第十五話 お風呂場事件
今回から物語の核心に迫っていきます。
あと、投稿時間が平日は午前七時になりました。休日は九時のままです。もしかしたら平日八時にするかもしれません。
三人は山の家に帰還していた。
部屋に戻ると青くなったメイドさんが布団に横たわっていた。もしかして死んでしまったのかと思い近くに駆け寄ると俺を見るなり抱き付き、号泣してきた。よっぽど怖かったのだろう。
「体が、体が空を飛びそうになったの! リヤカーが空を飛んだのぉぉぉぉぉぉ!」
「そ、そっか」
俺は苦笑いで返事を返すことしかできなかった。どうやら聞いていた通りの恐ろしいことが本当に起こったらしい。
「ま、無事で何よりだ。それよりもそろそろ飯だから風呂でも済ませるか」
「そうですね」
ノアは頷くと全員分のタオルを取りに行った。
「私は疲れたぞ。お風呂よりも早く寝たい」
ミシェルはひどく疲れたようで欠伸をしていた。
「登山後だから汚いぞ。入ってきた方がいいって。メイドさんも行ってきてくれ」
「はい……」
「俺もすぐ行こうかな……」
そこで俺はふと拳銃の存在を思い出した。しかし、返しに行くのも面倒なので風呂に入った後にフロントに返そうと思って持っていくことにした。
~~
俺は風呂に浸かっていた。流石に俺も疲れたのか欠伸が先ほどから止まらない。うとうとと風呂に浸かっていた。
外は雨が、というよりも雷雨が降っていた。早く帰ってきてよかったと俺は胸をなでおろす。
しかし、雨の山は何ともどんよりとした雰囲気が漂っていた。霧がかかり空気も重い。
俺は天井を見上げた。外を眺めていると気が滅入りそうであったからだ。しかし、そこで俺は幻覚を見た。
「……シャボン玉? 眠いのか俺は?」
天井には大量のシャボン玉が浮かんでいた。
目をこすっても状況は変わらない。
近くに浮いていたシャボンに触るとそれは弾けて消え、かと思ったらすぐにシャボンに戻った。何とも異様だった。まるで時間が巻き戻ったように元に戻るのだ。
その瞬間、女風呂の方で悲鳴が響いた。しかも見知った声の……。
それを聞いた瞬間俺は風呂を飛び出し、体が濡れたまま服に着替えると偶然持ってきてしまっていた拳銃を手に女風呂に突入した。悲鳴の感じは虫や痴漢相手に出すものではなく、明らかに緊急事態を知らせる声であった。
俺は更衣室を抜けて浴槽に入った。
浴槽には風呂の隅で震える女性客がいた。その中にミシェルやノア、そしてメイドさんの姿もあった。
そして、その一同が視線を向ける方には血まみれのフード付きコートを被った人間が立っていた。その手には拳銃が握られている。
血で汚れているが誰かを撃った様子はない。
俺はその人間に銃を構えた。
「何者だ!」
「……」
異様な雰囲気を出す人物は無言だった。しかし、俺の声で顔はこちらの方を向いた。暗くてよく見えなかったが、雰囲気的に男のような風貌だと感じた。
「覗き、って雰囲気ではないな。その血、誰を殺した? 何のためにここにいる? 答えなければ撃つ」
俺の質問にも答える様子はない。しかし顔はずっとこちらを見つめていた。そして、次に周りを見回す。そして再び俺の方を向いた。
「……何か言えよ」
俺は本当に撃つぞと目で訴えかける。しかし男はそれに反応すらしない。
しばらく膠着状態が続いた。
すると、先ほど男風呂で起こったシャボン現象がここでも起こり始めた。
「こ、これは……、お前がやったのか? 何が目的だ?」
何かの攻撃かも知れないと警戒する。しかし、男もシャボンに気を取られていた。このシャボンはあいつが原因ではないのかと疑問を抱いたが、そんなことよりもなぜここにいるかを聞いた方がいいと俺は男との距離を詰める。
「……ミシェルリコットを殺すため、そのために俺はここにいる」
突然、男は随分と低い声で語り始めた。その内容は俺の無視できないような内容であった。
「ミシェルを? どういうことだ」
「どこにいる。ミシェルリコットは。それとも、もう死んだのか?」
「もう死んだ? まだ生きているに決まっているだろう!」
男の言葉に俺の精神は逆なでされる。なぜいきなりあらわれ、そんなことを言うのかは不明だが明らかに味方ではない。
もはや話し合いの必要はないと俺は引き金を引いた。
しかし、男はそれを体勢を低くして避け、俺の方に襲い掛かってきた。男は俺の懐に潜り込むと拳を俺の首めがけて飛ばしてくる。それを間一髪で回避、拳銃を構え直して至近距離で発砲した。しかしそれも距離を取られて避けられる。
「コウタ!」
ミシェルが俺の名を呼び、駆け寄ろうとしていた。
「く、来るな! こいつの狙いはお前だぞ!」
男はミシェルに反応するとそちらに向けて銃口を向けた。俺はすぐさまその銃をねらい撃ち叩き落した。が、その瞬間わき腹に痛みが襲った。腹にはナイフが刺さっていた。
「ぐッ!?」
いつ投げたか見えなかった。俺は地面に膝をついた。しかしただ膝をつくわけにもいかず立て続けに発砲、今度は男の肩に直撃した。しかし、男はよろけはしたが血を流さなかった。
「防弾チョッキか?」
だが、それでも骨は砕けたはずである。俺は再び発砲しようとした。次は頭を撃つ。
しかしそれがかなうことはなかった。男はこちらに再び飛びかかってきた。体勢を崩した状態からそれを立て直さずにむしろ飛びかかって来たのだ。
俺はぎょっとして一瞬硬直した。そして、それが弾道のずれを招いた。俺は男に向けて発砲したが頬をかすっただけで狙いを外してしまった。
男は俺の顎めがけて蹴りを放つ。それを両手をクロスさせて防御したが、その時拳銃が手から離れた。
男はそれを掴み、俺に銃口を向ける。
しかし負けじと俺も刺さっているナイフを失血覚悟で抜いて男の首元に突き付けた。
お互いの動きが止まる。
「お客様! 大丈夫でございますか!?」
すると、更衣室の方から従業員のものと思われる声が響いた。
それに男が気が付いた瞬間俺はナイフをのどに突き立てる。しかし首を動かされて避けられる。だがそれはチャンスである。すぐさま空いている左手で相手の拳銃を掴むと腕をひねった。だが男は腕の関節を外し腕がおられるのを回避して離脱した。
さらに俺の顎に蹴りを食らわせると俺の手から離れたナイフを手に取って更衣室の方に走りだした。
そこで俺の意識は途切れる……。
~~
泣き声が聞こえてきた。
どこかで聞いたことがあるような声。そう、この声はあの俺が首都防衛戦で大怪我を負い生死の境をさまよっていた時の事だ。
あの時はミシェルを泣かせてしまった。泣かせたくない、笑っていてほしいと願った子を泣かせてしまった……。
「……ゴホッゴホッ!」
俺は息がつまり咳き込んだ。何かが口を塞ぎ息が出来なかったのだ。
「ああ、落ち着いてくださいミシェルリコットさん、ただ息を吹き込めばいいという問題ではないですよ。顎を上げて気道を確保してですね……」
「ふ、風船膨らませる感じではダメなのか?」
目をうっすら開けるとタオルを巻いただけのメイドさんがミシェルをなだめていた。ミシェルはオロオロと俺とメイドさんを交互に見ていた。しかし、俺が目を覚ましたことに気が付くとミシェルは目に涙をためて首に手を回してきた。
「よ、よかった! 生き返った!」
「そんなに、ひどかったのか? 心臓止まっていたのか?」
「え? 心臓?」
俺は唇を拭い、起き上がる。
「人工呼吸は心臓マッサージと並行して行うもの、つまり俺の心臓が止まっていなければやる必要はない」
体は痛みこそあれど別段起きているのが辛いというわけではない。恐らく気を失っていただけだろう。
「えっと、つまり私がやったのはただの……キス?」
「そうだ。勉強し直せ、応急手当のな」
俺はそう言ってミシェルのおでこをはじいた。ミシェルはおでこを両手で押さえて抗議の視線を送っていたが、どこか嬉しそうだった。
「……で、俺はどれくらいの時間眠っていた?」
「五分くらいだ」
周りを見渡すとまだ着替えていないのか女性客がかなりの数、バスタオル姿で俺を取り囲んでいた。
「着替えないのか?」
「まだあいつが建物から出たか分からないから、ここで待機してろと言われて」
「……職員にけが人に触るな的なことは言われなかったか?」
「言われた」
俺は再びミシェルのおでこを小突く。
「心臓マッサージされなくてよかったよ。失血死するところだった」
俺は周りを見渡し、近くに落ちていた拳銃を手に取った。そして中の銃弾を確認する。半分近くが使われており再び会敵した場合に銃撃戦は厳しい事を悟った。
「コウタさん! これを……」
すると突然目の前にノアが拳銃を差し出してきた。その時屈んだノアの胸に谷間が少しできて俺はビクッとする。しかし、エロいことを考えている場合ではないと思って自重する。
「……型が同じ弾だな……使える」
あの男が使っていた拳銃は俺と同じ型の弾を使用していた。この拳銃の弾は一般の市場に流通しているタイプであるため入手は容易である。しかし、問題なのは銃本体の方である。明らかに軍用の物であった。
まさか軍隊関係者が人間兵器の情報抹消のために寄越したのかとも思ったが、それではノアが狙われないのはおかしいと思ってその可能性が消えた。ではなぜミシェルだけを殺すとあの男は明言したのか、ますます謎であった。
「……行けるか?」
傷の具合を確認すると傷がだいぶ塞がっていた。恐らくかなりいい即効薬を使ってくれたのだろう。超能力研究のたまものである。
「俺はあいつを追いかける。皆さんは着替えて一か所に集まっていてほしい」
「待って、その怪我で行くのですか? 危険です!」
「だいぶ塞がっているし、俺がいると着替えにくいだろう。だから俺はあいつを追撃する。というか、ここの職員だとあいつにすぐ殺されてしまう。俺しか何とかできない」
メイドさんはいつになく真剣な表情で俺を引き留めようとした。しかし俺はあの男の事が気がかりでならなかった。かなり訓練された軍人であるということはひしひしと伝わってくる。早く何とかしないとかなりの人が殺される可能性がある。俺はすぐに奪った銃の残弾を自分のマガジンに詰めた。そして、スライドを引き安全装置を外した。
「ミシェルいいか? この集団と一緒にいろ。でも危なくなったら逃げろ。皆さんも、危なくなったら……」
「私も行く!」
「……ミシェル、今回ばかりは聞けない。あいつはお前が狙いだ。だから、連れていけない」
「それなら私もいっしょのほうがいいのではないか? コウタ以外じゃあいつに殺されるだけなんだから、私はここにいない方がいい。コウタの近くの方が安全だ」
「しかしだな……」
ミシェルの言っていることは正しい。ここに置いて行っても、あの男が俺の留守を見て襲って来ればたちまち皆殺しに合うだろう。だからミシェルにはなれない方がここにいる人たちを守る事にもなる。しかしそれはミシェルを危険にさらすことと同意義である。
俺は迷っていた。
「軍人なら、一の親愛より百の民を救うべし! 忘れたか?」
ミシェルはまっすぐとした視線で俺を射抜いた。
彼女の言った言葉は俺の所属していた部隊、虐殺隊の隊長の言葉である。一人の大切な人と百人の住民を秤にかけることになったとき、軍人であれば数の多いほうを生かすべきだという教訓である。
「……俺はもう、軍人ではない。……絶対に、無理はするなよ?」
「……! ああ! 任せろ!」
俺はミシェルの頭を撫でまわす。ミシェルはとてもうれしそうにはにかんだ。
「……まあそれはいいとして、とりあえず服を着てくれ」
俺はここで胸の内に秘めていた、悶々していたともいう感情を視線を逸らしながらミシェルに伝えた。
ミシェルは全裸、タオル一枚巻いていない。
俺の止血に使ったであろうタオルがそこらへんに転がっているが、恐らくあれがミシェルのタオルなのだろうと思い少し申し訳なくなった。
「ん? なんだコウタ。私の魅力にメロメロか?」
「ませるなガキ。メロメロにしたいならせめてノアくらい成長してからだな……」
そこまでいって俺は自分の失言に気が付いた。恐る恐る顔を上げると周りの女性陣がノアをかばうように俺の前に立ちはだかっていた。
ノアもちょっと恥ずかしそうにその女性陣の後ろに隠れながらタオルを押さえていた。
「……さて、行くかミシェル」
「あ、待ってください! 私も、行きます」
おずおずとノアは手を上げる。この状況でそんなことを言われたものだから俺はさらにきつい視線を浴びることとなってしまった。
「……早く着替えてこい!」
ロリコンの叫びが木霊した。
ちょっと戦闘が多くなりますが、方針はあくまで幼女とイチャイチャです。




