第三話 海なのに海に入らない話
タイトル通り
今俺たちは海にいた。
ここはお金持ちの住む町、セントラルバーナシティである。その町のビーチなのだからとても豪華だった。いや、ビーチは普通の砂浜に綺麗な海なのだが建っている建物が豪華なのだ。高級レストラン的なものにホテル、そしてそれ以外の庶民ではなんなのか判別できない施設の数々……。まさにお金持ちのビーチと言った感じだった。
「……す、すごーい。これが海なの? 綺麗だね。それにビーチもなんか豪華」
「ここはすごいな。俺たちは場違いなのではないだろうか?」
海初体験のミシェルは興味津々と言ったふうだった。逆に極東の島国に住み、出身が漁村の俺は海は建物やそこにいる人たちの方が気になっていた。
「ご主人様、準備が出来ました。パラソルにビーチチェア、敷物とビーチに欠かせないものはすべてそろえ、後はお二人の準備次第です」
「そうなのか。ではマナ、私は着替えたいがどこに更衣室があるのだ?」
「ご案内します。ご主人様は荷物番を」
「あ、はい」
俺はメイドさんに従うしかなかった。何だか妙に立場が弱いのである。ちなみに彼女の名前はマナというらしい。俺はメイドさん以外の呼び方で呼ぶのを許してもらっていないけど。
二人がいなくなり静寂が流れる。いや、厳密には喧騒が場の空気を包んでいたが俺にとっては静寂も等しいほどの音だった。
「……故郷のみんな、元気にやってるかな?」
この目の前の海は東の海。見える水平線の先には故郷の地は存在しない。しかしこの先に自分の故郷があるのではないかと錯覚するほどに海は俺にいつもの表情を見せていた。
穏やかで豊かな海、風の音、さざ波の音、鳥たちの歌に人の歓声、見える二つの双曲、女性の裸体……。
「……ん? んん? あれは……」
途中まで海や自然を見ていたはずなのに、俺はいつの間にか道行く人たちに目が行っていた。パラソルの下で仰向けに、しかも水着を脱いだ女性が横たわってた。その隣には何も着ていない女性の集団が歩いていた。
「ぬ、ヌーディストビーチだったのか!? この辺りは、そうなのか? 何とけしからん……」
俺はガン見した。素晴らしい光景だ。愛すべき世界の一端だ。これこそ祝福だ。
堂々と、合法的におっぱいをガン見できる場所が祝福に満ちていないわけがない。ここは神が俺に与えた聖地、俺は今神に愛されていると実感した。そう、そうなのだ。これはご褒美なのだ。今までむさい空間で頑張ってきた俺に対するご褒美。おっぱいがご褒美とは神様も隅に置けない。
そんな時だった。俺は目を疑った。思わず疑った。それもそのはずなのだ。誰だって、目を疑うはずだ。
知り合いがこんなところにいて裸で寝っ転がっているなんて事実は……。
~~
歩み寄った俺とその人物の目が合ったとき、俺はため息を吐きその人物は出会う前から少し赤みがかっていた顔が紅潮した。耳まで真っ赤だった。
その人はすぐに自分の胸を手早く近くのタオルで隠す。
「……何やってんの? 解放感を感じてるの? 痴女なの?」
「ちちちちちちちちちちちちちちちちち違うわい! え? なんでいるの? なぜここにいるの? 私は戦争が終わって軍を退役してお金があったから羽を伸ばすべくこのビーチにやって来たわけだけど、ここでヌードだったのは周りの雰囲気にほだされてなんだけども!」
「そっか。俺も同じく金があるから療養のために来たんだよ。邪魔して悪かったな。じゃ」
俺は非常にドライだったと思う。知り合いがヌード決めて興奮している姿に萎えたというのが大きい理由だが、何だか悪いことをした気分になったというのもあるのである。
しかし、その対応がその女の子の不安を煽ったようで泣きつかれた。
「い、言わないでばらさないで何でもするから!」
「お前のお持っているようなことをする気はないし、ばらす相手がいないから安心していいと思う」
「ほ、ほんと? ほんとにほんと?」
一応信用してくれたのかその子、アンナは胸をなでおろした。
アンナは俺の学生時代の同級生で数少ない友達の一人だった人物である。戦争がはじまり道を分けてからは会っていないため三年ぶりくらいになるが、再会がこんな形とは何とも間抜けである。
あと、俺もそろそろ戻らないとあらぬ誤解を掛けられる爆弾がやってくるためこの場を離れるのに必死になり始めた。
「じゃ、俺は帰るわ。元気でな」
「ちょっと! 待ってよせっかくひさしぶりにあったんだよ!? そんなあっさりと行こうとしないでさ、なんか話ししようよ」
「ではさっきの話を掘り返すか? お前ヌード好きなの?」
「ちちちちちちちちちちちちちちちちち違うわい! だから雰囲気、雰囲気が私を酔わせたの! ……ちなみにどうだった? 変じゃなかった? 一人だけ浮いてるとか……」
「それはなかったけど、お前が知り合いでなく赤の他人だったら普通にヌード集団の一人としてみていたからな」
「そっか……、よかった……」
正直なにがよかったのか理解に苦しんだが、俺はそんなことなどどうでもよくなるような寒気を背中に感じた。女性二人の声が聞こえたのだ。それも見知った人物のである。
「じゃ、帰るわ。めっちゃ帰るわ」
「え? なに急いでるの? 人でも待たせてるの?」
「そう、待ってる。待っているというか俺が待っていたんだが……」
「……コウタ、誰と話してるの?」
俺は脱力しそうになった。ヤバい、この状況はヤバいのだ。
「は、早かったな……」
後ろを向くとスクール水着を着こんだミシェルが腕を組んで不機嫌そうに立っていた。まあそれはいいんだ。それくらいなら警察のお世話にはならない。
しかし、そんな面白くない展開を望むのは俺くらいで、エンタメの神様は常に騒動を求めてらっしゃる。そのため意地でも俺を逮捕寸前の状態にしたいようで状況が動いた。
「誰だか知らないが私とコウタは固い絆で結ばれているからお前の入るスキはないぞ!」
そう言うとミシェルは俺の体に抱き付いた。そしてアンナを威嚇する。その様子を見たアンナは先ほどまでの羞恥の視線が一変、ゴミを見るような視線に変わった。
まあいつもの展開である。
「ロリコン? 君ロリコンになったの? 犯罪だよそれ。幼女を侍らせて愉悦するのは変態のすることだよ?」
「お前に言われると腹立つな……。ヌーディストのお前に言われると腹立つな……」
ミシェルの言葉にはなんの誇張も虚偽もない。本当に固い絆があると俺は思っている。しかしそれは意味の捉えようと状況の見え方によって全く伝わる内容が変わってしまう。今の俺は誰がどう見ても幼女を騙している悪いロリコンに見えるのだろう。
「こいつは戦時中にチームを組んでいた子で、元人間兵器の一人だぞ」
「……マジ? 人間兵器っていうとあの狂人にして凶悪の集団?」
「そうだが違うわ。こんなにいい子が狂人にして凶悪なわけないだろ!」
俺はいつものノリでくっつくミシェルを守るように抱きしめた。それを見たアンナは少し黙り込んだ後、うなづいた。
「コウタ。あなたが心配よ。なにがあったかは知らないし愛の形は人それぞれだけどね、流石に社会に反するものはいけないと思うの」
「そうだぞコウタ。愛の形は自由なんだ。だから何も気にする必要はない」
なぜか俺は二人の女性に諭されていた。愛の形だとか犯罪だとか、ここ数年で聞きなれた言葉がポンポンと出てきては俺の耳を右から左に通り過ぎていく。そんなことよりもギャラリーが増えはじめ俺をゴミを見るような視線で見てくることの方が問題だ。
いや、俺にも問題があった。それは認める。
実際にミシェルがこうして好意を向けてくれることにとても満足していた節もあるし、自分でも実は己はとても重度のロリコンではないかと思う時がある。
しかし、それでも俺は違うと叫びたい。
断じて違う。
結局、海に来ての前半はこんなくだらないもので終わってしまった。
書き貯め少ないから連続更新できるかな?




