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第七話 こうして俺はロリコンになった

主人公が禁断の感情に身をやつす話である。

 駅から出た俺は唐突にあることに気が付いた。


「ノア、お前服はもしかしてそれだけか?」


「え? はい。私これしか持っていません。しかし大丈夫です! 慣れていますから!」


 いやそれはいかんだろと俺はノアの上から下を眺める。薄汚れた軍服にヨレヨレの靴、なんとも見てられない姿であった。軍隊時代のミシェルですらもっといい軍服支給されていたぞというレベルのひどいありさまである。


「だめだ。服を買いに行こう」


「え!? ダメですよ! そんな迷惑はかけられません!」


 俺はノアの制止も聞かず小さな手を引っ張ってミシェルの服を買った行きつけの店に足を向けた。


 ~~


 二十万フランは流石に高すぎたが心は晴れやかだった。店員さんは笑顔で手を振りながらノアを見送る。その笑顔も晴れやかであった。買った服は上下三着、アクセサリー一点というラインナップである。店員さんと何が似合いそうかを厳正に吟味して決めたためかなり納得のいく物を買うことが出来た。

 ちなみに店員さんはとてもいい人で汚れたノアを見るなり店に備え付けのお風呂を貸してくれた。しかも服の値段もちょっとだけまけてもらえた。

 そんな至れり尽くせりの結果、ノアは見違えるほどに可愛らしくなった。本人がその事実を受け入れられていないらしく店前のガラスでしきりに自分の姿を確認していた。


「……あ、あの、これは私でいいのでしょうか?」


「ずいぶんとおかしな質問をするなノアは。ノア以外の何物でもないと思うが」


「は、はい……、ありがとうございます。馬子にも衣裳という言葉を実感しました」


 そんなに謙遜することないのにと俺は思った。


「ま、とりあえず屋敷に行こう。まずは腰を落ち着けないとな」


 俺は紙袋を片手に歩き出す。ノアはそんな俺の後ろを急いでついてきた。


「あの、袋持ちます。ミツイさんに持たせたままにしておくわけにもいきませんし」


「ん、そうか? じゃ、はい。これはお前へのプレゼントだからしっかりと持っているんだぞ?」


「え!? こんなかわいい服をもらったのに、さらにもらうことなんてできませんよ!」


「要らなければ捨てるぞ。この袋の中の服二着で七万フランはしたんだからな」


「七万フラン!? そんなにお高いものを……、分かりました! 貰いますから捨てようとしないで!」


 俺が投げ捨てようとするポーズをとると慌ててノアが制止に入る。俺はちょっと意地悪だったかなと思い紙袋をノアに手渡した。

 ノアは紙袋を手渡されるとギュッと抱きしめた。


「大切に、しますね」


 本当にうれしそうに彼女はそう言った。こんなに喜んでもらえれば俺も買った甲斐があるというものである。

 しかし女性服というものは何とお高いものなのだろうか。一着で俺の愛用していた拳銃が買えるレベルの服まであるのにはびっくりである。


 なるべくノアを置いていかないように歩調を合わせながら俺は歩いていた。すると目的地の屋敷にたどり着いた。ノアはそれを見るなり感嘆の声を上げた。


「すごく、大きな屋敷ですね」


「ここに今日から住むんだぞ」


「わ、私がですか?」


「当たり前だろ? 部屋まで用意してるんだから」


 ノアはそれを聞くとほへ~と間抜けな声を上げた。しかし、すぐに表情を引き締めた。


「こんな私のためにここまでしていただき、ありがとうございます!」


「固い奴だな……。ま、いいか。中はいるぞ」


 ~~


 メイドさんはノアを見るなり俺を睨んできた。


「絶対にありえないということを承知で聞きますが、この子の頬を殴ったのはあなたですか?」


「断じて違う。俺ではない」


「ですよね。あなたみたいなロリコンにはできませんよね」


 信用してもらえるのは嬉しいが、その信用の仕方はどうなのだろうかと思う。

 メイドさんはノアに興味津々と言った様子でノアの周りをクルクルと回っていた。


「……うん、この子はこの子で可愛らしい」


「お前も大概にロリコンだろ。メイドさん」


「可愛いものが好きなだけです」


 メイドさんはそう言うと得意げに胸を張った。そこは威張るところではないと内心でツッコミを入れた。


「ではそうですね。この子はお部屋にお連れしましょうか?」


「疲れているだろうし、そっちの方がいいかもな。俺はミシェルの様子を見に行くよ」


「はい。ではノアさん、こちらへどうぞ」


 ノアは少々困惑していたが、大人しくメイドさんに連れていかれた。

 するとメイドさんとノアがいなくなると同時に眠そうな顔のミシェルが顔を出した。


「コウタ……、お客さんは?」


「もう迎えに行ったよ。可愛い女の子だったぞ。お前の友達になってくれそうな、な」


「……コウタ浮気?」


「浮気じゃねーよ。そもそもそんな関係じゃないだろ」


 ミシェルはジトッとした視線を俺に向けた。かなり疑われているようだった。


「それよりも、着替えてきな。お客さんが来てるんだからちゃんとおめかししてな」


 俺は半笑い気味にそう言った。するとミシェルはカッと赤くなった。相変わらずおしゃれした姿は慣れないらしい。


「わ、分かった」


 ミシェルもぎこちない様子で部屋に帰って行った。


 ……そして程なくして屋敷の一同がリビングに集まった。


「……では、軽い自己紹介を。俺はミツイコウタ、元陸軍の軍人だ」


「私はミシェルリコット。元虐殺隊の一人で元人間兵器だ。今はコウタのお嫁さんをやっている」


 俺はミシェルの頭に軽い拳骨を落とす。ミシェルはふーふみたいなものだろと小声で愚痴った。


「私は個々のメイドをしております、マナと言います。よろしくね?」


「あ、はい。私は虐殺隊人間兵器製造番号第24番、ノアと言います。ミシェルリコットさんは私と同じ所属だったんですね」


「そうだ! しかし私は力を失っていてもうそっちの人間ではない」


「あ、それなら私も同じです。私も人間兵器としての力を失っていまして、その内軍から除隊になると言われました」


 俺はそれを聞いてなぜ彼女がこの屋敷に預けられることになったのか合点がいった。軍に居場所がなくなるので引き取ってほしいということなのだろう。おまけに俺はもう人間兵器と呼ばれる子と一緒に暮らしているわけだから勝手が分かっているわけだし、適任ではあった。


「さて、自己紹介も終わったしどうする? せっかく時間もあるし遊びに行くか?」


「どこにでしょうか?」


「……そうだな、みんなで楽しんで遊べそうなもの、海は行ったし山は今から行くのもあれだし……、あ」


 俺はそこで思いついた。みんなで楽しめるスポーツが一つだけある。しかもお手軽にである。思い立ったが吉日、俺は三人を引き連れてとある施設に向かった。


 ~~


「ミツイさん見てください! 私の戦果すごいでしょ!」


「おお、すごいな。ミシェルの負けだな」


 俺達は現在、射撃競技場に足を運んでいた。ここは飛んでくるディスクを銃で撃ち落とすスポーツを楽しんだり出来る施設である。その他にも制止目標を撃ったりなどやペイント弾を使った模擬戦が楽しめたりする。

 ミシェルもノアも軍隊で訓練されているだけあって非常に腕は良く、飛んでくるディスクをバンバン撃ち落としている。そしてその中でもノアの戦果は目を見張るものがあった。ちなみに最下位はメイドさんである。


「わ、私は手加減してるからな!」


 ミシェルは悔しそうに唇を噛んでいた。実はこの手の遊びは軍隊にいた時もやったことがあるのだがミシェルはいつも上位陣で合ったのだった。そのため、ここまであっさりと記録を抜かれるとは思っていなかったのだろう。

 ノアはイキイキとしていた。目をキラキラと輝かせ、弾丸がディスクをぶち抜くたびに俺に駆け寄ってきては嬉しそうにピースしたり自慢しに来たりした。正直、滅茶苦茶可愛い。

 メイドさんはお通夜ムードだった。さっきから当たったのは一発だけである。それでも今まで銃を握ったことのない人が命中させたのだからすごいと言いたいところだが、メイドさんも大概に負けず嫌いであったらしくそんな慰めでは納得しないらしい。現在は制止目標を撃つ方で訓練をしている。


「あの、ミツイさんはやらないんですか?」


「ああだめだめ! コウタがやったら周りが醒めるから」


「え? なんでですかミシェルリコットさん」


「あいつはべらぼーに当てるぞ! 狙ったら逃がさないみたいな感じだ」


 ノアは俺にもやってほしいのか自分の競技用猟銃を手渡してこようとするが、ミシェルが苦い顔をしながらそれを制した。

 そう、俺の誇れる数少ない特技が射撃なのだ。この射撃場にいるときだけはふんぞり返って威張り散らせる。平和な時代には全く役に立たない特技ではある、が。


「へへ、まあ見てろよ」


 俺はノアから銃を受け取るとそれを構え、一分の砂時計を回した。

 そして構える。すると程なくしてディスクが飛び出してきた。


 ……結果、一分間で全弾命中であった。

 ミシェルは当然だなと言った表情でそれを見ていた。ノアは唖然とした表情で胸の前に手のひらを合わせていた。

 俺はその様子を見て得意げに、それはそれは超得意げに胸を張った。


「どうよ! これは素直にすごいと思うだろ!」


 特技が少ないのだからここしか威張れるところがない。よって俺はここぞとばかりに威張り散らす。ミシェルはそれを見て呆れたといった表情を浮かべていた。


「いつもはカッコいいコウタだけど、露骨に威張り散らしてる姿はかっこ悪いんだよな……」


「え。ま、マジですか?」


 俺は地味にショックだった。もっときゃあきゃあ黄色い声を上げてもらえるものと思っていただけに……。いや、今まで俺が撃ち終わって自慢を始めるとみんな醒めているのはそれが原因だったのか? と俺は過去の自分の行動を振り返り、恥ずかしさで死にそうになった。


「……わ、私はカッコいいと思います」


 しかし、一人だけ反応の違う子がいた。

 ノアはまるであこがれの人に出会ったかのような羨望の眼差しを俺に向けていた。嬉しい限りだがそれはそれでむず痒い思いだった。

 しかし、このノアという少女は見た目的には普通な感じだが中身というか性格というか、言動がかなりキュンキュンするのである。

 何だかノーマルな俺もロリコンに闇落ちしそうなレベルの魅力を秘めていると感じていた。


「ミツイさん、私、今楽しいです」


「ん? そうか、それはよかった。ついでと言っては何だが、ミシェルと友達になってくれないか? こいつ友達いないんだ」


「余計なお世話だ!」


 ミシェルは俺にポカポカと殴りかかってくる。


「それに、もう私たちは友達だ! そんな余計なお世話をされるまでもない!」


「まじか。それはすまんかった」


 俺は嬉しさでつい頬が緩みそうになった。娘に初めての友達が出来た気分はこんな感じなのだろうか? と密かにそう思う。


「……ミツイさん。私、二人といると楽しいです」


「ああ、俺もだ」


「私もな!」


 俺たち二人の言葉に照れ臭そうにノアは笑った。


「み、ミシェル!」


 ノアはミシェルの名前を呼ぶとその頬にキスをした。ミシェルは茫然としていた。が、すぐに赤くなりざざっと後ろに下がった。


「わ、わわ私にそんな趣味はないぞ! 私はノーマルでコウタが好きだからな!?」


「うん。知ってるよ。これは私の出身の村の親愛の証みたいなものだから気にしないで」


「そ、そうなのか? ならいいが」


 俺は内心でキマシタワーと喜びの声を上げていた。可愛らしい天使たちがイチャコラする姿はやはりたまらない。


「ミツイさん。ちょっと内緒のお話があるので耳を貸してください」


「ん? なんだ?」


 俺が一人でほっこりとしているとノアが手招きをしてきた。俺はそれにつられて顔を近づけた。


 そして、俺もキスをもらった。

 ……唇に。


「「え?」」


 俺とミシェルは気の抜けた声を上げる。ノアは耳まで赤くなり、パタパタと競技場の出入口の方に走って行った。


「……こ、この浮気者! シネロリコン!」


 ミシェルの罵声が飛び交う中、俺はぼんやりと考えた。

 それは今まで違うと思い胸の内に閉まってきたある感情である。


 ……俺は、ロリコンかもしれない。


 俺は殴りかかってきたミシェルを無意識のうちに抱き締めた。


「ひゃあッ!?」


 ミシェルは短い悲鳴を上げる。

 その声を聴きながら俺は確信した。恐らく、もうこの感情から逃れることはできないだろうと。


ザクトバッハ聞きながら小説を書いております。

更新ペースはこのままで頑張りたい。

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