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5話 子供にとってはロマンです






 あれから2年半。

 間もなく3歳になる。



 あの後…ミオとの面談後が大変だった。

 初めてママと呼んだことをロロアがルークに話したことで


 「ロロアだけずるい!俺もパパと読んで!」


 とずっと…それこそ仕事以外の時間、ルークが家にいる間はずーーっと僕に付きまとって来た。

 最初こそは呼んであげようと声を出していたのだが、なかなか呼べず


 「まだ無理なのか…。」


 と、ルークを落ち込ませてしまったのだが、次の日の朝から仕事に行く直前まで


 「パパだよ!パーパ!はい!パーパ!」


 仕事後、帰宅してから寝るまで


 「リン~パパのお帰りだよー!はい!パーパ!パーパ!」


 そしてまた翌朝。

 その日は仕事が休みなのか、朝から昼食後ソファでゆっくりしてる時まで…


 「リンー。今日のパパのご飯はパリッとした焼きたてのパンだぞ!リンも今度からパパと一緒にパリパリのパン食べるか?あれ?そういやパパのパンツはどこにあったかなー?パパのパンツパパのパン」

 (勘弁してよパパン…。)

 「ルーク!いい加減にしなさいっ!!朝から晩までグチグチグチグチと…リンが嫌がってるでしょうが!!」

 「そんなこと言ったって……ヒッ!?」

 「ウッ!?」(ヒエッ!?)


 そろそろノイローゼになるんじゃないかと思い始めた時、ロロアがキレた。

 初めて怒ったところを見た。

 普段温厚な人ほどキレたら恐ろしいとは言うが、あれこそまさに鬼の形相だと思った。

 いやー…昔の人は上手いことを仰る。

 怒られているのは僕じゃないんだけど、あまりの恐怖にアップに纏めている髪が揺らめいている錯覚を起こし、般若の仮面が見えた気がしたもん。

 その姿を見たことで、まだ幼い(リン)息子(リン)がヒュンッてなったしね。

 あれを見ても泣かなかったのは奇跡かもしれない。

 いや、寧ろ涙腺も縮み上がっていたのかも…。

 今思い出すだけでも恐ろしい…。

 怒られている当の本人(ルーク)といえば、足が震え若干涙目になっていた。


 「だいたいルーク!あなたは冒険者だった時からそうよ!依頼が上手くいった時も調子に乗って!私やパーティーメンバーがどれだけ迷惑をかけられたか!それから私を口説く時も!前は人のこと貧乳貧乳とバカにしといて、胸が成長した途端見事な掌返し!いつまでも私の周りをウロチョロウロチョロと…しかも1日だけならまだしも何日も何日も…!あの時も怒ったわよね私!まだ反省してないの!?」

 「は、ハイィッ!すみませんでしたっ!!」


 ルークは座ってたソファから飛び降り床に土下座。

 僕はそれを見て


 (あ、この世界にもあるのね、土下座…。てか、やけに男と胸に反応してた原因ってやっぱりパパンかよ…。)


 とどうでもいいことを考えていた。



 それから1時間弱だろうか、細かいことでストレスが溜まっていたのであろうロロアが過去のことで怒っていたが、来客(ミオ)により沈静化。

 嵐は通り過ぎたのだ。

 ミオ曰く、他の新米ママさんの巡回中にお土産を貰ったから、僕の顔を見るついでにお裾分けしに来たとのこと。

 なんて素晴らしいタイミングで来てくれたのミオ先生!

 あなたが救世主(メシア)か!

 その日は子供好きなミオの為に、いっぱい笑顔を振りまいておいた。

 そのおかげか、僕もあのお山…マウンテン様に包まれ役得だったが…片やルークは脚を痺れさせていてそれどころではなかったらしい。



 まあ、そんなことがあった翌週には無事?パパと呼べ、ルークも喜んでいたけど…記憶にあるのは怒ったロロアの顔。

 ………超~~怖かった!!

 ロロアだけは怒らせたらいけないと心に誓った。





 その後、僕も成長しつかまり立ちや独り立ち、更に言葉が喋れるようになった時も親バカ2人で一騒動あったのだが…そこは割愛。







 そして現在、僕は悩んでいた。

 やることがないのだ。

 しかし時間はある。

 それはもう腐るほどに。



 何故やることがないのか、それは絵本に書いてある文字の読み書きをもう完璧な程理解しているからだ。

 もちろん絵本だけで学んだ訳じゃない。

 家にあったルークの仕事関係の書類…報告書なのだろう。

 犯罪件数や犯人の住所っぽいもの、死亡者の名前などが事細かく書かれているのを覗いて見たりもした。

 分からないところはルークに質問し、教えて貰った。

 そのおかげもあり、今は単語だけじゃなく文法もぱっちりだ。


 さて話を戻そう。

 やることがなく手持ち無沙汰のこの状態。


 しっかり歩け、言葉も喋れるようになったが、未だ僕の年齢は3歳。

 ちゃんとした親ならそんな子供に外での自由行動を許す訳もない。

 なのでもっぱら庭か家の中を探索しているのだが……。


 「何もない…。」


 そう、笑ってしまうほど何もない。

 生活必需品である物…油や固形石鹸、洗濯板などはあるのだが娯楽品又は趣向品が一切見つからない。


 ルークは仕事人間で家にいることが少なく、休みの日でも剣術の型なのだろう、朝からトレーニングをしている。

 ロロアも家にはいるとは言え、1日中家事にかかりっきり。

 時間が出来ても、僕の相手や趣味のお菓子作りに精を出す程度。

 不必要な物が見当たる訳ないのだ。


 ルークロロア宅は木造建築の庭付き2階建てで、1階には今僕のいるLDKっぽい居間が1つ。

 居間から廊下に出ると右手に玄関。

 玄関から外に出ると大人2人いても大丈夫な広めの庭で、ロロアの趣味の花壇も置いてある。

 色鮮やかな花がたまに吹く風で揺れている。

 そして廊下左手には2階に上がるための階段。

 廊下を挟んで向かい側に夫婦の寝室兼僕の寝室。

 その隣にトイレがある。

 トイレは汲み取り式…通称ボットン便所だった。

 放置しとくとかなり臭いはずなのだが、ここのトイレは1度も臭いと思ったことはない。

 ルークやロロアがこまめに処理してるのかな?

 トイレの隣、もう1つの部屋はルークの部屋になっている。

 ここに報告書類があって覗き見ていたのだ。

 書類があるってことはそれなりの立場なのかな?


 そして残念なことにお風呂は無かった。

 まぁ…今までずっと水浴びや清拭でやってきたから、無いんだろうとは思ってたんだけどね。

 僕も元は純日本人。

 やっぱりお風呂がないと分かるとショックだよ。

 そもそも、この世界にお風呂はあるのだろうか……いや、諦めるのはまだ早い。

 異世界から勇者が来ていたという話があるぐらいだし、きっと何処かにはあるはずだ!

 見つけさえすれば勝つんです!諦めたら負けなんです!



 階段を上り2階へ行くと端まで続く廊下があり、その左右に複数部屋がある。

 1室はロロアの部屋で残りの部屋は空室になっている。

 その内、子供部屋にでもするのだろう。

 3人家族の家にしてはだいぶ広いんじゃないだろうか?

 よっぽど冒険者時代に稼いだのか。


 「それにしたって無さ過ぎない?」


 せめて書斎でもあれば本があり、時間を有効に使えるのだけど…。

 まぁ、無い物ねだりしてもしょうがない。

 ここはあれだ。

 素直に知ってる人に聞こう。


 「ねぇ、おかーさん。」

 「なぁに?リン。」

 「うちには絵本以外に本ってないの?」


 家のことを1番よく知っているであろうロロア。

 ルークはほら…今は仕事行っていないし、いても本とか読むより肉体派(脳筋)っぽいし…ね?一応報告書とかはあったけど……ね?


 「絵本以外の本?そうねぇ…物置になら何かあるかもしれないけど…。でも見つけてもリンにはまだ読めないんじゃない?」

 「勇者さんの絵本で勉強したから大丈夫だと思う!ダメだったら仕方ないけど…っていうか、家に物置なんてあったっけ?庭?でも庭にあるのはお母さんが育ててるお花だけだし…。」


 読めないと言われるであろうことは前もって分かっていたので、勇者の英雄譚を引き合いに出し試してみたいとせがむ。


 (しかし物置か…そんなのあったっけ?)

 「そういえばリンはずっとあの本を読んでたわね。懐かしいわ…。それがこんなに大きくなって言葉も…。」

 「お、お母さん!それより物置!物置どこ!?」


 親バカスイッチが入りそうだったロロアに、僕は慌てて話しかけ気になった場所を聞く。


 「え、えぇ、そうね。物置は上にあるのよ。」

 「上?でも、2階には何もなかったよ?」

 「ふふっ。2階じゃなくてもっと上。屋根裏部屋よ。」

 「屋根裏部屋!」


 予想外の言葉に前のめりになる。

 だって屋根裏部屋とか子供みんな好きだろ?

 子供のロマンがあるじゃん?

 そして真っ黒くろすけ出ておい……あれは屋根裏部屋じゃなかったっけか?

 ダメだ思い出せん。


 「やっぱりリンも好きなのね。いいリアクションが見れたわ。」


 クスクス笑いながら告げるロロア。

 ちょっと恥ずかしくなったが、子供なんだからいいだろう?


 「じゃあ、危ないからお父さんが帰ってきたらお願いしてみましょ。」

 「うん!」




 ルーク帰宅後、夕食。

 成長したことでもう既に乳歯が生え揃い、今は家族全員同じ物を食べている。

 今日の夕食は野菜と干し肉(湯で戻してある)の炒めものと、野菜の切れ端スープ、パン、サラダだ。

 食後に桃のようなデザートもある。

 スープは干し肉を戻した湯で、野菜が溶けるまでじっくりことこと煮込んであるからか僕でも食べやすい。

 が、パンは少し固いのでスープに浸して食べる。

 デザートの桃…のようなものは、少し酸味が強いが口の中をサッパリさせてくれる。


 「屋根裏部屋?あー…そういや、いくつか荷物を突っ込んでおいたっけ。」

 「そう、その中に本があったはずだからリンに渡そうと思って。」

 「そうは言ったってお前…リンはまだ字読めな…あー。」


 食後。

 ルークに昼間のやりとりを説明する。

 ロロアと同じように読めないことを気にしているが、同じ説明をし取って貰えることになった。



 2階へ上がり、廊下の端。

 天井をよく見ると開けそうな所がある。3歳の身長じゃ気付かないって…。

 ルークはすぐ近くの空室に入り、中から梯子を持って出てくる。


 (さすがに前世の様なスライド式収納の梯子はないか…。)


 とガッカリしたが、それでも屋根裏部屋に変わりはない。

 梯子を使い、下から押し上げるようにして板を外す。

 そして外れたところに梯子かけ、上っていくルーク。


 「お父さん!僕も入りたい!!」

 「あ、ダメだダメ。危ないからもう少し大きくなってからな。」


 まぁ、そうだろうね。

 仕方ないので暫く待つことに。

 すると、窓でも開けたのだろう。

 上からバカンっと音がした。

 それから5分程だろうか、ルークが咳込みながら降りてくる。


 「ゴホッ…結構埃っぽくなってたな…。たまに換気しとくか。ほら、リン。本あったぞ。」

 「ありがと!お父さん!」


 頭に着いた埃を落としながら、渡してくるルーク。


 「重っ!?」


 受け取ったが予想以上に重かった。

 しかも分厚い。

 落とさないように両手でしっかりと抱え、表紙を確認する。

 タイトルは書いてないが、革表紙でかなり立派だ。


 「高そう…。」

 「それは実家から持ち出したやつだな。結局使わずそのまま埃被ってたが。」

 (実家?もしかしてルークはどこかのお偉いさんの息子とか?)

 「……ん?本を使う?」


 それはあれだろうか…。

 広辞苑とか六法全書の様に物理攻撃として相手の頭をかち割る…


 「それはな魔法書なんだよ。」

 「なぬ?魔法書…。」


 違った。

 魔法と聞き、3冊の絵本を思い出す。

 その中の1冊が確か…


 「小さな魔法使いのお使い…。」


 内容は…どうだったか。

 確か、魔法使いが自分の娘に街へお使いに行かせ、街に住む魔法使いの先生に本を渡してくるって話だったような…。

 で、その渡す本が今会話に出た魔法書。


 「ん?リン?どうした。」

 「ううん。なんでもないよ。ありがとお父さん。これ読んでみるね。」

 「おう、頑張れ。読めたら教えてくれな。……多分読めないと思うが。」

 「うん?」


 最後の方の言葉は小声でよく聞こえなかった。










 なんとか2日以内に更新できました。


 ここまで読んで下さりありがとございます。


 2016年12月18日

 ※サブタイトルに5話が抜けていたので追加しました。

 ※魔法を魔術と書いていたので修正しました。






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