6話 2度目の
ルークから魔法書なる物を受け取り、居間で読むつもりだったリンだが、以前読んだ絵本の1つ「小さな魔法使いのお使い」が気になるので寝室へ向かうことにした。
だが今いる場所は1階廊下ではなく、2階階段前。
上から見る階段が、身体が小さいせいか吸い込まれるような感覚に陥る。
上がる時は両手も使い1人で登ったが、現在本によって塞がっている両手。
下手をすると転げ落ちてしまう危険性がある。
「子供目線で見ると、階段って怖いんだなぁ」
たかが数段、されど数段。
幼いリンには険しい道のりだ。
過去に転落したことがある人なら分かると思うが、子供や老人にとって階段はとても危険な場所だ。
お風呂場に続き、家の中の危険地帯と言ってもいい。
軽傷なら擦り傷程度で済むが、重傷なら骨折…下手したら死さえあり得る。
「……お父さん…。」
リンはルークを呼び、手伝って貰うことにした。
----------ルーク視点----------
「……お父さん…。」
屋根裏部屋への梯子を将来の子供部屋…元い空室に片付け1階に戻ろうとした所、階段前で不安そうに見上げてくる息子…リンに呼ばれる。
最近のリンは成長が著しい。
他の子ならまだ早いだろうが、この子にはそろそろさっきの1人部屋を与えても良さそうだと妻…ロロアとも話が進んでいる。
そもそもこの子は3年前、生まれてくる時も生まれた後もほとんど手の掛からない子供だった。
まあ、俺は仕事人間だから育児はロロアにほぼ丸投げだが…それでも同僚の話に聞く同年代の子供達と比べると、手のかからなさではずば抜けていた。
他の子と違う。
その事でロロアはかなり心配していたようで、ミオ先生に相談していたみたいだ。
一応
「うちの子は天才だ!」
と言ったりしてあまり気にし過ぎないようにフォローしてたつもりだったが、そこは父親と母親の考え方に相違があったのだろう。
ロロアが相談していたミオ先生とは、俺達が住むこの村…トール村の教会に勤め、シスター兼医者をしている。
シスターは他にも3人いるが、ミオ先生はその中でも人気の人物でリンの出産の時も産婆として手伝ってくれた恩人だ。
以前は帝都サーリスにある魔法学院に通っていたらしく、俺とは違い……いや、その話はよそう。
勉強の甲斐もあるのだろう魔法も使える。
瞳の色はライトブルー。
髪色はピンクで兎獣人種特有の長い耳が頭の中腹から生えている。
本人曰く兎獣人種とエルフ種のハーフで、本来ならば耳は上向きに立っているらしい。
エルフ種特有の横に長い耳はどうなのか聞いたところ、髪をかき上げ見せてくれたがその耳は無かった。
どうやら獣人種の血の方が強く出たようだ。
俺にとっては顔の横に耳がないのが違和感でしかないのだが、その感性は種族ごとに違うのだろう。
そして何より注目すべきはそのスタイル!!
ロロアよりも少し小さい168cmながらも、胸は圧倒的な程の大きさ!!
巨乳好きの俺にはかなり好感が持てる。
お腹から下はその圧倒的な胸のせいで少し太って見えるが、そんなことはなく程良く引き締まっているとのことを耳にした。(他シスター談)
子供好きでお気に入りはリンらしいが、うちの息子はいくら誘惑されようともやらないぞ!!!
話が逸れた。
そう、リン。
リンの話だった。
最初は、ロロアを安心させる為に天才だなどと言っていたが、最近はあながち間違いではないのでは?と思うようになった。
ママ、パパと言葉を話すのが他の子よりも早かったのもあるが、それよりもいつの間にか俺の仕事部屋に潜り込んでいたリンが仕事の書類を読んだのだ。
3歳手前の子供が…だ。
俺もロロアも言葉は教えたが、文字は教えていない。
絵本…勇者の英雄譚巻末の読み書き用の文字で覚えたのだ。
あの絵本が好きで、ペラペラめくり絵を見ているのは知っていたが、まさかそれで文字を覚えるとは思わなかった。
最近は他にも知性があるような行動が目立ってきたことで、本当に俺の子か?と一時疑問に思ったが、俺達の周りにそんな頭のいいやつはいなかったはず。
実家の方の遺伝なのだろうか?まあ、きっとロロアの方だろうな。
そして今日、俺はリンに新しい本を渡す。
この本は魔法書。
限られた人間にしか読めない本だ。
初めはただの本…屋根裏部屋にある英雄譚絡みの小説を渡そうと思っていたが、偶々荷物の中に埋まっていたこの魔法書を見つけた。
見つけた時、これはチャンスだと思った。
俺には読めなかったが、リンならばきっと……。
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「…さん。お父さん?」
リンに呼ばれ、考え込んでいたことに気付いたルーク。
「あ、あぁ…リン。どうした?」
「だから階段降りたいんだけど、両手塞がってるから…。」
「あぁ。なるほど。」
(抱っこか。ふっ…成長早くてもやっぱりまだ子供なんだな。)
口には出さないが、子供らしい反応にルークは一安心する。
自分が子供の時はやんちゃ坊主で、何度も怪我をしたものだと思い返し
(こういう慎重な所もロロア似かもな。)
と1人納得していた。
「…お父さん?」
「ん?あぁ…悪いちょっと考え事してた。」
(それにしても…ずいぶん大きくなったな。…体重も重くなっただろう。)
よし!と気合いを入れ、リンに両手を伸ばすルーク。
そしてそれに答えるよう、頷きながらリンは………魔法書を渡す。
意味が分からず固まるルーク。
「降りる時邪魔だから持ってて。」
「…………。」
想像していたことと違う現実に、非常に悲しそうな顔をするルークだった。
----------リン視点----------
悲しそうなルークの顔を尻目に僕は階段を1段ずつ確かめるように降りていく。
…いやね…抱っこしてくれるのは嬉しいんだよ?
だけどね、僕も自由に歩き回れるようになったんだから自分でやりたいじゃん!
今はまだ3歳だけど、実年齢?は28だし。
だからそんな泣きそうな顔にならないでってば…。
登りと同じくゆっくりと階段を降りた僕は、今度は寂しそうにしているルークから再度本を受け取り、寝室の扉を開け中に入る。
部屋に入り左手、以前ベビーベッドのあった場所を通りほぼタオル置き場と化している本棚に近づく。
そこから今回はよく読んでいた英雄譚ではなく、目的の絵本を取り出す。
小さな魔法使いのお使い。
「よし。じゃあ早速居間で…。」
読もうと言おうとした時、扉の方から声がかけられる。
「リン?お父さんが寂しそうにしてるんだけど何か知らない?」
「し、知らないよ?なんで?」
「そう…知らないならいいわ。それと、お湯沸かしといたから身体拭いてもう寝なさい。どうせ新しい本読み始めたら夜中までずっと読んじゃうでしょ?また明日、ね。」
むむむ。
さすが我が母君。
僕のことをよく分かってらっしゃる。
前もって止められてしまった。
そしてルークはそんなに僕を抱っこしたかったのだろうか?
悪いことをした気になってくる。
「仕方ない…気になるけど明日朝から読むか。時間だけはたっぷりあるし。」
事前に釘を刺されてしまったので、本棚に絵本と魔法書をしまい、その後言われた通り清拭をしてから親子3人仲良く川の字で眠りについた。
…そして翌日朝食後。
相変わらずへこんでいる親馬鹿を天使の微笑みで送り出し、ロロアが後片付けの為台所に消えたのでソファーに座りながら読み始める。
「まずは復習も兼ねて小さな魔法使いのお使いから。」
先日簡単な内容を思い出したとはいえ、乳幼児期は文字を覚える為英雄譚ばかり読んでいたのですっかり忘れてしまった。
「えーっとなになに~…そこは誰も近付かない魔女の森…。」
要約するとこういう話だった。
◇
小さな魔法使いのお使い。
ある街の近く…誰も近付かない森があり、そこは魔女の森と呼ばれている。
その森に子供だけで入ると、魔女に連れて行かれ2度と戻れなくなると噂されている。
しかし本当は魔女などおらず、心優しい魔法使いの親子が森から魔物が出ないように管理している。
街の大人達もその親子を知っているので、子供達を森に行かせない為の嘘の噂だ。
そしてある日、魔法使いの少女が母から街に行くお使いを頼まれる。
そのお使いとは、街にいる母の魔法の先生にある書物…魔法書を届けることだ。
『魔法書』
それは読めば魔法を使えるようになる不思議な書。
だだし、誰でも読める訳じゃない。
魔法の才能がある人だけが読める。
少女は魔法書の話を聞き読みたいと言い出すが、母にはこれを必要としている人がいると諭され諦める。
その後少女はお使いを達成する為、街に向かい昼でも薄暗い森を進む。
時々魔物が現れるが、母に教わった風魔法を詠唱し難なく倒していく。
しかし順調に進んでいたのも束の間…森を抜け街の近くに来た時、辺りの雰囲気がガラリと変わり、普段は現れないゴースト系の魔物が3体出現する。
少女は驚くが、意識を切り替え得意の風魔法を放つ。
しかし全く効いた様子のない魔物達。
自分では敵わないと分かり、森の方へ逃げ出す少女。
だが慌てていて躓き転んでしまう。
飛び散る荷物。
苦痛に顔を歪めながらも、逃げようと顔を上げる少女の目に写り込む魔法書。
起き上がり飛び付くように魔法書を手に取り読む。
すると一瞬にして少女に吸い込まれるように消える魔法書。
吸い込んだ途端、頭にドッと流れ込んでくる記載されていた魔法の情報。
少女は詠唱し、ゴーストの魔物達に覚えた魔法…浄化魔法を放つ。
なんとか退治し改めて街へ進む。
その後、無事街に着いた少女は先生の家で経緯を説明し頭を下げ謝罪を口にする。
暫くそうしていると、新たな客が訪れる。
少女が振り向くとそれは母であった。
訳が分からず混乱する少女に説明する先生。
曰く、あの森に住む魔法使いは、一定の年齢になると魔法書を使い試練をこなすと言うもの。
勿論命の危機には助けが入る状態で試練を行うが、無事に街まで着けたら1人前という話。
その日を境に少女は及第点ながらも1人前となった。
めでたしめでたし。
◇
「あ~…こんな内容だったわ…うん。思い出した。」
読み終え、当時のことを思い出す。
あの頃は確か、魔法書なんて手に入らないからいいやって放置してたんだったわ。
それが今手元にあるからあら不思議!
……と冗談はともかく。
絵本をしっかり読み終えたことにより、いくつか疑問点が出て来たので魔法書を見ながら考える。
その1、本当に読むだけで魔法が使えるようになるのか。
その2、魔法書は簡単に入手出来るのか。
その3、魔法書以外に魔法を覚える方法があるのか。
その4、魔法書は全て同じ物なのか。
その5、誰が作成しているのか。
その6、作成者がいたとしてその目的は?
その1…読んでみれば分かる。
まあ、才能があればの話だけど。
その2…人に聞けば判明するだろう。
革表紙を見るからに高そうだけど、あとでロロアかルークに聞くことにした。
その3…多分あるのだろう。
以前、絵本は全て実話…ノンフィクションだとロロアに教えてもらったことがある。
それが事実だとすると、この絵本の少女は魔法書以外の…正確にはお母さんの師事により風魔法を覚えたはずだ。
その4…この疑問が生じたのは絵本の挿絵だ。
今僕の目の前にある分厚い魔法書と比べると、挿絵の魔法書はかなり薄い。
それこそ地図をくるくる巻いただけのような薄さで、本というのが烏滸がましい程だ。
絵本用に修正した可能性もあり得るが、厚みがあった場合襲われている時に読めるだろうか?
それとも逆に、僕の手元にある魔法書が異質なのか…。
これも後に両親に聞いてみよう。
その5…恐る恐る背表紙を開き1ページ捲ってみたが、作者の名前やサインは無かった。
もしかしたら人が作っている訳じゃないのか?
いや、そう判断するのは早計だ。
詳しい人に話を聞いてみたい。
その6…こちらも同様。
今調べられる手段はない。
となれば……
「………読んでみるしかないかぁ。」
読めるかどうかも怪しいのだが、今出来ることと言ったらそれしかない。
もし…万が一…ダメだった場合、才能が無いってことに…。
それはつまり、異世界転生してるのに魔法が使えないという残念な可能性がある。
………それだけは…それだけは…。
まあこのままうだうだ考えてても仕方ないので、覚悟を決め思い切って表紙を開く。
「ええいままよ!……え?」
表紙を開いて読もうとしたところ手が動かない。
いや…手だけじゃなく、視線も固定されてるのか本から逸らせない。
背表紙から開いた時はそんなことはなかったのに。
これはどちらだろうか?
あるの?
無いの?
リンは混乱している!
すると視線の先、開いていたページが勝手に捲れ魔法書に書いてあった文字が浮かび上がった。
「!?」(なっ…って声も出ない!?)
驚く僕を余所に、浮かび上がった文字は額から頭の中に入っていく。
それはまるで頭の中、脳の中に焼き付くような強烈な痛みを発生させながら。
「!?ーー!!ー!!!」(えっ、ま"っ!?痛い痛い痛い痛い!!事故った時より痛いんですけど!!!)
しかし相手は人ではない魔法書。
待ってくれ、止まってくれと願っても続けて頭の中に入ってくる。
しかもまだ1ページ目。
開いているページの文字がなくなると、触れていないのにまた勝手に捲れ、再び文字が浮かび上がり入ってくる。
魔法書を開いてからどれほど経っただろうか。
その後も順調に捲れ、浮かび上がり、入る、激痛、の行程が魔法書の半分程まで続いた頃
(あ、これもうあかん。死んだ。)
痛みの限界を迎え、僕はこの人生2度目となる気絶をした。
更新予定日より遅くなり申し訳ありませんでした。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
2016年12月24日
4話
※特長を特有に変更しました。
※獣人種が出てきた絵本を3冊から2冊に変更しました。
5話
※ルークがリンは字が読めない。とハッキリ言ってしまっているのを、曖昧にしました。
6話
※誤字脱字を修正しました。
同年12月26日
5話、6話
※1歳半では色々と無理があるので、3歳まで成長させました。