第四話 テンプレ日焼け止め
ロリはやっぱり最高だぜ!
俺も着替えを済ませ早速海に行くぞという展開になったがなんだがミシェルは浮かない表情をしていた。ほしいおもちゃがあるのに遠慮して我慢しているような、そんな複雑そうな表情。
「どうした? らしくないな。海は目の前だぞ」
「さっきの人、なに?」
「だから、同級生だって。俺の事情は知ってるだろ?」
「知ってるけどさ……」
そう、知っているのだ。ミシェルはすでに俺が何者でどんな理由で戦い、どんな理由で生きているかを知っている。それ故に複雑な気持ちなのだろう。
俺がかつての友に出会えたことは嬉しいが、そいつに自分の立場を奪われるかもしれない。しかしそれを言うとせっかく出会えた俺達に水を差すのではないか、なんてそんなことを考えているのかもしれない。
しかしそれは思い過ごしというものである。なぜならば俺とミシェルの絆がそんなことでなくなってしまうわけではないからだ。昔の旧友が現れようとも、俺の中でのミシェルは同じ位置にい続けるのだ。
「ミシェル。海は待ってくれるが俺は待てないぞ。目の前に海があるのにどうしてじっとしてられようか? いや出来ない。だから俺は行くが……」
「もちろん私も行く。置いて行こうなんて百年早いぞ」
ミシェルがうずうずとしている俺の手の平を握る。そして勢いよくパラソルの下から出ようとしたところで俺はあることに気が付く。引っ張っても動かない俺にミシェルは抗議の視線をむけるのだが、俺はそれを無視してミシェルをパラソルの中に引きこんだ。
「お前日焼け止めは?」
「やってないよ」
「やるんだ」
「えー、私むしろ焼けてすごく大人な感じになりたいんだけど」
俺は彼女が今来ているスク水を凝視した。これで日焼けをすればさぞかし特徴的な焼け跡が付くことだろう。なによりも、たぶんすごく痛いと思う。
「諦めなさい。ほれ、日焼け止め。水に入るから効果あるか分からんが塗っときな」
「めんどくさいから塗って~」
そう言ってミシェルは不敵な笑顔を浮かべながら肩部分をさらけ出した。俺は思わず目を逸らした。
「あ~、照れてる」
「違う。断じて違う。俺は冷静だ。だけど俺は忙しいからメイドさんに塗ってもらいなさい」
バックンバックンと心臓が鼓動を打つ。一瞬でもミシェルの挑発に反応してしまった自分が情けない。相手は子供である。年の差七歳くらいの子供である。そんな子供に欲情するなど断じてあってはいけないのだ。
「マナさん。塗ってくれますか?」
「そこにいる自称お姉さん好きに塗ってもらえばいいのではないですか? 私、お昼の準備をしなければいけないので」
「貴様…………!」
俺の今の葛藤を知ってか知らずか、メイドさんは無慈悲な選択を下した。ミシェルはそれを聞くと再び生意気なスマイルを浮かべる。
「というわけでお願いね」
そう言うとミシェルは俺に日焼け止めを投げつけるとスクール水着の上半分を脱いでうつぶせになった。彼女の来ているタイプの水着は上下繋がっているので水着の上の部分はお腹の部分で折り返されていた。
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
「上脱ぐ必要なくね!? 水着来てる部分は日焼けしないんだぞ!?」
「だってもしかしたら上をさらけ出して泳ぐかもしれないし」
「許しません! 俺はそんなの絶対許さんぞ!」
「いいから早く! 私泳ぎたいよ~」
完全に挑発されている。俺はただしどろもどろに動揺するしかなかった。しかし、急かされ始めたのでしぶしぶ日焼け止めクリームを自分の手のひらで薄くのばし始める。最初はやはり背中に塗るのがいいのだろうかと考えながら手のひらをワキワキとさせる。傍から見ればあまりいい光景ではないだろう。
俺の動揺ぶりを見てかさっきからミシェルの機嫌がいい。
「では、塗るぞ」
余りの緊張に手が震える。俺はじわじわとミシェルの背中に手を近づけていった。そして、触る。
「ひゃあッ!?」
短い悲鳴が上がった。俺は一瞬自分が犯罪者として投獄されるビジョンが頭の中で走馬灯のように流れ、体が固まった。というか逮捕までと言わずとも留置場に実際に入ったことは合ったりする。その時はすぐに出られたが。
「もー、冷たいよ。ビックリしたじゃん!」
しかし、俺の心配とは裏腹にミシェルの反応は意外にもあっさりとしていた。
「す、すまん」
いつもの軽口を言えず、平謝りしかできないくらい動揺したがひとまずほっとできた。ので続きをすることにした。とりあえず今肌の見えている部分は塗ってしまった方がいいと丹念に背中にクリームを延ばしていく。背中を触っていると「んっ」だとか「あふ……」だとかとにかく心拍数をあげる音が聞こえてくるが平然を装って何とか作業を続ける。
と、そこであることに気が付いた俺は悲しい気分になった。それはミシェルの背中に先の戦争で負ったであろう古傷が所々にあったのだ。まだ若い女の子なのにこんな傷が残っているというのは、正直なところ自分の不甲斐なさを感じるところだった。
「あ、ああ、いやあ、ちょっと、ちょっと!」
俺が思いにふけっていると真っ赤な顔でミシェルが抗議してきた。
「背中そんなになぞられると、くすぐったい……」
「あ、ごめん。悪気はなかった」
俺はすぐに作業に戻った。抗議はされたが冷静になれたためその後はドキドキすることもなく作業は順調に進んでいく。
腕、足、そしてちょっと難易度が高いがお尻などを塗った。
「あらかた塗り終わったな」
「うん。じゃあ前お願いね」
「ああ、任せろ……って言うとでも思ったか!」
身長百八十センチほどの男が前をさらけ出している幼女のお腹や胸を触っている情景を思い浮かべてほしい。それはもう警察のお世話になる以外ない。
「もしかして恥ずかしいの? だったら後ろから塗っていいから。向き合わなければいいでしょ?」
「むしろ犯罪度が上がったんだけど!?」
俺は後ろから幼女の体を撫でまわす情景を思い浮かべた。控えめに言って性犯罪者の姿である。流石に容認できないヤバさがあった。
「無理だ! 社会的にも死ぬし横ですごい形相をしているメイドさんにも物理的に殺される!」
「え~!? もう、しょうがないな……」
結局、その後は一人でミシェルは日焼け止めを塗った。
俺の名誉は守られたのである。
~~
早速海である。
浮輪にゴムボートなどを近くの海の家でレンタル出来たため遊びの幅が広がった。そのためミシェルも嬉しそうにはしゃいでいた。
しかし、ある出来事がはしゃぐミシェルを不機嫌にした。
「おう露出狂、お前は一人でサンオイルでも塗ってればいいだろ」
「つれないこと言わないでよクソロリコン。私ひとり身で寂しいから仲間に混ぜてよ~」
「うちのお姫様は人見知りなの! 見てよ。お前が来てからテンション下がりまくりだよ!?」
ミシェルは仏頂面で浮輪にお尻をはめていた。アンナが話しかけてもガン無視である。
「私嫌われてるの?」
「いや、今日会ったばかりだから警戒されてるんだよ。一週間も話せば心開いてくれるぞ」
結局、沖の方までアンナがゴムボートを占領しミシェルが浮輪、そして俺が泳いで引っ張るという構図になった。ちなみに俺がゴムボートに乗ろうとするとミシェルが威嚇してくるのでゴムボートに乗ることが出来ず、浮輪に乗ろうとするとアンナがゴミを見るような視線になるため泳いでいるのである。正直辛い。
「あの、どちら浮輪でもボートでもいいので私を休ませてくださいませんか?」
「コウタは私の浮輪を選ぶといいよ」
「ロリコン、あっち選んだら警察ね」
どうしろと。
そして、結局俺は二人のエンジンとしてそのまま泳ぎ続けることを余儀なくされるのだった。
しかし最近はショタの魅力も捨てがたくなってきました。