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公爵令嬢は爆弾使い  作者: マリコ
入学編
13/17

第12話 侯爵令嬢アマーリエ・フォン・ミュラー

『はぁ、はぁ、今は、それどころじゃない、わ、またね、』


「切るな! 何があった?」


クリスタはいつになく真剣な表情になった。口調も変わっている。


『魔物に、襲われて、今、走ってて、』


「動かないで! アリスは?」


『はぐれた』


「分かった、今すぐそちらに向かう。エレナはアリスを探して、また連絡」


「了解」


魔導具からアマーリエの位置を特定し、彼女を探した。



「アマーリエ、大丈夫? 怪我はない?」


しばらくした後クリスタは木陰に座り込んでいるアマーリエを発見した。クリスタは彼女に手を差し伸べ、救おうとした。しかし…


「あなたに心配される筋合いはないわ。」


アマーリエは、クリスタの手を払い除けた。


「そう。」


「……。」


「……。」


二人は無言で森の中を歩き続けた。


「あなたは私のこと嫌いなの?」


唐突にクリスタがアマーリエに問いかけた。


「ええ、私はあなたが大嫌いよ。」


アマーリエははっきりと言い切った。クリスタは、やっぱりね、といった表情を見せた。


「なぜ」


「私はあなたが憎い。私がどれだけ努力しても、あなたの持つものにはかなわないからよ。」


「どういうこと?」


アマーリエは怒り故か精神状態が普通ではなかった。目は完全に見開かれ、焦点が定まっていない。


「あなたさえいなければ…。どうしてあなたは生きてるの? あの時に殺されれば良かったのに」


クリスタは唐突に足を止めた。


「そう、やっぱりあなたの家が依頼したのね、ミュラー侯爵家が。」


アマーリエは一瞬ハッとした顔をしたが、すぐにいつもの顔に戻り、否定した。


「な、何のことかしら」


「6年前、ミュラー侯爵家はヴィントに要人殺害を依頼した。ターゲットは私。作戦はとある教会にて実行に移された。しかし、依頼は失敗。なぜだか分かる?」


アマーリエはふるふると首を振った。


「私がヴィントを壊滅させたからよ」


アマーリエはうそ、と言わんばかりに目を見張った。


「信じられない? ふふ、でも本当だよ。」


クリスタは笑った。彼女の目に宿った仄かな狂気。


「ねぇ、まだ気付かない? この私を敵に回した、その意味に」


クリスタから放たれる殺気。アマーリエは、冷や汗をかいて後ずさった。


「これは邪魔ね」


クリスタは自分の魔導具を取り出して握り潰した。次に、彼女の魔法である電気をアマーリエの魔導具に流し、外部との通信手段をシャットアウトした。


「お前は敵だ。私はお前を殺す」


クリスタは制服のスカートから爆弾を取り出し、アマーリエに投げる。

しかし、アマーリエもただ黙って見ていただけではなかった。彼女もまた魔法を使い、爆弾ごと凍らせた。


次々と爆弾を投げつけるクリスタ。しかし、アマーリエもそれに対応し、全て氷で包み込む。


彼女は反撃を試みた。アマーリエは右手を前に伸ばし、クリスタに向かって氷の刃を放った。


「っ…」


しかし、クリスタはその場から離脱し、回避。アマーリエはクリスタの姿を見失った。

きょろきょろとクリスタを探すアマーリエのもとにナイフが飛んできた。

彼女は即座に氷の壁を作り上げ、ナイフを弾いた。

ナイフが飛んできた方向に目を向けると、少し離れた木の上からクリスタが飛び降りるのが見えた。


「そろそろ茶番は終わり。さよならよ、アマーリエ。」


クリスタは何の感情もこもっていない瞳で告げた。そこに一切の慈悲はなかった。


眩い閃光が迸り、轟音が響く。クリスタはアマーリエの周りに落ちている凍った爆弾に魔法で電気を通し、全て爆発させた。


爆音が鳴り、煙が上がる。煙のせいでアマーリエの姿は確認できないが、あれだけの爆発だ、彼女はもう死んだだろう。


しかしクリスタはそう思ってなかったようで、その場を去らずにアマーリエのいた跡を今なお見つめている。


やはり彼女は正しかった。アマーリエは生きていた。煙が完全に晴れ、氷に身を包んだ彼女を確認できた。

爆発する寸前に氷で身を守ったのだろう。所謂コールドスリープという奴だ。


クリスタは明らかに面倒くさそうな表情をして、止めを刺しにアマーリエに近付いた。


「そこまでよ」


突然凛とした声が響いた。


「そこまでよ、クリスタ。」


再度忠告し、手に剣を握ったアリスが現れた。


「あーあ、ばれちゃった。私の邪魔をするならお前も殺すぞ」


クリスタは殺気を出して威嚇した。


「ふんっ。殺れるもんならやってみなさいよ。」


しかしアリスは動ずることなく余裕たっぷりに微笑み、剣を構えた。殺気は全く感じられない。


「なぜ止める。お前は関係ないはずだ」


「なぜって? それはアマーリエは私の仲間…私の友達だからよ! 逆にどうしてあなたは友達を殺すなんて酷いこと平気でできるの!? おかしいよ、あなたは異常よ!」


「…ははっ!あはは!あなたは何を言ってるの? こいつは友達じゃなくて私の敵、だから殺すの。異常でも何でもない、当然の報いだ。こいつは七年前に私を殺そうとしたの」


「でもそれは彼女自身がやったことではない。」


「関係ない。彼女は私に敵対した。それだけで十分よ。」


「だから殺すの?」


「そうよ」


アリスは何かを悟ったようにすっと目を細めた。


「今回が初めてじゃないわね。」


「ええ。」


アリスは少し考えてから言った。


「あなたが過去に何をやってきたのか私は知らないし、興味もない。でも、一つ言えることは、アマーリエは何も悪くない。何かあったとすればそれは家同士の問題。この子が関わっていたとは考えにくい。この子自身は根が優しい世間知らずの貴族のお嬢様よ。残念だけど始末する理由が見当たらない。むしろ、あなたが殺すことによってヴィッテル公爵家に不利益をもたらす可能性が高い。

それでも構わず殺すというのならやってみなさい。私は悪いけれどアマーリエの味方に付かせて頂くわ。流石に無益な殺傷を見過ごすわけにはいかない。」


クリスタはアリスの言葉を黙って聞いていた。


「まあ、生かしとけば。いくらでも使い用はあるわ」


アリスはぼそっと呟いた。


「確かにあなたの言うことは一理あるわ。そうね、今回は見逃して差し上げるわ。でもそれは命だけよ。」


「というと?」


「見て。とりあえずこの状態じゃ何もできない。救出して差し上げて」


「Ok」


アリスは剣を振り、アマーリエ氷を割った。


「…んん…」


アマーリエが覚醒した。


クリスタはすかさずぼっーとしているアマーリエに関節技をかけた。


「忘れるな、私が指一本動かすだけでお前はすぐに気持ちよくなる。」


クリスタは低い声でアマーリエを脅した。


「えっ……いや…やめて……私たち女同士よ…」


しかしアマーリエは寝惚けているのか、顔を真っ赤にして明後日の方向に解釈していた。


「本来ならお前はとっくに殺されてる。でも、今回は特別にあなたの命だけは許して差し上げるわ。」


「早く、離して…」


「だめよ。話は終わってないわ。もちろんあなたをこのまま解放する気なんてない。一度は私に敵として歯向い、私を殺そうとした。そんな奴をただで解放するわけがない。

アマーリエ、私と契約して私のサーヴァントになりなさい」


アマーリエは顔色を変えた。


「嫌よ! あなたのサーヴァントになんてなりたくない!」


「じゃあ死ね。私にこのまま殺されるか、サーヴァントになるか、選択肢を差し上げるわ」


「あなたのサーヴァントになるくらいなら喜んで死にます。」


「そう。残念ね。あ、ちなみにミュラー侯爵一族も同罪よ。あなたが私のサーヴァントになったらとりあえず7年前の罪は許して差し上げるつもりだったけれど、仕方ないわね…。」


クリスタの言葉を聞いて何かを察し、アマーリエは再び顔色を変えた。


「まって! 分かったわ、あなたが望むならあなたのサーヴァントになる。だから、私の家族には手を出さないで! 幼い弟がいるの…」


「あはは! 分かったわ。

主があなたを解雇、又はどちらかが死去するまであなたは永遠に私に隷属する。あなたは主の命令に逆らえない。あなたが私のサーヴァントである限り、主はあなたの家族に一切の手を加えない。あなたは主に一切攻撃できない。私はあなたの主としてあなたを守る義務を負う。労働に見合った報酬を与える。もしどちらかが契約を破棄した場合、契約自体が無効になる。しかしサーヴァントが一方的に契約を破り、主に反抗した場合、主はあなたを殺す。

契約内容に異論は?」


「ないわ。契約に同意します。」


クリスタはにやっと笑うと、アマーリエの頭に手を置いた。


「あなたの脳内に魔法で小型爆弾を仕掛けたわ。あなたがもし契約を破って私に反抗した場合、この爆弾が爆発する。決して忘れるな。」


「…分かったわ」


アマーリエは悔しそうに言った。


---


こうしてアマーリエがクリスタのサーヴァントになり、クリスタ、エレナ、アマーリエ、そしてなぜかアリスが一緒にいる姿がよく見られた。

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