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第六話 新しい住人

男キャラ出すか迷ってます。いるかな?

 軍からある通達が届いたのは朝のご飯を優雅に食べている途中であった。その通達には明日のこの時間に軍が引き取ってほしい人物をここに送るという内容であった。


「引き取ってほしい人物って……、ずいぶんといきなりだな」


 この話に関して拒否権はない。こちらは軍の所有する屋敷に住み生活費もすべてあちら持ち、おまけに通達にはさらに生活費を増額する旨が書かれていた。返答の期日や返信用封筒もないのでイエスの一言で承認せよということなのだろう。

 勿論いきなり過ぎて、かつどんな人物が来るか書かれていないので不満はある。しかしこのような急な命令は今に始まったことではないのでここは受けることにした。


「……随分と急ですね。部屋の準備をしないと」


 メイドさんもこの話は聞いていなかったようでいそいそと部屋の準備のために忙しそうにリビングを出て行った。

 俺達は特にできることもないのでリビングで邪魔にならないようにちんまりとしていた。


 ~~


 そして次の日、俺達は駅まで来ていた。朝飯は食べていない。客人が来てから食う予定である。

 汽車は予定よりも遅れているようで約束の時刻になっても来る気配がない。ちなみに駅で待っているのは俺一人である。昨晩どんな人が来るのか気になってなかなか寝付けなかったミシェルは今も布団の中で眠っている。

 俺は汽車の到着を待ちながら目の前の田園風景を眺めた。もう戦いの傷は言えたのか、それともここは戦火を逃れただけなのか、どちらにしても目の前で揺れる金の稲穂はあの辛かった日々とは無縁であるかのように穏やかに風に揺られていた。

 すると遠くの方で汽笛が聞こえてきた。そろそろ遅れていた汽車が到着するのだろう。

 俺はじっと遠く彼方の汽車の来る方を見つめた。

 そしてしばらく待っていると汽車はやっと駅に到着した。通達にはどのような人物が来るのかが書かれていなかったのでどれがその人物なのか、客車を降りる無数の人を見ても判断が付かなかった。しかし、目の前を通り過ぎていく人たちの中で自分の目の前に立ち止まる人が一人だけいた。俺は恐らくこの人が通達にあった人なのだろうと思い顔をあげた。

 目の前にいたのはミシェルと同じくらいの背丈の女の子だった。可愛い見た目をしているかと言われると普通と言った素朴な見た目で、三白眼とくせ毛の金髪が特徴的な人物だった。まあとびっきり美人ではないが愛嬌のある子ではあった。しかし、それよりも俺が目を引かれたのは頬の青くなっている痣であった。


「……どうした? その痣は」


「ハッ! 転んだ時に付けました!」


 明らかに嘘である。転んだ痣ではない。殴られたときに出来る痣である。

 少女は敬礼のポーズをとり、怯えたような表情でこちらを見つめていた。目は少しうるんでいた。それだけで俺は彼女がどんな扱いを受けているかが容易に想像できた。そして、彼女がミシェルと同類であるということも。


「俺はミツイコウタ、元陸軍だ。元だから敬礼とかはいらない。君は?」


「私は虐殺隊所属の製造番号第24番であります! このたびは……」


「違う。俺は君の名前を聞いたんだ。断じて製造番号を聞いたのではない。名前は?」


 少女は面食らった顔をしていた。彼女は予想通り人間兵器と呼ばれる存在であった。そしてその彼女たちにとって名前と呼べるものは製造番号である。化け物に人の名はいらないというのが軍の方針だからである。だから少女は少し混乱したような表情をしていた。


「……私など製造番号で十分です」


「断る。製造番号は名前ではない。君の名前は?」


 少女は少し黙り込んだ後、小さな声で自分の名前を呟いた。


「ノア……です」


「そうか。いい名前じゃないか。ノア、よろしく」


 俺はノアに手を差し出した。握手を求めたのである。しかしそれを見たノアはビクッと肩を揺らすと目を固く閉じた。そしてぶるぶると震えはじめる。

 ……俺はどうしようもなく苦しくなった。その少女がどんな生活を今まで送って来たかは分からないが、少なくともいい生活ではないことが分かってしまった。


 人間兵器は戦時中に合計30体製造された強化人間である。

 男女15体ずつで皆十歳程度の子供が人間兵器となる。なぜこの年代が選ばれたかというと、人間兵器の能力の適合がこの年代が一番やりやすいというのと扱いやすいという二点から選ばれている。

 なぜここまで嫌われるかというのには様々理由があるが、一番の理由は見境のなさにある。

 どの個体も能力を使えば軍一個大隊ほどの力を発揮する。しかし敵だけでなく戦場となる町や味方まで巻き込んでしまうほど範囲が広く破壊的というのが敵味方問わず嫌われる理由となっている。


 俺はわしゃわしゃとノアの頭を撫でた。驚かせてしまうことは承知の上である。それでも、こちらに敵意がない事を示さなければならないと感じたのだ。

 ノアは最初頭に手を置かれたとき目を見開いて体を揺らした。表情は痛々しいほどに蒼白となり、ブルブルと震えが大きくなった。それがあまりにも見てられなくて俺はひたすら頭を撫でた。それでも足りないかと思い背中もさすり始めた。

 今できることなんてそんなものである。自分はやはり無力なのだ。俺にカウンセラーのような力があればこんな原始的な方法に頼る必要もないのに、俺は銃の握り方と殺し方しか生憎知らない。俺は平和な時期には無用な力しかない。そう思うと、結局俺とこの子たちに大差などないのだ。

 しばらくさすり撫で続けていると徐々にノアの震えが和らいでいき、視線がこちらを向くようになった。


「……あの、あの……、ミツイさんは怖くないのですか? 私は……」


「まあ、怖い事には怖いな。こんな事を続けていると下手すれば俺は豚箱に叩き込まれるかもしれないし」


「豚箱?」


「留置所、牢屋の事だ」


「悪い事なのですか? それならすぐに止めないと……」


「悪い事ではないんだが、相手が相手だしな……」


 幼女相手にずっとこんなことを続けているのは流石にまずい。しかしそんなことは言ってられない。こんな手を差し出すだけでガタガタ震えるような子を何もせずに放っておけるほど俺はクズではないのだ。


「……もしかして、心配してくださってます?」


「もしかしてじゃなくて心配してんの」


 俺の呆れた声にノアはちょっとだけ赤くなった。


「ミツイさんは、いい人ですね。私みたいな人間兵器にこんなに優しく……」


「人間兵器とか、そんなくだらないことはもう言うな」


 ノアは俺の瞳を再び凝視した。


「俺も同じだ。殺すことしか知らない。故郷が滅んで、行き場所もないから兵士になった。お前の生い立ちは知らないがお前も自分が殺すことしか知らないと言いたいのだろう。だが不毛だとは思わないか? お互いにそれしか知らないんだ。だから、ここではそれを口にするな」


 言いたいことがうまくまとまらない。要は俺は何を言いたいんだ? と頭を掻きむしる。同類だから仲よくしようぜ! なんてあまりにも安直な物言い過ぎではないだろうか? と俺は先ほどの発言を早速なかったことにしたくなった。


「……あれだ! お前はノア! 虐殺隊人間兵器第24番じゃない! 少なくとも俺はそう扱う。だからお前も俺の前では兵器ではなく普通の女の子のようにふるまうこと! いいな!?」


 半分やけくそのように俺は叫んだ。なんだか空回りしているようで恥ずかしかった。ノアは呆気にとられ俺を見つめたままだった。恐らく俺の言いたいことが半分も伝わっていない。

 それは俺たちにとっての常識がこの子にとっての非常識と言うことなのだろう。この子は人間らしく扱われ人に愛されることを知らないのだ。


「……あの、それはつまり、私は、これからは製造番号ではなく自分の名前を名乗れということなのですか?」


「そうだとも」


「それってつまり、私を人間扱いする事になりませんか?」


「そのつもりだ。俺と一緒に暮らすからには、おしゃれして、我がまま言って、遊んでよく笑う元気な子になってもらうからな。俺に生意気な口が利けるようになるくらいな」


 ノアは笑った。少しだけであったが、怯えた様子もなく普通に笑った。

 俺は安堵した。まだ心は死んでいなかったと、まだこの子を笑顔にさせられると……。


昔まではブックマーク伸びなかったりPV伸びなかったりするとすぐに書くのやめそうになったけど今回はそんなことないです。今回の物語はそれくらい気に入ってます。というか書きやすいです。

しかしこの内容は友達には見せられんな……。

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