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11話 予想以上だったとか






 「男女の幼馴染みというのはね、単なる知り合いじゃないの。出逢うべくして出逢った運命の2人なの。」

 「だからユイちゃんと早く会わそうとしてたんですね…。」

 「だって幼馴染みだよ!幼い頃から一緒に育った2人が困難を乗り越え結ばれる…凄いロマンチックじゃない!分かるでしょ!?」

 「僕3歳なので分かりませーん。」


 バシバシとテーブルを叩きながら力説するニニの話を、適当な相槌を打ちながら聞いている。

 ミサ終了後の朝食時、ニニによる、幼馴染みというステータスはとれほど重要なのか!という説明を一方的に受けていた。

 どうやら彼女はそういう物語が大好物で、時間のある時はよく読んでいるのだという。


 「そして狙い澄ましたかのように、同い年の少年少女が私の目の前に揃ってる…これはもう私にくっつけろって言う神様の思し召しとしか!!」

 「は~い。妄想はそこまでにしてさっさとご飯食べなさ~い。いい加減にしないと~あとでお仕置きしちゃいますよ~。」

 「はひっ!?…や、やだなぁ…冗談だって…。本気にしないでよミオー。」


 途中から笑顔でどす黒いオーラを醸し出して威圧してくるミオ。

 まじ怖い。

 そしてどんなお仕置きなのか見てみたい気もする。


 「全く…リンさんも困ってるではないですか。そんなんだから男も出来ないんですよ。」

 「あんたにだけは言われたくないわよシール!」

 「私は敢えて作らないだけです。しかも、そんな事の何が神様の思し召しですか。神に対する侮辱ですよ。」

 「はんっ。シールみたいな可愛げも無いお堅いのを嫁に貰ってくれる人なんてどこ探してもいないわよ。あ、ていうか、あんただって昨日リンくん困らせてたじゃん!人のこと言えないじゃん!」

 「はて、何のことでしょうか?」

 「シール、ニニ…リン君とユイの前で喧嘩すんの止めてよ。教育に悪い。」

 「お母さん、私リン好きじゃないから大丈夫だよ。」

 「何気に酷いねユイちゃん!?」

 

 シールさんの毒により、また別の意味で火が点くニニ。

 しかもこのやり慣れてる感から察するに、いつものことらしい…僕の中のシスターのイメージが悉く崩壊していく。

 そしてユイちゃんには何故嫌われてるのか分からないんだけどぉ…。


 「ふ~た~り~と~も~?」

 「「………。」」

 「全く~毎朝毎朝いい加減にして下さいね~?」


 漸く静かにご飯を食べられると言いつつ、パンを手に取り口へ運ぶミオ。


 「それを言ったらミオさんも遅刻はいい加減にして下さいね?今月3回目ですから。」

 「ウグッ」


 カナさんの容赦ない一言に喉を詰まらし、慌ててコップに注いであった水を飲む。


 「…ふぅ~…急に言わないで下さいよカナ~。私の真面目なところが台無しじゃないですか~。」

 「ごめんなさいね。でも事実ですから。」

 「それはそうなんですけど~…あ、そう言えばリン君もミサに参加したんだよね~?どうだった~?」

 「あ、話逸らした。」


 ミオの明らかな話題転換に反応するニニをスルーし先刻までの事を思い出す。




 あのユイちゃんとの徒ならぬ雰囲気の対面後、すぐに真面目モードのミオが入堂し祭壇についてミサが始まった。

 ニニとカナ、シールさんがミオの傍らに控えに行った為、ユイちゃんと僕は並んで座っている。

 と て も 気まずい。


 どうやら、ミオは司祭?も兼任しているみたいだ。

 まあ、元枢機卿って言ってたし可能なんだろうけど…何故3人と同じ修道服なのかと問い質したい。

 今はツッコめる雰囲気ではないが。


 ミオが入祭唱(聖歌を歌う場合もあるとのこと)を唱え始めると、直前までの和気藹々と話していたのはどこへやら、しんと物音1つしなくなる。

 そのあまりの変わりように、唱えているミオ以外の教会全てが凍りついたような感覚に陥る。

 そう錯覚してしまうまでに、この教会に集まった人々は真剣に祈りを捧げているのだ。

 チラッと隣を見るとユイちゃんも目を閉じて祈っている。

 1人だけアウェー感が半端ない。


 そもそも日本生まれ日本育ちの僕にとって、宗教はクリスマスを除いて無関心以外の何ものでもない。

 寧ろ宗教絡みの犯罪が多数起こっていたことから、

 教会に赴く人≒心を病んだ人≒犯罪者予備軍

 とまで思っていた程だ。

 これは全て僕の偏見なのだろうが、実際に参加せずニュースなどのマスメディアでしか情報を得ていない者にとっては、その偏見が真実になってしまうのも仕方ないだろう。

 勿論、そういう暗い面もあることは事実であり、問題となっているからこそニュースになるのだが。


 そしてアウェーの僕を残し淡々とミサは進行する。

 だが、この教会の神聖な空気を肌で直に感じたからか、地球と違いこのレティの人々にとって礼拝という行為はとても重要なものだということは理解出来た。

 まあ、だからといって僕も礼拝するかというのはまた別なんだけど。

 そもそもこの世界に神はおらず、宝玉によって成り立っているって話だしね。




 そこまで思い出してミオの質問に、神や宝玉の話はここでは出さない方がいいだろうと考えてから答える。


 「そうですね…。神様云々は会ったこと無いのでよく分かりませんけど、ここに来る人達にとって礼拝するという行為は欠かすことの出来ない大切なものだっていうのは感じました。それこそご飯を食べる、働く、眠る、みたいに。」

 「うん。宗教を否定せずにそこを理解してくれてるなら嬉しいな。また機会があれば参加してね~。」

 「はい。」

 「「「…。」」」


 返事をした後、シスター達に注目されていることに気付いた。


 「な、なんですか?」

 「いや、さっきミオが弟子にしたって聞いた時も耳を疑ったんだけど…リンくん本当に3歳なの?弟子にしたってこと以上に信じられないよ?」

 「ニニに同じくです。」

 「私はユイがいるから尚更そう思うわね。」

 「あはは…。」

 「…。」


 今は笑って誤魔化すけど、こればかりは早く大人になるしかない。

 それと無言で見つめてくるユイちゃんの視線が痛い。



 食後、迎えが来るまで自由にしていていいとミオに言われたので中庭に来ている。

 本来ならば片付けや掃除など手伝うべきなのだろうけど、いくら知人になったと言え、やはり女性ばかりに囲まれるのは疲れてしまう。

 よく異世界転生物の話では、主人公がハーレムを作り皆と仲良く過ごしている描写を見掛けるが僕には無理だ。

 美希の時ように1人を愛すのは出来ると思うけど、それも今の女性不信が治らない限りは難しいだろう。


 「はぁ~…。」


 1人になったことで思わず溜息が零れる。

 女性関係もそうだけど、昨日の話だ。


 過去の勇者…梧桐愁と梧桐ユイ(漢字は不明)ともう1人が果たした邪神討伐。

 それは500年程前に無事解決したが、新たな問題が発生している可能性があるという。

 でなければ、僕がこの世界に転生することはなく地球で死亡し終わっていたはずだったからだ。

 とするならば、やはり僕が次代の勇者として問題解決するしかないのだろうか…。

 ……………気が重い。

 ていうか、勇者とか嫌だ。

 僕のキャラじゃない。

 そもそも僕は平々凡々な一般ぴーぽーである。

 寧ろ高卒だから大学でちゃんと勉強した人達よりも知識も少ないし、創作物のようなチートがある訳でもない。

 いや…確かに魔導本による後付けの力ならあるが、これも未知数な部分が多い為期待するのは危険だ。

 万が一だが、使えなくなるなんて事もあり得る。


 宝玉の記憶によると、魔導本は勇者召喚された時に十何冊かを創り出したとあった。

 今回僕が得た魔導本の他にも数冊残っている可能性はあるが、勇者達が使用している為それも極めて少ないと思う。

 こういう不明なことが多い場合、最悪なケースを考えて置いた方が咄嗟の対応が出来ると社会人になってから学んだことだ。

 もちろんそうならないように対策を取るのが1番ベストなんだけど。


 中庭の花に触れながら1人悶々としていると、廊下側の扉が開かれ草を踏む足音が聞こえてきた。


 「…ユイちゃん。」

 「…何してるの?」

 「…考え事。」

 「ふーん。」


 会話終了。

 そしてそのまま何事もなくロロアが迎えに来て教会を去った。




 ハッ!?…いやいやいやいや!

 それで終わらせたらまずいでしょう。

 あまりの居たたまれなさに妄想の中で終わらせてしまった。

 ニニの言うように将来夫婦とかはならなくてもいいけど、今生で初めての同年代の子なんだから友達にならないと。

 …前世でもそんなに友達いなかったけどね!


 「…お花好きなの?」


 おっと、予想外に向こうから近付いてきて話しかけてくれだぞ。

 それに何だか目が優しい感じ…少し前までは明らかに敵を見るような目だったのに。


 「え?う、うん。嫌いではないかな。うちでもお母さんが育ててるし。可愛いよね。」

 「うん。私はね、この花が好きなの。」


 そう言うとユイちゃんは鈴蘭のような真っ白な花を指さす。

 ていうかこれ、まんま鈴蘭じゃね?

 確か鈴蘭は春に咲く花だったはず…なら、今の時期は春なのかな?


 「小さくて可愛いの。」

 「鈴蘭みたいだ。」

 「スズラン?」


 また口に出てしまった。

 口元緩いのかな。


 「えっとね…これと似た花を、人に借りた本で見たことあるんだ。勇者の世界の花なんだって。花言葉もあったはず。」


 若干苦しい言い訳だけど、何とか誤魔化そう。


 「勇者様の…花言葉って?」

 「えーっと…確か…花に意味を持たせて、相手に送る為に付けられた言葉…だったと思う。」

 「意味を持たせる?」

 「うん。花をプレゼントする時に花に付けられた言葉も贈るっていうのかな。例えば好きな人に贈る花を選ぶ時には、あなたのことが好きです、一緒にいたいですって言葉が付いた花を贈るとか。仲良くしたい人には友情って言葉が付いた花を贈るとか…らしいよ。」


 かなり曖昧だけど、以前ぐー○る先生で調べた時にそんなことが書いてあった気がする。

 調べ始めると止まらなくなったりするんだよねあれ。


 「へー…じゃあスズラン?の花言葉って?」

 「え?この花、鈴蘭じゃないと思うけど…うーん…ちょっと待ってね…今思い出すから…。」


 子供相手に変なこと言い出すんじゃなかったな。

 余計苦しむことになってしまった。

 …うーん…何だったかなー…日本と西洋でまた違ってた気がするんだけどなー………確か…


 「再び幸せが訪れる…優しさ…純粋…だったと思う。」

 「3つもあるの?」

 「確か…だけどね。僕もよく覚えてないんだけどさ。」

 「再び幸せが訪れる…これお母さんにあげたら幸せになる?」

 「え?うん。幸せになれますようにって事でもあると思うから多分ね。」


 何とか捻り出したけど、そこまで責任は持てん!

 すると鈴蘭によく似た花を1房だけ摘み取り、走り出したユイちゃん。

 おさげがぶんぶん揺れている。


 「どこ行くの?」

 「お母さんのところ!」


 そう言うと廊下の方へ一目散に走って行き、再び1人になった。

 どうやら彼女はお母さん大すきっ子らしい。

 初めの彼女の印象は刺々しかったが、あれが本来のあの子の性格なのかもしれない。

 そして少しするとまた走って戻ってきたユイちゃん。

 走ったからか少し顔が赤い。


 「おかえり。」

 「…ただいま。」


 そう言いながら先程よりも僕に近付いてきて隣にしゃがみ込む。


 「どうだった?」

 「お母さん喜んでた。」

 「そっか、良かったねユイちゃん。」


 いい笑顔で答えるユイちゃん。

 すると


 「ユイ。」

 「え?」

 「ユイちゃんじゃなくてユイでいい。」


 これは…あれだろうか?

 親愛度?が上がったってやつなのだろうか?

 呼び捨てを許されたって事はそういうことだよね?

 固まっていると、初対面の時と同じようにじっと見つめてくるユイちゃん。


 「ユ、ユイ?」

 「うん!」


 満足したのか、さっきの笑顔よりもいい満面の笑顔で答えるユイ。

 ほぉー…子供ってこうやって仲良くなるんだなぁと改めて感心してしまった。

 …25年も前だもの忘れちゃってても仕方ない。

 その後、家族の話やユイのご近所さんの話などで盛り上がり、正門の方からカナが呼びに来るまでずっと話し続けていた。


 「あ、ここにいたの。リンくーん!ロロアさんが迎えに来たんだけど…あら。随分と仲良くなったみたいね。」

 「うん!リンと友達になったの!」


 うふふと笑うカナに飛びつき、釣られてニカッと嬉しそうに笑うユイ。

 中庭の花も映えているので絵画のようなシーンだ。

 カメラがあったなら撮りたいぐらいに。

 暫くその光景を見ていたかったが、


 「リン!」


 と呼ぶロロアの一言と抱きついてくる勢いで顔を塞がれる。


 「ヴ…!」

 「あぁ、リン!会いたかったわ!昨日はもう寂しくて寂しくて!身体はもう大丈夫?痛いとこない?待ってて今回復魔法で治してあげるからね。『神に捧げし我が力、天の息吹、地の躍動を糧とせよ。彼の者に与えられし傷を、穢れを癒やし、いま再び立ち上がる力を与えん。キュアヒーリング』よし!これでいいわね?さあミオ先生に挨拶して帰りましょう。」


 …詠唱長くね?


 ピコン×4


 うそん!!?


 「ちょっ!?ちょっと待ってお母さん!」

 「何?」

 「と、友達出来たから、そっちにも挨拶したいんだけど。」

 「友達?」


 そう言うとロロアはカナ、ユイ親子に今気付いたかのように視線を向ける。

 その隙に魔法リストを表示する。


 『魔法リスト…6件』


 『火種』new

 『浄化』new

 『ヒール』New

 『ヒーリング』New

 『キュア』New

 『キュアヒーリング』New


 ……………。

 ……………。

 ……………うそん…。

 ちょっと待って…教えてほしい。

 魔法リストを更にkwsk(くわしく)とか出来ないの?

 いくら念じても開かないんですけど!

 しかも火種とかももう見たのに、newって小文字表記になってるんですけど!?


 「リン?リーン?」

 「へっ?」

 「どうしたの?お家帰らないの?」

 「あ、う、ううん。帰るよ。それじゃあまた今度ね。カナさんもお世話になりました。」

 「うん!またね!」

 「はい。またねリン君。」


 いつの間にか済ませていた親同士の挨拶後、2人に別れを告げロロアに手を引かれながら家に帰る。

 未だに混乱しているが、明日また教会に来てミオに確認してみよう。




 一方、僕とユイをくっつけようと策謀していたニニは


 「仲良くなる重要なシーンを見逃した………!!!」


 と、1人ショックを受けていたとシールに聞いた。










 ここまで読んで下さりありがとうございます。




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