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公爵令嬢は爆弾使い  作者: マリコ
お見合い編
15/17

第14話 決闘の行方

ダーヴィト王子はクリスタをひょいと抱えると、馬を走らせた。やがて馬は山の中で止まった。


「ここら辺でいいだろう。」


決闘の会場は近くに川が流れているのどかな場所だった。


「勝負の条件はどうするの? どちらかが死ぬまでやるの?」


「いや、それは流石にまずいだろう。」


クリスタは確かに、と頷いた。


「ここはKMAの学生らしく魔法で勝負しよう。どちらかが降参するまで」


「いいわ」


彼女はにやりと笑って彼の提案を受け入れた。


「このコインが地面に落ちたら勝負開始だ。いくぞ」


彼は懐からコインを取り出すと、空に向かって弾いた。


コインは放物線を描いてゆっくり落下していき、やがて地面に落ちた。


---


日が暮れかけた頃、クリスタは目を覚ました。どうやら勝負の最中に気絶したらしい。違和感に気づいて自分の姿を見ると、ドレスが脱がされていた。


「ちょっと、どういうことなのよ」


彼女は少し離れたところに腰を下ろしてこちらを見ていた王子に非難の目を向けた。


「コルセットのせいで酸欠になりかけてたから看病しただけだ」


「そう…ありがとう」


クリスタは彼の言葉で全てを察した。


「私…あなたに負けたのね…」


「いや、今回は事情が事情だからまた場を改めてやり直してもいいぞ」


確かに、コルセットがなければ勝敗の行方も変わっていたかもしれない。それでも、それを理由に勝負をやり直すことは彼女の矜持が許さなかった。


「負けは負けよ。約束通り私はあなたの妃になるから。これからよろしくね、未来の旦那様」


クリスタはもうどうでもよくなってぶっきらぼうに言った。


「こちらこそよろしく、未来の奥様」


ダーヴィトは黒い笑みを浮かべて言った。


こうして、すぐに婚約とはならなかったが、2人の交際が始まった。

休暇中、2人はよく遊んだ。馬で遠乗りしたり、スポーツを楽しんだり、山の中を駆け巡ったり、魔法の特訓をした。いずれも深窓の令嬢がやるようなことではないが、そこはクリスタなのでむしろその方が楽しかった。


バカンスも終わり、新学期が始まるためクリスタときょうだいたちはゴスラーに戻った。


クリスタは無事進級し、3年生になった。


「みんな、久しぶり!」


3年生の教室に向かったクリスタはアマーリエ、エレナ、アリスの姿を見つけ、挨拶した。


「お久しぶりです」


「…クリスタに会えなくて寂しかった」


「べ、別に寂しくなんてなかったからね!」


三者三様、実に様々な反応だ。

その後は夏休みどこに行ったかなどで盛り上がった。みな、久しぶりに会ったため、話が尽きることはなかった。


「クリスタ、おはよう」


4人が話に夢中になっている時、彼は現れた。


「おはよう、デイヴィー」


爽やかな笑顔を浮かべた金髪の麗しの彼はダーヴィト王子様だった。クリスタは彼に向かって微笑みかけ、彼もそれに応えた。

教室がにわかにざわついた。今まで2人には何の接触もなかったはずだ。夏休み前までは。


「学校が始まるまであなたに会えなくて寂しかったわ」


クリスタは完全に恋する乙女の眼差しを彼に向けて告げた。


「私もクリスタと離れて名残惜しかった」


「本当?」


「ああ。私の天使」


「「…」」


ざわついていた教室は一転して静かになった。しかし、それにも関わらず彼らは完全に二人の世界に入っていた。


「じゃあ、そろそろ授業が始まるから、また昼休みに会おう」


「ええ。待ち遠しいわ」


ダーヴィトが去っていき、まもなく教室に先生が入ってきたことによって再び時を取り戻した。


---


「これで授業を終わります」


先生が宣言し、教室が活気付く。クリスタは教室を出ようとしたところで取り巻きに囲まれた。


「ちょっと待ちなさい。話があるの」


アマーリエが言った。


「話って?」


「単刀直入に聞くわ。()と何かありましたの?」


アマーリエによるあまりに直球な質問にクリスタは面食らったものの、素直に答えることにした。


「休暇中にちょっと色々あったのよ」


「「「色々(とは)?」」」


皆、クリスタに詰め寄った。


「エトセトラったらエトセトラ。今はまだ言えないけど…」


しかし、彼女は言葉を濁し、目線を下げた。


これは怪しい、とみな更に詰め寄る。


「時が来たら話すから!Addio!」


クリスタは早口でまくし立てると慌ただしく教室を出て行った。残された者たちは皆唖然として見ていた。


---


「どういうことなのよ」


教室の隅の方で腕を組み、苛立ちを隠そうともしない類稀なる美貌を持った少女は、藤崎莉子だ。


「まあまあ、そんなに苛々しなくても」


そんな彼女を軽く諌めた彼は、親が雑誌の編集長とかで学生ながらジャーナリズムに精通している生徒だ。色々な情報を持っているため、莉子は早くも有用性に気付き、彼とは懇意にしてきた。彼は彼で莉子の美貌に注目し、彼女を最大限活躍させる方法を模索しているため、2人はビジネスライクな関係にあると言える。


「してないわよ。それよりあの2人、いつからできてたの?」


莉子は声のトーンを落として彼に聞いた。彼は少し考える素振りを見せた後に答えた。


「うーん、休暇前は特に接触とかはなかったはずだ。ただ、バカンス中にどうやらダーヴィト殿下と王妃陛下がインスブルックにある御用邸に行かれていたみたいなんだ」


王族が都を離れて地方で過ごされることは珍しいことではない。


「ふーん。それで?」


「ところで貴族もバカンスに行くことはある。ヴィッテル公爵家は例年あまり動きがなかったけど今年の夏はインスブルックに行ったらしい。」


「ふーん?」


「そこで何があったのかまでは分からないけど、まあ簡単に想像は出来るよね。」


「偶然出会って恋に落ちたとか?」


莉子は自分の意見を述べた。大多数の者がおそらくそう思うだろう。だが、彼の見解は違った。王侯貴族や社交界について詳しいからこそ彼の見方は違ったとも言える。


「いいや。彼らはお見合いを済ませたんだと思う。」


「お見合い!?」


「そう。殿下と公爵家令嬢とだったら身分は釣り合うし、おそらくバカンスも兼ねてのお見合いをしたんじゃないかと僕は思う」


「確かに」


「状況から見て2人はまもなく婚約するんじゃないかな? 実際に結婚するのはまだ学生だし卒業後になると思うから。」


「もう確定なの?」


「いや、まだ内定したかどうかは分からないけど、反対する理由も勢力もないだろうからこのままスムーズにいけば婚約が発表されて婚約式が行われるだろうね」


「婚約式…」


「となれば今のうちから彼女の信頼を得て取材できれば…」


2人はそれぞれ今後のことを想像した。


「ありがとう。あなたのおかげで興味深い話が聞けたわ。」


莉子は満足そうに笑みを深めて言った。彼もまた、意味ありげに笑った。

KMA=王立魔法学校の略称

Addio=さようなら

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