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第6話 藤崎莉子

これで序章は終わりです。

藤崎莉子は、国際的に有名な日本のモデルである。その類稀なる美貌に、父方の祖父がロシア人、母方の祖母がフランス人という血筋、ロシア語、フランス語、英語を話すバイリンガルと様々な要素を馳せ持ったすごいモデルなのだ。

雑誌だけでなくテレビ番組、ドラマなどにも出演しており、メディアで彼女の姿を見ない日はないくらい人気だった。


そんな彼女は、今、だらしなくベッドに寝転がり、スマートフォンを弄っている。今日は仕事がないオフの日なのだ。


彼女は今巷で話題の乙女ゲームにハマっている。名前は、「あなたの愛は剣より重く」。名前の通りイケメンがたくさん出てきて剣よりも重い愛(笑)を囁くゲームだ。

ゲームの舞台は近世ヨーロッパらしきところで、突然異世界に迷い込んだヒロインが成り行きで魔法学校に入ることから始まる、ストーリー自体は王道なゲームだ。このゲームの特徴として、乙女ゲームとしては非常に珍しくRPG的な要素が含まれている。魔法学校が舞台なので、魔法関連のイベントがあったり、ヒロインが攻略対象者と共に魔物討伐に行って好感度を上げたりする。とにかく、そのような斬新な設定もあり、話題に事欠くことがなく爆発的な人気を誇ったゲームなのである。

莉子も流行の波に乗ってとりあえず話題作りにはじめて見たのだが、これが案外ハマってしまった。中毒性があるのだ。設定も細部まで凝っていて、それらの資料が載ってるサイトを一読するのも面白い。


「ダーヴィト王子攻略三回目終了〜〜」


莉子は今、攻略キャラでおるダーヴィト王子ルートのエンディングを終えた。おめでたい音楽が流れ、画面にはスタッフの名前がずらずらと流れている。彼女はそれをすでに二回も見たのでさすがに見る気は起きなかったのか、スマホを置き、ベッドに仰向けになった。


「おなかすいた」


莉子はぽつりと呟いた。とにかく何か食べなければ。彼女は空腹が怖かった。彼女はよろよろとベッドから起き上がり、冷蔵庫を漁った。しかし、今、小腹を満たすために手軽に食べられそうな食料はなかった。家には誰もいない。


(仕方ない、なんか買いに行くか。お金はたくさんあるんだし。)


彼女は簡素な服に着替えてウィッグを被り、マスクと眼鏡を装着した。マスコミに見つかるのも、知り合いと遭遇するのも、そしてファンに見つかることも面倒で嫌だったからだ。彼らに見つかれば食べるのが遅くなる。本当は誤魔化すためのメイクもするのだが、コンビニまでの距離は近いし面倒だった。コンビニくらい普通に行きたい。


マンションを出て一番近くのコンビニへ向かう。徒歩2.3分だ。そういえば、徒歩○分というのは地形に関係なく○mと決まっていて、それは大体大人の歩幅らしい。


莉子は歩きながら丁度ダーヴィト王子の攻略が終わったし、次は誰を攻略しようかなー、など頭の中で考えていた。だから、少し異変に気付くのが遅れた。いや、もう既に遅かった。


車道から外れ、莉子がいる歩道に突っ込むトラック。居眠り運転。莉子は全てスローモーションに見えた。信じられなかった。

今までのくそったれな人生の走馬灯が駆け巡る。


─いやだ、私はここで死ぬの? ようやく食べ物も、お金も、自由も手に入れたのに!今までがけっぷちでぎりぎりに生きてて、ようやく崖から這い上がれたのに。こんなことで死ぬの?


迫り来る死の間際、心の中で散々恨み言を吐いた。


─私が死んだら残されたあの子たちは…お願い、誰か…


痛みなど感じる間も無く突然意識がなくなった。


藤崎莉子はわずか14歳という若さで1度目の死を迎える。


---


「ここはどこ?」


次に莉子が目覚めた場所は、ローマ帝国時代のシルクロードのような場所だった。

頭が覚醒した莉子は、すぐに自分の体を確認した。どこにも損傷や痛みなどは無く、あの日、あの時、トラックに轢かれる寸前の状態のまま。


(奇跡が起きたんだ! それとも…悪い夢?)


夢だとしたら納得できる。トラックに轢かれたことも、轢かれて無傷でいるばかりかシルクロードのような場所にいることも。

でも、自分は今確かに意識を持ってるし、ここは現実だとなんと無くわかる。


周りの状況を確認した。周りに人はおらず、果てし無くシルクロードが続いている。

どうしよう、困った、と頭を抱えている時に、ようやくシルクロードの向こうから人影がやってきた。


その人物がこちらに歩いて辿り着くのを待っていた彼女だったが、突然目の前にその女が現れ、慄いた。


おかしい、確かにさっきまで向こうにいたのに。

まるで、超能力だ。テレポートのように見える。


その女は、旅用のマントを身につけ、容姿は、エレガントに巻かれた黒色の髪に緑色の瞳の背が高い妖艶な美女だった。


彼女はその美女の突然のテレポートに驚き過ぎたのか、未だに心臓がばくばく鳴っていた。いや、違う、これは多分目の前の女に対しての本能的な警笛。さっきのテレポートのような技も判断材料になったが、この女は強い。そして、この女はやばい。何がどうやばいのかって、人生において関わったらいけない人間の部類に入る気がする。

そして、その勘はある意味当たったのだった。

藤崎莉子は、この日、たまたまこの女と出会った事で二度目の人生が大きく変わることとなる。この時の彼女は知る由もないが。


「ごきげんよう。こんなところで立ち往生してどうしたの? 何か困っているのかしら」


彼女の様子は一見心配している優しい人に見えるが、どこか一つでも失言したり、余計な一言を言ったりと地雷を踏むとものすごく怒る人を彷彿とさせた。


「ここはどこですか?」


「ヴィースデンの近くよ」


莉子にとってはなんとも要領を得ない答えだった。


(ヴィースデンってどこだよ)


莉子は世界中色々な国に行った事があったが、そのような国も地名も彼女の知識の中にはなかった。


「…国名は?」


「ローゼン王国よ」


莉子は驚きに目を見開いた。


(うそっ!ローゼン王国って、あのゲームの舞台の国じゃない! そんなことってあり得る!? もしかしてヒロインが通ってた王立魔法学校もあったりするの!?)


内心驚いている莉子をよそに女は突然彼女の顔を覗き込んだ。莉子はどうしていいかわからずに戸惑う。


「ふふっ、私あなたのこと気に入ったわ。」


女はようやく莉子から顔を離すと聖母のような微笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。


「──insania(インサニア)においで。あなたは強い力を得る事ができるわ」


強制力があり、断れそうにない雰囲気にゾッとする。カルト宗教の勧誘みたいだった。もちろん彼女は断る気だったが、下手に断ってひどい目にあうのも怖かったため、きっぱりと断らず相手を刺激しないように無難な質問をする事にした。


「insaniaってなに?」


「insaniaはね、この世の真の支配者。秘密結社よ」


とりあえずやばい組織だという事はわかった。帰りたくなった。


「もし断るなら、ここで殺す」


女は殺気を放った。

莉子に選択の余地はなかった。


---


こうして、莉子は女と共に一年間修行の旅に出た。女はやはり強かった。修行の成果は出て、莉子はかなり強くなった。

そして、旅の途中莉子はここが地球ではなくて異世界だったという事も知った。もちろん帰りたかったが、帰る方法が無いことを知り、絶望する。

そして、もう一つ驚きの事実を知った。この世界は、あの乙女ゲームの世界と似ている。ゲームのヒロインが通っていた魔法学校は確かに実在していたし、あらゆる物の名前が被っている。国の名前が同じなのも偶然ではなさそうだ。


ヒロインは、異世界から迷い込んでこの世界にきた。ヒロインの名前は自分で決められる。つまり、自分なのだ。ここで莉子はある事を思い付いた。思い付いてしまった。


自分は、乙女ゲームのヒロインなのではないかと。


修行を始めてから半年後。莉子はゲームの通りに王立魔法学校に入った。ある目的を達成させるために。


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