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第十四話 山を下りる者

タイトルとあらすじ変更しました。

 ラビーが去った後、避難した人たちは無事に戻ってきた。

 しかし、俺はその後もずっとラビーの去って行った方を見つめていた。大戦後に能力を持った人間と出会ったのは初めての経験である。しかも吸血鬼タイプというとても稀な性質を持つ人とはなかなか会えないだろう。


「……コウタ、残念だな。敵に逃げられるとは」


「そう、だな」


 俺の背中にミシェルが話しかける。俺は先ほど山の家関係者や到着した警察などに事の次第を報告した。無論、虚偽の事実ではあるが。俺は全力をもって殺そうとしたが、仕留めきれずに逃がしたと報告してある。


「コウタさん。もう自由にしてもいいそうなので湖を見に行きましょう」


「そうだな」


 ノアの言葉に返事をしながらも、俺はそちらを向こうとはしなかった。後悔と、そして去って行った少女に対する心配が心を埋めていた。


 ~~


 気を取り直して俺たちは山頂の中央にある湖にやって来た。しかし、湖と言っても遊泳や遊覧が出来るわけではない。この湖は特殊なのだ。

 俺達は手すりにつかまって下を見下ろしていた。

 俺達が目的としている湖は火山口のはるか下の方に広がっていた。この湖というのは随分と低い位置にあるものなのである。しかも、ここは死火山で底の穴に水が溜まったというものではない。ここはまだ生きている。ただ、流れているのがマグマではなく鉱類を多く含んだ鉱水であるというだけである。言うなればここは火山ではなく、水山ということになる。


「コウタ! この下に行ったことのある人間はいるのだろうか?」


「いるはずだ。もっとも、帰ってきた奴はいないがな」


 ここの調査は何度も行われている。しかし、生存して帰ってくるものは一人もいない。そのためこの火口から下は完全に未開の地である。何があるのか、それとも何もないのかすら分からない。


「コウタさん、ちょっと怖いですね」


「ノアは高いの無理か?」


 ノアは少し手すりから距離を取って俺の服の裾を掴んでいた。


「いえ、そういうわけではないのですが……、何だか吸い込まれそうで怖いんです」


 先ほどの俺がした未帰還の人たちの話を気にしてだろうか、ノアは俺が手を引っ張って一緒に見ようと合図しても嫌々と首を横に振った。そのため、俺も手すりから離れてノアの隣で火口を見ることにした。ミシェルは未だ底が気になるのかワクワクしながら手すりにつかまって下を眺めていた。そして彼女が身を乗り出すたびにノアは短い悲鳴を上げ、ミシェルが振り返りいたずらっぽく笑うという流れが続いた。


「み、ミシェルさん! 乗り出さないでください!」


「ノアは心配性だな~。手すりはそこそこ高いから落ちたりしないって」


「乗り出そうとしてるじゃないですか!」


「筋力あるから大丈夫だよ」


 ミシェルは涙目で抗議するノアをけらけらと笑っていた。そんなに面白いものなのだろうかとも思ったが、怖がる人をさらに怖がらせたくなる心理は分かる気がしたのであえて何も言わないようにした。しかし、それだけだと面白くないのでミシェルに鎌をかけることにした。


「最近手すりから落ちて行方不明になった子供がいたな~。新聞で見たぞ~」


「……」


 俺がそう言うとミシェルは急に表情を硬化させてそそそと手すりから離れてノアと同じ体勢になった。


「嘘だよ」


「しねばーかばーか!」

「ひどいですコウタさん! 心臓止まるかと思いました!」


 思いのほか幼女に抗議をされて俺は後ずさった。二人ともかなりご立腹なようだった。


「ごめんって。……あ! そう言えばメイドさんはどこかな?」


 いたたまれなくなり俺は話を逸らすことにした。すると二人は頭にハテナマークを浮かべた。


「そう言えばマナはどこ行った?」


「見てませんね」


「探してみるか」


 俺達はメイドさんを探すために火口を離れた。


 ~~


 探すと、いや、探すまでもなくメイドさんは近くにいた。先ほどまで休んでいた茶屋にぶっ倒れていたのである。


「こ、高山病ですか……」


「ああ、だから吸血鬼に襲われた人たちと一緒に運んでもらおうと思ってね」


 茶屋の店員さんは困った顔で腕を組んでいた。大変迷惑をかけたと俺は頭を下げる。


「ところで、その運んでくれる人ってあの運び屋か?」


 ミシェルは目を輝かせて店員に質問した。すると店員は頷いた。


「そうだとも」


「いいな~」


「……ミシェル、お前あれに乗りたいのか?」


「うん!」


 あの凄まじい集団を思い出して身震いした。しかも、山を下るのだからもしかしたらあれよりもすごいかもしれないと更にあの運び屋に対して恐怖を感じた。


 そして、程なくしてその運び屋は現れた。


「山頂到着うううううううううううう! けが人はどこですか!?」


「お疲れ様です。お茶でもいかがでしょうか?」


「お前ら集まれええええええええ! 茶屋の人がお茶を恵んで下さるそうだ! 誠意を持って味わえ!」


「「「「押忍! お頭ああああああああ!」」」」


 現れたかと思ったらいきなり運び屋は横一列に正座をする。すると茶屋の店員が続々とお茶をもって現れた。そして、お茶は運び屋たちの手の届かなそうな位置に置かれた。


「ん? あれじゃ飲めないのでは?」


「ああしないと、茶碗がいくらあっても足りないんですよ~」


 隣にいた女性店員に尋ねるとそう答えが返ってきた。そして、すぐに理解することになる。

 なぜなら、運び屋一同はいきなり深く、そして勢いよく土下座の体勢で感謝の言葉を叫び始めたからだ。


「「「「「ありがたく頂戴させていただきます!」」」」」


 地面に頭が当たる音だけで地響きが起きそうであった。確かに、目の前に茶碗を置いたらあの石頭に叩き割られるのは目に見えている。茶碗がいくらあっても足りないという言葉の意味を理解した。

 しかしそれにしても、こいつらテンション高過ぎである。


「なあコウタ、どうしてあの人たちはあんなにテンションが高いんだ?」


「……職業柄かな?」


 運び屋たちはお茶を意外にゆっくりと飲んでいく。どうやら勢いに任せて一気飲みとかはやらないらしい。相手に失礼だということを意識しているのであれば、案外テンションが高いだけで良識ある集団なのかもしれない。


「「「「「御馳走さまでした!」」」」」


 やがて飲み終えると各自茶碗を店員さんに手渡して作業に入っていく。

 しかし、その作業を見て俺はやはりこの運び屋の常識を疑いそうになった


「……あの、質問いいですか?」


「はい! 何なりと!」


「なぜそんなふうに、いや、落ちないようにというのは分かるが人を縛るやり方じゃないですよね? それ、荷物を固定する縄の使い方ですよね?」


「はい! 飛ばされると困るので!」


「飛ばされるの!?」


 俺は何とも驚愕的なことを聞いてつい上擦った声を上げてしまった。


「何故、何故人が空を飛ぶのでしょうか?」


「それはもちろん山道を下りるからです!」


「……おかしいな。山道を下りるだけで人が空を飛びそうになるなんて聞いたことないぞ……」


「このリヤカーを坂道で爆走させるのでカーブで飛んじゃうんですよ!」


 俺は心の中で悲鳴を上げる。なにせ、せめて下り坂なら速度を自重するかと思いきや逆に爆走する予定であるということを知ったからである。


「あの、乗ってる人は大丈夫なのですか?」


「はい! 山の家に着くとなぜかみなさん眠ってらっしゃるので乗り心地はいいと思われます!」


 違うそれ、絶対気絶してる。失神してる。

 俺は今リヤカーに固定されているメイドさんの方を見た。メイドさんは今意識がないようで眠っていた。それがせめてもの救い、そう思って俺は合掌した。


「……ミシェル、お前乗りたいんだよな? いいぞ、乗って来いよ」


「……やめとく」


 ミシェルは青ざめた顔で首を横に振った。

 ノアも俺の腰に掴まって震えていた。そしてメイドさんの無事を祈っていた。

次回は、そろそろ本番に入る予定です。

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