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第4話 公爵令嬢の逆襲

酒場で情報収集した結果ヴィントについて以下のことが分かった。

本部が王都にあること、暗殺や密偵、復讐など後ろ暗い依頼を受ける組織であること、組織の連中はクズばっかだということ、組織とは関わるな、具体的な依頼の方法、そして、組織のリーダーは(ヴィント)の魔法使いらしいこと。


酒が入ると人間舌がゆるくなるのか、かなり有益な情報がたくさん得られた。

しかし、本部は王都ローデにあるらしい。襲ってきたのは支部の連中か、本部から出張してきた連中なのか。どちらにせよ、伯爵領にいる間は動けない。クリスタは王都で行われるであろう対ヴィント戦に備えて武器の準備をした。


あれからやはり行方不明者の手掛かりはないまま伯爵領を発つことになった。

馬車に揺られて数日後、一行はついに目的地の王都ローデに到着した。


---


王都の公爵邸も豪華だった。富と権力を象徴化したかのようだ。いや、実際もそうなのだろう。


着いてから数日後から社交シーズンが始まったが、クリスタは子供なので、パーティーに出る事もなく暇だった。授業もない。

たまに家でもパーティーが開催されることがあり、その時は重たいドレスを着せられてメイクを施され、パーティーに顔を出した。

一際目を引く美貌に、


「将来が楽しみですなぁ」

「身分も金も美貌も兼ね備えた令嬢…ゴクッ」

「ぜひうちの息子の嫁に」


といった考えの貴族たちが予想通り湧いて出てきたが、ヴィッテル公爵が適当にあしらっていた。

やっぱりクリスタは美しかった。

彼女の前ではどんな美女も美少女も霞んで見えた。間違いなくパーティー会場の中で一番美しかった。


そして、王都の荒くれ者が集まる酒場での情報収集も抜かりなく行った。色々あったものの、結果、ついにヴィントのアジトを突き止めることに成功した。


---


夜、完全武装したクリスタは、王都のとあるアパートに向かった。ヴィントのアジトはアパートの一室にあるらしい。


クリスタは金髪を風にたなびかせ、夜の街を疾走してアパートに辿り着いた。時刻は遅く、外は暗い。月明かりに照らされたアパートはどこか寂れていた。


ピッキングで簡単に部屋の鍵を開け、いよいよヴィントのアジトを襲撃した。


---


とあるアパートの一室で、丸いテーブルを囲んで数人の男女が話し合っていた。今日は、暗部組織ヴィントの定例会議の日だった。


「……次の依頼は…えぇと、親友の恋人を寝取って親友に地獄を見せて欲しい」


「どろどろした依頼だな」


「ああ、全くだ」


それはある女性からの依頼だった。ヴィントは、暗殺などの流血沙汰だけでなくこのような依頼も受ける。いや、大半はこのようなくだらない依頼だ。


「マスター、誰にします?」


「そうだな、ニンフェあたりが妥当だろう」


「はぁーい。」


胸元がざっくり開いた服を着た妖艶な美女が鼻にかかったような甘ったるい声で答えた。


「依頼の詳細は後だ。次は…」


書類を見ながら話していた男だったが、急に静かになった。目を警戒するように細めている。

周りも異変を察知し、武器に手を伸ばした。


その時、


「ヴィントの本部ってここであってる?」


部屋の中に可愛らしい少女の声が響いた。


クリスタは、一応確認を取った。


「ああ。何の用だ? 依頼か?」


マスターは侵入してきたクリスタを警戒しながらも問いかけた。


「依頼じゃないよ。仕返しにきたの」


途端にクリスタから物凄い殺気が放たれた。


それを合図に戦闘が始まった。


敵が六人に対しクリスタ一人。敵はヴィントの幹部でそれなりの戦闘力があることを考えると、明らかにクリスタは不利であった。


クリスタに襲いかかるナイフの数々。攻撃を見切った彼女は地面を足で蹴って横に飛躍し、全て回避した。しかし、そこに短剣を構えた男が突っ込む。彼女は剣の軌道を避け、素早く相手の手首を捻り上げて相手の短剣を奪った。そのまま流れるような動作で奪った短剣を相手の心臓に突き刺した。息を吐く間もなく、手にナイフを持った男が肉薄してきた。彼女は男に足払いをかけ、男は転倒した。その隙にナイフを奪って男の首の動脈を切った。


マスターはずっとこの戦いを見続けていた。まるで、自分の出番を待っているかのように。

残った敵は散らばり、逃げ場を塞ぐようにそれぞれ違う角度からナイフを投擲した。クリスタは前転してそれらを避け切ると、立ち上がった拍子に目の前にいた男の喉元をいつの間にか取り出したナイフで刺した。


パチパチパチ。


突然、この場に似合わない拍手の音が響いた。


「はいはいお疲れ様ー。よくがんばりました、しゅごいしゅごーい」


ニンフェがうざったい口調でクリスタに話しかけ、煽った。


「…なんのつもり?」


クリスタは不快感を露わにした。


「なにって? お子ちゃまはもうおねんねの時間でしょう? さっさとままのところに帰ったらどうなの?」


今度は媚びたような、甘ったるい声色だ。大人しく聞いていたクリスタは切れそうになったので、鼻から息を吸い、全身の筋肉を緊張させてから、口からふぅ、と息を吐き、脱力した。そう、システマ・ブリージングだ。挑発に乗ったら相手の思うツボ。なので、呼吸法によって精神を安定させたのだ。


「…ばればれよ」


クリスタは背後に殺気を感じて、振り向き様にキックをかました。そう、彼女は分かっていた。これは囮作戦。ニンフェがクリスタを挑発している間に本命が背後から攻撃する。

キックは虚しく空を切った。繰り出される刃。こっちの相手をしている間にもニンフェは攻撃を仕掛けてくる。挟み撃ちだ。二人の攻撃を避けながらも、無駄のない動きで相手を仕留めた。二対一という不利な状況にも関わらず、クリスタは単純に技術の差で勝った。彼女はこの世界の格闘技を知らなかったが、前世で使っていた格闘技システマで敵に挑み、勝った。システマは異世界でも通用したのだ。


「いやぁー、お見事! 久しぶりに楽しい物を見させて頂いたよ。」


全員倒されたのを見届けたマスターはやっと重い腰を上げた。


「そりゃどうも」


「さて、いよいよ僕の出番かな。あー、こんなの久しぶり。本気出しちゃっていいかな? うん、そうしよう。」


マスターは自分の仲間が殺されたというのに、心底楽しいといった様子でクリスタを見つめ、狂気の笑みを浮かべた。


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