第二話 二人の絆
今日だけ投稿初日ということで二本立てとなっております。
鍛え上げられた腕がプルプルとし始めたころ、目的の屋敷にたどり着いた。
木造三階建て、庭には噴水があり全体的にロマンチックな屋敷である。メイドや執事もいるらしく、費用はすべて国家が持つという破格の待遇。戦争でちょっと地獄を見たのがこのためだったと思えば納得のできる程の豪華絢爛さだった。
「凄いな。こんな豪邸が一か月間私たちの愛の巣となるんだな」
「それって家族愛に満ちてるってことで解釈してもいい?」
「もっとねちっこいのを想像してもいいぞ」
ミシェルは朝に寝ている俺の股間を握って俺を仰天させるちょっとおませでエッチなクソガキ。そんなこいつがいうねちっこいとはどこまでの物かを想像するのはなんだか怖い。なので俺は気にしないようにし無視した。
「まずはメイドさん探さないと。俺の好みのタイプかもしれないし」
「……無視した挙句メイドさん探しとは……、私というものがありながら!」
「だってメイドさんだぞ!? 分かれよ。お前だって超イケメンの執事とか気になるだろ」
「確かに。しかしそれはそれ、これはこれだ。私も面食いだからその気持ちは分かるけど浮気を許した覚えはない」
「そもそも付き合ってすらいないんだが……」
「心は一蓮托生だろ。そして運命共同体でもある私たちはもうそんな感じでいいだろう」
ミシェルが言うことは大体その通りなのだが、認めてしまうとロリコンの烙印という非常に不名誉極まりないものを授けられるためここは何としても否定しなければならない。
「そんな感じでも違うの! 俺はノーマルでお姉さんが好みなの!」
俺の否定に腕の中でロリっ子が暴れる。その姿はまるでやだやだと駄々をこねるがきんちょそのものだった。バタバタと暴れる足がわき腹に直撃するので意外にもダメージを俺は受けた。しかも靴はねだられたのでつい買ってしまったおニューの厚底ブーツなのでかなり痛い。
「どうして分かってくれない! こんなにも好きなのに! こっちだって恥ずかしいの我慢していってるの分からないの!?」
「もっと別のところ我慢してほしいな。というか俺がもし受け入れたら社会的にどうなるかを知ってほしい」
「社会的に死んで頼れる人間が私しかいなくなって私に依存するところまで予想した。むしろ望むところではある」
ロリコンの社会的末路を知っていてなお自重しないその姿に感動すら覚えた。ここまで好き好きオーラを出されるとお姉さん好きの心が道を迷いそうになる。メトロノームのように揺れまくっている。ロリっ子で社会的障害がなければここまで渋ることもないだろう。
だが俺も警察のお世話になりたいわけではない。やはり無理な話である。
「あと、後せめて四年待てば……、いやそれでも足りない。五年、それだけ待てば……」
「お? ちょっとグッと来てる? もしかしてグッと来てる?」
ミシェルが期待に瞳を光らせる。ムカつくがその通り過ぎて辛い。
俺はたまらずミシェルを抱きしめた。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! なんでお前そんなに幼いんだよ! せめて後二、三歳老けていれば……」
「なんか悪意のある表現だな……、老けるって」
俺はミシェルを抱きかかえながら屋敷前でくるくると回っていた。不審者である。危ない不審者である。しかも幼女を抱えてとなるとさらに不審者度は上がる。道行く人々がまるでゴミを見るような視線を俺に送っていたが、俺が気が付くことはなかった。
「……あの、もしかしてコウタ様でいらっしゃいますか?」
急に声を掛けられて俺は回転を止めた。フラフラと低空飛行していたミシェルの足が膝に当たりものすごく痛かった。
「いや、あなたのような不審者がコウタ様であるわけがないですね。警察を呼ぶので少々お待ちください」
「ちょっと待たれよ。俺は確かにあなたの言うコウタという人物であるしフルネームを言うとミツイコウタという人物である。どこから来たかも言えるし証明書も持っている。だから警察はやめてほしい切実に」
「は、はあ……、そうなのですか? ではそんなところで幼女を抱えて回っておらずに屋敷に入ってください。流石に怪しすぎるので」
「すんません……」
先ほどまでの自分の行動を思い返し、そして反省。確かに危険な不審者にしか見えないなと先ほどまでの自分を振り返った。
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「すごーい! 綺麗で可愛くて私気に入っちゃったよ」
どの辺が可愛いのかとかどうかは俺の勘性では理解できなかったが、水の波紋や自然をテーマにしているであろう内装は確かにきれいだとは感じた。
「あの、ミシェルリコットさん? 屋敷の外までの約束っすよね。抱っこは」
「いいでしょ別に。……ダメ?」
「うわ……、狡いわこの子。そうやって頼むと俺が断れないの知ってやがる」
いつもの生意気さを隠した下出で愛嬌のある頼み方にギャップ萌えのような物を感じた。生意気なこのがきんちょは男を落とす魔性性を習得しつつあった。
「あの、イチャイチャするなら別の部屋でやってくれませんか?」
メイドさんの視線が俺を射抜いた。確かに、ここは応接室でありイチャつくところではない。というかイチャついてすらいない。
「待って、イチャついていない。俺のタイプの女性はお姉さん系美人で……」
何とも見苦しい言い訳。おまけにメイドさんは聞いてねえよと言った表情で冷たく俺を蔑んでいるのがよく分かる。完全に性犯罪者に向ける視線だこれと俺は自分の肩身の狭さを思い知った。
「それで、ご主人様これからどうされるおつもりで?」
「んー……、とりあえず部屋に行こうかな。疲れたし。主に腕が」
「そうか、大変だなコウタは」
「君が退けばすべて解決する非常に簡単な問題だな」
「メイドさん、私たちの部屋ってどうなってるの?」
無視されちゃたよ俺と内心思いつつも、気になることなので俺もメイドさんの反応を待った。
メイドさんはミシェルの質問を聞くと笑顔でそれに答えた。俺に対しての反応とは大違いである。
「部屋はミシェルリコット様は二階、ご主人様は三階となっております。いかがでしょうか?」
「おお、いいね。三階に住むとかなんか偉くなったみたい。勿論布団は縄で出来た即席ハンモックとかミノムシ寝袋とか毛布一枚とかじゃないよね?」
「今までどんな生活をなされていたんですか……。ダブルベッドでございます。勿論布団も言ってくだされば増やしますし縄ではできていません。縦にも寝ません。ちゃんと横になられますのでご安心を」
「はい!」
ミシェルが手を挙げた。さっきまで憐れむような、そしてやはり変質者を見る目だったものが一転して優しそうな色に変わる。そのあまりの変貌ぶりに文句の言葉も出なかった。
確かにミシェルは銀髪のサラサラヘアーにクリクリとした瞳、見るたびにドキリとする唇にぷにぷにほっぺ、そして性格まで生意気だがいいこと言う欠点を見つける方が難しい子ではあるが、どこにでもいそうな替えのきく凡人の俺とは比べようのない格差はあるが、だからと言ってこの扱いの差は何とも言い難いものがあった。
正直辛い。
「ミシェルリコットさま、いかがなさいましたか?」
ミシェルは笑顔だった。可愛らしく、年相応な笑顔だった。誰もが和みその笑顔を向けてほしいともう程の屈託のないものだった。しかし俺はそれになぜか一抹の不安を感じた。何か爆弾が爆発しそうな予感がしたのだ。
「部屋は……というか布団は一緒がいいです。いっつも一緒だったし。ね」
爆弾は盛大に爆発した。
今俺に向けられる視線は二つ、同意を求める好意的な視線と俺をロリコンと確信したゴミを見る視線である。
確かに、毎日一緒に軍隊時代からずっと寝ていたが今ここで言わなくてもと頭を抱えた。しかも理由が寝具の不足であった時代なのでロリコンと言われる筋合いは全くない。
しかしそんなことを知らない身としてみればこれを聞いて先ほどまでの俺の行動を思い返せばロリコンと思うのは自然だろう。包み隠さず真実しか言っていないのに自分の意図が全く伝わらない事ほど悲しいこともない。
「……分かりました。しかし何か不測の事態があったらいつでもお申し付けください。警察呼びますので」
「不測の事態?」
不測の事態とか言いつつもメイドさんはその事態がなんであるかを分かっているかの様だった。何とも遺憾なことである。そんなことしないと高らかに宣言したいところだが、虚偽を掛けられたものが真実を論理的に実証するのは無理ゲーって誰かが言っていたので泣く泣く口を噤んだ。
「ハッ!? もしかして一人で寝れないのですか? でしたら私住み込みで働くことになっておりますので夜はどうぞ私の元へ……」
「いい。私コウタと一緒が一番落ち着くの」
「……ミシェル」
感動とともに、さらに自分のイメージがロリコンになるなと思う節もあり正直微妙な気分だった。
それにしてもこのメイド、ミシェルに対しての好感度高過ぎである。
もうこのままメイドさんにすべて丸投げしてミシェルの世話をさせてしまった方がいいのではないかとも思ったが、それだと俺が寂しさで死んでしまうので自重することにした。
「……さて、寝床も決まったところだし明日から何するか決めないとな。この近くには山も海もあるし町にはカフェがたくさんある。どこに行っても遊ぶには困らないだろう」
「ほんと? 私全部行きたい!」
「分かってるよ。今まで何にもできなかった分、遊びつくそうではないか。お前は約束もあるしな」
「……うん」
約束という単語にミシェルは表情を曇らせる。
しかし、すぐに普段の生意気な表情に戻る。
「私、最初は海に行きたい」
俺はその言葉にうなづきを返した。俺も行きたい。頼み事もあるのだから……。
と、こうして俺たちは海に行くことが決まったのであった。
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