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公爵令嬢は爆弾使い  作者: マリコ
入学編
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第10話 一緒に授業サボろうよ

「ごきげんよう、ヴィッテル公爵令嬢」


アマーリエは扇を口元に添え、いやらしい笑みを浮かべた。


「ごきげんよう、ミュラー侯爵令嬢。私に何の用?」


クリスタは椅子に座ったままアマーリエの口調を悪意たっぷりに真似て返した。アマーリエとその取り巻き令嬢達はあからさまに眉をひそめた。


「まあ、公爵令嬢ともあろうあなたがこのような下賤な身分の者と食事を取るなんて…」


下賤な身分の者、でエレナを見、次に哀れみの目線をクリスタに向け、盛大に嫌味を言った。


「ふーん、下賤な身分、ねぇ。だったらたかが侯爵令嬢ごときが許可なくこの私に話しかけないでよ」


「っ…」


アマーリエは唇を噛み、扇を握る手に力を込めた。彼女にとって身分の差は絶対。クリスタの言ってることに反論できなかった。


「行きますわよ。」


故に、取り巻きと共に撤退した。



「何だったの、あいつ」


クリスタはアマーリエ達が去っていった方向に目を向け、呆れたように呟いた。


「あなたはこの国の貴族なの…?」


「うん、そうだよ。知らなかった?」


「えぇ…。今初めて知ったわ。その、私なんかがあなたといていいのかしら? 私は…平民だから。」


エレナは躊躇いがちに言葉を紡いだ。対して、それを聞いたクリスタは呆れたような顔をした。


「あんたそんなこと気にしてるの?」


「えぇ、だって…」


「そんなの、ここでは関係ないじゃない。第一、生まれついての身分なんて自分の功績じゃないんだし。だから、そんなこと気にしなくていいのよ」


「でも…」


「それに、エレナは私の友達なんだからっ」


「っ…!友達…」


エレナは、友達という言葉を噛み締めた。感極まって涙が出そうになった。


「そうよね、私たちは友達よ」


「うん! もちろん!」


こうしていつまでも二人は笑い合いましたとさ。



「ふん、なによっ、ばかばかしい」


二人のやりとりの一部始終をある一人の女子生徒が少し離れた席に座ってみていた。高いところに二つに結った赤髪に、少し吊り上がったグレーの目。彼女の周りには人はおらず、彼女がぼっちであることがわかる。


「なによ…」


語気を弱め、一瞬哀愁漂う表情をしたかと思うと、すぐに元の気が強そうな表情に戻り、ふんと鼻をならして席を立った。


---


午後の授業は「帝国の歴史」とかいうくそつまらない映像を見せられた。周りの生徒は皆おしゃべりしていて、誰一人真面目に見ていない。寝ている人もいた。

先生はというと、なにやら作業をしていて生徒の方には目もくれない。


「はぁ、つまんない…」


クリスタは欠伸を噛み殺しながら一人つぶやいた。


「まだ開始5分も経っていないわ」


隣に座り、彼女の呟きに答えたのはエレナ。


「うっそー! 信じられない、もう30分は経ったかと思ってたー。ねぇ、つまんないから授業さぼってどっか遊びに行こうよ」


「授業さぼるなんて…だめよ」


エレナが至極真っ当に突っ込む。その通りだ。


「えぇー、90分もあるんだからいいじゃない。退屈で死にそう」


「確かに退屈だけれど…だめよ、そんなの」


二人の攻防が続く。


「じゃあいいよ、私一人で行ってくる。エレナは一人で寂しくこのくそつまんない映像を見続けるのよ」


クリスタはむすっとした顔で言うなりそーっと席を立とうとした。


「…まって! やっぱり私も行くわ。」


こうして、二人は授業をサボった。良い子は真似してはいけません。


---


うららかな春の日差しが差し込む中、クリスタとエレナはベンチに座ってボーッとしていた。遠くで何かのスポーツをしているのが見える。


「…ところでエレナってどこ出身なの?」


黒髪に赤い目。その珍しい容姿の組み合わせからエレナはローゼン王国出身ではないと確信した。


「……秘密よ」


エレナは少し考える素振りをした後に答えた。

ニュアンス的にこれ以上探らない方がいいと判断した賢明なクリスタは、ふーん、とだけ言った。


「エレナってなんか大人っぽい雰囲気だよね、私と同い年とは思えないかも」


「そ、そうかしら?」


「うん」


「……」


エレナは微妙な表情を見せた。



「なんだか眠くなってきちゃった」


クリスタはとろんとした顔になり、エレナの肩にもたれかかった。


「少し眠っていい?」


クリスタはまるで恋人のように甘えた声を出した。


「えぇ、別に構わないけれど…」


彼女はエレナの承諾を得た途端に彼女の膝に頭を乗せた。俗に言う膝枕というやつである。


「んんっ…気持ちいい…」


クリスタは瞼を閉じ、喘ぐように言った。そのうち安らかな寝息を立てて本当に寝始めた。


エレナはすやすやと眠っているクリスタの寝顔を見つめた。いつもはくるくる動いている彼女の大きな青い瞳は今は閉じられ、言葉を紡いでいた可愛らしい唇も同様に閉じられている。


エレナは起こさないようにそっと彼女の金色の髪に触れた。太陽の光に包まれてきらきらと輝いている。


(私の友達…)


「んっ…ぁ…」


寝言を言ってるのか、唇が少し動いている。それを凝視したエレナは


(あぁ、可愛い…。クリスタ、美味しそう)


ぺろり、と妖艶に自身の唇を舐めた。紅い目に仄かな光が宿っていて、雰囲気も先ほどとは変わっている。


(私はあなたが欲しい…でも、今はだめ)


込み上がる衝動を堪える。僅かに残った理性が、正体がばれることを恐れていた。


---


「ごきげんよう、ヴィッテル公爵令嬢。あなたは歴史の授業中どこに行ってたんですか?」


次の授業の教室に着いたクリスタたちを待ち受けていたのは、またもや侯爵令嬢アマーリエだった。


「別にどうでもいいでしょ、あんたには関係ないわ」


内心嫁いびりする姑かよ、と思ったクリスタはぴしゃりと言い放った。


「公爵令嬢ともあろうあなたが授業をさぼるなんて…」


(あれ、デジャヴ)


「悪い?」


「悪いに決まってるわ! 私は真面目に授業を受けていたのに、ねぇ。」


アマーリエは後ろを見て取り巻きを見た。取り巻きは口々に同意を唱えた。


「あー、もう、分かったわよ。そんなに私に絡んできてあんた実は私のこと好きなんじゃないの」


次第に面倒くさくなったクリスタは投げやりな口調で話した。


「な、な、な、そんなわけないでしょう!? 誰があなたなんかっ…!」


アマーリエは顔を真っ赤にして動揺を露わにし、向こうへ走り去って行った。慌てて取り巻きが追いかける。


「…何だったの」


クリスタは呆れた口調で呟いた。エレナは、アマーリエが去って行った方向をいつまでも睨み続けていた。

これでストックが切れたので次回の更新は未定です。

評価、ブックマークしてくれた方、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

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