10話 ユイ・アオギリ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
そして相変わらずのおっぱい話&更新遅くなり誠に申し訳ありませんでした。
翌日、空が白んできたと言える程になった薄暗い部屋の中目覚めると、横には目のやり場に困ってしまう程衣服のはだけた女性が気持ちよさそうに眠っている。
「…ってシチュエーションなのに全く嬉しくない。」
そりゃ昨日はマシュマロのように柔らかく包み込む感触や、花のような微かな香りにドキドキしていたのだが、1人先に眠ったミオはそれはもう酷かった。
自慢の武器?であるあの胸で、のし掛かって窒息させようとするわ、抱き締めて窒息させようとするわ…何度別の意味でドキドキしたことか。
もう2度と一緒に眠りたくない。
「もしあるなら、真っ先に相手を麻痺させる魔法を覚えたい…。」
こんな事に魔法を使うのもどうかと思うのだけど、命の危機がある以上仕方のないことでもあると思う。
「そうだよ魔法書…じゃない魔導本…。」
昨日は色々ありすぎたせいで、魔導本の効果を確認し忘れていた。
主に原因は隣で眠っているこの人なのだが…。
確認する方法は昨日の本で魔導のことを念じれば一覧が出てくると書いてあったはず…。
「おっ」
すると眼前30cm程、スクリーンに映写機で映すように空中に『魔導リスト…4件』と文字が浮かんでいる。
まるでメールの添付ファイルみたいだ。
どうやら1つだけではなく4つ覚えたらしい。
まあ、あの分厚さで1つだけだったら文句も言いたくなるが。
試しに空中に浮かぶ文字に触れようとするも、指はそこには何もないと引っかかる感覚すらなく空を切る。
「さすがにタッチパネル機能はないか。」
前世の記憶がある分、こういうものはタッチ出来ると思いこんでしまった。
ならばどうすれば開けるのか考える。
昨日ミオが読んでくれたあの本には脳内に焼き付けると書いてあった。
とすると、実際には文字は空中に浮かんでいるのではなくて、脳によって視覚させられているのでは?
だと仮定すると、頭で開くように念じれば…
「…あ、やっぱり。」
『魔導リスト…4件』の文字が消え、新たな文字が出現する。
『魔法親和性 EXTRA』New
『魔力増大 EXTRA』New
『詠唱破棄』New
『 』N2%b
「……………は?」
…え?あ、うん…え?
…ちょっと待って欲しい。
何よEXTRAって。
それと詠唱破棄?
それって無詠唱ってことだよね?
確かこの世界の魔法は詠唱するから発動出来るとか言ってなかったっけ?
あれ?違った?
しかも最後の空白何これ怖い。
Newの字もバグってるし…。
やめてよー…。
17、8とかの高校生なら、うっひょーなにこれ!みたく反応できるけど、28のアラサーにもなるとね、色々と保守的になるのよ。
そのアラサーに測定不能を渡すとか何考えてんの?
レティシアさん?報連相をしっかりするのは社会人として当然の事なのよ!
あ、そもそも人じゃないか。
………はい。
しかも僕も忘れてましたごめんなさい。
連絡してなくて警察訪ねてきましたね、そういえば。※1話参照
予想以上の魔導本の効果に混乱するも横に視線を向け、とりあえずこのぐっすり眠っている人が起きたら相談してみようと思い落ち着きを取り戻す。
…改めて思うが、相談出来る相手がいるっていうのはとても心強い。
今までは転生者という秘密を抱え、誰にも相談出来ず1人で考えなければならなかった。
過去に同じような例(勇者は転移)があるとはいえ、こちらは1人。
いくらぼっちに慣れているとはいえ、世界で1人だけという現実はどうしようもない苦しみがある。
それが無くなっただけでもこの意地悪な師匠に感謝するべきなのだろう。
すると自分のことを考えていると感じたのか、はたまたまだ寝ぼけているのか再び抱きついてきたミオ。
「う~ん~…リンく~ん。」
「…これさえなければ。」
朝日が燦々と輝き鳥の囀りが聞こえてくる頃、漸くミオが目覚め拘束から解放される。
「おはようございます~リンく~ん。よく眠れましたか~?」
「…はい。おはようございます。いえ、全く。」
僕の返事を聞き、え?何で?と言う顔をする。
「魔導本の辛さはかなりのものらしいので~ちゃんと寝なきゃだめですよ~。」
「……。」
内心「誰のせいだと思っているのか!」と朝から叫びたい衝動に駆られるも、社会人として働き出した当初の理不尽な上司を思い出し言葉を飲み込む。
懐かしい。
僕はキレやすい若者ではないのだ。
「それより師匠、早く着替えてきてください。朝の準備があるんでしょ?」
昨日の師匠命令の後、着替えていないことに気付いたミオは慌てて自室に戻り、ふんわりとした可愛らしい薄手の寝間着に着替えて来た。
それを見た時は、年齢不詳なのにいつもそんなのを着ているのか?と思ったが口にはしない。
人は学習する生き物なのだから。
「そうですね~では着替えて来ます~。あ、その前に寝汗もかいただろうから、リン君には浄化をかけちゃいましょ~」
「浄化?」
「はい~。これはお手洗いの臭い消しや、部屋の掃除にも使え、身体にかければ清拭もいらないんですよ~。便利ですね~。」
「……だったら昨日のも必要なかったのでは?」
「いいえ~。あれは師弟関係を円満にする為にも必要なことなの~。それにいくら浄化で綺麗になっても、拭いた時の気持ち良さは無いですから~。」
「はぁ。分かりました。じゃあその浄化をお願いします。」
上手く丸め込まれたような気がしないでもないが、この人には口でも勝てそうな気がしないので早々に諦める。
にしても、トイレの臭い消しまでとは…。
だから以前気になった自宅のトイレも臭わなかったのか。
「じゃあ行きますね~…『汝、穢れを払い全てを清めよ 浄化』…はい。これで大丈夫です~。ね、清拭後のような感じがしないでしょ~?」
ミオが集中し、予想していたより短い詠唱をした途端、僕の身体が優しい光に包まれた。
確かに綺麗になっているような感覚はあるのだけど、聞いたとおり清拭やお風呂などのサッパリとした気持ちよさは無い。
ピコン。
「ん?」
「どうしました~?何か違和感でも~?」
「いえ、今なんかピコンって音が…。」
「……。」
「師匠?」
「リン君。魔導リストの確認はしました?してあるなら、魔導リストを求めるように、魔法リストもあるので求めてみてください。」
「え、あ、はい。」
急に真面目モードになったミオに言われるがまま、魔導リストの時と同じく魔法リストと念じる。
すると
『魔法リスト…2件』
と表示された。
「どうですか?」
「表示されてます。2件って。」
「やっぱり…え、2件?」
「開いてみますね。」
再度魔導リストの時と同じく、開くように念じる。
『火種』New
『浄化』New
火種?ああ、そういえば昨日ミオがランタンに火を灯した時にも、さっきのピコンって音が鳴ってたな。
誰も反応しないから気のせいだと思っていたけど、どうやら魔法を覚えた時に鳴る音らしい。
「リン君どうでした?」
「はい。昨日の火種とさっきの浄化が出てますね。」
そう言い、右手の人差し指に火を灯す。
指先1cmぐらいの間隔を開け、ライターで点けたような小さな火が揺れている。
左手をその小さな火に翳してみるとちゃんと暖かい。
「へぇ~。こんな感じなんだ。」
ちょっと感動だ。
小学生の頃、木を一生懸命ゴリゴリと削り、摩擦で火種を起こす動画を見たことがあり感動したものだが、それとはまた違う感動がある。
「師匠点きましたよ!…師匠?」
出来たことを子供らしく自慢げに伝えてしまったがミオからのリアクションはない。
ちょっと寂しい。
「適性だけでなく詠唱破棄まで…。」
いや、バッチリリアクションしてた。
てかこれ、多分ダメなやつだ。
ミオ先生が見たことない顔してる。
「師匠~…ミオ先生~…ジルベルトさ~ん……おっぱい魔人~…」
「………。」
呼び方を変えて何度も呼ぶが反応はない。
僕の指先の火を見たまま固まってるので、消えろと念じながら指を振り消してみる。
ちゃんと消えた。
今度点けるときは指パッチンで点けてみるか。
いや、やめよう…それはもっと大きな殲滅魔法を覚えた時にしよう。
指パッチンで指先に小さな火を点けるところを想像したらかなりシュールだった。
消したことで気が付いたのか、ミオがこちらに視線を向けてくる。
「師匠?大丈夫ですか?」
「え、えぇ…ちょっと驚きましたがなんとか。」
ちょっとって顔じゃな(以下略
「…リン君。昨日もお話しした通り、魔法とは本来誰かに師事して貰い、年月をかけて詠唱することで使えるようになるんです。だからリン君のように1回見て使えるようになるのは異常です。しかも勇者と同様の詠唱破棄まで…。私でも出来て詠唱を省略するぐらいですよ?」
「いや、そう言われましても…。」
「…そうですね。魔導本の力でしたか…実際見てみると凄いものです。」
「そうなんですか?師匠のことだから、てっきり勇者と会ったことがあるのかと思いましたよ。」
「勇者が活躍していたのは今から500年程前です!私はそこまで生きていませんよ!ぷんぷん!」
「ぷんぷんて…。」
その後も不機嫌なミオを何とかを宥め、ある約束をした。
1、無闇矢鱈と人前で魔法を行使しないこと。
2、やむを得ず人前で行使することになった場合、自分が使ったように見せないor詠唱省略して誤魔化すこと。
3、転生者だと公にしないこと。
4、万が一、また新たに魔導本を入手した場合、信頼出来る人の元で読むこと。
1と2の理由としては、魔法使いは1種のステータスだかららしい。
小さい火種や飲み水を出す程度なら問題ないが、大きな魔法を使うとそれを覚えることが出来る環境があると判断され、騙して私腹を肥やそうとするような連中が寄ってくると。
ミオにも何度もそういう輩が寄ってきていたとのことだ。
それだけで寄ってきていた訳ではないと思うけどとりあえず次。
3は言っても誰も信じてもらえないと思うし、元々広めるつもりはない。
敢えて自分から厄介事に首を突っ込む真似をするつもりもないので了承する。
4は3の証拠を突きつけるようなものだ。
ミオの所持していた本を読んだことのある人物は数少ないが、万が一そこから国のお偉いさん達に情報が漏れるといけないからだと。
しかも読んだらまた気を失う可能性が高いから、安全面でも誰かと一緒にいた方がいいと。
詠唱破棄の件がミオにバレた(隠していなかったが)ので、残りの魔法親和性EXと魔力増大EX、測定不能の話をしようとしたところ扉がノックされる。
「は~い。」
「あ!ミオやっぱりここにいた!しかも着替えてないし…。もう朝のミサしなきゃいけない時間だよ!ほら急いで急いで!」
「え!?もうですか!それじゃあリン君また後で!」
部屋に入ってきたのは修道服姿のニニ。
ニニの様子からみるに随分長いこと話していたらしい。
ミオはニニに急かされ、慌てて部屋を飛び出し自室に向かって行った。
締まらないことこの上ない。
「あ、リンくんおはよう。どう?よく眠れた?」
「おはようございますニニさん。あー…うん…まあ、程々に?」
「何で疑問で返させるの…どうせあれでしょ?ミオが原因なんでしょ?あの人寝相悪いから。」
「あははは…」
こちらに近付いてくるニニと言葉を交わす。
今の話を聞く限り、どうやら犠牲者は僕だけじゃないらしい。
「それよりニニさんも行かなくていいんですか?」
「もちろん行くよ。だけどミオの準備は、そんなすぐには終わらないから大丈夫なの。あ、お祈りが終わったら朝御飯作るから待っててね。」
「はい。楽しみにしてます。」
「あ、何なら見てく?ユイちゃんもいるし。」
「ユイちゃん?カナさんの娘さんでしたっけ?」
「そうそう。カナも昨日紹介するって言ってたし調度いいでしょ?」
ニマニマしながら聞いてくるニニ。
なんなの、その顔…。
まあ、海外ドラマとかでミサの様子とか見て気にはなってたから断る理由もない。
「そうですね。それじゃあ、後ろの方で見学させてもらいます。」
「よし!なら早く行こう!さあさあ!」
何故かハイテンションのニニに促されるまま部屋を出て、何も飾られていない廊下を進む。
窓から入ってくる朝陽が眩しい。
廊下も毎日隅々まで掃除してあるのだろう、埃が舞うなんて事はなく質素な見た目ながらも清潔感はしっかりしてる。
少し歩いた後、ニニが1つの部屋に向かい
「ミオー、先行ってるよー!」
「は~いもう少ししたら行きま~す。」
ここがミオの部屋なのか、返事と共に「う"ー」だとか「ぐっ」と呻き声が聞こえる。
「…着替えてるんですよね?」
「…うん。でもミオは胸があれじゃない?だから私達と同じ修道服に着替えるのにも一苦労なの。…しかもまだ大きくなってるらしくてさ、あり得ないよね!他の2人と比べでも私はこんな…。」
おっと…地雷を踏んでしまったかな?
自分の胸に手を当て落ち込んでいくニニ。
話を聞くに
ニニ≦シール<カナ<<<越えられない壁<<<ミオ
ということ。
端から見るにちゃんとあると思うのだけど、本人は気にしているらしい。
そもそもあんな規格外と比べてはいけない。
あれと比べたら皆「くっ」になってしまうもの。
そんなことを話しつつ歩いて行くと、色とりどりの花々が咲き揃う美しい中庭に出た。
教会自体が小さい支部の為か、そこまで広い中庭とは言えない(前世にネットで見たのと比べて)が赤、白、紫、黄色などの花々が咲いており、見事に手入れが行き届いているのが見て分かる。
「綺麗な中庭…。」
「でしょ。これはミオの趣味ね。本来は、正門と玄関からここを通って礼拝堂に入る為だけに作られた小さな中庭だったんだけど、こんなの寂しすぎます~って言って花を育て始めたんだ。私も最初は花なんていらないって思ってたんだけど、この風景を見た時やっぱりあった方がいいなって思ったもんよ。それにね、礼拝する人も増えたんだよ。いいこと尽くめだよね。」
自慢気に話すニニの言葉を聞きながら辺りを見渡す。
これでもう少し広く、真ん中に噴水でもあれば海外の噴水広場に負けず劣らずな観光名所になりそうだと思う。
「じゃあそろそろミオも来るだろうし、礼拝堂に入って待ってようか。」
「はい。」
もう少し見ていたかったけど、ミサが終わった後でも見れるかと考え奥にある礼拝堂へ向かう。
そして両開きの扉を開け中に入ると、予想していたよりも多くの人々が待っており一斉にこちらに顔を向ける。
しかもほとんど女性だ。
「ヒッ…。」
思わず後退りそうになったが、ニニに優しく背中を支えられなんとか堪えた。
ニニは頭を下げ
「まもなく参りますのでもう少々お待ち下さい。」
すると女性達は怒る様子もなく前を向き、小声ながらも今まで話していたのだろう会話に戻っていく。
早鐘のような動悸の中その会話に耳を傾けてみると、どうやら今回が初めてという事でもないらしい。
以前、遅刻したミオに文句を言おうとした男の人もいたようだが、本人は語尾の伸びたふわふわもーどだし、育児などで世話になったおば…御姉様方が睨んできたりと散々で大人しく座って待っていたと。
やはり女性は敵に回したらいけない。
僕がそんな場面になったら間違いなく吐く。
1人顔を青くしてると、座席の後ろの方でカナさんが手を振っている。
顔見知りがいることでほっとし、幾らか動悸も治まったのでカナさんに近付くと、昨日の話の娘さん…ユイだろう。
隣に黒髪の片方だけおさげにした可愛らしい女の子がじっとこちらを見ながら座っていた。
それと何故か分からないが眼力が凄い。
「リン君おはよう。よく眠れた?」
「あ、おはようございますカナさん。いや、まぁその…。」
「?」
「リンくんはミオの寝相のせいであまり眠れなかったんだって。」
「ニニ…。じゃあやっぱり?」
「そう、リンくんの部屋にいたよ。寝間着のままね。」
挨拶の後、朝と同じカナさんの質問にニニさんがテキパキと答えてくれている。
それを横目にユイを見るとまだこちらをじっと見ていた。
初対面なのに何故こんなに見られているのか…初対面だからか?
にしてはちょっと敵対した視線じゃないだろうか。
前世で僕と美希が付き合うことを知った会社の先輩と同じ目をしているもの。
「そうそう、この子がねうちの娘のユイよ。仲良くしてあげてね。ほらユイ、ご挨拶。」
「………ユイ・アオギリ…よろしく。」
「は、初めまして、リン・ライルハーツです。こちらこそよろしく…。」
紹介され挨拶するも、すぐにカナさんの背中に隠れてしまうユイ。
うーん…子供ってこんなもんだったっけか?
過去の僕はどうやって仲良くなったか…不安でしかないぞ。
「教会で出会ったこの女の子が、将来妻になろうとはこの時の僕は思いもしなかった…。」
「…………ニニさん…変なナレーション入れないで下さい…。」
「なれ?」
「…なんでもないです。」
ここまで読んで下さりありがとうございます。
2016年12月31日
全話
※師匠の名前を変更しました。
2017年
タイトル
※いつの間にか変わってました。(詳細は活動報告にて)