとはありえない臭いだから、シュールが頭に付いてるのでしょうか? 謎ですね……


 それで、副砲を撤去して、浮いた重量がありますので、その浮いた分で、期待のボフォース社製40mm四連装機関砲を片舷に二基設置しました。両舷で四基16門の40mm機関砲が火を噴ける寸法であります。

 もっとも、個人的には最低でも、これの倍は40mm機関砲が欲しいと思ってはいるのですけど、現状ではこれが精一杯でしょう。


 逆に言えば、よくもまあ、頭の固い海軍省、軍令部、艦政本部が、15.2cm副砲の半減を飲んだなぁ。そうとも受け取れるのですよね。

 まあ、今現在の比叡は練習艦ですので、ボフォース社製の40mm機関砲も試してみたくなったのかも知れませんね。


 日本に帰ったら本格的に大改装を行って近代化させますので、他の金剛型とは違った改装のテストケースにしたいのかも知れませんね。


 この比叡のスウェーデンでの小規模な改装を知った、欧米列強各国の反応といえば、15.2cmから40mmへの一見すると弱体化するように見える改装ですので、各国の反応も、


『日本が練習戦艦で、わざわざ小口径の砲に乗せ換えた変なテストをしてる』


 その程度の反応で、特に気にも留めてませんでしたね。

 でも、この時代では、まだ航空機の脅威が完全には理解されてませんので、この反応は仕方ないのかも知れません。


 私としては、しめしめと一人ほくそ笑んでいるのですがね。これは良い傾向だと、そう受け取っておきましょう。

 もっとも、ロイヤルネイビーはヴィッカースの40mm八連装ポンポン砲を装備していますので、完全に対空兵装をなおざりにしているわけでもなさそうですが。


 そして、比叡から降ろした8門の15.2cm砲ですが、これはスウェーデン経由でフィンランドへ格安で売却しました。

 艦砲としての15.2cm砲は、精々が軽巡洋艦の主砲程度の中規模火力に分類されるのですけど、これが野砲として分類するのであれば、その価値はガラリと変わるのであります。


 野砲としての15.2cm砲は、まさしく重砲であります。戦場での神といってもけして過言ではないぐらいには、頼もしく思われている重砲に分類されるのが、15.2cm砲なのですから。


 フィンランドは仮想敵国である、ソ連と長い距離に渡って国境を接してますので、それこそ重火器はいくらあっても足りないぐらい地理的に不利な国なのです。

 15.2cm砲を、たかだか8門売却した程度では、焼け石に水なのかも知れませんが、それでも、無いよりはナンボかはマシのはずですし、フィンランドには、これからも頑張ってもらいたいと思っての、格安での売却と相成りました。


 ほぼ確実に起こるであろう冬戦争に向けて、少しでもフィンランドの戦力は強化しておきたいですしね。この時代を扱った架空戦記の日本では、フィンランドを支援するのは毎度お馴染みですしね。テンプレに近いモノを感じます。

 常識的に考えても、日本がフィンランドを支援するのは理にかなっていますしね。敵の敵は味方というロジックともいいます。


 え? 敵の敵もまた敵だって?


 なんですかその、全方位に噛みつくような、狂犬みたいなロジックは……

 私は基本的に平和主義者なんですよ。どこかのキチガイと一緒にしないで下さい!


 まあ、ゲームの中では、その狂犬プレイもありっちゃあ、ありなんだけどね。


 でも、誰だったかな? 前世で読んだ架空戦記の中の誰かでしたっけ?

 まあ、どうでもいいや。


 日本とフィンランドは、赤いキチガイ国家であるソ連を挟んで、隣の隣というご近所さんともいえるのかも知れませんし、遠交近攻の原則にも当て嵌まりますので、できるだけフィンランドとは仲良くしたいと思います。


 だけど、地政学的には仕方がなかったのかも知れないのですけど、冬戦争の後でフィンランドは、ナチスドイツの枢軸陣営に入っちゃうんだよなぁ…… 枢軸に加入したのは、独ソが開戦した後だったかな?


 選べる選択肢の中に、イギリス側の陣営がなかったのが、フィンランドにとっては可哀想でしたよね。枢軸と共産しか選べないだなんて、どんな罰ゲームだよ! そう愚痴を零しても、フィンランドだけは許される気がしますね。

 あと、ルーマニアとかも、地政学的には不利でしたけど、あまりルーマニアは同情できないや。


 でも、フィンランドは小国だけど、外交、国際政治は超が付くほど一流でしたね。日本の外交も、少しはフィンランドを見習って欲しいと思います。

 マンネルヘイムさん、爪の垢くれないかなぁ? 三八式歩兵銃と交換でもいいですから!









「桜子さん、本当にボフォース社製で良かったのですか?」


「なにごとも試してみる価値はあると思いますよ」


「それはそうだが、日英の友好的には、ヴィッカースの方が良かったのでは?」



 日英の友好のために、ボンクラな兵器を使用するのは、いかがなものかと思いますよ? それに、日英の友好だけではなくて、スウェーデンとの友好も必要だと思うのです。

 もっとも、イギリスとスウェーデンを比べちゃうと、どうしてもイギリスに比重を置かざるを得ないのは、致し方ないのですがね。


 イギリスとドイツとの戦争になれば、スウェーデンはドイツが中立を認めた見返りに、キルナの鉄鉱石を供給していますし、独ソ戦が始まれば、ドイツ軍の領内の通行も認めているのですから、親ドイツ的と見られても仕方ない国ではあるのですが。

 それでも、ボフォースの機関砲を一番使っていたのは、ドイツの敵でもあったアメリカ軍というオチが付くのですけれども。



「40mmに関して言えば、ヴィッカースは駄目ですよ。毘式40mm機銃の評判が悪いのは、お父様もご存じのはずです」


「それは確かに、陸軍軍人でもある私の耳にも入ってましたね」



 ヴィッカースのポンポン砲は、初速は遅いわ、集弾率は悪いわ、射程は短いわ、故障は多いわで、信頼性の極めて低い兵器なのです。つまり、良いところを挙げろという方が難しい機関砲だったのです。

 こうして、ダメ出しを喰らった毘式40mm機銃は、もう既に艦艇から降ろされて始めているのです。そして、毘式の代わりに、ホチキス社製の13mmや25mm機銃を載せ始めていますしね。


 しかし、13mmや25mmでは、対空兵装としては心許ないということで、私の未来知識を活用して、ボフォースの40mm機関砲を導入させるように誘導したのですけど、どうやら上手く行ったみたいですね。


 ボフォース40mm機関砲を針鼠のように装備すれば、ドーントレス急降下爆撃機も、アベンジャー雷撃機も、ヘルダイバーも、バッタバッタと撃ち落としてやんよ!

 マリアナの七面鳥撃ちは、アメリカではなく、我が大日本帝国海軍が行うのです!


 ぐへへへへ……



「さ、桜子さん、笑顔が怖いですよ……」



 おっと、いかん。淑女はお淑やかでなくてはね。それに、マリアナの七面鳥撃ちには、戦闘機の性能と搭乗員の質、これらの問題の方が大きかったのでしたか。

 それでも、ボフォース40mm機関砲の弾幕のシャワーの中に飛び込むには、相当な度胸と勇気が必要でしょうから、威嚇の意味も含めて、ボフォース40mm機関砲は有効な兵器でしょうね。


 私が艦爆乗りなら、ごめん被るでござる。






 ちなみに、人魚はストックホルムにはいませんでした……

 人魚の故郷は、コペンハーゲンだったみたいです。


 紛らわしいんじゃー!



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[気になる点] 桜子ちゃん、スウェーデン行くなら、サーブ社見学すれば良かったのに。(創業,1937年) 中島か◎菱と業務提携してたら、今頃,デルタ(orカナード)翼の自◎隊機が、三沢や千歳で「インター…
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