第二十四話 もう一人のミツイコウタ
なんだろう……。落ち着いて書けばもっと深く掘り下げながら書けたかもしれない。
けたたましい爆音が響いた。
俺はその直後大きな揺れを感じ、ミシェルを抱いてその場にうずくまった。すると背中に二つの感触がのしかかってきた。振り返るとそこにはノアとラビーがいた。おそらくラビーの能力でここまで飛んできたのだろう。
「な、なんだこれは!?」
ミシェルは動揺していた。ラビーは警戒しながら周りを見渡す余裕があるようだった。そして、ノアはダメだった。俺の背中に掴まったままガタガタと震えていた。
「お前たち! 湖のそばから離れろ!」
俺は殺し屋の声に反応し、三人を抱えて揺れの中何とか移動を始めた。そして、その直後湖から何かが浮かび上がった。
それは時計盤のような物であった。しかし、短針がなく、一から二十四までの数字が羅列する俺達の知っている時計とは全く違うものであった。
数字の部分には炎が浮かび上がっており、不規則に灯っていた。しかし時計盤は次の瞬間そのすべての炎を消し、一から順番に火を灯し始めた。
「ミツイコウタ! ラビーから能力を貰え! ラビーも血を吸え! 能力二回分ならかなり遠くまで逃げられる!」
「お、おい! 逃げるって、今どういう状況なんですか!?」
「時計盤が世界の狂った部分を直そうとしているんだ! けどそれは狂った部分を破壊して新たに作り直すという荒療治、この辺り一帯は時計盤の行う無茶苦茶な法則変更で破壊されつくされるかもしれない!」
「ま、マジかよ……」
思わず敬語になるほど俺もテンパっていた。しかし、状況を飲み込むことが出来、俺はラビーと向き合った。
「え、えっと、ちょっと待ってね? 心の準備が――」
俺は構わずブチュッと乱暴に唇を奪った。すると、前進に熱のようなものが回り始めた。
……そうか、これが能力者の感覚か……、と少しだけ新鮮な気分だった。
「ちょ、ちょっと! 心の準備が出来ていないって言ってるでしょ!」
「殺し屋! 来い! さっさと逃げるぞ!」
「無視すんな!」
俺は殺し屋に向かって手を差し伸べた。
……しかし、殺し屋は首を振って拒否した。
「あれを見な。あのジジイ力を取り戻し始めてやがる。エネルギー源の火が消えたからな」
指差す方を見ると、こちらを片目だけとなった瞳でけたけたと笑いながら見つめるアドルフの姿があった。どれだけ執念深いんだよと思わず拳銃を手に取りそうになったが、この揺れでは狙いをつけられないので断念した。
「あいつに時計盤をまた狂わされたら敵わない。俺は残るよ」
「馬鹿言うな! 自分を見殺しに出来るか!」
「違うね。俺とお前は違う。他人だ」
「そんなことどうでもいいだろバーカ!」
「……ミシェル。こっちのお前は関係ない話だが……、すまなかったな。幸せにしてやるどころか、最後まで俺を恨んで死んでいったな。故郷の地で初めてお前と戦ったときから、決別の未来は見えていた。でも、あんな形で殺す羽目になるとは思わなかった。ただただ、許してくれ……」
殺し屋は……、ミツイコウタはそう言って頭を下げた。もしかしたら泣いていたかもしれない。しかし揺れがひどくてそこまで見ることが出来ない。
「お前に恨みなど持つわけがない。今一どういう事情かは分からないが、たぶんお前の知るミシェルリコットは、幸せだったと思う」
「……」
「どうせ死ぬのなら、やっぱりコウタがいい。コウタが私を殺してくれるのなら嬉しいし、人間兵器である自分を誇りに思える。――でも、それが原因でお前が悲しむのは嫌だなぁ……。どうせなら、笑ってほしい。笑われながら殺されて、ざまあみろって吐き捨てられるならそれで私は満足だ」
「…………ミシェル」
「そっちの世界は随分と大変そうだけど、私はせっかくなら生き残ってそっちの世界を復興させてほしい。そして私のお墓の前にたくさん可愛いものをお供えして、一生独身を貫いて愛しえくれればそれだけでいい」
「それだけでいいって、随分と要求してくるな」
ミツイコウタは少しだけ声色をあかるくして笑った。
「そうだ。ラビー、お前の仇について教えなければならないことがある。無論、俺の世界のお前と同じ存在ならばな?」
「? 私さっきから話の見込めてないんだけど、手短に説明して。あなたは何者?」
「別世界のミツイコウタだ。あっちの世界では俺とお前はパートナーだった。能力の事もその時教えてもらった。……で、仇についてだが、お前の友人を殺したのはアドルフではない。お前の友人はまだ生きている」
「!? ど、どういうこと?」
「俺が知っているのはここまで、後は自分で何とかしてくれ」
「そんな投げやりな!?」
揺れが激しくなってくる。アドルフの方も最低限動ける程度に回復したようである。
――ここが潮時のようであった。
「ラビー、お前が能力を先に使ってくれ」
「あ、あいつからもっと詳しい話を聞かないと!」
「時間がない。頼む」
「……殺し屋! 絶対に私の前に現れるのよ! 詳しい話をしこたましてもらうから!」
「ああ、機会があったらな」
「ふん!」
ラビーは能力を発動した。視界が暗転し始め、暗闇の世界に落ちていく。
「コウタ! 幸せに!」
ミシェルは手を伸ばした。
――ああ、ミシェルも、幸せにやれよ――
完全に目の前の光景が途切れそうになるその瞬間、その一言が空しく響いた……
~~
「さて、やろうか。アドルフ」
「粋なことをするねぇ君は。そんなにあの君の殺した少女が大切か?」
「いやあ、あの子が幸せに生きることのできる可能性を見せられてはな、頑張らないといけないだろう?」
「反吐が出そうになるな」
アドルフはボロボロと剥がれ落ちる体を押さえながら立ち上がった。すると腹の部分が大きくはがれ、一つ目の黒い塊が出現した。
「そいつが本体かい? ずいぶんと哀れなものがお前の核なんだな」
「人間を捨てて化け物になったものなど、こんなものだ」
ミツイコウタはアドルフの姿を見て目を細めた。
「さて、どうするアドルフ。俺は生憎接近戦では無敗の戦士だ。それをお前みたいな哀れな小動物ごときが、止められるとでも?」
「そうだな。私は負けるだろう。しかし、ここで降参する美学は私にない。人の運命を弄ぼうとしたものが、いざ都合が悪くなった途端命乞いをするのは無様だろう。ならば、きっちりと果てるまで私は突き進むのみ」
「……お前は悪い奴だが、むしろ清々しいな」
ミツイコウタは薄い笑みを浮かべると懐からナイフを取り出した。最後の一本である。
「俺の懐も寂しくなったものだな……。もう何も残っていない」
アメストールとの戦争で家族と故郷を焼かれ、大戦で仲間を焼かれ、そして挙句の果てには自分で仲間を八つ裂きにした。そして残ったのは、この武器一つ。
だが、救われた。なぜならば夢を見ることが出来た。
ミツイコウタはミシェルリコットやノア、ラビーのような人間兵器と呼ばれた子供たちと幸せに暮らす物語、その結末を夢見ることが出来た。
ただの一度も実現しないと思っていた夢を、見ることが出来た……。
「信じもしなかったが、神よ! この奇跡を起こしたのがあなただとするならば、あのロリっ子たちに祝福を! 万歳!」
ミツイコウタは安定しない足取りでアドルフの懐に飛び込んでいた。かつてないほどの喜びと嬉しさに包まれながら――。
さっき自分の文章読み返しましたがあまりのひどさに面食らいました。
おい、お前小説書き始めて何年になると思ってんだ!




