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第十六話 悪意の固体

今回から本格的に戦闘中心の話が増えます。というか最終回までこのノリです。

 俺は森の家の中を職員の引率ありで回っていた。敵が潜伏していると思われる個所をくまなく捜索するためには職員の手助けが必要だからだ。

 しかし、全ての部屋を探し終えても目的の人物を見つけることはできなかった。


「……どこにもいない。もしかしてもうここにはいないのか?」


 俺はもうすでに敵は外に逃走したのではないかと考えていた。敵がどうかは知らないが俺ならそうする。一度劣勢になった状態でゲリラ戦を仕掛けるのもありなのだが、相手も相応に怪我を負っている。無茶はしないはずだ。無論これは相手が軍人だと仮定した場合の憶測であるため、頭のいかれたバカであった場合はどうかは定かではない。

 だから気は緩めない。俺の後ろにはトコトコと二人の幼女が付いて回っているのでなおさらである。


「……ここが最後の部屋ですか?」


「ええ、そうです」


 俺達が最後に立ち入ったのは地下のボイラー室だった。職員は電気のスイッチを入れた。

 地上には居なかった。となると地下に逃げたことになる。つまりここにいなければもうこの屋敷にはいないということになる。

 電気が点くと真っ暗なボイラー室の全容が見えた。

 そして、一同はぎょっとした。


 部屋の中央に死体に腰かけてこちらを向き座っているフードの男がいたからである。


 職員はそれを見るなり恐怖のあまりに俺達を置いて逃げだす始末だ。


「……お前、ここにいたのか! その死体は、誰を殺した!?」


 俺は声を荒らげて男に怒鳴った。

 しかし、対照的に男は冷静さを欠かずに冷たく答えた。


「誰を殺したか、か……。嘘つきを殺しただけだが?」


「嘘つき?」


 俺はその言葉に疑問を持ち、死体をもう一度確認した。

 そして俺は部屋に入った時と同じくらいの衝撃を受けた。

 死体は人間とは思えない獣の顔立ちをしており、牙が異常に発達していた。さらに体毛が普通では考えられないほど伸びている。まるでオオカミのようであった。


「ヴェアヴォルフ、狼人間がこんな観光地にいることには俺も驚いた。自分が狼男だとずいぶん認めたくないふうだったところから見ると、潜伏して機会をうかがっていたと言ったところか……。ま、拷問しても最後まで目的を言わなかったから何も分からず終いだがな」


 フードの男は立ち上がった。その手にはナイフが握られている。


「で、どうする? お前らもこのヴェアボルフのように鮮血をまき散らしながら死ぬか? この狭い部屋での近接戦は俺の方に利がある」


「言ってろ。そんなおもちゃ、すぐに叩き落してやるよ」


 男の言う通り、確かに近接戦では勝ち目がないということは先ほどの戦闘で分かっている。しかし逆に銃撃戦ではこちらに分があることも重々承知している。

 まさしく一発触発、お互いに得意なな戦いに持ち込めた方が勝つ戦闘であるため簡単な動作すら安易なものは許されない。

 だが、その状態も突然の地鳴りと共に解除される。あまりにも強い揺れのため、俺達は一斉に地面に伏せる。この隙に狙撃しようかとも思ったが、揺れのせいで照準が定まらない。ノアとミシェルは体験のない揺れに恐怖し、俺にしがみついていた。


「こ、コウタ! なんだこれは!?」


「知らんが、ヤバいのは分かる!」


「コウタさん! 死ぬ時はぜひ私を抱きしめてください!」


「ノア!? 抜け駆けは許さないからな!?」


 緊急事態なのにもかかわらず、この幼女二人はなんだか呑気な話をしていた。余裕綽々である。

 だが、そんなことを考えてられるのはそこまでであった。

 なぜなら地面が抜け、俺達は自由落下を始めたからである。


「「「え?」」」


 悲鳴を上げる暇もないただ茫然としたまま俺達は奈落へと落ちていった……。


 ~~


 俺は頬を叩かれる感触で目を覚ました。目を開けるとすぐに幼女二人の心配そうな表情が飛び込んできた。

 俺は安堵のため息をついた。


「ぶ、無事だったか……。よかった」


 そこで俺は自分の体が濡れていることに気が付いた。匂いを嗅いでみると温泉の匂いがした。


「どうやら、私たちは森の家が引いている温泉の源泉を流れてどこか分からないところまで来てしまったようだ」


 ミシェルはあぐらを掻き、腕を組んで唸る。

 光が入ってくるのか比較的明るい洞窟であったが、どの方向を見ても出口らしき場所はない。あるのは湯気の立つ川のようなものだけだった。あれが源泉か。


「あのフード野郎は?」


「分かりません。でも、近くにいるかもしれません」


 俺は拳銃を確認した。幸い故障などは無いように見えた。

 俺はそれをしまうとすぐに立ち上がった。どこに進めばいいか見当もつかないが、とりあえず若干明るい道が見えたのでそこに行くことにした。


「あっちの方には行って見たか?」


「あのフードとかち合っても嫌だからここから動いていないぞ」


 ミシェルは自信満々に胸を張った。

 俺はなかなか冷静な判断だったなという意味も込めてミシェルを撫でまわした。


「あ! ずるいですミシェルちゃん! 動かない方がいいって言ったのは私です! ミシェルちゃんは私が止めても行こうとしたくせに!」


 俺は撫でまわす手を使ってミシェルの頭を引っ叩いた。そして、今度は反対の手でノアの頭を撫で繰り回す。


「だ、だって、手柄を立ててコウタの役に立ちたかったし……」


「それは嬉しいが状況を考えろ。あの野郎はお前を殺そうとしてるんだぞ。しかもナイフ一本で身体能力で勝るヴェアヴォルフを無傷で殺しきっている。今のお前じゃすぐに殺されてしまう」


 流石に生意気なミシェルも反省したのか、しゅんとしおらしくなってしまったので俺は撫で繰り回しを再開した。

 が、そんなことをやっている暇はない。


「……ここは隠れるところが多いし広いから銃撃戦には有利だな。次に会ったら俺があいつを殺す、殺せる」


 俺はなでなでをやめて拳銃を構え、ゆっくりと光の漏れる道に向けて歩き出した。

 幼女二人も俺の後を無言でついてきた。


 ~~


 たどり着いた先は巨大な大穴であった。上の方には穴が開いており、そこから日の光が差し込んでいた。

 巨大な穴の中央にはこれまた大きな湖が広がっていた。


「な、なんだこれ……」


俺達はそこで地獄を見た。

人、人人人……。湖にかなりの数の人が浮いていた。もう息はしていないのだろう。無数の屍が美しい湖を赤く染め上げていた。しかも確認できる死体はすべて幼い子供の様であった。


「ひ、ひどい……」


ノアは口を手で押さえ、今にも吐きそうな表情を浮かべて膝を地面についた。ミシェルはそんなノアの背中をさすり、俺には気丈な表情を見せていたが明らかに動揺を隠しきれないと言ったふうであった。

俺は拳銃を構える。この惨状を作った張本人がまだ近くにいるかもしれないからだ。だが、人影らしいものはない。

俺は二人を守るように立ち、あたりの警戒を始める。


「……これはこれは、客人が来るとは珍しい」


その時、湖の反対側の方で声が響いた。そちらの方に目を向けると反対側の方にある暗い洞窟の出口から一人の老人がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


「……嬉しいね。退屈していたところだよ」


老人はにやりと笑う。かなり距離があり俺には笑っているくらいの漠然とした情報しかわからなかったが、その笑みになぜか恐怖を覚えた。


「ようこそ。まあゆっくりしていきたまえ」


老人は友好的にそう言い放ち、湖に何かを投げ捨てた。

それが人の腕だと分かったとき、俺は銃口を老人に向け確信する。目の前の狂人は味方ではないと……。


最後は当然のようにハッピーエンドにする予定ですが、その過程については言及してないので割とガッツリ殺し合いを書きます。

もちろん幼女とのハプニングも踏襲して行く予定ではありますが。

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