第十七話 ロリコンの鏡
詰め込んだ感半端ないです。書き直すかもしれません。
老人はニタニタと笑っていた。その笑みはおぞましく、良心のような物は感じない。ただこちらを嘲笑っているようであった。
「そんなに、そんなに衝撃的かな?」
「そうだな。これだけの子供の死体、そしてそれを前にしても笑い続けるお前の光景は極めて衝撃的だ」
「なるほど、確かにそうかもしれないな……。ではミツイコウタ、君はどうだい? 君は六千人もの兵、民間人を殺したときどんな感想を持った? 悲しかったか? 苦しかったか? 後悔したか?」
「なぜ、俺の名前を……」
老人は歩き始めた。こちらに来るつもりなのだろう。
ミシェルとノアは俺の後ろに隠れ強く服の裾を握った。この二人はこういった状況にはそこそこ強いはずだが、それでもやはり精神的には子供である。怖がらせるわけにはいかない。
「君は、優秀な軍人だが優しすぎたようだな。無心で殺していたつもりでも心は消耗していった。だからそんなみすぼらしい兵器の子供に、すがるほか救われる術を持てなかった。消耗した心は次の殺しの痛みを軽減していき、その兵器たちが拠り所となることで死から目を背けた。それが異常だと分かっていても……」
「……それがどうした! 何が言いたい!」
「いやなに、君はこの光景を目の当たりにして、これを異常と認識したらしいが、果たして私と君とに差があったのかと、思ってね」
俺は老人の頭に銃弾をぶち込んだ。明らかな挑発、しかもこちらの古傷に塩を塗られたため我慢ならなかった。
だが、老人は歩みを止めなかった。俺はその姿に自分の目を疑った。
「そう、君は引き金を引く手に迷いを持たない。だから戦場では数多の敵を殴殺し、そして自分よりも力に勝る人間兵器を殺すことすらも可能にした。君にとってそれは祖国や仲間のためであった。だが、人が人を無心に殺せる異常性に気が付かない君ではないだろう」
老人は顔を再びこちらに向けた。撃たれたはずなのに全くけがを負っていなかった。外したかとも思ったが、それはない、なぜなら血が飛び散ったからだ。
だが、今の彼には血の跡すらなかった。
「……確かに、俺は自分が何も考えずに誰かを殺せることに異常性を感じたことはある。でもそれがどうした! 戦争だったんだ、言い訳するわけではないが、おかしくなっても仕方がないだろう……」
俺は弱気に、そして絞り出すように老人に反論する。あの老人の言うことは正しい。俺は異常だった。その事に間違いはない。
……だが、と俺は自分を震わせる。
「お前が俺の何を知っている! 今さっき会ったばかりの人間が、俺の事語ってんじゃねえよ!」
俺は再び発砲した。今度は相手の移動を妨害してやろうと思って足を狙う。……しかし老人は血をまき散らしながらも全く歩みを緩めることはなかった。
「そうだ、そうだとも。君はそれを異常と感じるのだ。そうでなければならない。そうでなければ、私は証明されない!」
老人はより一層歩く速度を上げてこちらに近づいてくる。
俺は次々と発砲して老人の動きを止めようとした。だがそれは叶わず、気が付けば老人は目の前にいた。
「私は悪意の固体、人が善と感じるものを憎み、悪と呼ぶものを愛する。悪意が固まり固体となったもの。無残に人を殺し、死体の折り重なる地獄のような光景に歓喜する。人の子として生まれた、人の成り損ないだよ」
湖の空間に異変を告げる風が吹き始めた。黒い粒状の物質が老人の体から噴き出し、波のようにうねりを上げる。俺はミシェルとノアを引っ張りその波から距離を取った。
俺はこの黒い物質を知っている。厳密にはこれに近いものを知っている。
「ミシェル、この能力は……」
「ああ、人間兵器の物だ!」
そう、かつて大戦において一人で一個大隊ほどの力を持ち、多くの兵団を壊滅させた死の能力である。能力は使う人によって全く様相が違うが、絶対に変わらない共通点というものも実は存在する。それがこの噴出する現象である。
どの能力も何らかの性質を持った物質を体から放出するという共通点を持っている。この物質は凶器だ。少し触れるだけで多くの人は切り刻まれ、毒され、潰される。
「どうして、お前がその能力を持っている!」
俺の問いかけに老人はどす黒くなった瞳を鈍く光らせて笑いかけた。
「何大したことではないよ。私が、人間兵器どもを作った人間なんだからな」
ミシェルとノアの体が震えた。そして、目を見開いてその老人の姿を見つめる。
「……お前が?」
「私たちを作った?」
二人は、震えていた。歯を鳴らし、体はガタガタと震えていた。まるで極寒の山に裸で放り出されたような絶望に満ちた表情をしていた。
「……いやあ、あの時は素顔を隠していたので申し訳なかった。そうだよ。あの手術をしたのは、私さ」
ミシェルとノアの震えは最高潮に達した。俺は二人を抱きしめた。見ていられなかったのだ。敵に背を向けることになっても、見捨てることなどできやしない。
「大丈夫だ……! 大丈夫、大丈夫……」
二人をなだめるために背中を撫で、必死に抱きしめる。二人は過呼吸のように激しく呼吸をしながら必死に俺にしがみついた。
……一体過去にどんなことをされたのかは分からない。だが、俺の想像のできないようなひどいことをされたのだろう。
「……君が彼女らに依存してると思っていたが、逆であったか。存外君もしぶといな」
「ああ、そうだな。俺はもう失うものを持たないからな。国が滅んでから、だれにも頼らず生きてきた」
俺は二人が落ち着くまでずっと抱きしめ続けた。少しでも楽になってほしいと。
そしてその様子を老人は観察していた。
「……まだ終わらないのかい?」
「後ろから襲えばいいだろに」
「冗談を言いなさるな。それは悪の美学ではない。ちっぽけな正義や哀れな反撃者と戯れるのに後ろから襲う奴はいないさ」
余裕のセリフにカチンときたが、それは好都合だと二人をなだめることを優先した。
そして、二人の呼吸が平常時と変わらないくらいまでなったとき、俺は静かに立ち上がった。
「……準備はいいぞ、このクズが……。葬式の準備は出来てるか?」
「そうこなくてはな、そうだ、そうでなくてはいけない……」
俺の冷たい視線に老人の黒い物質は反応した。波のような物質は次々と矢印のような形を取り始めた。おそらく、これが臨戦態勢なのだろう。
人外クラスの敵と戦うのは久しぶりだが、不安はなかった。
「コウタ……、頑張れ」
「コウタさん、ファイトです!」
「……ああ!」
なぜならロリコンは幼女に応援されると頑張れるからだ。それこそ、こんな規格外の人外すら物ともしないくらいに。
ミシェルとノア今回ほとんどしゃべっていないぞ!?




