表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/26

第十三話 新たなる幼女

今回は少しきつめの表現在り。

 朝食の後に俺たちは登山の準備を始めていた。目指すは山頂である。

 この山は名前を雫山という。なぜこのような名前がついているかというのはこれから俺たちが行こうとしている山頂に答えがあるのである。山頂にはこのセントラルバーナシティが水と芸術の町と呼ばれる所以を作ったとある湖があるのだ。そして、そこがこの国随一の観光名所となるほどに有名なのである。


「……さて、準備はいいか」


 俺は全員の確認をした。眠そうなメイドさん以外は問題なし、十分に行けそうだった。


「あ、お待ちくださいお客様!」


 いざ登頂としたところで急に俺たちは山の家の職員と思われる人に呼び止められた。俺は何事かと思って立ち止まった。


「こちらをお持ちになってください。山頂までの道のりは何かと危険がありますので、念のために」


 俺が手渡されたのは一丁のホルスターに入った拳銃と二つの弾倉であった。俺はそれを見てあかるさまに表情が苦虫を噛み潰したようなものに変わった。俺の反応を見てか職員が苦笑いを浮かべた。


「……その、持つだけ持って行ってください。最近は安全になってきている登山道ですが、未だに山頂狼などの獣も出没します。赤のしるしが付いた弾倉は麻酔弾で青いしるしが実弾です」


 俺は嫌々ホルスターを腰に巻き、銃を引き抜いて赤の弾倉を拳銃に装てんした。そして安全装置がオンになっているかを確認してホルスターに納めた。


 ~~


 登頂開始とともにメイドさんが俺の聞かれたくない事を聞いてきた。


「ご主人様は射撃が得意なのに銃が嫌いなのですか?」


「……銃というか、実弾が嫌いなんだ。銃は撃っていて楽しいから」


「実弾が?」


「そうだ。もういいだろこの話題は」


 俺はやや投げやりに答えた。俺は早くこの話題を切り上げたかった。そうしないと、一番聞かれたくないことに突っ込まれると感じたからだ。


「ごめんなマナ。この話題はあいつにとってデリケートな問題なんだ」


 ミシェルは苦笑いを浮かべながら俺のフォローに回る。


「そうなの? じゃあ話を変えるけどご主人様はこの山の事をどこで知ったの?」


「祖国だ。うちの国にも大きな山があるんだが、俺はそのふもとに住んでいて山が好きだったんだ」


「祖国? この国の人ではないのですか?」


 俺は再び苦い顔をする。そこを聞いてくるのかと頬をポリポリと掻いた。


「俺は大和の国の人間だ。名前からしてこの国の人と違うだろう?」


「確かに……、コウタなんて聞いたことないかも」


 七年前に大和の国とこの今俺のいる国、アメストール合衆国が戦った。そして俺の国は滅ぼされ、併合された。その結果俺はアメストール合衆国の義勇兵として徴兵されたということになった。


「うちの国は島国で文化が独特だからな。名前の付け方とか文化とか、大体全部アメストールとは違う。ここの言葉を覚えるのも超苦労したぞ」


「知らなかった……」


 メイドさんは急に顔を伏せた。


「どうした?」


「いや、なんか悪いことしたなって」


「もしも国が滅びたことを謝っているのなら、俺はお前を許さない。同情はいらない。俺たちは、弱いから負けた。だが兵士たちは必死に戦った。だから同情はするな」


 俺はメイドさんから視線を逸らした。安い同情をされていると気が付いてカッとなった。同情してほしかったわけじゃないから、この話は自分からすることはない。

 大和・アメストール戦争はその発端から終結まで悲劇の戦争として知られている。そのため今でも大和の国に対しての同情の声は根強い。そしてこの戦いの戦死が無用の死であったという声もある。

 俺はそれに腹が立っていた。仲間の死は、同胞の死は、決して無駄ではない。無駄ではない。断じて、無駄ではないのだ。


「ごめんなさい」


「いや、いい」


 メイドさんがしょげているのを感じて俺も言い過ぎたと自分で反省する。相手は一般人なのだ。軍人の価値観を押し付けたって仕方がない。


「俺はもうアメストールの人だ。祖国はここだ。そして、家族もできた」


「私とかな!」


「もちろん。お前は妹ポジションな」


「そ、そんな!?」


 ミシェルもしょげた。


「コウタさん! 私は……」


「ミシェルと同じ枠」


 女三人がしょげ、俺はいたたまれなくなった。

 そして結局三人の機嫌が直るのは頂上についてからであった。


 ~~


 頂上は人でごった返していた。

 俺は人込みを避けながら茶屋に逃げ込み、休憩を取ることにした。

 人込みは何を見ているのか、とてつもなく鬱陶しかった。茶屋から人が消えるくらいの何かがあったのだろうが、厄介ごとだと困るので関わらないことにする。

 見に行きたいという幼女二人には口にアイスをねじ込んで黙らせた。くそ、茶屋め。アイス一つで六百フランってぼったくりだろ! と足元を見てくる茶屋に心の中で悪態付きながら俺は茶屋から見える外の景色を眺めていた。

 この人込みでは目的の湖までは行けない。とても迷惑なことだ。


「何見てるんだ?」


 俺はお茶をすする。そして恨めしそうにその集団に目を向けた。


「コウタさん。お話を聞いてきました」


 するとノアが何か情報を掴んだようでテコテコと走ってくる。


「あの人ごみの真ん中に、吸血鬼がいるそうです」


「なに? なんで? ここ観光地で山の上だよ? なんでこんなところに吸血鬼が……、第一あいつら、この炎天下の中じゃ身動き取れないだろうに」


「はい、なのでうずくまる吸血鬼を見物しているらしく……」


 動けないから見物とはなんと悪趣味な……と、思いつつも俺は動けないのであれば出る幕はないなと安堵した。

 吸血鬼は大戦が生み出した負の遺産である。力は強く、狡猾で基本的にこちらを見下している。吸血鬼は過去の神話から得たデータをもとに戦争の兵器として生み出されたが失敗品として闇に葬られた。それでもたびたび戦う機会はあったが、あれほどえげつない戦い方をする奴もなかなかいないだろうと今でも思う。


「コウタ。集団が変だ」


 ミシェルに言われて俺は集団を見た。そこで俺はあることに気が付いた。

 集団は皆、吸血鬼と思われるものを取り囲んでいる。会話はできるみたいだが誰一人として動こうとしない。不自然である。しかも、あの集団には女性の姿はないのだ。

 そこで俺はある仮説を立てた。


「ミシェル、あれはチャームだと思うか?」


「……思う」


 俺は拳銃をホルスターから抜いた。その後弾丸を実弾に変える。そして俺はミシェルに小声でささやいた。


「いいか、来るなよ?」


「分かっている。邪魔はしない」


 俺はミシェルの頭を撫でた後、銃を構えて集団に向けて歩き始めた。

 メイドさんは先ほどから何が起こっているか分かっていないようでオロオロとしていた。


「あ、あの、ご主人様? 私は……」


「茶屋に引っ込んでいろ」


 俺は安全装置を取り外す。人の波をかき分け、中に入っていく。チャームされている人が一斉に襲い掛かってくることも考えられるが、チャームが会話が成立する程度の物であるというのとこの数を制しているということから相手はチャームで行動を縛るのが精いっぱいではないかと推測で来た。

 人込みを作っているのは目隠しのためなのだろう。恐らくこの炎天下で致命傷を負っているはずと予測できた。もしも外敵が来てもこの肉壁が盾にもなる。


「……これは」


 人壁を押しのけてその中心に出た俺は息をのんだ。

 そこには金髪で癖のある長髪の幼女が座っていた。と言っても満身創痍であった。右肩から左腹にまでの大きな切り傷があり、かなり血を流していた。しかもこの炎天下である。しかし幸いエサはたくさんあるのでそれを食って生きていた。吸血鬼の周りには男が無数に倒れ込んでいた。


「……悪いが」


 人に危害を加えた以上、生かしては置けない。俺は銃の照準を合わせて引き金を引く。

 それは眉間にヒットし吸血鬼の頭は後方に投げ出された。

 しかし、これで相手が死なないことは分かっている。吸血鬼は噂にたがわずしぶといのだ。


「……邪魔を、する、な!」


 突然、吸血鬼が碧色の目を見開いてこちらを睨みつけてきた。顔が血で真っ赤になっているのと対照的に肌は青ざめていた。

 しかし、俺はその弱った相手から距離を取るために人込みの中に逃げた。

 その瞬間、空間に異変が起こった。俺の先ほどまで立っていた空間はまるで絵に描いた景色をくしゃくしゃにするかのようにねじ曲がった。

 俺は人込みを抜けて近くの建物に背をつけた。


「どこに行った!」


 吸血鬼は人込みの中心から飛び出し、俺を探している。茶屋の方を確認するとミシェルたちはもう避難したようである。

 俺は銃弾を麻酔弾に変更した。実弾では殺しきれないかもしれないため、動きを封じることにしたのだ。

 その時、俺の直感がささやいた。すぐさま体勢を低くした。その瞬間自分が寄りかかっていた壁が吹き飛んだ。

 俺は起き上がりながら麻酔弾を吸血鬼に撃ちこむ。麻酔弾は発射した二発とも、心臓付近に命中した。

 吸血鬼の動きが止まる。


「うご、かない?」


「そら、麻酔だからな」


 俺は吸血鬼を蹴り飛ばした。ここはやや日陰であり相手に有利な環境である。そのため日向に叩きだしたのである。


「ガァッ!?」


 再び日差しに焼かれ始め、吸血鬼は体を抱きしめもがき始めた。

 俺は吸血鬼に近づく。途中抵抗で空間を歪める能力が飛んできたが、精度が落ちていたため難なく避けられた。


「……終わりだな」


 吸血鬼は抵抗力を失っていた。銃弾の威力は彼女にとって致命傷ではない。しかし、日の光は別である。麻酔弾と光が決め手となり吸血鬼は動くこともできなくなった。


 俺はうずくまる吸血鬼の脳天に銃口を向けた。頭を粉々にするくらい撃ちこめば流石の吸血鬼も死ぬ。

 自分でも驚くほどに冷徹だった。殺すことにたいして、微塵の躊躇もない。それは今も昔も変わらない。俺はある意味破綻者だ。殺すことを何とも思わず、引き金を無意識に引ける。相手が子供であろうと、友であろうと、親であろうと、俺は殺せる。


 吸血鬼はブルブルと震えながら顔を上げた。先ほどまでの殺意を持った視線ではない。怯えていた。


「ころすの?」


「そうだ。安心しろ。すぐに楽になる」


「いや……」


「聞けない相談だ。お前は死ね」


 俺は冷徹な人間だ。外道だ。


 ……だが、この震える幼い視線を浴びて俺は心の中にざわめきを感じた。


 本当に撃てるのか? 俺は、殺せるのか?

 いや、殺せる。一切の躊躇なく、射殺出来る。人に危害を加える化け物など生きていてはいけないのだ。


「化け物は死ね」


 俺はそれだけ言って引き金に力を籠めようとした。

 しかし、その瞬間吸血鬼の少女は笑った。


「そう、だね。私は化け物だから、ね」


「ッッッ!?」


 その瞬間、俺は頭の中に過去のミシェルが俺に言った言葉がフラッシュバックした。


『コウタ、私は、化け物なんだ。だから戦場で死ぬのは当たり前だぞ』


 俺は自分の中の矛盾に気が付いてしまった。

 ミシェルが好きだ。あの子が化け物と呼ばれる力を持っていたころから、ずっと大切な人だった。だから彼女を力が強いからと化け物扱いする人を嫌った。

 だが、今俺はそれになっているのではないだろうか?

 この子は力を持っているが、元は普通の人であったはずだ。それを俺は化け物と一言で切り捨てようとした。


 心の揺らめきが、身を焦がすほどの炎に変わるのを感じた。


「……ち、違う。そうじゃない……。俺は……」


 違う。目の前の子は化け物ではない。この子はミシェルやノアと同じだ。同じなのだ。


「……ゴホッ!」


 突然、吸血鬼の少女は血を吐いた。いや、突然ではない。ダメージがあまりにも大きすぎて死にかけているのだ。

 俺はそれを見た瞬間、自分でもわからない感覚に支配された。


 ~~


 俺は無人の茶屋にいた。ボロボロの吸血鬼を介抱していた。まだ意識があるようで俺の方を不思議そうに見つめていた。


「……殺さない、の?」


「出来るか……、俺の負けだよ。殺したければ好きにしろ」


 この子を殺すことは、俺のこれからに影を差すだろう。もう二度と元のミツイコウタには戻れなくなる。それは、あの子たちを裏切る行為だ。それだけは、それだけは断じてできなかった。


「……いいの? 私はあなたを一瞬で殴殺出来る」


「自分が化け物だってか? そうかよ。でも、お前なんか怖くない」


「じゃあ、あなたは何が怖いの? すごく怯えている……」


 なにが怖いか。それは決まった答えだ。俺は自分が矛盾の果てに俺を信じる人を裏切るのが怖い。俺はまだ、ミツイコウタで居たい。


「……吸血鬼。回復したら好きにするといい。俺を殺すも、逃げるも好きにしろ」


「化け物を逃がすなんて、バカな人ね。情でも湧いたの?」


 何も言えない。一度彼女を化け物と扱った俺は、何も言う資格はない。だからせめて彼女したいがままに、されるがままになろうと決めた。せめてもの償いとして……。


「……何か勘違いしてる。私は、この力を悲観していない。私は化け物であることを誇りに思っている。死にたくないけど、どうせ死ぬのなら化け物として死にたいと思っている」


「そうかよ。勝手にしろ」


 悪いな。お前の気持ちの問題じゃないんだ。結局、俺一人の感情の問題なのだ。結局自分勝手、自己満足……。この吸血鬼の少女のことなど微塵も考えてはいない。


「……あなたは軍人さんね。強いし、弾道に乱れがなかったから。でも、今のあなたは腑抜けね」


「違いないな。俺は昔ほどメンタルが強くないんだ」


「そうみたいね。それに何そのファッション、ダサいし」


「登山スタイルにおしゃれさを求めんな! あと今関係ないだろう!? 俺のセンスは!」


「そうでもないわ。さっきまでのあなたは冷酷でかっこよかったのに、かと思えば一瞬で腑抜けになって……、まるでセンスがない。情を掛けるのがカッコいいと思っているの?」


 ぼろくそに言われる始末である。何ともムカつくガキンチョだと思った。なんかミシェルが少し大人びて目の前にいるみたいであった。


「……まあいいわ。好きにしろというのなら、私は行くわ」


「殺さないのか?」


「どうして? いやよ。ダサさがうつる」


 そう言うとボロボロの少女はよろよろと立ち上がり、かと思ったら俺の首にかみついた。しかし噛みつかれただけで血は吸われなかった。


「これだけで許してあげる。これで少しは回復したし、少しは逃げられそう」


「そう言えば、誰かから逃げているのか? 致命傷を負っていたが……」


「ええ、そうね……と、言いたいけど微妙ね。そいつ死んだかもしれないし。保険として移動分一回の血を貰っただけ」


 それだけ言うと吸血鬼の少女は手を振って去ろうとした。


「あ、忘れ物」


 そう言うと吸血鬼の少女はこちらにテコテコ寄ってくると頬にキスをしてきた。ちょうど、ノアの挨拶のように。


「え? ええ?」


「私はラビーニャ、ラビーって呼んでね。じゃあね、お兄ちゃん」


 言いたいことだけ言って、ラビー金色の髪をたなびかせ去って行った。


残酷回かと思った?

残念、ヒロインが増えただけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ