9話 本当の気持ち
えっちぃです。
そこまで見たところで
『おはよう。そして遅かったね。そんなに眠かったのかな?』
後ろを向き声の主…邪神に相対する。
何がおかしいのか、そいつはまたしてもケラケラと笑っている。
『君の力を全部吸収したかったけど、流石に無理だったよ。凄いんだね、創造神の力ってさ。でも君を抑え込むだけの力は手に入れたから、残りはゆっくり吸収させてもらうね。』
そう上手く行くと思わないことだ。
『何か反応して欲しいけど…君は宝玉だし仕方ないか。それよりさ、君の作ったこの星…中々良かったよ。綺麗だし楽しいし。でもごめんね。生み出した人種達でもう滅茶苦茶なんだ。綺麗だった森や海、氷の世界マグマの世界みーーーんな僕が壊しちゃったから。』
今度はケラケラと嘲笑う。
『だからね、今度はまた壊すために新しい星を創ろうと思って…君の色と同じ綺麗な青色の星を。もちろん名前も考えてあるよ。君から名前をもらって決めたんだ。レティって言うの。いい名前でしょ?君と同じその青く美しい宝石が、赤黒く腐敗していく様は見ていて楽しいだろうねぇ…。ねぇ、レティシアさん。』
そう言うと私を持ち上げ
『じゃあ行こうか。最後に大きな爆発を見ないと終わった気がしないからね。』
新たな星を創り、私の創った星が塵1つ残らなくなるところをケラケラと嗤いながら見ていた。
レティに移ってから6000年。
ベルーナが誕生してから約1万年。
邪神は退屈そうにしていた。
『ねー…レティシアさーん。壊すの飽きちゃった…。君、創造神の一部なんでしょ?だったらさー…もっと楽しませてよー。』
当初は鼻息荒く私を吸収すると言っていたが、思うように進まなくなりふてくされ、また創り出したベルーナの人種や魔獣達で遊ぶも6000年も経つと飽き飽きしてくるようだ。
まるで子供だ。
すると何か思いついたのだろう、満面の笑顔で楽しそうに言う。
『あ、そうだ!レティシアさん!君に少し力を返すよ!で返した力で、僕を止めてみてよ。僕は壊す。君は壊させない為に策を練る。楽しそうじゃん!はい決まりー!あ、あとね僕は魔人種族と魔獣だけ使うから、あとの人種は好きにしていいよ!』
そう言うなり邪神はパチンっと指を鳴らす。
指を鳴らした途端、私の中に戻ってくる懐かしい感覚。
全快とは言えないが、4割程度には回復しただろうか。
何故、私がお前を楽しませなければいけないのか分からないが……これはチャンスだ。
上手く行けばこいつを消しされる。
力を使うと眠らなければならないが、きっと何とかなるそんな気がしていた。
それから私がしたことと言えば、私の記憶にある力…才能を与える為、魔導本を十何冊か生み出すことにした。
魔導本で覚えた才能は脳内に焼き付けられるから、要求すれば一覧が出てくるようにも設定した。
私自身の力は弱まるが、邪神のやつにこれ以上好き勝手やらせるわけには行かない。
もちろん誰でも読めるわけではない。
資格を持つものにだけ読めるようにした。
でなければ、奴の駒に力を与えることになるからだ。
ではその資格とは何か。
それは、異世界より召喚されし少年少女だ。
もちろんその為に人種族の国、それぞれに召喚の知識と魔法を伝えてある。
本来召喚には何人もの命を対価にする必要があるが、今回は特別だ。
召喚が成功した時は、私の力を召喚の対価とするから周りに被害が及ぶこともない。
上手く行く可能性は低いが、奴に破壊された我が子のようなベルーナのためにも、このレティのためにも眠りながら信じるしかない。
『レティシアさん、人間種が勇者召喚成功したってよ。』
暫く眠っていると邪神がそんなことを言ってきた。
何をするか散々監視しておいて白々しい。
『勇者召喚なんて今更感が半端ないけど、まあ、何もなかった1万年に比べたら楽しいからいいんだけどね。』
言葉とは裏腹に、それはもう楽しそうに笑う邪神。
そんな風に笑っていられるのも今の内だ。
私の残った力をほぼ全て出し切ったんだ。
その顔が苦痛に歪むのが待ち遠しいよ。
それから5年程経った頃、また奴は話しかけてきた。
『レティシアさん…勇者って凄いんだね…。』
ん?いつもみたく笑ってない。
悔しそうな悲しそうな顔をしている。
『今戦える魔人種族、勇者達にやられちゃったー…全滅だよ全滅…。はぁー…ベルーナ壊された時のレティシアさんの気持ちってこんなのだったのかなぁ…。』
………。
なんだよ。
調子狂うんだよ。
もっといやらしく悪役らしく嗤ってろよ。
それから半年、召喚した勇者達が来た。
召喚した時はどこにでもいる少年少女だったが、魔導本の力だろう。
とても強くなっていた。
剣と肉体強化で攻める少年と剣の隙を攻撃魔法で攻める少年。
回復と結界魔法でサポートする少女。
3人だけだが、よく息が合っている。
そして最後、剣の一撃が邪神を貫く。
崩れ落ちる邪神。
私は邪神を吸収し私の中で封印を施す。
完全に吸収して存在を消すことも出来たのだが、最後の会話が記憶に残っていて出来なかった。
勇者達が私に触れる。
今までお疲れ様。
出来ればこの記憶を書物に残し後世へ語り継いで欲しい。
私はこれ以上邪神のような存在を生み出さない為にも眠りにつくよ。
君達が元の世界に帰れるように力は残してあるから。
帰りたかったら教えてくれ。
……それじゃあおやすみ。
ここまでが宝玉の記憶。
現在の宝玉は誰の手にも届かないところで保管している。
宝玉の願い通り、後の世に邪神が現れないことを切に願う。
著 勇者の1人 梧桐愁
◇
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「さて、リン君。」
「………。」
「リン君?」
「…………。」
「リーンくーん!」
「はっ!」
いけないいけない。
思っていたより濃い内容に我を忘れていた。
前の星ベルーナや邪神、宝玉レティシア、魔導本に勇者と…。
新情報多過ぎぃ!!
しかも梧桐愁と書いてあったから、ユイ・アオギリと一緒になったのか…ちきしょうめ!爆ぜろ!
「…ミオ先生、この本は?」
過去の偉人を妬むのもアホらしいので、現在気になっていたことを聞くことに。
「この本は~過去、勇者に協力していたサンペトリック教会の上層部のみに渡されている勇者本人が認めた本です~。」
「なるほど…ん?上層部?…あのミオ先生はシスターでは?」
「うふふ~。何を隠そう、実は私は元枢機卿なんですよ~。」
得意気にえっへんと胸を張るミオ。
おっぱいがぶるんと揺れる。
ふるんじゃない。
打撃力があるぶるんだ。
凄まじい。
それはともかく枢機卿といえば、教皇を補佐する最高顧問ではなかっただろうか…。
「そんな人が何故この村に…」
「ん~ま~…隠居生活みたいなものですかね~。」
おっと、声に出てたらしい。
しかし隠居…しかもああいう役職の人は、それなりにお年を召された方がなるはずだが…しかもミオは獣人とエルフのハーフ…。
「ん~?なにかな~?リンく~ん?」
「……ナンデモナイデス。」
ロロアが怒った時と似た空気を感じたので避ける。
「はぁ~。リン君。おふざけはここまでですよ~。あなたは、転生者ですね?」
「はい。」
本に書いてあったことが本当ならば、魔導本を読めてしまった僕は異世界の住人だという証拠になる。
ここは隠しても仕方ないのでハッキリと答える。
「今は何歳ですか?」
「前世も合わせると28です。」
「あら、思ったよりも若かったですね。」
「あの…僕をなんだと…。」
「いつも私のおっぱいばかり気にしてたのでエロじじいかと~。」
「………。」
否定出来ないし、余計なこと言うと藪蛇になりそうだからスルーする。
「先程お話しした通り、過去の勇者召喚は邪神討伐の為、宝玉の意志によって齎されました。しかし今現在宝玉は眠りについており、転移や転生などは完全に不可能の状態にあります。」
「え?でも現に…。」
「そう、なのにリン君は転生してきている。これは何故だか分かりますか?」
「………宝玉が目覚めなければいけないような事態になっている?」
「そうです。流石ですね。」
正解したことで頭を撫でられる。
28と伝えた上で撫でられるとかなり照れくさい。
「そして狙い澄ましたかのように、転生者であるリン君の元に魔導本が届けられ読むことも出来た。これは何か起こっていると考えるのが妥当です。」
黙ってうなずく。
「そこで私から提案があります。リン君、私の弟子になって魔法を覚える気はありませんか?」
「え…?」
これは完全に予想外の提案だった。
魔法もいつかは使いたいと思ってはいたものの、誰かに師事を仰ぎ長い年月をかけて覚えると聞いていたからまだ先のことだとばかり…。
黙っていることで、断ろうとしていると受け取られたのか
「私はこれでも、帝都にある魔法学院を主席で卒業しています。実力は折り紙付きです。あなたを何があっても生き延びられるように鍛えることが可能です。ですからどうか考えてみてもらえませんか?」
「……何故そこまで?」
だからこそ、理由が知りたかった。
何故そこまで尽くしてくれようとするのか。
「…私は子供が好きです。それは可愛いこともそうなのですが…枢機卿として働いている時、辛く苦しい私の心を癒してくれたのはいつも教会に足を運ぶ子供達の笑顔だったからです。ですが、私はその笑顔を守ってあげることが出来なかった。街に魔獣が入ってきた時、教皇を守ることではなく子供達の避難を優先していればあんなことには…。だからこそ、シスターとして働いている今は私に出来ることは何でもしたいのです。お願いしますリン君。私に、あなたを守らせてください。」
「………。」
前世では女性に騙され辛い思いをした僕だからこそ、今こうして頭を下げ、守らせてくれと願うこの人ならば、信じてもいいかもしれないと本心でそう思った。
これで騙されたならば仕方がないと。
「頭を上げてください。」
頭を上げ視線を合わせるミオ。
「……まだ何も知らない無知な僕ですが、こちらこそどうぞよろしくお願いします。」
今度は僕が深々と頭を下げるのだった。
食事と会話を終え、師弟関係になった僕とミオは食器を片付け清拭を済ます。
なのだが…。
「あの…師匠…これは本当にしなければいけないことなのでしょうか?」
「もちろんです~。寧ろこれは大事な仕事ですよリンく~ん♪」
「だからって何故師匠の身体を拭かなければ!?」
師事を仰ぐことになり分かったことがある。
ミオ先生…元い師匠はドSだ!
弟子を揶揄って楽しむタイプだ!
真面目な話で騙された!
「いいからいいから~。ほら、この胸の下、自分じゃ拭き難いのでお願いします~♪」
着ていた服をはだけさせ、肩からお腹までを露わにするミオ。
そうするともちろんあのお山が生で降臨する訳で…。
「…じっと見てもおっぱいは出ませんよ?」
「分かってます!!てかもう飲んでません!!」
「やん…もっと優しく…。」
「変な声出さないでください!!!」
叩くように拭くと艶っぽい声で要求してくる。
僕の顔は間違いなく真っ赤になっているはずだ。
(もー!!この人性格悪いよ!!全っ然、救世主なんかじゃなかった!!寧ろ小悪魔だよ!!)
「はぁ~サッパリした。」
四苦八苦しながらも何とか清拭が終わり、下着を着けていくミオ。
「こっちにもあるんですね、ブラジャー…。」
「ん?何か言いました~。」
「何でもないですっ!」
今のは何もしてないのだが、恥ずかしさでつい言い方がキツくなる。
「も~…そんなにカリカリしてちゃ、可愛いお顔が台無しですよ~。」
「…師匠が揶揄うのが悪いんです。」
すると後ろから抱きしめてくるミオ。
お胸様が頭の上に乗ってる。
「なっ…」
「私はね、嬉しいんですよ。」
優しい声色で話し始める。
「今までは失うのが怖くて、頼まれても弟子はとらなかったんです。」
「…じゃあなんで…。」
「それはね、リン君だからですよ。」
「僕だから?」
「そう。転生者で、魔導本を読み才能を手に入れた。…きっとこれからは私の教えた魔法をスポンジのように吸収してとても強くなる。そう思うからこそ弟子にしたんです。」
「…買い被りすぎですよ。」
「ふふっ…師匠の期待に応えるのも弟子の努めですよ。」
「…頑張ります。」
何気にプレッシャーをかけてくれる。
まあ、いい人であることは分かったかな…と思ったのも束の間、
「じゃあ今日は一緒に寝ましょう!その為にリン君を泊まりにしたんですから!」
「はぁ!?」
「師匠命令です♪」
「お、横暴だぁ!!」
今夜は眠れない夜を過ごすことになった。
ミオ先生可愛すぎない?
ヒロイン枠に上がる可能性ワンチャン?
ここまで読んで下さりありがとうございました。
2016年12月28日
8話
※細かいところ色々と修正しました。
同年12月31日
全話
※師匠の名前を変更しました。