第九話 登山を舐めてはいけないが、中には化け物もいる
今回はギャグ方針で書きました。
快晴、山登りにはとてもいい天気である。そんな日に四人は山のふもとの茶屋で朝のご飯を食べていた。
「……山登りか、久しぶりだなミシェル」
「うん。あの時はつらかったね」
俺とミシェルは頷きあう。昔登った時は何十キロもある武器を抱えながら雪山を登ったっけなとしみじみ過去を懐かしんだ。ちなみに、その登山中の話だがうっかりと敵と遭遇してしまい戦闘に入った事があった。その時は本当に死ぬかと思うほどにグロッキーになったものだとその時のことを思い返した。
「私山は初めてです。ミツイさん、何か気を付けることはありますか?」
「すべてに気をつけることかな。ノアもミシェルも、人間兵器としての力は失っても強化人間としての力はあるからって山を舐めてはいけない。山は恐ろしく険しく過酷だ」
「は、はい。肝に銘じておきます……」
ノアは初の山に緊張した面持ちであった。膝の上に置いた手をギュッと握りしめるのが見えた。ミシェルは分かってると言わんばかりの苦い表情をしていた。流石は経験者と言ったところである。と、なると問題になるのは俺の対角線上の席に座っているすまし顔の人である。
「メイドさん、その装備で大丈夫ですか? すごく寒そうですけど……」
「そんなことないです。ちゃんと山登りが趣味の友達にどんな装備で行けばいいか聞きましたから! この季節はあんまり寒くならないから装備は軽くでいいって言われました!」
「そ、そうか……」
明らかに不安を誘う物言いだが友達の助けを借りたのであれば下手に口出しするのも野暮だろうと俺はそれ以降何も言わないことにした。
そんなこんなで話をしていると全員食事を終え準備が完了したように見受けられたので、俺は店員を呼び会計を済ませた。
そして、俺達四人は茶屋を出てこれから上る山を見上げた。
「じゃ、夜にまでは着くくらいのゆっくりめのペースで行こう」
「「はーい!」」
女の子二人は元気良く返事を返した。メイドさんもいつになく自信満々のどや顔で山を眺めていた。
~~
登り始めて一時間、メイドさんは山道の休憩所に伏していた。その様を俺たちは無言で見守っていた。
「……山が、こんなに過酷だなんて……!」
メイドさん、まだ一時間しか経ってませんよ! しかもまだ半分も登ってませんよ!
「なあコウタ。私がおぶって行こうか? この中では一番力があるだろうし」
「やめとけミシェル。女にもな、守らなければいけないプライドってのがあるんだよ。メイドさんの目を見ろ。まだ闘志の火は消えてはいない。だから下手な情はかけないのが人情ってもんさ」
俺はそう言うとメイドさんの肩に手を置いた。そして慈愛の瞳で語り掛ける。
「まだいけるよな? ちなみに無理だったら予約を取り消しで今回の旅は諦めることになるが……」
「……まだまだ、これしき……、幼女の涙に比べたら、なんてことないぜ……!」
口調はややあらぶっているが、そこには誇り高きロリコンが立っていた。幼女に悲しい顔をさせるわけにはいかないと不屈の闘志だけで彼女は立ち上がったのだ。
「ふっ……、メイドさん、やっぱりあんたは本物だぜ」
俺はメイドさんに親指を立てる。同じロリコンとして、その心意気には共感するところがあった。そしてその意志の強さに感服した。
しかしそのまま歩かせてもすぐにダウンするのは目に見えているのでとりあえずとれる対策は取ることにした。
「メイドさん座れ。靴ひもを結び直す」
先ほどから気になっていたのだが、彼女の靴はここに来る前からがばがばであったのである。それでは疲れやすいのも仕方がない。靴ひもの結び方次第で疲労の溜まり方は全く違うのだ。
俺はメイドさんを座らせると固すぎず緩すぎず紐を結んだ。そして今度はふもとの方で支給されていた酸素ボンベを取り出し正しい用法でメイドさんに軽く呼吸を整えさせる。それが終わり、俺は最後の締めにチョコレートをひとかけらメイドさんの口にぶち込んだ。
「さて、準備はいいな。行くぞ」
「て、手慣れていますね」
「これでも一応訓練されている。この手のことはな」
俺達は再び山の家を目指して登り始めた。
~~
道中でぶっ倒れる人なんかを介護しながら俺たちは山の家がある高さを目指す。そんな時、ミシェルが俺の服の裾を引っ張った。
「どうした? トイレか?」
「レディに向かって失礼だぞ! そうじゃなくて、山の家って旅館なんだよね? それなら必要な物資とかはどうやって運んでいるの?」
「あ、私も気になっていました。知っていますかミツイさん?」
「知ってるよ」
先頭を歩いていた俺は二人と歩調を合わせた。そして幼女二人の期待の眼差しを受けながら俺はとある化け物集団の話を始めた。
「人力で運んでるんだ。信じられないかもしれないがな」
「人力だと? ど、どうやって?」
「ミシェルは軍隊にいた時に見たことあるよな、馬車の荷台に物資積んで運んでるところ。あれと似たようなリヤカーってのに物を積んでで運ぶんだ。人が」
ミシェルは困惑していた。当然である。リヤカーに積む量にもよるが少なくとも二、三十キロはあるものをこの険しい山道の中運ばなければならないのだ。普通に考えて現実的ではない。
「ここの一般客の通る道とは違う緩やかでリヤカーなんかを引きやすい別ルートで運搬を行っているんだと。馬はすぐ疲れてダメになるから人力なんだって」
「し、信じられません。それってどこかで見られないんですか?」
「いい質問だなノア。実はこの先に、その別ルートをリヤカー引いて輸送している人たちが見えるポイントがあるらしい。そこを見るのも山の家観光の醍醐味らしいぞ」
実は俺もその光景を見るのをかなり楽しみにしていたりする。ちなみにこの前この二人には山の家直通の人を運んでくれる運び屋がいるという話をしたが、それもその別ルートを通るため運が良ければ人が運ばれる光景も見れるかもしれないとワクワクしていた。
「きっと面白いものが見れるぞ~」
山道をのっそのっそとリヤカーの列が歩いている光景を眺めているだけでかなり楽しめそうだと俺は思った。
ミシェルとノアもその光景が待ち遠しいのか、パタパタと山道を駆け上がっていく。元気でよろしい。
メイドさんはつい先ほどよりはマシにしても、かなりの剣幕で山道を一歩ずつ登っているため正直ちょっと心配だった。もっとも、この女は折れないという謎の核心があるため俺もメイドさんの確認は時々後ろを確認する程度でボチボチ登っていくことにした。
~~
俺の想像をはるかに上回る光景が広がっていた。
「現在いいいいいいいいいいいいい、四合目ええええええええええええええッ! 全員気合入っているかああああ!?」
「「「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! ううううううううううううううっす! 頭ぁッ!」」」
「よっしゃぁッ! ならペースはこのままに駆け上るぞ野郎ども!」
運び屋見物のできる休憩所には人だかりが出来ていた。それもそのはず、とんでもない光景が見れるからである。
リーダーと思われる上半身裸のねじり鉢巻き男が大声で現在の位置を叫んでいた。そして、それに続いて後ろの数十人の男たちの雄叫びが続く。この険しい山道をである。
そして男一人につき一つ引っ張っているリヤカーにはかなりの数の荷物が縛られていた。それを何食わぬ顔で引っ張っているのである。この険しい山道をである。
そしてこの男たち、歩いてなどいない。かなりの速さで走っている。かなり重いであろう荷物を引きながら、この険しい山道を、である。
「「「……」」」
俺達は絶句していた。噂に聞いていた運び屋は噂以上のもので、あまりにも人間離れし過ぎていて楽しむ暇すらなかった。ひたすら圧倒される。
男たちの引くリヤカーの一つに二人ほど人を乗せた物があったが乗っている人はものすごく固まった表情ではるか虚空を眺めていた。あの表情は恐怖のその先にある極地だと俺は感じた。
「「「「ああ~それそれえええええええええッ! 山のまあああつりいいいいいいいいいいはほいほいいいいいいいいいいいッ!」」」」」
終いには歌い始める始末である。どんだけ余裕あるんだよと呆れるばかりだった。しかも叫んでいるからなに歌っているか聞こえないし。
この休憩所から見える別ルートの山道はそこそこの距離があったが、過ぎ去っていくのはあっという間であった。しかし、あの猛牛ともとれる集団が走り去った後も登山客は唖然としたまま男たちが消えていった方を見つめていた。
次回はやっと宿についてにゃんにゃんな話です。




